24話 知らない人にはついて行っちゃダメでしょ!?

 

 

 

 

 

 

「犬飼さん♪」

 

 

 

 

 

陽気なトーンで発せられた私の名前。

振り返るとそこには二人の男子生徒が立っていた。

 

 

 

 

 

「何か用?」

 

 

 

 

 

一人の男はポケットに手を突っ込んだまま私の方を見てニッコリと爽やかに嫌な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「ちょーっと話があるんだよね。だから俺と一緒に話さない?」

「・・・気が向かない。」

「そんなこと言わずにさっ!お願いだよー。」

 

 

 

 

 

顔の前で手を合わせて懇願する男。

もう一人の男は私のことをじっと見つめて何も言わない。

 

 

 

 

 

「一体何なの?生徒会長にジャッカル桑原君?」

 

 

 

 

 

私がドスの効いた低い声を発すると生徒会長の男はさらに満面の笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

 

のことについて話したいんだよ君と。君が黒幕だってのはわかってるんだからね。犬飼さん?」

 

 

 

 

 

そう言って目を細めて笑う生徒会長に少なからず身が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃん待ちなさい!!」

「ごめんなさい看護婦さん待てませんー!!」

 

 

 

 

 

さっきから続いている看護婦さんとの追い掛けっこ。

 

ちなみにもう松葉杖持ったまま走ってます

 

痛いけど早く逃げ切らなきゃ再放送が始まっちゃう!!

テレビを見るために跡部の部屋へ行こうとしたところ、運悪く看護婦さんに見つかった。

看護婦さんいわく必要時以外私は外室禁止ならしい。

何でだよ!!

 

 

 

 

 

「こら、病院内走んなよ。」

「!!」

 

 

 

 

 

曲がり角を曲がった瞬間視界が暗くなり、数人の人間に囲まれた。

な、何事!?

 

 

 

 

 

「あら?どこに行ったのかしら・・・。ふう、見失っちゃった。」

 

 

 

 

 

溜め息を吐く看護婦さんの遠ざかっていく足音が響く。

私ここにいるんだけどな・・・。

ってか私を囲む君達は誰だ?

一応楯になってくれて助かったけど一体何なんだ?

どんな奴らか見てやろうと顔を上げると私は絶句した。

 

 

 

 

 

「よし、看護婦さん行ったな。よかったやん。逃げとったんやろ?」

「・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

こ、このお方はッ・・・!!

っていうか・・・え!?

何で何で!?

 

 

 

 

 

「何やねん。助けたってんぞ。お礼くらい言われへんの?」

「あああああありがとう!!」

「何や・・・元気やな。」

 

 

 

 

 

吃る私に苦笑いを浮かべる関西弁眼鏡。

ってか忍足侑士!?

うーわー!

跡部のお見舞いかな!?

跡部のお見舞いだよね!?

 

 

 

 

 

「何知らない女に絡んでんだよ。バカ侑士。」

「バカ言うな。そうゆう自分もちゃんとこの子匿ってたやん。」

「そ、それは咄嗟にと言うか何と言うか・・・無意識にだよ!!」

「何や岳人顔真っ赤やでー?照れてるんか?可愛いなー。」

「〜〜〜〜〜〜コロス!!

 

 

 

 

 

ガックンは顔を真っ赤にして忍足を恨めしげに睨み上げた。

ちょっとちょっとちょっとガックンだよガックン!!

生ガックン!!

やっぱり彼はウブだね〜。

何とか興奮も心の中だけに抑えることが出来た私はそんな二人をほほえましく見つめていた。

そこで背後にまだ人の気配があることに気付き振り返る。

・・・・ッ!!

 

 

 

 

 

「あ、すみません。忍足先輩と向日先輩が・・・えっと、気分悪くしてませんか?」

「・・・・ぐーがー。」

 

 

 

 

 

そこには申し訳なさそうな表情のチョタとチョタに背負われたジロちゃんが立っていた。

ちょ、天使だ!!

ここに天使がいるよ!!

天使が眠りについていらっしゃる!!

ヨダレ垂らしてるけど・・・。

 

 

 

 

 

「全ッ然平気です!私元気です!!

「は?あ、そ、そうですか・・・。」

 

 

 

 

 

私はブンブンと首を左右に振った。

少し話の噛み合わない私の返答にチョタが思わず間抜けな声を出す。

やべ。

しくった。

ここはか弱くいくところだったか・・・?

 

 

 

 

 

「あ、宍戸!跡部の病室わかったんか?」

 

 

 

 

 

忍足が向こうの方を見ながら彼にしては少し大き目な声を出す。

忍足の視線の先を辿るとポケットに手を突っ込みながらこちらに向かって歩いて来ている宍戸がいた。

どうやら受付に跡部の病室を聞きに行っていたようだ。

 

 

 

 

 

「・・・ったく、病室知ってるジローが寝ちまったおかげでこっちは二度手間だぜ。で、跡部の病室は最上階だとよ。」

「へえーやっぱり病院でも扱いはVIPなんですねー。さすが跡部さん。」

「何感心してんだバカ・・・・ってああ!!

 

 

 

 

 

宍戸は目を見開いて私のことを指差す。

 

人を指差しちゃいけません。

あと病院では静かにしましょう。(←お前が言うな。)

 

何さ何さ?

私何かした?

忍足やガックン、チョタは何だと言いたげな表情で私と宍戸を交互に見遣った。

 

 

 

 

 

「お前あの時の!何でここにいんだよ!?」

「・・・あ、そっか。君とは一度会ってたんだっけ?」

「何や。宍戸の知り合いかいな。」

「えー知り合いっていうかただスーパ「あーあーあーあー!!」

 

 

 

 

 

宍戸は叫びながら私の服の襟を掴んで少し離れた場所へと拉致る。

な、何なのさ。

宍戸はかなり焦っているご様子。

しかもちょっと顔怖・・・。

 

 

 

 

 

「言うな!」

「え?」

「言うなよ絶対!!」

「な、何で・・・?」

「言ったらアイツらにからかわれるのがオチだからだ!」

 

 

 

 

 

宍戸は必死だった。

・・・・・・・プッ。

笑える。

 

 

 

 

 

「え〜スーパーぐらい言ったっていいじゃ「ダメだ!」

「・・・ケチー。」

「いいか!絶対言うなよ!言ったらお前の存在を即消してやる!!

「た、大層だねえ・・・。」

 

 

 

 

 

鬼のような宍戸の形相に少し体をのけ反らせた。

私は宍戸の勢いに負けた。

とにかく必死なんだけど・・・必死すぎて宍戸本来のキャラじゃないというか何と言うか・・・。

 

 

 

 

 

「で、何お前ら二人だけで秘密会議してんだよ!」

「そうですよー。宍戸さん早く行きましょう!」

「あ、ああ、悪い。」

 

 

 

 

 

私から離れて氷帝レギュラー陣の輪に戻っていく宍戸。

何この豹変ぶり・・・。

別にいいけどちょっとだけ悲しくなるよ宍戸君。

あ、そういえばみんな跡部の病室行くんだよね?

私はいいことを思い付いて宍戸のあとをついて戻った。

 

 

 

 

 

「ねーねー宍戸君!」

「ああ?」

「跡部君の病室まで連れて行ってあげようか?私もちょうど行くところだったし・・・。」

「ほんまに?そりゃ助かるわ。ほなお言葉に甘えよか。」

 

 

 

 

 

宍戸に話し掛けたのに何故か忍足から返事が返ってきた。

かなり乗り気のようだ。

だけど宍戸は何か腑に落ちない表情で私を見つめた。

 

 

 

 

 

「連れて行ってほしいのは山々だけどよ・・・お前怪我人じゃん。大丈夫なのか?」

「うん全然平気!だってさっきまで松葉杖無しで走ってたし・・・。」

もうそれって退院してもいいんじゃねえのか?ってかお前何しに跡部の病室行くわけ?」

 

 

 

 

 

疑いの目を向けてくるガックン。

あらやだ。

あと5分で再放送が始まっちゃう。

 

 

 

 

 

「テレビ見せてもらう約束してるの!私の部屋テレビ故障中だから。」

「テレビ・・・ですか?」

「嘘だろ!?そんなの跡部が許可するかよ!」

 

 

 

 

 

チョタとガックンは驚いてるご様子。

何だよー。

嘘じゃないもん。

クソクソ、ガックンめ。

信じないんだったらその前髪U字にしちゃうからな!

滑らかにしちゃうからな!

だけど私は気にする事なく松葉杖をついて跡部の病室に行くことにした。

 

 

 

 

 

「さあさあ再放送までもう時間がないんだ!さっさと行こうじゃないか!」

「はあ!?マジで言ってんのかよ!?」

「まあまあええやん岳人。これがほんまやったら跡部からかうええネタや。おもろいやん。」

「・・・う゛、まあそうだけど・・・。」

 

 

 

 

 

忍足のフォローに押し黙るガックン。

 

ああ、宍戸の気持ちがちょっとだけ理解できた気がする。

 

こうやって宍戸はネタにされてからかわれてきたんだ。

犯人は忍足だったんだね。

そしてこれから跡部はからかいの対象となるんだね。

可哀相に・・・。

 

こうして私と氷帝レギュラー陣は跡部の病室がある最上階へと行くため、閉まりかけだったエレベーターに飛び乗ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『犬飼小百合』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の名前。

だけどみんな私のことを苗字で呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『犬飼さんって近づきにくい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理由を聞けば帰ってくる答えは全てこれ。

生れつき持つ独特な雰囲気だけで引かれる境界線に私はいつの頃からか嫌気がさしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うっわー小百合ちゃんって美人さんだねー。モデルとかできそう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰?

私の名前を呼ぶ貴女は誰?

何か・・・とても大切な人だった気がする。

私はこの子の持つ温かな笑顔が大好きだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『友達は一生の宝物だよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつだったか、あの子とあの子の友達に言った。

これはあの時、嘘偽りなく本当に心から思ったことだった。

私はあの子とあの子の友達と一生友達でいたいと心から思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『友達だったら最後まで信じてあげなよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この言葉は私があの子に伝えた言葉。

あの子があの子の友達と喧嘩した時に伝えた言葉。

小さなすれ違いに二人は大喧嘩してかなり険悪ムードばりばりだった。

そしてあの子は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうピィ―――ちゃんなんて大嫌い!友達やめる!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめて。

そんなこと言わないで。

貴女が友達をやめたら私達はもう友達じゃなくなっちゃうの?

やだよ。

嫌。

一刻も早く仲直りしてほしくて、私はあの子と初めての約束を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『逃げ出さないで。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友達をやめることは逃げ出すことと同じ。

私達は一生の友達でいたいから。

だから逃げ出さずにどんな小さな石ころにだってぶつかっていってほしかった。

あの子は素直でいい子だから『わかった!』と笑って指切りまでしてくれた。

 

 

 

 

 

だけどごめんなさい。

守れなかったのは私の方。

私の容姿を嫉んだ人達から日々受ける虐め。

言えなかった。

あの子にもあの子の友達にも。

隠して隠して隠して。

最後は意識を失って気がつけばこの世界に私はいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『犬飼さんって綺麗だよね!モデルみたい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子と同じことを言ってくれるこの世界の人達。

だけど消えない境界線。

時間が経つに連れ忘れ去られていく記憶。

今となってはあの子の顔も名前も思い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『幸せに生きてもいいのかな・・・?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界で私は幸せになってもいいのかな?

虐めなんて受けなくていい。

誰にも負けない強さを手にして、友達は利用するための道具としてだけ見て、私はこの世界で幸せに生きてもいいのかな?

誰にも邪魔させない。

今度こそ私はこの世界で幸せに生きるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・どちらさん?」

「この子が新しいマネージャー?」

「うん、そう。 っていうから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

、あの子のことも全部忘れて・・――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

氷帝レギュラーに何故か樺地がいない!!

樺地は部活が終わってからいつも跡部がやってるお仕事を変わりにしているらしく、

みんなと一緒には来てません。

面会終了時間らへんにひょっこり現れて今日一日の報告をしにやってくる樺地なのでしたー。

 

お前最高だよ!!って人はをクリックだ!!

 

2007.03.14