拝啓、アナタ様

 

 

 

 

 

 

 

もしあの時止めていなかったら、俺達はあの人のことを思い出すたびに胸を痛めなくてはいけなかっただろう。

あの人に悲しい思いをさせてきたのは俺達。

だからどうしても最後は楽しい思い出のままで終わらせたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バカ犬を追って気がつけば先輩達とは離ればなれになっていた。

ここは、学校を出てすぐの交差点。

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

 

 

 

 

よそ見して走ってた俺にチャリをこいでいたオバサンが突っ込んで来て寸前のところでぴたりと止まる。

オバサンは危ないなーったく最近の若い子は・・・とブチブチ文句を言いながらまたペダルをこぎ始めて俺が向かう方向と反対に行ってしまった。

危ねえ危ねえ。

ってかそういうオバサンだって前向いてなかったじゃん!

俺知ってるんだからな!

 

 

 

 

 

そういえばバカ犬何処行きやがったんだ?

確かにこっち行った気がしたんだけどなー。などと思いながらふと、俺は急にこの場所がものすごく懐かしいものに感じて立ち止まった。

 

 

 

 

 

「そーいやここ、先輩と初めて出会った場所だっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『危ねえ!!』

 

『はい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時は急ぎすぎててよくわかんなかったけど、変な人だったな。本当。

俺はあの日のことを思い出してふっと口元を綻ばせた。

俺ってかなり失礼な奴だったんだなーと思ったがまあ相手が先輩なのでそれほど気にはならなかった。

 

 

 

 

 

ていうか俺、ここで先輩に馬乗りになったんだよなー・・・。

 

 

 

 

 

今となってはそれがあまりにも夢のような話で、少し自分で自分に引いた

そうかそうか。

俺が先輩の上にねえ〜。

うわやべっ!全然想像できないんですけど!!!!

事故でぶつかったとは言え、あれはなかったよな。うん。

 

 

 

 

 

「あれ、クソ犬何処にもいねえじゃん。何だアイツ・・・。」

 

 

 

 

 

少しだけ歩いてみてみるも、あの手紙を咥えたクソ犬は何処にも見当たらなかった。

ったく、何なんだよあの犬は。

何で幸村部長もあんなクソ犬連れてきたんだよ・・・。

あの犬、確か野良っつってたよな?

え、それってやばいんじゃねえの?

別に飼ってるわけじゃねえからもう帰ってこない可能性もあっちゃったりするんじゃねえの?

 

 

 

 

 

「あ゛ーったく、何やってんだよあの人達はっ!!!」

 

 

 

 

 

くしゃくしゃに頭を掻き毟ったあと、俺はクソ犬を探し出すために再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、後悔なんてしていない。

あの人が一人で黙って帰ってしまったのだって、俺は別にそれでよかった。

 

 

 

 

 

最後の記憶に残る先輩の姿がいつものあの笑顔であったから、俺は何も思い残すことなんてこれっぽっちだってなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『帰っちゃダメ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、もし俺が先輩を止めていなかったら、

俺の記憶の中のあの人は、ずっと切なそうな表情のままだったかもしれない。

どこか寂しそうで、傷ついた顔。

 

 

 

 

 

だけど、俺の記憶の中で最後に見れたあの人の笑顔は、

今まで見た中で一番輝いていて、可愛かった。

 

 

 

 

 

いつも煩くてウザイと思っていた先輩も、まあありなんじゃない?

そう思ってしまった俺は、誰にも気づかれないよう自分自身に苦笑した。

 

 

 

 

 

でもやっぱり俺たちに黙って帰ってしまった先輩は少し酷かったと思う。

仁王先輩から帰ったって聞かされた時は正直、かなり驚いたし寂しかった。

俺たちのために、じゃなくて先輩自身が帰りづらかったみたいだからしょうがないとは思うけど・・・

ひと言、サヨナラの挨拶ぐらいはしたかったな、と思った。

 

 

 

 

 

まあそういうわけで、俺たちは別れの挨拶すらまともに交わしていないと言うわけだ。

それもこれも先輩が自分勝手に帰ってしまったせい。

俺たちはまだ先輩に言いたいことも山ほどあるし、まだまだ知り合って日は浅いし。

先輩はもう俺たちとお別れしちゃった気分なのかも知れませんけど・・・・

俺はまだまだ先輩と永遠に会えないとかそういうこと考えてないんで。

諦め悪いっスよ、俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、次に会うときは、覚悟しておいてくださいね。先輩?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあああああ何処行ったんだよあの犬は!!」

 

 

 

 

 

俺は大の字になってまた戻ってきたコートに寝転がる。

真っ直ぐに視界に入った空が雲ひとつない快晴で、なんだか清々しかった。

あー腹減ったな・・・。

 

 

 

 

 

「丸井。走ってすぐに寝転ぶな。」

「へいへい。わかりました。」

「返事と体の動きが合ってないぞ。」

「いってえー!!!今何で打った!?ねえ今何で打った!!?」

 

 

 

 

 

俺は痛さと驚きのあまりガバッと起き上がって打たれた額を擦りながら涙目で柳を見上げた。

 

今ゴンッって言ったぜぃ!!?

絶対今の音おかしかった!!!

 

突如俺の視界に飛び込んできた柳が手に持っていた鉄アレイで俺の額を殴ってきた。

明らかにおかしな音を奏でて俺の額にクリーンヒット。

痛さのあまりに目には涙が滲んできてしまう始末だ。

何で鉄アレイなんか持ってんだよコイツは!!

 

 

 

 

 

「すまない。痛かったか?」

「痛いに決まってんだろぃ!!何で鉄アレイなんだよ!!」

「そこで拾ったんだ。きっと昨日筋トレをしていた一年がしまい忘れていたんだな。」

 

 

 

 

 

俺は柳に聞こえないよう小さく舌打ちをし、立ち上がる。

柳の目がスッと開いた気がしたがあえて目は合わさないよう反対を向いた。

 

 

 

 

 

「どうやら犬は外へ出たらしい。」

「フランソワードが?・・・ったく、通りで校内探したっていないわけだ。」

「ケンタくんだ。」

「へ?」

「フランソワードは幸村だけがそう呼んでいるだけで実際のところ学校内の生徒からはケンタくんと呼ばれている。」

「いや、別にどっちでもいいし。」

 

 

 

 

 

柳はどうやら幸村君の名づけた名前が不満ならしく、少し眉間に皺を寄せた。

ぱらぱらと捲っていたノートをパタリと閉じると、それを右脇に挟んで鉄アレイをそのまま右手に持ち替えた。

俺は凝った肩を回して解しながら首を軽く左右に捻る。

 

 

 

 

 

「ま、誰かが探して持ってきてくれるだろぃ。」

「・・・・それをまた横取りでもする気か?」

「あったりまえ。俺、基本そういう風な生き方だから。」

 

 

 

 

 

さーて。

そうと決まればそれまでどうやって時間を潰そうかと大きく欠伸を一つ零す。

 

 

 

 

 

の手紙、か。実に興味深いな。」

「あんま期待すんなよ。絶対大したことねえぞ。」

「まあそうだな。」

 

 

 

 

 

なんていつもどおりに言ってはみるものの、

俺は、俺たちはそんな手紙を必死になって取り合っているのだから笑ってしまう。

何だかんだ言ってかなり気にはなるし、

例え中身が大したものでなくてもそれを見たいという欲求だってある。

何でもいいから、に関わる何かが欲しかったりするんだ。

何かキモイけど、俺はその欲求に勝てる自信がないからどうしようもない。

それは俺だけじゃなく、たぶんみんなも。

 

 

 

 

 

俺たちの中でいつの間にかアイツは大切な存在になっていたんだから仕方がないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

。』

 

『は、はい!!?何でしょう!!?』

 

『・・・・・・・・・・・・別に。呼んでみただけ。じゃあ俺教室帰るわ仁王。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて話しかけた時はただムカついて。

何でこんな奴に、って気持ちが強くて。

ただ単純に俺の日常を崩されたことが嫌でたまんなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ま。しょうがねえからお前もマネージャーだって認めてやるよ。。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えるまで、俺は結構アイツを傷つけてきたと思う。

俺自身、アイツが悪い印象からいい印象に変わるなんてちっとも思ってもいなかったから、そう素直に言えた自分に正直驚いたくらいだ。

今まであんな態度とってたっていうのに、急にそれを変えるなんて、何かかっこ悪くて無理だと思っていたけれど、

コイツなら大丈夫だと。

コイツなら受け止めてくれると。

俺はという一人の人物を信じて全てを話した。

 

 

 

 

 

言葉にしてみれば案外簡単なもので、

自分が思っていたほどアイツへの感情もそれほど大したものではなくて、

ただ自分のガキっぽい意地が、アイツに一線を引いていたんだとわかった。

 

 

 

 

 

その一線を思い切って飛び越えてみるとなんだか妙に清々しくて、

今まで見ていた世界とまた違った世界が見えた気がした。

 

 

 

 

 

アイツが帰ってしまったあとだって、クラスの雰囲気が変わって見えて、

俺は珍しくもたまに馬鹿やるクラスメートと飯を食ってみたり、絡んでみたりもした。

いつもつまらないとばかり思っていたそんな日常がいつもより楽しく感じて、俺は自分でも気づかないうちに心の底から笑っていたと思う。

 

 

 

 

 

だけど、やっぱりアイツ、が俺たちに黙って帰っていったという事実が寂しくて、

のことを思い出すたびに少し胸がちくりと痛んだ。

もう、会えないのかなと思うたびに胸が熱くなる。

もう少し、もう少し早く素直になって、アイツともっと一緒に話したかった。

同じ時間を過ごして、笑い合いたかった。

 

 

 

 

 

俺って馬鹿だな。と自分の馬鹿さ加減に自嘲してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「丸井、最近どうだ?」

「何が?」

「丸井の人気の総計が最近また上がってきているんだが。」

「ま、当たり前の結果だろぃ。俺様がモテないはずがねえんだっつーの。」

「仁王よりは下だがな。」

「うっせーよ!!俺のテンション上げて落とすな!!」

 

 

 

 

 

言わずもがな。

柳は遠回しに事を言うけれど、俺には何を言わんとしているのかすぐに理解できた。

 

 

 

 

 

最近では俺たち立海テニス部レギュラーは、前ほどよりずっと一緒にいるというわけではなく、

休み時間やたまに昼休みなど、極力クラスの奴と関わるようにしたりしている。

今まで見向きもしなかったそんな奴らと関わることによって、最近俺たちの人気が上がってきているらしい。

仁王はがいた頃から少しずつ人気が上がってきていたらしく、(まあもともと人気断トツだったみたいだけど・・・。)

俺や赤也、他の奴らも前よりさらに告られる回数や女子の視線がドンと増えた。

それは本人が自覚してもおかしくはないくらいのもので。

まあウザイって思う気持ちは変わらないけど、それも悪くはないかなと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・俺、変わったかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポソリと呟いた言葉に柳の開いていない目が俺を見る。

ふっと口元が笑った気がしたけれど、俺はあえて気づかないフリをしてまたその場に寝転がった。

 

 

 

 

 

「寝るな。」

「おっと、二度目は効かないぜぃ!」

「甘いな。」

「いってえテメエ柳マジしばくぞお前!!!」

 

 

 

 

 

俺はさっき打たれてまだ痛みの残っていた額を押さえ、その場に痛さのあまり転げまわる。

そんな俺の姿を見て柳は鼻で笑うと、俺のことを放ってさっさと何処かへと行ってしまった。

ちっくしょー覚えてろ柳!!

 

 

 

 

 

「・・・へへっ、何か俺、アイツみたいだな。」

 

 

 

 

 

いつも幸村君や仁王に滅茶苦茶いびられていたの姿を思い出し、俺は今の自分の姿と重なって笑いを零した。

懐かしい。

まだそれほど時は経っていないのに、アイツがいた時間よりも早く時が過ぎていく気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、

俺さ、変わったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前見てたら何だか自分の心の狭さが馬鹿らしく思えて、

今までの俺の世界がちっぽけに思えて、

もっと大きな世界を見てみたいって、思えるようになったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからさ、いつか俺がもっと心の広い、素敵な男になれる日がきたら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前の世界も見に行きたいって、そう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、そんな日がくることがあるのなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は俺をまた、あの日のように受け入れてくれるんだろぃ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

今回は二人視点。赤也とブン太でした!!

赤也は基本前向き思考派なんでこの先主人公とまた出会うことしか頭にありません^^笑

ブン太は本編で一番問題だった子なので、成長発展途上なんですね。笑

 

あーそれにしても最近柳が好きだ私・・・。笑

 

ゴメンね赤也・・・。

2007.09.02