23話 暇な時は些細なことでも楽しく感じるって知ってた!!?

 

 

 

 

 

 

「だああああああ!!」

 

 

 

 

 

ここは東京の大きな病院の部屋の一角。

迷惑極まりない私の叫びが病院内に響いた。

 

 

 

 

 

「ウム。これは仕方がない。誰かの部屋でテレビ借りよっと。」

 

 

 

 

 

私の個室には『故障中』と書かれた紙が貼られたテレビが一台。

あとは何もない寂しい部屋だ。

私は寝にくいベットから飛び降りて松葉杖を手に取る。

体中の打撲がまだ痛いけど一日で元気になった私は自分でもすごいと思う。

 

 

 

 

 

「うひょー!跡部って跡部ってあの跡部かな!?んな訳ないよね〜。あの跡部が入院なんて・・・え、するのかな!?

 

 

 

 

 

一つ上の階で『跡部景吾』と書かれた部屋を見つけた。

跡部景吾なんて名前この世界じゃたぶん二人としていないんじゃないかなー。

えーでも氷帝のあの跡部が入院なんてする?

あの跡部だよ?

私は跡部景吾の病室の前で立ち止まり、扉をじっと見つめた。

 

 

 

 

 

「とりあえず覗き見ちゃえ!失礼しまー・・・「テメェ何してんだ?」

「ギャアッ!」

 

 

 

 

 

振り返るとそこには不審者を見る目で私を見てるあの跡部景吾様が立っておられました。

ま、マジで入院してたんだ・・・。

 

 

 

 

 

「人の病室覗きやがって何の用だ。」

 

 

 

 

 

跡部は眉を寄せて睨んだ。

私の心臓はもうバックバク!

だってだってだってあの跡部だよ!?

しかも入院してんだよ!?

 

何この奇跡的な出会いは!!

 

何か険悪ムードだけど・・・。

 

 

 

 

 

「あああああ跡部さん!?跡部さんですか!?」

「だったら何だ。オラそこ退け。とっとと自分の病室帰りな。」

「それはできません。」

「は?」

 

 

 

 

 

ドアに手をかけた跡部は間抜けな声を出す。

思い出せ。

私は何しにここへ来た?

跡部と出会うためじゃない。

暇で暇で仕方ないこの入院生活を乗り切る必須アイテム、テレビを見るためだったはずだ!

 

 

 

 

 

「テレビだけ!テレビだけ見せて下さい!お願いします!!」

「な、テレビだと?」

「私の部屋のテレビ故障中で見れないんです!だけどテレビないと暇で暇で暇で暇で死にそうなんです!!助けて下さい!!!」

 

 

 

 

 

ちょっと引き気味の跡部の服の裾を掴む。

だけど私は必死だ。

だってあの部屋で私一人テレビなしでどう過ごせと言うんだ。

婦長さんは鬼だ。

 

 

 

 

 

「それなら待合室に行けばでかいのがあんだろうが。」

「あそこ2チャンしか映してくれないんです!!やっぱりお年寄り優先でしょ!?私がみたいのは2チャンじゃないんですよ!!」

「あっそ。」

 

 

 

 

 

跡部は気にする事なく部屋に入ろうとした。

 

ちょ、冷たい人だな!

もっと隠れた優しさとかある人だと思ってたよ!!

ってか今更だけど何で跡部は入院してんのかな!?

キャラじゃなくない!?

 

私は負けじと病室に入ろうとする跡部の腕を掴んだ。

 

 

 

 

 

「ちょ、お願い!お願いだから!静かにするから!!テレビだけ見せてお願い!」

「黙れ。迷惑だ。」

「お願いお願いお願いお願い!!」

「うっせーな!・・・ったく、絶対静かに見ろよ。」

 

 

 

 

 

私のあまりの煩さに負けたのか、何か微妙にあっさりとOKしてくれた跡部。

かなりウザそうな表情だけどまあいいや。

テレビ見れるんだし。

うん。

やっぱり金持ちは心の広さが違うんだろうな。

 

 

 

 

 

「あ、跡部様!愛してる!!

「やっぱ帰れ。」

 

 

 

 

 

こうして私はテレビをゲットした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いた?」

「聞いた聞いた!あれでしょ?五組のが・・・。」

 

 

 

 

 

そこら中から聞こえてくるさんの名前。

昨日の出来事がもう学校中に広まっている。

それも捏造されて。

 

 

 

 

 

「えー何の話?」

「アンタ知らないの?の話だよ!」

「何か不良と関わっててそれで昨日病院送りにされたんだってー。」

「ま、マジで!?人は見かけに寄らないんだねえ。」

「最近調子乗ってたから潰されたんだって!怖いよね。」

 

 

 

 

 

何も知らない子達が作られた話を信じてまた広める。

きっとこの話を流したのは犬飼さんだ。

 

私は居心地が悪くなって教室を出た。

何か、皆に責められているような気がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そうか。」

 

 

 

 

 

部室へ行くとドアの向こうから幸村の声がして開けるのを躊躇った。

何の話をしているのだろうか。

私はそっとドアの向こうの会話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

は全治一ヶ月で三日間の入院。しかし精神の方はもう回復しとるらしく看護婦さんを困らせるくらいに元気ならしい。」

「それはよかった。ちゃんらしいね。」

「本当、一時はどうなることかと思いましたよ。」

 

 

 

 

 

ヒロシが溜め息を吐いたのが聞こえる。

中にいるのは幸村、ヒロシ、仁王?

 

 

 

 

 

「昨日結局雪菜先輩は何も話してくれなかったし・・・今学校中に広まってる噂も気になるっスね。」

「あれは嘘だな。証拠はないけど・・・。」

「ほう、幸村君はてっきりアンチさん派だと思ってましたが・・・違いましたか?」

 

 

 

 

 

赤也もいたんだ・・・。

みんながさんと私の話をしている。

やだ。

やめて。

やめて。

私はまだみんなに話す勇気がない。

 

 

 

 

 

「ふふ、違うよ。俺が本当にちゃんを嫌いならマネージャーに誘ったりなんかしない。自分に近づけさせもしないよ。

「・・・そ、それもそうっスね・・・。」

 

 

 

 

 

幸村は初めからさんを気に入っていた。

それは何となく気付いていた。

だから勧誘もしたし退部もさせなかった。

幸村だけじゃなく仁王もジャッカルもそう。

私の知らないところでさんの人柄に惹かれていた。

私じゃ開けなかった仁王の心を彼女は転校一日目にして簡単に開いちゃったんだ。

悔しかった。

今思い返しても悔しい。

彼女の人間性が妬ましい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした。入らないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に肩に手を置かれて体が飛び上がる。

振り返るとそこには真田が立っていた。

・・・ッしまった!

 

 

 

 

 

「入りなよ。雪菜。」

「!」

 

 

 

 

 

背後のドアが開いて幸村の声がする。

嘘!

気付かれてたの!?

私は驚きのあまり声が出なかった。

それでも何とか自分を取り乱さないためにギュッと手を握りしめた。

 

 

 

 

 

「大丈夫。俺達は怒ってないよ。」

「ブン太サンと柳先輩ももうすぐ来るそうっス!」

 

 

 

 

 

幸村は優しく微笑むと私をドアの中へと誘導する。

そして私の後ろに真田が続く。

部室の中から携帯を見ながら叫ぶ赤也の声がした。

 

やだ。

怖い。

怖い。

怖い。

中に入りたくない。

逃げ出したい。

 

私の足は自然とドアの前で止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『せっちゃん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭に響くのはさんの声。

ああ、彼女ならここで逃げ出したりしないのだろうな。

どんなことにも決して逃げ出さずに立ち向かっていく。

彼女のそんなところが妬ましい。

 

ううん。

違う。

羨ましいの。

自分もあんな風になりたかった。

自分をありのままに相手にぶつけて、それでみんなと笑い合いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『早く行って!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さん、貴女はあの時私を逃がしてくれたよね。

私が貴女に酷いことを言ったあとだっていうのに・・・。

そして私は逃げ出したよね。

自分が大切だったから。

今思えば貴女はとても強い人だと思う。

私と貴女の二人分の恐怖に立ち向かって行ったんだから。

私は貴女のそんなところをずっと妬ましいと思っていた。

でも本当は妬んじゃいけない。

貴女のその強さを尊敬しなきゃいけなかったんだ。

 

 

 

 

 

ごめんなさいさん。

私、貴女のその小さいけど立派な背中を見て自分の弱さを思い知らされた。

私も、貴女のように強くなりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、うるせーぞ。」

「あ、ごめんなさい。」

 

 

 

 

 

そう言ってテレビのリモコンを弄る女。

画面の音量表示のメーターが1下がった。

 

 

 

 

 

「テメェ1つ下げただけで静かになると思ってんのか?アーン?」

「だってこれ以上小さくしたら聞こえないよ!ってか今いいところなんだから喋りかけないで下さい!」

「・・・テメェ。」

 

 

 

 

 

何なんだこの女は!

 

今すぐ殴りたいがしょうがねえ。

俺が自分で許可しちまったんだ。

何でかってそりゃあんなところで大声で叫ばれたら焦るだろ。

ここは病院だぜ?

とりあえずテレビだけならと許可したが・・・普通に遠慮なく寛いでテレビを見るコイツは一体何なんだ?

少々気は散るが仕方がなく気にせず本を読むことにした。

 

 

 

 

 

「・・・・おい。」

「うるさいですよ。」

「ほう。」

「嘘です嘘ですごめんなさい。」

 

 

 

 

 

しかしやっぱり気になるから女に話しかけた。

持っていた本を投げようとすると女は慌て俺の方に向き直った。

変な奴・・・。

 

 

 

 

 

「お前いつから入院してんだ?」

「私?私は昨日の夜から。」

「理由は?」

「・・・・・・・・・跡部君は?跡部君は何で入院してんの?」

 

 

 

 

 

女は言いづらいのか、聞き返してくる。

体中に痣作ってんだもんな。

何かあるに違いねえ。

虐め・・・か?

 

 

 

 

 

「俺はちょっと人を庇ってな。自分が怪我しちまった。」

「ふーん。・・・ま、私もそんな感じかな!」

 

 

 

 

 

そう言って苦笑いを浮かべる女。

 

 

 

 

 

「誰か庇ったのかよ。」

「庇ったって言うか、私も庇った子も狙われてたんだけど・・・その子逃がすのに必死で自分だけがボコられたー。みたいな?アハハ。

「それは笑い事なのか?・・・ったく、そういえばお前どこの生徒だ?」

 

 

 

 

 

この辺りじゃ見かけない顔をしている。

年は俺と同じか・・・下だろう。

すると女は右手を上げて元気に言った。

 

 

 

 

 

「立海の三年生です!名前はと言います!」

「名前まで聞いてねえよ。」

「まあまあいいじゃないですか。で、跡部君は?(知ってるけど。)」

 

 

 

 

 

・・・ね。

立海生のくせにこんなところで入院してんのかよ。

どおりで見ないわけだな。

 

 

 

 

 

「跡部景吾。氷帝学園三年だ。」

 

 

 

 

 

はしばらく考える素振りをみせると、何かを思い出したように手を叩いた。

コロコロ表情の変わる奴だな。

ま、見てて飽きねえけど。

 

 

 

 

 

「あ、そうだ!杏璃ちゃんって知ってる!?つい最近友達になったの!」

「・・・杏璃?」

「うん!二日前くらいに偶然出会ってお友達になったんだ!知ってる!?」

「!、じゃあお前が杏璃を助けたっていう立海生か?」

 

 

 

 

 

昨日ジローから聞いた変わった奴。

は照れたように頭を掻いた。

 

 

 

 

 

「助けただなんてそんな大層な・・・。逃げただけだし。」

「お前よくそんな面倒事によく首を突っ込めるな。虐められている奴を見たら助けずにはいられないってか?」

 

 

 

 

 

俺は鼻で笑いながらテレビの前のソファーに座るを見下した。

だってそうだろ?

やけに正義感の強い奴がよくそういった行動を取るものだ。

 

 

 

 

 

「ううん。違うよ。だって・・・大切にしなきゃ。」

 

 

 

 

 

は一瞬だけ窓の外に視線を向け、切なそうに微笑んだ。

そして俺の方を向いて複雑な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友達は一生の宝物だから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言ったの表情は満足そうで、だけどどこか寂しそうだった。

この言葉・・・聞いたことがある。

ちょっと前に誰かが言ってたな。

その時も相手はこんな複雑な表情をしていたっけ?

 

 

 

 

 

「その言葉、杏璃も似たようなことを言ってたな。」

「へえ?」

「転校してきて間もない頃はよく友達がどうとか言ってた。何しろ大切な人からの受け売りなんだと。でも最近じゃそんなことも言える元気がないみたいだけどな。というよりは忘れてるみてえだな。」

 

 

 

 

 

俺が本を台の上に置くとは不思議そうに首を傾げてまた物思いに耽った顔をする。

 

 

 

 

 

「・・・杏璃ちゃんって転校生なの?」

「ああ、二ヶ月前ぐらいに転校してきた。マネージャーになったのは最近だけどな。つってももう一ヶ月か?」

 

 

 

 

 

何か思い出しそうなのか、はしかめっ面で向かいのソファーをじっと睨んだ。

何だ?

俺も腕を組み、を見つめてが言葉を発するのを待った。

 

 

 

 

 

「・・・・杏璃・・・杏璃ちゃんって来栖杏璃?」

 

 

 

 

 

目を見開き、ボソリと呟く。

まるで独り言のように。

 

 

 

 

 

「ああ。それがどうした?」

「・・・嘘・・・あれ?私・・・何か思い出せない。」

「・・・・?」

 

 

 

 

 

俺の問いにも答えず急に頭を抱え出す

さっきから流れっぱなしだったテレビからこの場に似合わない陽気な音楽が病室に響き渡った。

 

 

 

 

 

「ここに来てから記憶が薄れてる?・・・嘘でしょ!?

「どうした?おい。」

「跡部君ー。回診の時間よー。」

 

 

 

 

 

ガラガラとドアが開く。

そこから出てきたのは若い看護婦だった。

チッ、もうそんな時間か。

間抜け面で看護婦を見上げているを見て看護婦はニッコリ笑い、首を傾げた。

 

 

 

 

 

「あら、ちゃんじゃない。」

「あ、どうも。」

「どうもじゃないでしょう。今婦長さんが血相変えてちゃん捜してるわよ?」

「ええ!?マジですか!?」

 

 

 

 

 

困ったように話す看護婦。

は立ち上がり壁に立て掛けておいた松葉杖を手に取った。

が、一本地面に倒した。

よっぽど焦ってんなコイツ。

 

 

 

 

 

「早く戻りなさい。怒られるわよ?」

「はーい!じゃ、またね跡部君!またテレビ借りに来るよ!」

 

 

 

 

 

来んな。

 

そう言ってやろうかと思い口を開いたがやめた。

病室を出ていくを見て、少なからずコイツといた時間が楽しかったことに気付いた。

ま、病院は暇だからな。

テレビくらいなら見せてやっても構わない。

そう思った自分に笑ってやりたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

次は残りの氷帝レギュラーとのご対面・・・。

病院では静かにしましょうね。

 

お前最高だよ!!って人はをクリックだ!!

 

2007.03.12