music by FINAL STAGE 「恋ひ花唄」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー、今日帰りマック寄ってこーよ!」

「あーごめん。 私今日行くとこあるんだー。 また今度ヨロシクあたぼーよ。」

「えー、相変わらず意味わからん子だねアンタは。」

「んじゃ!」

「あ、こらちょっと!」

 

 

 

 

 

まだ何か言いたげな友達に片手をあげて学校を飛び出す。

ずいぶん伸び切った髪を揺らしながらバイト先の店に向かって走り出した。

 

 

ふっふー今日はバイトの給料日なのだ。

 

 

派遣だし、手渡しだから毎回給料が出る度取りに行っている。

この日が待ち遠しくてしかたがない。

今日もあまりに楽しみにしすぎて授業中めっさそわそわしてた。

隣の席の伊達君がものすごく怪しんだ目で垣間見てたけど先生が気付いてなかったからよしとする。

 

 

 

 

 

「あーもう高校三年生かー!」

 

 

 

 

 

すっかり桜で色付いた街を眺め、残すはあと一年となった制服を着たまま給料片手に

一番綺麗に海が見渡せるベストポジションである階段に座った。

しかし虚しいことに吹きさらしの風が色気もなく髪をオールバックにしていく。

 

 

 

 

 

「奴らは元気かねぇ。」

 

 

 

 

 

強風に曝されながらも思い浮かべるのは奴らのこと。

 

 

 

 

 

「んぎゃっ」

 

 

 

 

 

横向きの風が髪を踊らせ、顔面にへばり付いた髪が視界を遮る。

慌てて両手で風が止むまで髪を押さえたが、風が緩くなってきたところでふと気付く。

 

 

やべっ、給料袋がねぇ!

 

 

右手に握りしめていたはずの給料袋が先程の強風のせいで姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

「ありえない! 私の一ヶ月間の汗と涙の結晶がッッ!」

 

 

 

 

 

焦った私は立ち上がって風向きに沿って辺りを見渡す。

 

 

あ、あった!

茶封筒あった!

 

 

だけど地面に落ちていた茶封筒は私が辿り着く前に誰かの手によって拾い上げられてしまった。

 

 

 

 

 

「ちょっ、返しなさいよ! 泥棒か!」

「はあ? 拾ってやったんだっつーの。 人の親切を仇にすんなよ。」

「いいから返してよ! それないと今月ピンチなの私!」

「ふーん、つーことはこの中身は金ってワケだ。 ラッキー。」

「ちょっマジふざけんな返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せぇええぇええ!

「ちょ、おまっ、うるせっ!」

 

 

 

 

 

叫びながら飛び付くとフードを深く被った泥棒は慌てて後ずさる。

あれ、この声聞いたことあるし。

 

 

 

 

 

「いって!」

 

 

 

 

 

暴れていた私の手が泥棒の頬に見事ダイレクトにパンチを繰り出したため、

泥棒の兄ちゃんは頬を押さえて封筒を握っていた手で帽子を剥いだ。

 

 

あっ、あー!

 

 

 

 

 

「え、何!? ええ!?

「てめっ! 俺の顔に傷残ったらどーすんだよ! ちゃんと責任とるんだろうな!」

とらんとらん。 っていうか、え? ホントに丸井君?」

「見てわかんねぇ? 三年前よりもかっこよくなりすぎてわかんねってならまあしょうがねぇけどな。」

 

 

 

 

 

ああ、丸井君だ。

丸井ブン太だ。

この自信満々な胸張った物言いは丸井ブン太だわ。

 

 

 

 

 

「な、でもどうしてこっちに…」

「来ちゃいけねぇのかよ。」

「そういうワケじゃないけど、だって、ねえ。」

「あんな手紙残されちゃ、俺らもじっとしてらんねぇだろぃ。」

「え、あ、手紙?」

 

 

 

 

 

私があの世界に残した最初で最後のみんな宛の手紙のことだろうか。

みんなちゃんと読んでくれたんだ。

しかも感動して私に会いに来てくれるなんて

 

 

 

 

 

「一発殴るくらいしねぇとな。」

 

 

 

 

 

どうやら私が思ってたのとは違う意味で会いに来たようです。

 

 

何でぇー!?

 

 

 

 

 

「ちょ、ええ!? グー!? 待ちたまえ何で殴る!?」

「お前俺らが気づかねぇうちにいろんな悪事働いてくれちゃったみたいじゃねぇの!? 何でじゃねぇだろぃ!」

「ぎゃーこんなことなら告白しなきゃよかったー!」

 

 

 

 

 

感動の再開、私の喚き声が虚しくもだだっ広い日本の一角に響き渡った。