37話 残り三日、私の氷帝生活・前。
「すげすげ!マジ感動!!」
目の前には氷帝学園。
跡部のベンツで登校ってのも興奮ものだったけどやっぱりこの学校のでかさにも負けじと興奮させられる。
私の胸の中は今バックンバックンのこの先に起こりうる楽しみを胸に秘めている。
隣で自慢げに腕を組んでいた跡部が「行くぞ」と中へ向かって歩き出した。
ひとり、立海の制服を着た私は氷帝学園の門を潜った。
ONE DAY my life
初めに連れて来られたのはお決まりのようにテニス部だった。
「おはよ。さん。」
「あ、おはようございます!!!!」
部室へと向かう途中で通るテニスコートであの滝様が擦れ違い様に挨拶してくれた。
初対面なのに!!初対面なのに!!!
ってか名前知ってんの!?
やっぱあれかな!!みんな話してんのかな!!?
わー私有名人じゃん有名人!困ったなー!
サインとか頼まれたらどうしよ・・・!!!
あーそれにしても朝から爽やかないいもの拝めたなー。などとへらへら顔の筋肉を緩ませているとギロリと跡部に睨まれた。
何故に?
「キモイ。」
「・・・・うっわ、テンション一気に下げられた。」
毒を吐かれて肩を落とすと部室の前。
ドアノブを回して開けると、中から見覚えのある奴らが顔を覗かせた。
「わー!跡部ホントに連れてきたのかよ!!?」
「おはようさん。」
「あーちゃんだ!!ナニナニ!?今日一日氷帝生活!!?」
「うげ・・・。」
「・・・宍戸さん露骨ですね。おはようございます部長、さん。」
「・・・・・・・。」
反応は様々。
ガックンやジロちゃんのように騒がしいのもいればいつも通りに落ち着いた挨拶を交わす者もいる。
・・・・・・とりあえず宍戸潰す。
「ねねっ!ちゃんは氷帝くるの初めて!?」
「え、うん!初めて!!」
「そっか、じゃあ今日は俺らが飽きるまで案内してあげるかんな!!」
「いや、そこまでは遠慮しとく!私お昼には帰るし!!」
「えっ!?一日じゃねえの!?」
リュックを背負ったままのジロちゃんが飛びついてくる。
私が首を横に振るとガックンが驚いたように振り返った。
だけど驚いたのはガックンだけではないようで、みんな私が一日中ここにいると思っていたらしい。
「跡部が午前中だけって言ったから・・・そうじゃないの?」
「何でなん?跡部。」
いつの間にかソファーに座って足を組んでいた跡部へと視線を向ける忍足。
跡部は偉そうに鼻で笑って「気分だ。」とだけ言って何かファイルを取り出し、自分の仕事を始めてしまった。
・・・・・え、何で?
私を案内してくれはしませんの?
「あーでもお昼は食べて帰ろうかな。」
「そうしそうし。せっかく来てんから氷帝の食堂くらい寄っていかな来た意味ないしな。」
「氷帝の食堂はマジうまいぜ!!俺特盛カツカレーがお勧め!!」
「女の子に勧めるもんじゃねえなソレ。」
嬉しそうに目をキラキラさせたガックンに呆れた声でつっこむ宍戸。
その後ろで跡部が鼻で笑った気がした。
氷帝の食堂は死ぬまでに一度は行ってみたいと思っていた。
しかしそれが現実に起こるとは思ってもいなかったわけで・・・・
いや、だって漫画の世界だったし・・・
夢のようで夢のようで今の私のウキウキ度は半端なもんじゃない。
「ってかみんな授業はいいの?受けないの?」
「今日は午前中俺らテニス部レギュラーと日吉は休みなんです。」
「え、何で!?」
「はい、生徒会長その訳は?」
チョタの返答に私が目を瞬かせると忍足が振り返って跡部に答えを促した。
跡部は黙って私を見据えると、口元に笑みを浮かべて言った。
「今日は案内係として俺らがお前をとことんまでサポートする。楽しんでけよ、。」
跡部が偉そうにもかっこよく、私の方を見て指を鳴らした。
どうやらわざわざ校欠にしてまで私のことを今日半日お世話してくれるらしい。
そこまでしてくれなくて良かったのに・・・・・。
何かかなり悪い気がする。
特に日吉なんか・・・・・物凄く迷惑そう。
だって何だか視線を感じるんだもの。
鋭く私を射抜くような・・・・・・・いたーい視線が。
「ねえ、今からどこ行くの?」
「屋上。」
「屋上!?」
「授業風景とか見たかておもろないやろ?」
「う、まあそうだけど・・・。」
学校案内ではなかったの?と思わず苦笑い。
私達は最上階へとエレベーターを使って上っていた。
リッチリッチ。ユーアーリッチ。
屋上までエレベーターは通ってないから最上階で降りて階段を上るらしい。
「屋上はええで〜。サボるには最適や。」
「いや、俺は部室派。」
「俺も宍戸と一緒で部室がいいな。パソコンして遊べるし。」
「ほんま岳人はゲームっ子やんな。自分いつも部室で何してんねん思とったけど、ゲームしてたんかいな。」
「俺も屋上がいい!寝るには最高だCー!」
「いや、お前どこでも寝れんだろ!」
ワイワイとエレベーターの中で騒ぐ。
やっぱり氷帝なだけあってエレベーターは普通のよりでかい。
こんなに乗ってたってまだ身動きが取れる、そんな広さだった。
私の学校のなんて九人も乗れないからね。
六人目くらいで音鳴りそうだからね。
前鳴ったからね。私で。
「ここが屋上・・・。」
「ここは人口芝生ですがあっちの旧校舎はコンクリート張りなんです。」
チョタが指差した方向には旧校舎とは呼ぶには勿体ないほど綺麗な校舎が立っていた。
てことはここが新校舎なわけね。
ふんふん。
「ここから見てみ。俺らのテニスコート見えんだろ?」
「あ、マジだ!青い!青いよテニスコート!」
「青っていうか・・・水色だよな。」
宍戸の隣に立ってフェンスにしがみつく。
見下ろせば観客席(かな?)に囲まれ少し窪んでいる水色のテニスコートが見えた。
何だかでかいし綺麗!
立海も汚くはないけどこれ見ちゃったらなあ・・・。
これ真田の前で言ったら殺されそうだ。
「あ、ねえねえ日吉、氷帝ってさ!屋内テニスコートあるんでしょ!?」
「はいありますよ。」
「あとで連れてって!見てみたい!」
「嫌ですめんどくさい。」
「連れてってね!」
(・・・・・・・・・・聞けよ。)
「ねー何で日吉だけなのー!?ズルイズルイズルイー!」
日吉の顔はこれでもかってなくらい歪んでいてその隣ではジロちゃんが四肢をばたつかせながら喚いていた。
そんなに私と行くのが嫌なの日吉!
私は嫌がってても行けたらそれだけで嬉しいよ!
「何で屋内コートなんて行きたがるんだよ。」
「宍戸君はわかってないなー!屋内だからこそ行きたいんじゃん!」
「・・・わかんねえよ何ソレ。屋内見たって何もねえじゃん。」
「そんなことないよ!宍戸君にはわからないロマンがあるの!宍戸君の分からず屋!」
「なッ!」
「お前ら一体何のコントしてんねん。ってか屋内コートに感じるロマンて何やねんな。」
忍足の呆れ混じりな溜め息で私と宍戸のコント(言い合い)は遮られ、振り返ると日吉から冷ややか〜な視線を向けられていた。
はい。そろそろ黙れってことですよね。
そうですよね。
授業サボらされてこんなウザいコントにつき合わされちゃあたまったもんじゃないですもんね。
私だったら逃げ出してるもん。絶対。
「ー。そろそろテニスコート行ってみっか?」
「え、別にいいけど・・・結局私は何しに屋上来たの?」
「別に意味はないんですよ。気分です気分。」
ガックンが頭の後ろで手を組んでダルそうにこっちを向いて言った。
きっと屋上は彼にとってはつまらなかったんだろう。
だって部室派だしね。
パソコンとかゲームとかしちゃう子だからね。
くそっ、現代っ子め。
その隣でチョタが苦笑いを浮かべながら「特に何もないですよね・・・。」なんて、今更の台詞をさらりと吐いた。
だったら連れて来るな!!と思ったけど口に出すのは勇気がいったので何も言わなかった。
「私・・・みんながテニスしてるところが見たいな!」
「えー今からすんのかよ。どうせ放課後まだ部活あるし。俺やだ。」
「宍戸の意見は却下。」
「何でだよ!」
「よーし、俺の天才的アクロバットを特別に披露してやるよ!」
「特別て・・・いつもやっとるやん?」
「うるせえな侑士。何だっていいんだよ。」
「さよか。」
不機嫌に眉を寄せる宍戸は軽く流され、ガックンがぴょんぴょん跳ねながら快く引き受けてくれた。
うんうん。やっぱりガックンだね。
宍戸とじゃ月とスッポンの差ぐらいいい子だよ。
月とスッポン。もちろん宍戸がスッポンね。
「じゃあ屋内コートを通って行きましょうか。」
「そうだね、それのが効率いいCー!・・・ってかアレ?さっきから跡部いなくね?」
日吉の提案にジロちゃんがキョロキョロと辺りを見回す。
さっきまでいたはずの跡部は確かに何処にもいなかった。
あれ?いつまでいたっけ?
全く視界に入ってなかったから気付かなかった。
「・・・跡部さんは・・・電話をしに・・・少し前に出ていきました・・・。」
「・・・・あ、そうなんだ。」
今の今まで全くもって関わりのなかった樺地と初めて話したよ私。
何かな。今すんごくイラッてきたんだ。
何でかな。親切に教えてくれただけなのに、何かすんごく神経を逆撫でられたんだけど。
その原因はきっと、彼の話すスピードにあったと思われます。
私には耐え兼ねる間隔の空け具合だった。
私が短気・・・ってわけじゃないよね?
樺地から事情を聞き、仕方なく、私達は団体行動を乱した跡部を放って屋上をあとにした。
あとがき
なぜ氷帝にいるかって!?
氷帝だけの絡みがほしかったからさッ!!!!!!
(ただ単に滝を出したかっただけ・・・)
それとテニスコートが水色なのはラブオブのゲームに出てくる設定使いました^^
2007.06.17