music by FINAL STAGE 「幼子の祈り」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっとじゃあつまり…失敗した、と?」

「まあな。 おかげでみんなバッラバラ。 どこ行ったのかもわっかんねぇ。」

「こんのクソ広い日本でどう捜せって言うのよーわーん!」

 

 

 

 

 

何? 何なの!?

みんなこっちの世界に来る時にはぐれちゃったって…何処飛ばされたんだって話じゃん!

そもそもちんと私の世界に来てるのかもわかんないじゃん!

それなのに着地成功者がブン太一人って…わーん!

 

 

 

 

 

「何かよ、向こう天候悪かったんを無理矢理ワープしたからじゃねぇかなって俺は思うんだよな。 やっぱリスク高かったな。

「すんなよ! 悪かったならおとなしく家で寝てなさいよ!」

「…しゃーねぇじゃん。 みんなその日しか予定合わなかったんだよ。」

 

 

 

 

 

途中あったコンビニで買ってやったガムを膨らませる。

相変わらずガムは噛み続けているようだ。

何だか安心。

私の家に向かうことになった二人、事の経緯を聞きながら歩いていた。

 

 

 

 

 

「なー家まだ? 腹減ったんだけど。」

「キィイ! まだ! 全ッ然まだよ!」

「はあ? 俺腹減ったし何か食ってこうぜぃ。」

「どうせその金もガム同様私に出させるつもりでしょ! 給料泥棒!」

「給料袋はちゃんと返したろぃ。」

「使わせてたら返したって同じじゃ!」

 

 

 

 

 

せっかく手に入った給料も今着々とブン太の食費と化している。

んなことになってたまるか!

 

 

 

 

 

「なぁ、」

「んー?」

 

 

 

 

 

街の風景を眺めながら歩いているとブン太が私を呼んだ。

満開の桜が風に揺れてハラハラと数枚散っていく。

昨日の雨で大分散ったけどまだまだ満開だ。

 

 

 

 

 

「変わんねぇのな。」

「何が?」

「お前も、何もかも。 正直、忘れられてるかもって思ったりした。 あの一ヶ月が夢だったんじゃねぇのかな、とか。」

「……たった一ヶ月、されど一ヶ月、か。 あんな貴重な体験、たとえ人生の千分の一でもおばあちゃんになったって忘れられるわけないよ。」

「まあな。 俺も、忘れろって方が無理。」

 

 

 

 

 

並んで歩く繁華街。

相変わらず髪が赤いブン太は誰より目立つ。

擦れ違う女子の視線はひしひし伝わってきますとも。

 

痛い痛い痛い痛い!

確かに現実にはブン太ほどの男前なんてそうそういないけど!

目の保養だけど!

私を睨み付けるのだけはよしてくれたまえ!

 

 

 

 

 

「この世界も俺達の世界も大差ないってのに、何で一つじゃなかったんかな。」

 

 

 

 

 

深く被ったフードのせいで表情が見えない。

声のトーンが落ちていることから、笑ってはないんだと思う。

 

 

 

 

 

「二つに分かれてて、よかった。」

 

 

 

 

 

頭が抱えるようにぐいっと引き寄せられた。

寄り掛かるブン太の胸。

何だか無性に安心した。

 

そういえばコイツ、身長ずいぶん伸びてる…。

 

時の流れを少しだけ実感して、妙に物悲しい気分になった。

 

 

 

 

 

「……何でよかった?」

「だって二つに分かれてなきゃ俺達、出会えなかっただろうし。」

「…そっか、そうだね。」

「全部があって、今があるんだろぃ?」

 

 

 

 

 

いつか私が言った言葉。

全てがあって今がある。

どのピースも無駄じゃない。

全てのピースが揃ってなきゃ今の私は存在しないのだから。

 

 

 

 

 

「よし、いい事言った丸井君には特別に唐揚げ君五個入り買ってあげる!」

「マジかよよっしゃー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界で生きていく方法 FINAL STORY

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な夕日が街を彩る。

こうやって眺めた景色は何も変わりはしないのに、彼女との距離は遥か彼方、否、遠い。

不思議なものだ、世の中というものは。

 

 

 

 

 

「精市君、お茶でよかった? ごめんね、今こんな物しかないけど…食べてね。」

「あ、お気遣いありがとうございます。 いただきます。 すみません急にお邪魔してしまって。」

 

 

 

 

 

テーブルの上に置かれた緑茶とカステラを眺めながら幸村はふんわりと微笑む。

そんな綺麗な幸村の笑みにの母親はにやける口許をお盆で隠した。

 

我が娘ながら、やるじゃないか。

 

 

 

 

 

「全然いいのよ、精市君。 まさかに精市君のようなお友達がいるだなんておばさん知らなくって。 びっくりしちゃったわ。」

さんとは中学時代、短い間でしたが仲良くさせていただいていたんです。 すごくお世話になったんですよ。」

「あらまぁ。 迷惑かけなかった? ほら、あの子お転婆娘だし…。」

「いえ、迷惑だなんて。 いつも元気で笑顔が絶えなくて、見ててとても面白くって、いつも楽しませていただきました。」

 

 

 

 

 

そりゃもう思う存分に。

とは言えず続きは胸中でそっと呟く。

 

 

 

 

 

「精市君、今日学校は? 休み?」

「はい、創立記念日なんです。」

「創立記念日かぁ、高校はどこ通ってるの?」

「…えっと、県外なんでたぶんわからないと思います…」

「ああ、そうなの。 まあおばさん県内でもわかんないけどね。」

 

 

 

 

 

あははははと笑うの母親を見てホッと胸を撫で下ろす。

深く追求されてはボロが出てしまう。

それを隠し通せる自信は幸村にはなかった。

とりあえず落ち着こうと出されたお茶をすすり、カステラを一口含んだ。

 

あ、柳がよく土産に買ってくる味に似てるな。

 

 

 

 

 

「精市君精市君。 が帰って来るまでの小さい頃のアルバムでも見る?」

「あ、はい見ます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママーあの人ずっとあそこでキョロキョロしてるよー。」

「シッ、見ちゃいけません。 行くわよカナちゃん。」

 

 

 

 

 

何だよ、そんな逃げ去らなくったって何もしねぇよ。

 

遠ざかっていく親子の背中を見るのはこれで何人目だろうか。

いい加減呆れて傷つくこともなくなった。

いや、やっぱりちょっと悲しいな。

 

 

 

 

 

「下手に動いて迷子になりたくねぇしな。 つってももう迷子か。」

 

 

 

 

 

はあ、と深く吐いた溜め息に気が沈む。

ジャッカルは公園のベンチに座ったままずっと仲間の心配ばかりをしていた。

 

ブン太は腹を空かせていないだろうか。

赤也は喧嘩を売り歩いてはいないだろうか。

ブン太は空腹のあまり野垂れ死んでいないだろうか。

赤也は暴力沙汰を起こしていないだろうか。

ブン太は……………くそっ、この二人が心配でしかたがない!

 

 

 

 

 

「おや、ジャッカル君。」

「…?、何で俺の名前を…」

 

 

 

 

 

知ってる奴がこの世界に存在しているんだと口にする前にジャッカルは目の前の人物を見て目を見開いた。

 

 

 

 

 

「犬飼…さんか?」

「久しぶりだね、って名前覚えててくれたんだ。」

「ああ、びっくりした。 犬飼さん、久しぶり。」

 

 

 

 

 

いまだ動揺を隠せていないジャッカルの様子に小百合はクスリと笑ってジャッカルの隣に腰掛けた。

ジャッカルは見知らぬ世界で一人だった心細さから、偶然にもあまり親しくなかったにせよ知り合いに出会えたことに安心感を覚えていた。

 

 

 

 

 

「何しに来たの、は愚問だよね。 に会いに来たに決まってるか。」

「ああ、そうなんだけど…」

「こんなところで何してるの? まさか一人で来たわけじゃないでしょ?」

 

 

 

 

 

小百合の質問にジャッカルは事の経緯を話し始める。

みんなで来たこと、突然のアクシデントで逸れてしまったこと、仲間が心配で仕方がないこと。

 

 

 

 

 

「とりあえずん家行って待ってなよ。 みんな目指すはのいる場所なんだから。 あの子ももう家に帰ってるだろうし。」

「え、学校は一緒じゃないのか?」

「いーや。 高校はみんなバラバラのところ選んだの。 だからあまり会ってないわ。 連絡はちゃんと周期的に取ってるけどね。」

「そうか、そうだよな。 ずっと同じ学校に通うわけにも行かねぇもんな。」

 

 

 

 

 

どこか納得したようにジャッカルは頷く。

現に、と自分達は別々の世界を生きている。

数ヶ月共に学んで、共に笑い合った仲間は別の世界を生きているのだ。

 

 

 

 

 

「家まで、案内してあげるよ。 アンタにはいろいろ迷惑かけたしね。」

「え?」

「ほら行かないの? ん家、すぐそこだよ。」

 

 

 

 

 

そう言って立ち上がりニッコリ笑った小百合の大人びた笑みに、ジャッカルの胸がズキンと痛む。

 

あの日よりずいぶん丸くなった物腰の柔らかな口調。

少し染まった髪に、すらっと伸びた足。

 

確実にジャッカルの記憶に残っている彼女の姿ではなかった。

時の流れがものすごくリアルで、物言えぬ不安が襲い掛かる。

 

離れて過ごしていたのだから、久しぶりに出会ったのだから、当然だ。

当然 なのに、その事実がジャッカルの胸をきつく締め付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのさ、

俺達がここに来たのって、理由があってのことなんだ。

 

会いたかった。

ずっと、会いたくて仕方がなかった。

お前に会うことがどれほど楽しみだったか、お前にわかるか?

それくらい、一目でもいいから、会いたかったんだ。

 

 

 

 

 

たとえ、どんなことがあったとしても。

俺達は時空を越えてお前に会いに来たんだってこと、死ぬまで忘れんなよ。