22話 くっさい台詞。まさか自分で言うとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

さん。帰ろうか。」

 

 

 

 

 

せっちゃんが鞄を持って立っていた。

もう誰もいない部室。

よし、ビデオタイマーはしてきた。

今日は時間に急かされることはない!

思う存分せっちゃんと腹を割って話すぞ!

ということで、部室の戸締まりを終えると私達は校門を潜った。

 

 

 

 

 

「あのね、私さんに全て話そうと思うの。」

「え、何を?」

「今回のこと・・・。」

 

 

 

 

 

二人並んで歩く少し暗くなった帰路。

女の子と帰るのって久しぶりだなあ。

昔はよく仲良しだった子と三人で帰ってたっけ?

ってか今になったら誰かと帰ること自体久しぶりだな。

いつも一人だし・・・。

 

私ってつくづく寂しい子。

 

 

 

 

 

さんの煙草が鞄に入ってたの・・・あれ、私が入れたの。」

「ええ!?」

「私、さんに部活を辞めてほしかったの!」

 

 

 

 

 

急に声が大きくなるせっちゃん。

私は衝撃的な事実に驚きを隠せなかった。

まさかせっちゃんが・・・。

せっちゃんのせいで私は停学に?

ちょっと信じられない。

 

 

 

 

 

「私が・・・部活を・・・?」

 

 

 

 

 

せっちゃんはコクンと頷く。

 

 

 

 

 

「邪魔しないでほしかったの。私が必死に築いてきた友情を・・・さんが入ったことで潰されたくなかった。」

「・・・せっちゃん。」

「だから犬飼さんと協力して貴女を嵌めてた。最初の煙草の事件、あれも私が犬飼さんと手を組んでやったこと。」

 

 

 

 

 

せっちゃんが次々と衝撃的なカミングアウトをしていく。

私は一つ一つ明かされていく事実にただ驚くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

「い、犬飼さんって・・・誰?

「部室の掃除を一緒にしてた子だよ。」

 

 

 

 

 

あ、モデルちゃんかな?

犬飼って言うんだ。

へえ〜。

 

 

 

 

 

「だけど犬飼さんは貴女だけじゃなく私も邪魔なの。」

「・・・マネージャーだから?」

「そう。さんを退部させるのを協力するフリをして私も消そうとしてるの。だから犬飼さんは私に言ったわ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「近いうちお前ら二人を俺が病院送りにしてやるってな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とせっちゃんは人気のない路地を振り返る。

そこには今喋ったであろう男が立っていた。

目を凝らしてよく見てみるとその顔に私は見覚えがあった。

 

 

 

 

 

「お前が?」

 

 

 

 

 

ああ、あの廊下で目が合った人だ。

金髪で目がギロリとなってて腰パンでシャツもだらし無く飛び出してて・・・いかにも頭キちゃってますみたいな・・・。

不良少年はポケットに手を突っ込んでこっちを見ていた。

 

 

 

 

 

「んでそっちが無道雪菜ね。」

「あ、貴方まさか・・・!」

 

 

 

 

 

せっちゃんの体が、声が震えてる。

怖いんだ。

仕方ないよね。

私も正直怖い。

怖さと驚きで状況が飲み込めていない私。

一体何がどうなってこうなってんの?

せっちゃんとモデルちゃんがグルで私を嵌めてて、でもモデルちゃんはせっちゃんも邪魔で・・・だから不良少年に頼んで私とせっちゃんを病院送り?

 

 

 

 

 

「犬飼がちょっとお前らシメてって頼んできたからさ。おとなしくボコられとけよ。」

「なっ!」

 

 

 

 

 

ヤバイ。

ヤバイ。

ヤバイ。

 

ヤバイ。

 

コイツ本気だ!

目が違う!

人でも殺しちゃいそうな目をしてる。

こ、ここはせっちゃんだけでも逃がさなきゃっ・・―――!

 

 

 

 

 

「せっちゃん!先逃げて!」

「え!?」

「私コイツの相手しとくから誰か呼んできて!警察でもいい!」

「そ、そんな!」

 

 

 

 

 

戸惑うせっちゃんにニヤニヤ狂ったように笑みを浮かべてる不良少年。

もう!

迷ってないで早く行きなよ!

 

 

 

 

 

「お前何この女庇ってんだよ。お前嵌められてたんだぜ?」

「!」

 

 

 

 

 

不良少年の言葉にせっちゃんの肩が跳ね上がる。

 

 

 

 

 

「この女のせいでお前はこんな状況に追い込まれてんだ。なのにコイツを逃がして自分はボコられるってのか?おかしな話だねえ。」

「・・・・ッ!」

「いいから!コイツの話なんて聞かないでさっさと行ってよ!せっちゃん!!」

 

 

 

 

 

震えながらせっちゃんは立ちすくんだまま。

嬉しそうに、楽しそうに笑う不良少年は次々にせっちゃんを追い詰める言葉を吐いていく。

そして一歩、また一歩と私達との距離を縮めていく。

 

 

 

 

 

「お前は病院送り。この女は痛い目みるくらいでいいって言われてんだけど・・・それでもお前この女逃がすわけ?ちゃんよ?」

「せっちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチン。

 

音が鳴り響くくらい力強くせっちゃんの頬を平手で殴った。

せっちゃんは驚いて声も出ないのか口を開けて私を見ていた。

 

 

 

 

 

「早く行って!今はそんなことどうでもいいから!!早く!!!」

 

 

 

 

 

せっちゃんの背中を押す。

せっちゃんは一度私に振り返ると不安げに「ごめんなさい!」と呟いて走った。

すぐに私は振り返る。

もう、すぐ目の前には不良少年が立っていた。

こ、怖・・・。

 

 

 

 

 

「お前も・・・つくづくお人よしな女だな。」

「ありがとう。」

「褒めてねえよ。本当、出会った頃の犬飼にそっくりだぜ。」

「・・・え?」

 

 

 

 

 

不良少年は一瞬だけ目を細めて切なそうに呟いた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、約束は約束だからな。悪いな!!」

 

 

 

 

 

そして私の胸倉を掴み、拳を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー今日の練習も疲れたなー。何食べよ。」

「丸井君は運動しても運動しても痩せないのはそのあとに必ず何か食べるからなのですよ?」

「うっせーほっとけぃ。」

 

 

 

 

 

コンビニのお菓子コーナーでお菓子を散策中。

俺、柳生、仁王、赤也、ジャッカルの五人で部活の帰りにコンビニへ寄った。

もちろん俺の腹を満たすために。

ジャッカルと赤也は何も買う気はないらしく雑誌コーナーで暇を潰してる。

仁王は何してんのか知らねえけど一人でずっとコンビニ弁当の前で何かを見てる。

買う気ねえならやめろって。

何かかなり変な空気出てるから・・・。

 

 

 

 

 

「誰かいませんか!?」

 

 

 

 

 

突如飛び込んできた一人の少女に皆の視線が集まる。

って、え!?雪菜!?

雪菜は走って来たのか、汗びっしょりで呼吸も荒々しかった。

 

 

 

 

 

「どうなさいましたかお客様?」

 

 

 

 

 

店員が駆け寄る。

俺達も雪菜の元へ駆け寄った。

 

 

 

 

 

「誰か助け・・・助けて!さんが・・・さんが!!」

がどうした!?」

 

 

 

 

 

仁王の表情が険しくなって雪菜の肩を掴む。

雪菜の体はビクッと揺らいだ。

が・・・何だってんだ?

 

 

 

 

 

さんが、さんが死んじゃう!私のせいで死んじゃう!お願い誰か早く助けてあげて!」

「何だって!?」

 

 

 

 

 

雪菜はその場にへたり込み、泣き出した。

近くにいた赤也のズボンを引っ張って何度も何度もを助けろ、死んでしまうと連呼するばかり。

おいおいおいおい。

何がどうなってんだ?

 

 

 

 

 

「無道さん、落ち着いて事情をちゃんと説明してください。さんが何故死んでしまうのですか?」

 

 

 

 

 

冷静な柳生がしゃがみ込んで問う。

俺達はそんな二人のやり取りに真剣に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

「私のせいでさんが七組の男の子に・・・病院送りにされちゃうの!そこの路地で・・・今さんが・・・!」

「仁王!!」

 

 

 

 

 

ジャッカルの叫ぶ声に顔を上げると、コンビニを飛び出していく仁王の背中だけが見えた。

少し躊躇ったあと、すぐにジャッカルも飛び出して行った。

残された俺達。

気にする事なく柳生は雪菜に尋ねた。

 

 

 

 

 

「一体何故無道さんのせいなのですか?」

「そ、それはッ・・・!!」

 

 

 

 

 

口を閉ざしてしまう雪菜。

俺と赤也は目を合わせ、また雪菜に視線を戻した。

とりあえず店の入口でこんなことしているのは邪魔だろうと思い、ずっと心配そうに見ていた店員に謝りをいれて一旦外に出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!」

 

 

 

 

 

路地に行くと既に横たわっただけしかそこにはおらず、全て事が終わったあとだった。

に駆け寄るとそこら中に痣を作って口の端からは血が滲んでいた。

見ていてかなり痛々しかった。

 

 

 

 

 

「仁王!・・・ッ!」

 

 

 

 

 

遅れてジャッカルが走って来る。

俺はを抱き抱えると息を確認した。

よし、息はあるな。

 

 

 

 

 

「ジャッカル・・・救急車呼んで。」

「あ、ああ。わかった。」

 

 

 

 

 

ジャッカルは戸惑いながらもポケットから携帯を取り出した。

の目尻には涙の跡が残っている。

痣をたくさん作って目を閉じているを見てると

 

ああ、こんなにもコイツは弱かったんだな。

 

と思い知らされた。

いつも元気で馬鹿で変な奴だけどコイツだって女だ。

男に敵うはずもない。

 

 

 

 

 

「救急車すぐ来るって。」

「・・・そうか。」

・・・大丈夫かな?」

 

 

 

 

 

心配そうにジャッカルはを見る。

そんなジャッカルを横目見て俺は目を伏せた。

 

 

 

 

 

なら大丈夫だろ。」

 

 

 

 

 

そう信じたい。

信じたかった。

俺はいつの頃からかに強い信頼感を抱いてた。

それはたぶん部活の奴らよりも強い確かな信頼感。

だから信じたい。

なら大丈夫だと。

 

俺らしくないな。

 

 

 

 

 

「なあジャッカル。」

「ん、何だ?」

「人って短期間で変わるもんなんじゃな。」

 

 

 

 

 

俺、変わったよな。

自分でも変わったと思う。

と出会って、何かが変わった。

ジャッカルは何か意外な物を見る目で俺を見た。

 

 

 

 

 

「・・・そんな見んとって。惚れたんか?

冗談キツいぞ。お前、頭打ったのか?」

「打っとらん。失礼じゃの・・・。」

 

 

 

 

 

ジャッカルを軽く睨んでまた視線をに戻す。

ジャッカルは俺の隣に腰を下ろすと胡座を掻いた。

そして苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

「ま、確かにお前は変わったよ。いい方にな。」

 

 

 

 

 

もう暗くなってしまった街に救急車のサイレンが鳴り響く。

腕の中で小さく唸ったを見て俺とジャッカルは安堵の溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

何か深刻だなー。

次回は跡部と主人公のご対面…。笑

アハハハハ。

 

お前最高だよ!!って人はをクリックだ!!

 

2007.03.11