29話 曖昧だけど告白ラッシュ。

 

 

 

 

 

 

「ね?氷帝に転校しておいでよ!」

「え?」

「立海なんかよりきっといいよ!それに私ちゃんが同じ学校なら嬉しいもん!」

 

 

 

 

 

ニッコリ微笑む彼女はあまりにも卑怯で残酷な言葉を吐いた。

殴られたように頭が痛い。

 

 

 

 

 

「・・・私部屋戻るね。」

「え?ちゃん?」

 

 

 

 

 

私は立ち上がると跡部と杏璃ちゃんをその場に残して立ち去った。

 

「転校しておいでよ。」

 

今の状況から逃げたくない私に逃げろという台詞。

たぶん私のためを思って言ってくれたんだろうけど。

何でかな、杏璃ちゃんがその台詞を言うことがとっても腹立たしかった。

「アンタがそんなこというの?」と思わず言ってしまいそうなほど。

裏切られた気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と書かれた病室のドアを開ける。

中にいるはずのない人影が目に入った。

 

 

 

 

 

「おかえり。」

「何で仁王君がりんご食べてんの?それ私のりんごだよ。」

を待ってたらちょっと腹減ったんじゃ。ありがとさん。」

「いや、お礼言われても困るから。」

 

 

 

 

 

客人用の簡易椅子に足を組んで座りながら私が跡部の部屋から盗んできたりんごを勝手に切ってはおいしそうに食べていた。

仁王・・・学校はどうしたんだろう?

休んだのかな?

でも制服は着てるし・・・。

 

 

 

 

 

「はい最後の一個。あーん。」

「・・・あーん。」

 

 

 

 

 

爪楊枝に刺されたいびつな形のりんごを差し出す。

私は口を開けてりんごに近づいた。

 

 

 

 

 

「って早くしてよ!」

「いや、あまりにも間抜け面だったからつい。」

 

 

 

 

 

仁王は笑うとりんごを口に入れてくれた。

しゃくしゃくとりんごの甘酸っぱい味が口の中に広がる。

うーんデリシャス。

 

 

 

 

 

「おいし?」

「マジ美味い。さすが跡部君ん家のりんごだね。」

「・・・跡部?」

 

 

 

 

 

跡部が入院しているなんて知らない仁王は何故そこで跡部が出てくるのかと言いたげに首を傾げた。

 

 

 

 

 

「一つ上の階に氷帝の跡部君が入院してるんだよ。」

「へえー跡部がのぅ。知り合いなんか?」

「うん!無理矢理友達になってもらった!

「・・・跡部も大変じゃの。」

 

 

 

 

 

私が笑ってブイサインをキメると仁王は憐れみの眼差しを私に向けた。

何か酷くない?

 

 

 

 

 

「仁王君何しに来たの?」

「お見舞い。」

「それは有り難いけど学校は?」

「サボった。初めは行く気満々やったんじゃが・・・途中で面倒になってやめた。」

「本当君って自分に正直に生きてるんだね。」

 

 

 

 

 

面倒になったから学校行かないって私が現実の世界でそんなことしたら絶対お母さんに張り倒されるよ!

そんで「ふざけんな!」っつって殴りながら蹴られるに違いない!

仁王はりんごの皮をビニール袋に入れてごみ箱に捨てるとタオルを鞄から取り出して手を拭いた。

 

 

 

 

 

「明日退院じゃの。」

「うん!早く学校行きたくて行きたくて明日が待ち遠しいよ!」

「・・・そうか。は本当元気やの。」

 

 

 

 

 

まるでしょうがない奴とでも言いたげに苦笑いを浮かべる。

なーんか今日の仁王元気ないな・・・

どうしたんだろ。

あんまり元気すぎても逆に引くけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしがおらんくなったら俺学校つまらんかも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベットに頬杖をついて窓の向こうに広がる青い空に目を遣る仁王。

私がいなくなったら・・・?

 

 

 

 

 

「何言ってんの?」

「別に・・・。」

「私一人がいなくても学校つまんなくなんてなんないよ。どれだけ私にパワーがあるんだって話じゃん。

「あるとよ。現に今学校ちょっとつまらん。」

「・・・嬉しいけどかなーり複雑な気分。」

 

 

 

 

 

私は少し窓を開けて外の風を辛気臭い病室に取り入れた。

カーテンが風に靡きながら揺れる。

見かけこそは無表情に近いけれど仁王は何をそんなに不安そうな顔をしているのか。

目の奥の視点が合っていない。

 

 

 

 

 

「っつか明日から行くんだから私いなくなんてなんないよ!」

「・・・ああ。」

「何を心配してんのか知らないけど大丈夫だって!明日からちゃんと復活するから!ね!?」

「・・・・・・・・。」

「いやーそれにしても仁王君がそんなにも私を想ってくれてるなんて私照れるな〜!

うんうん。そんなに私を好きだったなんて出会った頃を考えると予想もつかな「好いとうよ?」

 

 

 

 

 

さっきまで虚ろだった仁王がじっと私の目を見て薄く口を開けて呟く。

思わず私は頭を掻いていた手を止める。

場の雰囲気を明るくしようと言った台詞に仁王が真剣に返してくるとは思わなかった。

予想外だ。

いや、本当に。

え、これアメリカンジョークだよね?

それとも新たなジャパニーズジョーク?

 

 

 

 

 

「好きじゃけん。何処にも行くな。」

「は!?」

「お前がいなくなったら皆が悲しむ。」

 

 

 

 

 

手を掴まれて真っ直ぐ目を見据えてくる。

・・・・・何?

仁王はもっと違うところから会話をしている。

明日学校へ行く行かないなどの目先の話をしてるんじゃなくてもっと大きな、もっと先の話をしている気がした。

 

 

 

 

 

コンコン。

 

 

 

 

 

病室のドアが鳴ってドアが開く。

 

 

 

 

 

ちゃん回診の時間だよ。」

「あ、は・・―――!?」

「友達かい?悪いけど回診の時間だから外へ出てもらってもいいかな?」

 

 

 

 

 

仁王は黙って席を立つ。

私が驚くのはそこじゃない。

だってこの人・・―――!

 

 

 

 

 

「じゃあ、また明日な。」

「う、うん!また明日!」

 

 

 

 

 

仁王が出て行って扉が閉まる。

病室が一気に気まずい雰囲気に変わる。

先生だろう彼はカルテをベットの上に置いて微笑んだ。

 

 

 

 

 

「お久しぶりですさん。」

「アンタは悪の組織の!どうして病院に!?」

「悪の組織とは何ですか?私はここの院長を務めている者です。」

「・・・ここの病院も世も末だね。」

 

 

 

 

 

この間とは違って真っ白な白衣を身に纏った悪の組織はどっちかって言うとこっちの方が板についていた。

この前初めて会った時と変わらず嫌な笑顔。

あー私ここに入院してんの不安になってきた。

 

 

 

 

 

「一体何しに来たんですかー!?」

「回診だと言ったでしょう。」

「なーんか胡散臭いんですよー。」

「これでもこの病院の院長なんですけどね。しかし貴女の言う通り今回は回診と言うのを口実に貴女に今後の選択を尋ねに来ました。」

「・・・・・今後の選択?」

 

 

 

 

 

目の前の男は頷くと、どこかで見たような笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーとべっ!」

 

 

 

 

 

もうそろそろ再放送を見にが来てもいい頃だ。

だけどドアが開いて聞こえてきたのはいつもよくウザイってほど聞いていた男の声だった。

 

 

 

 

 

「・・・ジローか。」

「あれ?不満?」

「不満だらけだ。」

「えーせっかく無理矢理日吉引っ張って来たのにー。」

 

 

 

 

 

ジローの後ろからひょっこり現れる日吉。

ものすごく不機嫌だ。

そんなに俺様の見舞いが嫌なのかコイツは。

 

 

 

 

 

「元気そうですね。」

「まあな。さっきリハビリしてきたところだ。」

「もうほぼ回復してるんだ。ヨカッタ!あ、今日はちゃんいないの!?」

「・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

はまだ来ない。

見たいテレビがあれば10分前からソファーに座って待ってるが今日は何故か一分前になっても来なかった。

寝てんのか?

 

 

 

 

 

「跡部さん。そのさんって人と杏璃先輩に何かあったんですか?」

「何でそう思う?」

「さっき電話で杏璃ちゃんに聞いたから。でも詳しくは教えてくんなくて・・・ただちゃんの名前言って黙り込んじゃったんだよねー。」

 

 

 

 

 

と杏璃。

昼に杏璃が言った台詞にが顔を歪め俺達の前から立ち去った。

確かに杏璃の言った台詞はにとっちゃ腹が立つだろうし、怒る気持ちもわからなくはねえ。

だけど何だ?

アイツは、はこれ以上ないってくらいに杏璃の逃げ腰な態度にショックを受けていた。

 

 

 

 

 

「跡部くーん!!!再放送始まった!!?」

 

 

 

 

 

勢いよくドアが開く。

チッ、来やがった。

はずかずか部屋の奥へと入っていつもの特等席にどかっと腰を下ろした。

 

 

 

 

 

「遅かったじゃねえか。」

「うん、ちょっとボーっとしてたら意識がお散歩に行っちゃってなかなか帰ってこなかったんだ。」

「あーそれわかる。俺もよくなる!」

「芥川さんの場合いつもですもんね。」

 

 

 

 

 

バッ、と音がしそうなくらいテレビに向いていた首を勢いよく捻る。

はマジマジと日吉に視線を向けた。

 

 

 

 

 

「君ッ・・――――!!」

「日吉です。」

 

 

 

 

 

日吉を指差して体を乗り出す

日吉はいつもの無愛想に拍車をかけたようにじっとに視線を送りながら言った。

どっちもどっちで失礼な奴らだな。

 

 

 

 

 

「初めまして私!えっと、大好きです!!

 

 

 

 

 

そして何故かは初対面の日吉に大胆にも告白をかました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

管理人の趣味なんじゃないかという質問はお断りです。

こっそり心の中で「アイツの趣味か!!」と叫ぶのはOKです。

 

お前最高だよ!!って人はをクリックだ!!

 

2007.03.27