34話 人間なんだから疲れることもあるじゃんよ。

 

 

 

 

 

 

知らなきゃよかった。

僕はいつだって独りよがりのダメ人間。

あの日、君を知らなきゃこんなことにはならなかったんだろうね。

知らなきゃ人を信じることすらできなかっただろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――・・ば、バカって何だよ!テメェ喧嘩売ってんのか!?

「やめたまえ丸井君!」

 

 

 

 

 

飛び掛かろうとする丸井を必死に止める柳生。

その光景を見ながらからからと笑う渡瀬龍に柳生は、遊ばれているという居心地の悪いこの状態に少なからず嫌悪感を抱いた。

(いや、むしろ時間を稼がれているような・・・。)

舌打ちをして元の体勢へと戻る丸井を横目に眼鏡のフレームを人差し指でくいっと上げる。

 

 

 

 

 

「だってさ〜俺から聞いたってしょうがないじゃん?本人から直接聞きなよ。」

「・・・それができたら苦労はしませんよ。」

「ふーん、意外と小心者なんだね柳生君は。」

「なッ!」

 

 

 

 

 

一瞬取り乱した柳生だが、自分が食ってかかるような真似をしては暴走した丸井を止める者がいなくなると、直ぐさま深呼吸をして冷静に相手を睨み付けるだけに治めた。

柳生の姿に感心しつつも渡瀬龍は先程からやけにチラチラと時計を気にしている。

そんな細かな動作も柳生は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

「時間をお気になさってるご様子ですが・・・何かあるのですか?」

「うんあるね。あ、たった今二名様がお越しなさいましたよー。」

「は?何お前。頭イカれちゃったわけ?

 

 

 

 

 

丸井がガムをくちゃくちゃと噛み締めながら毒を吐くと渡瀬龍の指差した方のドアがガチャリと開いた。

そこから出て来た人物を見て柳生も丸井も目を見開く。

ただ渡瀬龍だけがここに誰が来るのか恰も初めから知っていたようで驚きもせずに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「やあ、渡瀬。鍵が開いていたから勝手に入らせてもらったよ。」

「いらっしゃい幸村君。わざとだから気にすんなよ。あ、幸村君も無道さんも適当な所に座っちゃって。」

「・・・お邪魔します。」

 

 

 

 

 

渡瀬龍に促され、幸村と雪菜は言われた通りドアの近くのフローリングの上に腰を下ろした。

少しお尻が冷たかったがあまり奥へ入る気もしなかったので入口付近で済ませることにしたのだ。

 

 

 

 

 

「ゆ、ゆゆゆ幸村君!何でここに!?」

「何でって・・・楽しそうだったから。

「はあ!?」

「幸村君、貴方という人は・・・。」

「ははは、冗談だよ。まあいろいろあってね。あとから仁王も来るよ。」

「仁王も!?マジかよ・・・。」

「犬飼小百合も連れて、だけどな。」

 

 

 

 

 

そう言い放った渡瀬龍に視線が集まる。

彼はそれでも誰に視線を合わせることなくただじっと時計を見上げていた。

 

 

 

 

 

「先程から疑問に思っていたのですが・・・渡瀬君、貴方のその的確な情報源は一体何なのですか?」

「何って・・・別に。」

「惚けんな!明らかに何かあんだろぃ!?」

「誰から・・・いや、何処からの情報なんだい?」

 

 

 

 

 

幸村の鋭い視線が突き刺さる。

目で殺されるとはこういうことなのだなと自分も負けじと幸村を睨み返した。

 

 

 

 

 

「アンタらに教える義理はないね。」

「・・・何だよそれ。お前一体何なわけ!?あーもう!こんなのが生徒会長でいいのかよ!

「今そんなこと関係ないだろ。」

「関係あるね!このままじゃ立海も終わっちまうってもんだ!」

「そんな奴を選んだのはお前らだろ。自分の行動に責任取れよなバーカ。

「なッ!ちょ、マジこいついっぺん殴らせて!殴らせてくんなきゃ俺の気が治まらねえ!」

「丸井君やめたまえ!」

 

 

 

 

 

興奮気味に立ち上がった丸井を再び抑えにかかる柳生に何故か幸村は笑顔で見ているだけだった。

止める気はないらしい。

そんな幸村にちらりと視線を這わせると雪菜は幸村と目が合った。

肩が跳びはねるほど驚いた。

何故なら彼の目が恐ろしいほど冷めていたからだ。

暴れている丸井へ向けたものではない。

そう直感で感じ取った雪菜はこの幸村の怒りは誰へ向けたものなのだろうかと考える。

初めは自分だろうかと考えてもみたが、今のこの状況、生徒会長でまず間違いはないだろうと確信した。

 

 

 

 

 

「もう、本当のことを言ってもいいんじゃないのか?」

「幸村君?」

「何も隠すことはないじゃないか。それとも何だ。何か言えない理由でもあるのかい?」

「・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

幸村の低く凛とした声に黙り込む渡瀬龍。

部屋の中は一変して静かになり、沈黙が漂った。

 

 

 

 

 

「・・・・あるんだな。」

 

 

 

 

 

確信したように目を伏せる幸村に視線をくれる。

悲しそうな、戸惑いの色が微かに感じとられたが決して感情をあらわにすることはなかった。

そんな幸村を見て渡瀬龍は俯いたままぽつりと小さく声を漏らした。

 

 

 

 

 

「――――・・もし、もし話したら・・俺達は今まで通り生きていけなくなるんだよ。」

 

 

 

 

 

ぎゅっと握りしめていた拳を開き、視線を落とす。

爪が食い込んだ跡が赤く残っていた。

 

 

 

 

 

「それは、どういう意味ですか?」

「いや、だから言えないって。」

「だーもういいじゃん言っちまえよ!勿体振んな!」

「あのなあ丸井。お前今の空気ちゃんと読めてるか?

「よ、読めてるに決まってんだろぃ!!俺は真田じゃねえんだ馬鹿にすんな!」

「あーはいはい真田君ね。」

「何だよその適当さは!」

「ちょ、ホントお前煩い。もう出てっていいよ。さ、お帰り。

「んだと!?」

「丸井君!」

 

 

 

 

 

また第二ラウンドのコングが鳴りそうなところで柳生が二人の間に割って入る。

丸井は威嚇しながらもそわそわしながら渡瀬龍を睨み続けていた。

もちろんのこと渡瀬は相手にもせずまた時計を見ては口を開いた。

 

 

 

 

 

「あ、ただいまと仁王と犬飼のご到着ってね。」

「仁王君達が来たのですか!?」

「どうやらと途中で会ったみたいだな。ふーん。」

 

 

 

 

 

階段の上がる音が徐々に大きく聞こえてくる。

自然とみんなの視線は先ほど幸村達が入ってきたドアの方へと向いた。

チャイムを鳴らすことなく勝手に家に上がることに突っ込む人は誰ひとりとしていなかった。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。仁王、犬飼、そして・・――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、終わらせて。

君じゃないと無理なんだ。

この狂った僕の思考回路を一刻も早く君のその手で切り裂いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『他の世界の病院と病院が繋がった。』

 

 

 

 

 

そう、父は喜んでくれた。

俺は小さい頃から実験やら何やらそういったものが好きで。

すぐ裏切って愚痴ばっかり言ってる友達なんかよりもいつもそっちばかりに没頭していた。

そしてできたのがそれ。

初めこそはまだ通信しかできなくて、人が行き交うようなことはまず無理だった。

しかし、これは危険でもあるうえ法的違反なので父の病院だけでの秘密になった。

毎晩毎晩、病院にある地下の実験室で俺達は極秘ともいえる危険な実験を繰り返し、俺が異世界へ飛び立つことに見事成功した。

 

 

 

 

 

『いらっしゃい。』

『すっげえー。あんま俺の世界と変わんねえじゃん。』

 

 

 

 

 

降り立ったそこも病院で。

迎え入れてくれたのは父ではない院長。

胡散臭い雰囲気を漂わせながらもにこにこと笑顔を絶やさない。

俺はキョロキョロ見渡しながら今いる病室をさっさと出た。

 

 

 

 

 

『小百合ちゃん!!』

 

 

 

 

 

すると女の子が泣きながら叫んでる。

カートに乗せられて血だらけのまま手術室に入っていく女の子のあとをついていきながらひたすら涙を流していた。

 

 

 

 

 

(くっせー友情。)

 

 

 

 

 

何も感じなかった。

泣いている女の子のことを俺はどこか冷え切った瞳で見ていた。

だって、俺にはもうそんな心を持ち合わせてはいなかったから。

 

 

 

 

 

『君は友達というものが嫌いかい?』

 

 

 

 

 

肩を叩かれて振り返るとさっきの胡散臭そうな院長。

迷いもなく頷くと寂しそうな目でフッと笑われた。

 

 

 

 

 

『じゃあ賭けでもしようか。』

『賭け?』

『君はあの子を君の世界へ連れて帰る。あの子は虐めでああなっちゃってね。君の世界へ行ったらたぶん帰ろうとは思わないだろう。』

 

 

 

 

 

何が言いたいのかわからず俺はこの院長を見上げながら警戒な顔つきをしていた。

気にする事なく院長の話は続く。

 

 

 

 

 

『そんなあの子をあそこで泣いている女の子が君の世界へ行き、ちゃんと連れて帰れるか。それが賭け。』

『―――・・なるほど。あの子らの友情を賭けの対象にするってことね。』

『その通り。無理だったら君の勝ち。連れて帰れたら僕の勝ち。どう?』

『・・・・別にやってもいいよ。面白そうだし。』

『ありがとう。じゃあ交渉成立だね。』

 

 

 

 

 

負けるなんてこと。考えてもみなかった。

だって俺は信じてなかったから。

友情なんて、友達なんて。

結局人はひとりだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああそれとね。ここでの君の世界は本の世界。漫画の世界だよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

付け足したように言った院長の台詞に俺は鈍器で殴られたような感覚に襲われた。

 

 

 

 

 

(まじかよ・・・。)

 

 

 

 

 

俺は誰かによって作られた人間。

友情や恋や何だって全て誰かによって自由自在に変えることができるんだ。

ホラ、くだらないだろ。

信じる信じない。

裏切る裏切らない。

こんなにくだらなくて滑稽なものは他にない。

 

 

 

 

 

人生の絶望すら感じた14歳、渡瀬龍。

世界は広く、未知の物。

しかしそれはあまりにも残酷で希望も何もない真っ暗な世界だということをこの時知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――・・龍ちゃん。」

「どう?これがお前らの知りたがった事実だぜ。そして情報源はまさしくの世界の院長から。」

 

 

 

 

 

いち早く漫画の世界の内容を教えて貰ってるんだ俺。

と言った渡瀬龍の姿をマジマジ見つめる

周りのみんなは、自分達が漫画の世界だということを知ってそれぞれ唖然とする者、ただ黙って腕を組んでいる者、困惑の表情を見せる者、それはもう様々な反応だった。

おかしくはない。

それが普通なのだ。

自分達の今までの人生、これからの人生すべてを否定された気分なのだから。

 

 

 

 

 

「聞きたがったのはお前ら。な?だから聞かない方がよかったろ?」

 

 

 

 

 

誰に向けるわけでもない台詞。

だけど渡瀬龍の視線は口をつぐんで黙りこくっている幸村に向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はそうは思いませんけどね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如聞こえたこの場にあってはいけない声を聞いてばっと顔を上げると、そこにはさっき立海へ向かったはずの日吉が腕を組んでドアにもたれかかって立っていた。

 

 

 

 

 

「ひ、日吉!何してんの!?」

「途中で真田さん達に会ったんで杏璃先輩任せてこっちにきました。」

「はあ!?勝手に何してんだ君は!予定と違う!

「俺、基本的に命令されるの好まないタイプなんで。」

「んなこと聞いてないわ!」

 

 

 

 

 

さも当たり前のようにズカズカと部屋の中へと入って来た日吉は月の光がさす、少し低めの窓辺に軽く腰掛けた。

 

 

 

 

 

「杏璃先輩からこの話を聞いたとき、むしろ俺は可能性を感じましたよ。」

 

 

 

 

 

そう、絶望的だったマイナスがプラスになりうることだって有り得るのだと。

努力をして、報われることだってあるのだと。

だから何も怖くはなかった。

不満すら感じなかった。

限界がない。

故に今まで以上に、もっともっと頑張って、死ぬ気で頑張れば。

 

 

 

 

 

(いつか貴方を倒せますよね。部長。)

 

 

 

 

 

月の光に照らされる日吉の眼はあまりにも真っ直ぐで。

ここにいるみんなも言葉を失った。

どうとるかはそれぞれの自由。

マイナスでとるかプラスでとるか。

 

 

 

 

 

(そんなの、決まってんじゃん。)

 

 

 

 

 

丸井が唇を噛んで俯いたその時。

ずっと黙ったままだった仁王が口を開いた。

 

 

 

 

 

「お前さんは?を目の前にして何かないんか?」

「・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

小百合の肩を叩いて顔を覗き込む。

以前の凛とした力強い表情はなく、目をあちらこちらに泳がせて困惑の色を見せている。

何か言いたい。

だけど何を?

今になって自分はあの子に何を伝えたいのだろう。

ここにきて、自分が何の考えも無しにやってきたことに気がついた。

 

 

 

 

 

(・・・・やっぱり私は他力本願なんだね。)

 

 

 

 

 

自分じゃ何もできない。

自分の気持ちを言葉にすることすらできない。

連れて来られるがままに仁王についてきた。

自分の意志も何もなく。

ただ他人に任せてやってきたのだ。

 

 

 

 

 

「私、待ちくたびれちゃったんだ。小百合ちゃん。」

 

 

 

 

 

顔を上げる。

自分に背を向けたまま話す彼女の背中はあまりにも小さくて。

立っているのもやっとなんじゃないかってくらい震えていて、弱々しかった。

いつも強い、眩しいと感じていたこの背中も、ただ一人の女の子の背中として目に映る。

ああ、自分は何を勘違いしていたんだろうと。

彼女は強い。

けど決してその強さは無限ではないのだ。

限界だって、誰にでもある。

 

 

 

 

 

「いい加減、待つのに疲れちゃったんだ・・・私。」

 

 

 

 

 

振り返る。

その眼はしっかり自分を捕らえていて揺るぎない。

自然と背筋に力が入って息を呑む。

何度この眼に憧れてきたのだろう。

真っ直ぐと目を見て話せる強さ。

逸らすことを許さないこの大きな眼を。

 

 

 

 

 

「だから・・・だから私、迎えに来たよ。」

 

 

 

 

 

この差し出された手を一度、振り払ったことがある。

そうだ。

ここに来る前、差し出されたその手を拒絶した。

そして全てを投げ出して自ら屋上から飛び降りたんだ。

 

 

 

 

 

「帰るよ。小百合ちゃん。」

 

 

 

 

 

なのにどうして?

どうしてまたその手を差し出すの?

まだ、微笑みかけてくれるの?

 

 

 

 

 

「ええ友達持ったの。アンタ。」

「・・・・・。」

「・・・俺も、もっと早くに欲しかった。」

 

 

 

 

 

仁王に背中を押され、少し前へと歩み出る。

その時に見えた柔らかな仁王の笑みは、どこか羨ましそうで。

物悲しそうにゆらゆらと儚く揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと、欲しかった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか。だからか。

やっと手に入れた心から好きだと言える相手も。

彼にとっては永遠ではない。

彼とあの子は住む世界が違うから。

あの子は、ここには残らない。

 

 

 

 

 

(だとしたらどんなに贅沢なんだろう、私は。)

 

 

 

 

 

側にいるのにわざとその手を取らない。

拒み続けて首を縦に振らない。

何をそんなに怖がっているんだろう。

怖がることなんて、もう何もないはずなのに。

 

 

 

 

 

「・・・・いつまでも逃げないで!ちゃんと私がいるから!」

 

 

 

 

 

空を舞っていた私の手が無理矢理握られる。

怖いの、怖い。

裏切られてひとりになるのが怖い。

一度知ってしまった温かさゆえに、どん底へ落ちることが怖くて動けない。

最後の望みまで失ってしまう日がくるんじゃないかって。

そんなことを考えてしまう。

 

 

 

 

 

「・・・嫌。ここにいる。」

「小百合ちゃん!」

「勝手に、頼んでもないのに迎えになんて来ないでよ!!」

 

 

 

 

 

握られた手を振り払う。

思いとは裏腹な台詞。

弱いくせに強がりだから。

弱いくせにプライドが高いから。

 

 

 

 

 

「いい加減甘ったれんなよ!!」

 

 

 

 

 

振り下ろされた手が頬を殴る。

その痛みさえも今は心地よくて。

自然と涙が頬を伝った。

 

 

 

 

 

「小百合ちゃんが・・・小百合ちゃんがここに残ったら。だったら、一年以上待った私は何なの!?」

「・・・・・・・。」

「私がずっとアホみたいにただ待ってただけだと思ってんの!?そんな訳ないでしょ!?」

 

 

 

 

 

くしゃくしゃに顔を歪めて叫び続ける。

今まで堪えてきた糸が一気に切れたみたいに。

 

 

 

 

 

「ずっとずっと不安だった!私だって信じられなくなった時だってあった!」

「・・・・ッ。」

「それでもここに、ここに来たのは・・・私にとって最後の賭けだった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連れて帰れなかったらもう・・―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから怖かった、不安だった。もし連れて帰れなかったらって!」

 

 

 

 

 

もう、本当に駄目なんじゃないかって。

不安で。

怖くて。

寂しくて。

悲しくて。

残された私はただ虚しくて。

 

 

 

 

 

「・・・お願いだよ帰・・ろ・・?」

 

 

 

 

 

大切な人にそれこそ本当に裏切られた気分で。

 

 

 

 

 

「・・・・ごめんなさい。」

「・・・小百合ちゃん?」

「・・わ・・たし・帰りた・・・ごめんな・さ・・・」

 

 

 

 

 

言葉にしたらスッと体が楽になって、その場に力無く座り込んで泣きじゃくった。

寂しいの寂しいの。

私は寂しくて死んでしまいそうなんだ。

あのね、ちゃん。

貴女は唯一の私の支えだった。

大切で、宝物で。

失いたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・帰る・・私・・・帰りたい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っつーことで賭けは俺の負け。」

「・・・だとしたらどうなるんですか?」

 

 

 

 

 

柳生が下がってきていた眼鏡のフレームを上げる。

肩を竦めた渡瀬龍は口元に笑みを浮かべてを見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰してやるよ。元の世界に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

お久ぶりの更新です。

話がほぼ会長・・・・・・・・・・・。

 

お前最高だよ!!って人はをクリックだ!!

 

2007.06.04