拝啓、アナタ様

 

 

 

 

 

 

 

今はもう、ここにはいない君へ。

 

 

 

 

 

たくさんのごめんね と たくさんのありがとう を伝えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジャッカル!』

 

 

 

 

 

何となく、あの犬が行った方向と違う方向へと足を進める。

あの犬が住み着いていると聞いていた場所に先回りしてそこに腰を下ろした。

目を閉じ、顔を上げる。

何故か聞こえてくるはずのない奴の声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえばいつも俺って、アイツに滅茶苦茶なことやられてたよな。

プロレスごっことか・・・あとは弁当のおかず泥棒なんてしょっちゅう。

迷惑かと聞かれたらはっきり言って迷惑だ。

だけど今はそれがないことが胸にポッカリ穴が開いたかのように物寂しくて。

うまいはずの弁当も、何か味気なかった。

 

 

 

 

 

アイツ、のことを考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

すまなかったと、そう伝えたくなる。

 

 

 

 

 

だけどそれを伝える相手はもうここにはいない。

それは人が死んだからもう会えない、とは全く違った別れ。

生きているのに会えないこのもどかしさと言ったらどうしようもない。

この世界からの世界まで走っていける距離なのなら、俺は今すぐにでも駆け出して会いに行っていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フーアーユ?』

 

『俺は日本語話せるぞ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失礼な奴だった。

煩い奴だった。

 

 

 

 

 

だけど、いい奴だった。

 

 

 

 

 

どれだけ俺の仲間達がアイツを貶そうとも、アイツはそれに気づいていようとも、

は決してアイツらの悪口も言わずにただ一心でぶつかって行った。

 

 

 

 

 

は女だけど、かっこいいとも思った。

 

 

 

 

 

そんなアイツを、俺は少しも助けてやることができなかった。

辛くて、たぶん一人ではどうしようもなかった時、あったと思う。

そんなの手助けを、俺は少しでもしてやることができたのだろうか。

仲間として、友達として、俺はアイツに何かしてやることはできたのだろうか。

 

 

 

 

 

否、俺はできなかったと思う。

 

 

 

 

 

だけどそんな俺の後悔すら、アイツは聞けば笑って「気にするな」と言うのだろう。

バシバシ背中を叩いて、しまいにはそこからまたプロレスごっこに変わってしまうかもしれない。

 

 

 

 

 

・・・・・・・それはもう勘弁、だな。

 

 

 

 

 

はあ と息を吐いて壁にもたれていた背中を前へと屈める。

その時、ふっと俺の前に影が現れた。

顔を上げてみればそれは柳生で、タオルで汗を拭いながら俺のことを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

「思いに、耽っていたのですか?」

「・・・まあそんなところだ。」

さんのこと、一番気にかけていたのは貴方でしたからね。ジャッカル君。」

「そうでもないさ。一番アイツのこと思ってる奴って言えば・・・仁王だろ。」

「そうですね。だけど私は貴方だと思いますよ?」

「・・・・何でだ?」

 

 

 

 

 

俺が眉を寄せて疑念を含んだ眼差しを向けると、柳生はふっと口元を緩めてタオルを持った手を下へと下ろした。

眼鏡が反射して、その奥の目を見ることが俺にはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はいつだって彼女のことを温かい眼差しで見守っていたじゃありませんか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言ったあと、柳生は小さく「あ、」と声を漏らして俺の後方へと視線を向ける。

俺もつられて振り返ってみると、そこにはあの手紙を咥えた犬がいた。

まるで読め、と言っているかのように俺達の方へと手紙を差し出している。

俺と柳生がそんな犬にどうしたものだろうと目を合わせていると、俺の膝の上にぼとりと何か物が落ちる感触がした。

 

 

 

 

 

「くれるのか?」

「わんっ!!」

 

 

 

 

 

俺の膝の上に落ちてきたものは紛れもないの手紙。

犬が俺の膝の上へ咥えていた手紙を落としたのだ。

 

手紙には犬の歯型がくっきりと残っており、ヨダレのせいで少しふやけていた。

 

触るのに抵抗があるが仕方ない。

柳生もそれを見て少し眉をしかめていた。

運よくここから見える時計をちらりと見上げるとその針が丁度五時半をさし、辺りにチャイムが鳴り響くのが聞こえる。

 

 

 

 

 

「俺が読んでいいのか?」

「ええ、構いませんよ。ルールでしょう?」

 

 

 

 

 

確かにルールだが、みんなに申し訳のない気持ちでいっぱいになる。

本来これはみんなで読むものだろう。

例え中身が一人の人間のものだったとしても。

 

 

 

 

 

「やっぱこれはみんなで読もうぜ。」

「ジャッカル君らしいですね。せっかく貴方だけが読めるというのに・・・」

 

 

 

 

 

そう言って笑った柳生も満更ではないようで、「じゃあコートに戻りましょうか」なんて言いながら踵をコートの方へと返した。

俺も手紙を握ると、立ち上がって柳生のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

、ごめんな。

 

お前のこと、守ってやることもできなくて。

 

 

 

 

 

、ありがとな。

 

俺の大事な仲間達を受け入れてくれて。

 

アイツらを、変えてくれて。

 

 

 

 

 

俺はお前がいなけりゃアイツらのことをずっとただの部活仲間としか思ってなかったかもしれない。

 

仲間が、こんなにも素晴しいものだと、知らずに生きていたかもしれない。

 

 

 

 

 

殻に閉じこもったままのアイツらを、仲間とすら、呼べなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

、ありがとな。

 

伝えることはできなかったけど。

 

俺はいつだってお前に感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

 

 

 

 

それを知ったらお前はきっと「どーいたしましてっ!」と言って笑うのだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生まれた場所が違って、

 

生きていた場所も違ったそんな少女。

 

 

 

 

 

でも、同じ人間で、同じ時間を過ごした少女。

 

 

 

 

 

俺達はきっと、出会うべくしてあの時間を共に過ごしたんだと俺は思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丸井ブン太様

 

 

 

 

 

貴方はいつも私に突っかかってきては意地悪なことばかり言ってましたね。

でも、それでも貴方を嫌いになれなかったのはきっと、

貴方のその気さくな人間性を私は知っていたからだと思います。

貴方が初めて私を認めてくれた時、嬉しかったです。

名前で呼んでくれたこと、叫びたくなるほど嬉しかったです。

あと、自己紹介する時のシクヨロ☆ってやつ、無断でよく使わせてもらってました。ごめんなさい。

最後にもう一つ。

 

 

 

 

 

いつかの丸井君の買って来た新作お菓子、無断で食べたのあれ私です。ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳生比呂士様 ジャッカル桑原様

 

 

 

 

 

柳生君、紳士的なそんな貴方が私は好きです。

初対面の時は抱きついてごめんなさい。

ちゃんと幸村部長に制裁を受けましたのでその辺はさらりと水に流しちゃってください。

あとからあれ、セクハラって誰かに言われたけど断じてセクハラではありませんよ。

 

ジャッカル、いつもプロレスごっこに付き合ってくれてありがとう。

楽しかったし、いいストレス発散法になりました。

貴方の無駄に優しいところ、親切さに、私はとっても助けられました。どうもありがとう。

教科書見せてくれたり、お弁当のおかずくれたり、本当感謝の気持ちでいっぱいです。

貴方と同じクラスになれて、本当によかったです。

 

 

 

 

 

初めこそは残念に思ったこと、どうかお許しください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真田弦一郎様 柳蓮二様

 

 

 

 

 

真田君、私は貴方にはよくビクビクさせられましたよ本当。

だってすぐ怒るんだもん。睨んでくるんだもん。

だけどその威厳のあるずっしりした貴方の存在、私は大好きです。

一度、貴方にマネージャー業のことで怒られた時、「老け顔!」と叫んで逃げた私のこと、まだ怒ってたりしますか?

そのことなら気になさらずにどうかさらりと忘れてこの先の人生をお過ごしください。

きっとその顔に似合った年齢になった時、誰よりも若く見えることでしょう。

 

柳君、私貴方という存在が時にものすごく怖かったです。

あとムカつきました。

私の粗探しがとてもうまく、タイミング悪く貴方にその事実を暴露されるということが多々ありまして・・・

私にとってはかなりの強敵でした柳君。

その都度幸村君に怒られる私の身にもなってくださいよー。

でもそんな柳君に私、謝らなくちゃいけないことがひとつ、

 

 

 

 

 

柳君のノート覗いたことあるんだ私。ごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸村精市様 切原赤也様

 

 

 

 

 

幸村君、今だから言える貴方のその凄さ。

私、何度貴方の言動に泣きそうになったか、もう今となっては数えられないほどです。

怖かったです本当。

でも、それ以上に優しかったです幸村君は。

貴方のその恐怖の裏に隠れた優しさを私はわかってます。

だから貴方のもとでマネージャーを続けることができました。

どうかこの先もずっと、私と同じマネージャーであるせっちゃんを宜しくお願いしますね。

 

切原君、貴方にはこんな手紙じゃ伝えられないほどいろんなことがありまして、

まあ全部ひっくるめちゃうと「大好きです!」で終わっちゃうんだけどね。

貴方のそのお調子者で感情突起の激しいところも、時に親切なところも、懐いてくれるところも、

全てが貴方のいいところだと私は思います。

もう嫌われたと思った貴方に帰るのを止められた時、私は進むべき足をピタリと止めてしまいました。

それはきっと、この世界にまだ未練があったから。

ありがとう。私が笑顔のままで帰ることができるのは紛れもなく貴方のおかげです。

 

 

 

 

 

よくこっそり撮ってた切原君の写メ、私の世界に戻っても永久保存で置いておきますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁王雅治様

 

 

 

 

 

貴方が一番私の中で思い出深い人間です。

出会いが出会いだっただけに、印象も強かったです。

初めは幾度となく貴方のその態度にイライラしましたが、

気が付けば変わっていた貴方の私に対する態度に、私も気が付けば貴方を見る目が変わるようになりました。

クラスで一匹狼だった仁王君がいつしかクラスのみんなと笑って過ごしていることが、私はとっても嬉しかったです。

そんな貴方に仲間だと、友達だと言ってもらえることがどれほど嬉しかったか、貴方にわかるでしょうか。

同じクラスなだけあって、よく貴方からいろんなもの借りましたね。

教科書にノート、消しゴムに赤ペン。それから・・・・

 

 

 

 

 

仁王君から無理矢理借りたシャーペン、壊れて芯が出せなくなったまま黙って返してごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は、まだのことをよく知らない。

こんなに長い間一緒にいたような気でいるけれど、数字で表すとただの一ヶ月。

だって俺らのことをよくわかっていないところだってあるし、お互い様。

 

 

 

 

 

だからこそ俺達の関係に終わりはなく、まだまだアイツと一緒にいたいって思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ふざけてると思わねえ?この手紙。」

 

 

 

 

 

丸井がぼそりと声を漏らす。

それにハッと我に返った他のみんなも弾かれたように顔を上げる。

 

 

 

 

 

「結局は最後謝罪文だしな。」

「俺写メ撮られてたとか知らないッスよ!!こえぇー!!」

 

 

 

 

 

赤也がそう叫びながら頭を抱える。

でもその声色も何処か楽しそうで、俺は心の中でそっとアイツはストーカーの素質があるな、と感心していた。

それは柳も思っていたらしく、自分のノートをパラパラ捲りながら「ほう」と声を漏らしていた。

 

 

 

 

 

「どうした参謀?」

「いや、こんなところに落書きされていたとは・・・・迂闊だった。」

 

 

 

 

 

覗いて見てみると、別に見てもいいページだったのだろう、特に気にする素振りも見せずに例の落書きの箇所を指で示してくれた。

そこにはお世辞でも似てる、ましてや可愛いとは言い難い柳の似顔絵だった。

吹き出し口からは「柳蓮二ですby」と下手くそな字で書かれてあり、ばれないように急いで書いたんだろうということが窺えた。

まったくアイツは、何をしとるんじゃか・・・・。

 

 

 

 

 

「ま、結局はみんな宛てだったってことか。」

「言いそびれたラブレターじゃなかったのか、残念だな。」

「まさか幸村部長ラブレターだと思ってたんスか?うっわ、ありえねえ!!」

「赤也?」

「あ、いや、すんません調子に乗りましたごめんなさい。」

 

 

 

 

 

もう夕日が差し始めているコートの真ん中で手紙を手に立ち尽くす俺達。

笑い声は堪えない。

だけどその内でみんなそれぞれの抱える想いがある。

ぎゅっと手紙を握り締めるその手が全てを物語っていた。

 

 

 

 

 

「さて、帰ろうか。」

「今日の部活はこれにて終了。みんなお疲れ様。」

 

 

 

 

 

幸村の解散の合図で俺達は部室へと向かう。

夕日に照らされて伸びた影を踏みながら、ふと思う。

 

 

 

 

 

この世界との世界は別々の物。

だけど、行き来は可能なのだ。

それはリスクを負うものでもあるが不可能ではない。

俺はそんなことを思いながら足を止める。

そんな俺に気づいた柳生や真田が後ろから「どうした仁王?」と声をかけていた。

その声に気づいてか、前を歩いていた他の奴らも足を止めて振り返った。

 

 

 

 

 

に、お礼でもしに行かんといけんのぉ。」

 

 

 

 

 

くくっと喉を鳴らして笑う。

みんなが真ん丸く目を見開いて俺を見ていた。

 

 

 

 

 

もう会えないだろうと思ってこの手紙で告白したんだろうの悪事。

きちんとお返しでもしに行ってやらんと、と俺は体をぐんっと伸ばして大きく伸びをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

、お前が思っている以上に俺にとってお前の存在は大きい。

 

お前が帰ってから今日まで、まだ一度もお前の存在を気にかけなかった日などない。

 

ずっと、会いたくて、どうしようもなかった。

 

 

 

 

 

いつか忘れる日がくるのだろうか、とそう考えるだけで何ともいえない恐怖が俺を襲う。

 

お前と出会った時の俺を思うと、そのギャップの激しさに思わず自分で笑ってしまうほど。

 

俺は変わったな、と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからいつか会いに行くぜよ、、お前の世界まで。

 

今度は俺達が会いに行ってやる。

 

 

 

 

 

 

別れじゃない。

 

永遠に会えないそんな俺達じゃない。

 

 

 

 

 

 

世界は別々だ。

 

だけど繋がってる。

 

お前がこの世界に来たことが何よりの証拠で、

 

この世界とお前の世界は繋がっているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、俺達はまた会うことができると、そういうことじゃろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達がアイツの世界へ行く日は、まだそんなに遠くない話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

終わりました!番外編!

更新が遅くなった理由は・・・はい。

イラスト描くのに手間取っちゃって・・・すみません><

この番外編が伝えたかったことはそうですね。世界は結局は一つなんですってことなんです^_^;

また会う可能性を秘めて、終わらせておきましょう!

無事完結できてよかったです!お付き合いいただき、ありがとうございました!

2007.10.06