21話 幸せ者には幸せが・・・。不幸者には不幸が重なるもの。

 

 

 

 

 

 

急に学校に来なくなったあの人。

理由は噂で聞いた。

 

 

 

 

 

『虐めだって。』

 

 

 

 

 

どうして人は自分より長けている人を嫉むのかな?

羨ましいとはまた違うこの感情。

私は大嫌い。

この感情のせいで私は大切な人を奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「肉じゃが食べたい。」

 

 

 

 

 

突然私がそう言うものだから前の席の亀ちゃんも隣の席の咲も反対側の隣の席のジャッカルもそのまた前の龍ちゃんも私の席を陣取ってる仁王も一斉に私の顔を見た。

息ピッタリだなー。

 

 

 

 

 

「何で肉じゃが?」

 

 

 

 

 

龍ちゃんが首を傾げて扇子を扇ぐ。

龍ちゃん龍ちゃん、今の時期に扇子は少し寒いと思うんですが・・・。

雰囲気作りなのかな?

 

 

 

 

 

「だって肉じゃがって家庭の味だから・・・。」

一人暮しなの?」

「うん。」

 

 

 

 

 

意外だと言いたげな咲の表情。

あー、私一人じゃ生きていけそうにないとか思ってんでしょー。

甘く見ないでくれたまえ君達。

私だって頑張れば一人暮しくらいできるもん。

料理はできないけど・・・。

 

 

 

 

 

「肉じゃがくらい簡単に作れるじゃん。作らないの?」

「作れないの。」

「・・・・料理できないってこと?」

「イエース。私不器用デース。」

 

 

 

 

 

親指を立てて意味もなくキメる。

亀ちゃんが私を軽蔑した目で見てきた。

うっわ。

料理できないくらいで差別!?

世の中には料理出来ない子たくさんいるんだからね!

私だけじゃないもんね!

さっきから可哀相な子を見る目で私を見てくるジャッカルが口を開いた。

 

 

 

 

 

「じゃあ日頃の飯とかどーしてんだ?」

「・・・コンビニ弁当とか・・・最悪水飲んで食べない日もある。」

「お、お前・・・・。」

 

 

 

 

 

何だよ。

 

最後まで言えよ。

完全に憐れみを含んだ目で私を見てくる。

キィー!ムカつく!

何かようわからんがコイツにこんな目で見られるとかなりムカつく!

張り倒したくなる!

 

 

 

 

 

「んで肉じゃがねえ・・・。」

「何さ。私だってたまには家庭の味を食したいと思う時があるんだよ。」

「肉じゃがは家庭料理の基本じゃからの。」

「・・・基本も出来ない女で悪かったですね。」

「作ってやろうか?」

 

 

 

 

 

え?

作ってやろうか?

仁王が作ってやろうかって言った?

仁王が作ってくれるの!?

仁王と肉じゃが!?

ぶはっ似合わない!

肉じゃが!?

 

私は思わず堪えきれなくなって仁王の目の前で噴いた。

 

 

 

 

 

「仁王に肉じゃがだって〜!似合わなーい!!」

「ほっとけ。」

「え、本当に作ってくれるの!?ってか作れんの!?

「バカにすんな。俺だって一人暮しじゃけん。肉じゃがくらい作れる。」

「アハハハハハハハ!」

 

 

 

 

 

あまりにも笑いすぎて痺れを切らした仁王が私の机の中に入ってた教科書の角で頭を殴ってきた。

痛・・・痛いよ。

教科書の角って・・・。

アンタ容赦ないな。

 

 

 

 

 

「へえ、何か面白そうね。私も食べに行こうかしら。」

「あーじゃあ私も私も!」

「俺もー!」

「お、俺も。」

「来んな。」

 

 

 

 

 

乗り気になったみんなとそれを即答で拒否る仁王。

あーでも何か嬉しいかも。

肉じゃが食べるのなんて久しぶりだな〜。

今になってお母さんの偉大さがわかってきたよ。

それにしても仁王が肉じゃがねえ・・・プッ

 

 

 

 

 

「エヘヘ、じゃあ約束だからね!」

「・・・・何か作る気なくなってきた・・・。」

「はーい、一度言ったことは最後までやる!よし、今度の日曜みんなでん家集合な!」

「仁王の肉じゃが食おうぜ肉じゃが!俺御飯くらいなら炊けるぜ!」

「じゃあ私皿洗いで。」

「俺材料切るくらいなら・・・できるのかな?」

「知らん。聞くな。」

 

 

 

 

 

眉を寄せて首を傾げるジャッカルを仁王は腕を組み、一睨みして目を伏せた。

うん、楽しみだ!

 

約束・・・か。

約束なんて交わしたの何ヶ月振りだろう。

一年前からもう、私は約束なんて交わしたことなかったなー。

いつも適当に生きてその時その時のノリで全てを乗り切ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーとべ!」

 

 

 

 

 

扉が開く。

そこから出てきたのはリュックを背負って上機嫌なジローだった。

チッ、煩いのが来た。

俺は眼鏡を外して読んでいた本を台の上に置いた。

 

 

 

 

 

「何だジロー・・・お前学校はどうした?」

「寝坊しちゃった!今日から跡部のモーニングコールがないからちゃんと起きれないんだ!」

「ホントにお前という奴は・・・。」

 

 

 

 

 

まあそう言いながらもジローが来たことを少なからず嬉しく思う自分がいる。

何しろ病院というところはどうも暇すぎて気がおかしくなりそうになる。

それにこのままだと体も鈍っちまう。

早くリハビリしなきゃな。

 

 

 

 

 

「エヘヘ、暇してると思ったから病院寄ったんだ。だってあの跡部が入院なんてねー。」

「黙れ。俺だって人間だ。学校の窓から飛び降りれば怪我の一つはする。」

「ま、あの場合は仕方ないか。でもヨカッタじゃん。人間であるはずの跡部様は学校の窓から飛び降りて五日で退院できるんでしょ?」

「何が言いたいんだお前・・・。」

「普通なら一週間以上かかる大怪我だって言ってんの!」

 

 

 

 

 

ジローはリュックを地面に置き、客人用の簡易椅子に腰掛けた。

 

 

 

 

 

「それにしても跡部もよくやるよ〜。窓から飛び降りるとか・・・どこぞのヒーローだよ。」

「仕方ねえだろ。あのままじゃ杏璃が落とされるところだったんだ。」

「・・・女のすることはえげつないよね。俺、わかんないや。」

 

 

 

 

 

俺は昨日、最近マネージャーになったばかりだってのにそのことによって虐められていた杏璃を庇って窓から落ちた。

咄嗟だったから俺も受け身を取れずに見事入院。

 

ダセェな。

 

だけどあのまま俺が助けなかったら杏璃は頭から落ちていた。

つまり死んでたかもしれねえ。

そう思ったら俺の五日分の怪我なんてたいしたことはねえな。

 

 

 

 

 

「女は何でマネージャーごときにそんなくだらねえことするんだろうな。」

「昨日跡部が運ばれたあともう大〜変。杏璃ちゃん集中して責められてたC。」

「そうかよ。」

「一応俺達で助けたりしてたんだけどね。帰りまでは手に負えなかったってゆうか・・・下校途中でリンチにあったって。夜電話で聞いた。」

「・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

ジローはベッドに顔を押し付けながら溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

「でも何か立海の生徒の女の子が助けてくれたんだってー。」

「珍しい奴もいるんだな。そんな面倒事に首突っ込むなんてよ。」

「ねー、俺もちょっとびっくりしちゃった。」

 

 

 

 

 

眠たいのか、ジローの目が段々と閉じかかってきている。

さっさと帰すか。

ってか部活に行かせねえとな。

 

 

 

 

 

「おら、寝んなよ。」

「だってこの個室良すぎ・・・落ち着く。」

「監督呼ぶぞ。」

「じゃ、俺部活だけ行ってくる!また皆で来るね!」

 

 

 

 

 

そう言ってジローはリュックを背負って出て行った。

・・・騒がしい奴。

病室はまた俺一人きりに戻った。

何故か本の続きを読む気がしなくなって俺はただ病室の天井を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう一年だね。』

 

 

 

 

 

あの日、突然あの子が言った。

あの人が植物状態になってもう一年。

あの子と私は毎日のようにあの人のいる病院に通ってた。

それがこの一年間の日常になっていた。

 

 

 

 

 

仲良しだったんだ。

あの人が元気だったころは三人いつも一緒で、いつも笑ってくだらないことを話してた。

それが日常だと思ってた。

だけどそれは突然なくなった。

あの人の綺麗さを嫉んだ人達に奪われたんだ。

 

 

 

 

 

一年にもなるとお医者さんもあの人の両親ももう無理だろうと言葉を漏らした。

そんなのヤダ。

そんなのヤダよ。

だから私とあの子は泣きながら誓った。

小さな希望が有る限りあの人の笑顔をもう一度見るまでは諦めず、どんな試練だって乗り越えてみせると。

きっとそれがあの人の教えたてくれた『友情』なんだろう。

 

 

 

 

 

『友達だったら最後まで信じてあげなよ。』

 

 

 

 

 

尊敬すべきあの人と交わした最初で最後の約束。

私はちゃんと果たせているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば知ってる?」

「何が?」

「七組の問題児。あのずっと不登校だった不良よ!今日学校来てんだって!」

「まじ!?何しに!?」

「さあ〜。」

 

 

 

 

 

廊下側の席の女子生徒二人がつい最近発売されたばかりのお菓子をつまみ食いし合いながら話す。

それを右から左に聞き流しながら私は停学中の授業のノートを必死に写していた。

急に廊下が少し騒がしくなる。

 

 

 

 

 

「うっるさいなー。もう!」

 

 

 

 

 

シャーペンの芯を引っ込めて廊下に視線を移す。

廊下はかなりざわついていて誰かと目が合った・・・?

誰だ?

何か・・・金髪で目がギロリとしていて・・・

 

合わなかったことにしよ。

 

私は視線を逸らしてまたノートを写し作業に戻る。

だからこの時、廊下で目が合った男が不敵に笑っていたのには気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

とうとう氷帝レギュラー一部が登場。

今後の活躍が期待されます。笑

 

お前最高だよ!!って人はをクリックだ!!

 

2007.03.10