20話 友達は大切にしなさい。ってあまり言われなくなった最近。
「ゴメンナサイ!!」
俺らレギュラーの前で深々と頭を下げる。
幸村君が腕を組んだままじっとを見下していた。
「ちゃん。俺達はこの三日間、部活動停止の処分を受けていたんだ。それは知ってるね?」
「は、はい!!」
「それは明らかにちゃんのせいだ。・・・・・・・見かけ上は。」
「・・・は、はい?」
「グランド三十周。・・・・行っておいで?」
にっこりと微笑んで出入口を指差した。
の顔が途端に引き攣る。
あーいい気味。
三十周でも五十周でも百周でも走ってこい。
お前の罪は謝ったくらいじゃ許されないほど重いんだい。
バーカバーカ。
「ちゃん、返事は?」
「はい直ぐさま行って参りますー!!」
勢いよくコートを飛び出していくを横目に俺達は練習を再開し始めた。
ラケットをクルクル回して間抜け面の赤也に歩み寄る。
「あーかや!ラリーしよラリー。」
「・・・ウィッス。」
何を見てたのか、スッキリしない返事をしてラケットを握る赤也。
ちょっと変だなとは思うけどあまり気にする必要もなく、俺はさっさとコートに向かって歩き出した。
赤也も俺の後ろをついて歩いて来る。
その時、何度も何度も赤也が振り返って何かを確かめていたのを俺は見てみぬ振りをしていた。
「・・・ねえブン太サン。」
「あー?」
「やっぱ何でもないっス。」
「ンだよ、最後まで言えよ!」
ラリーを続けながらさっきから俺はこればかり。
聞こうとしてもやっぱりやめる。
ブン太サンも相当嫌がってるみたい。
俺もこんなことブン太サンにやられたら二回目でブチ切れるだろうな。
俺だってできることなら言いたい。
でもどうも納得できねえんだ。
さっきの雪菜先輩の表情・・・。
「雪菜先輩って何か悩み事でもあるんスかね?」
「はあ?何だ急に・・・っと、いきなり失速すんな!」
ボールを追い掛けながら文句を垂れる。
それでもブン太サンはちゃんとラケットに当てて打ち返してくれた。
さーすが。
天才様ってか?
「雪菜が何だってんだ!?」
「いや、それがっスねー・・・。」
「ああ!?」
かなり威嚇した顔のブン太サンから力強くなったボールが返ってくる。
「わーかりましたって!言います!言うっスよ!雪菜先輩・・・さっき物凄く複雑な顔してたんスよ!」
「何だソレ!さっきっていつだよ!」
「先輩が俺らに謝ってた時っス!」
「・・・・!」
「ブン太サン・・・?」
ボールがブン太サンの隣を擦り抜け、後ろのフェンスに当たる。
俺が打ち返したボールをブン太サンは打ち返してくれなかった。
何だ何だ?
「・・・わり。」
ブン太サンは下手くそな笑みを浮かべると足元まで戻って来たボールを拾った。
何か・・・知ってんのか?
「ブン太サン何か隠してるっしょ!?」
「隠してねえよ。」
「いーや隠してるっス!俺わかりますよ!」
「隠してねえっつってんだろぃ?しつけえよお前!」
ボールを真上に高く上げて打つ。
飛んで来た黄色いボールを追い掛けまたブン太サンに返す。
ブン太サンは隠してないって言い張るけどはっきり言って隠してるのはバレバレ。
動揺しすぎ。
ブン太サンは何を知ってるっつーんだ?
俺にも言えないこと?
・・・・・・なーんかヤな感じ!
俺は力いっぱいボールを打ち返した。
「バカ遠い!」
必死に追い掛けるブン太サンの横をまたもやボールは通りすぎ、フェンスにぶつかり大きな音を立てて地面に転がった。
どうしよう。
まずい。
もう時間がない。
決定打だったはずの今回の停部。
なのに幸村はさんを退部にしてくれないどころか何か企んでいる。
「このままじゃ私もさんもただじゃ済まないわ・・・。」
二人とも間違いなく病院送りにされてしまう。
さんを辞めさせて犬飼さんの計画を無しにさせようとしていた私の計画が台なしだわ。
しかももう時間がない。
たぶん近いうちに私達は・・・。
「・・・仕方ない。さんに全部話して辞めてもらうしか・・・。」
そうよ。
それしかもう道はない。
明日の部活の帰りにでも全てを話そう。
さんならわかってくれるはず。
私はまだこんなところで終わらせたくない。
終わらせるわけにはいかないのよ。
『雪菜はマネージャーとしてよくやってくれるよ本当。』
この言葉を得るのにどれだけ必死になって頑張ったことか。
周りの罵声にも耐え忍いできた。
このポジションを手に入れるために私は死に物狂いで働いた。
友達も失った。
だけどそれでもいい。
それでもいいの。
私にはもうレギュラー以外誰もいらない。
レギュラーのみんなが私の友達だもん。
私が死に物狂いで築いてきたこの友情。
誰にも壊されたくない。
誰にも邪魔なんてさせない。
「さん、明日の部活後話があるの。空いてる?」
帰る支度を始めていたさんに声をかける。
さんは間抜けな顔で私を見上げた。
だらし無いわね。
口閉じなさいよ・・・。
「明日は〜・・・えっと、再放送見たいから早く帰りたかったけど・・・うん、いいよ!ビデオタイマー予約しとくね!」
「・・・あ、ありがとう。」
ニッコリ笑う私にさんも嬉しそうにへらっとだらしのない笑顔を返した。
見たい再放送って何よ・・・。
しかも今頃ビデオ使ってるの?
まあ別にいいけど。
「じゃ、忘れないでね。」
「はーい。」
さんはそう返事を返すと荷物を纏めて部室を出て行った。
部室にはもう私一人。
誰もいなくなった部室で小さな溜め息を漏らした。
よし、これで大丈夫。
絶対説得してみせるわ。
頑張れ私、明日が勝負よ。
「・・・・お願い、誰も私の邪魔をしないで。」
うわー。
これちょっと・・・やばくない?
え、助けた方がいいの?
放っておいた方が身のため?
「どうする?どうすんの私!?」
ちょーっと寄り道とか言って東京まで探険しに来たはいいのですが・・・。
当然の如く道に迷った私に降り懸かってきた試練。
それは目の前に泣いている女子生徒とそれを囲む三人のお姉様。
あ、あの制服は・・・。
氷帝学園!?
やっほーい!
「あ。」
前に出した足が不本意にも足元の缶を蹴り飛ばし、それが大きな音を立てて地面に落下する。
お姉様方三人は同時に振り返って私を見た。
やっべー。
「・・・何アンタ「わーわーわーわー!!!」
お姉様の一人が口を開いたと同時に頭がパニックになった私は聞こえないように大声を叫んで泣いている女の子の手を取った。
そして逃げた。
「ちょ、何よこの子!」
「頭おかしいんじゃないの!?」
確かに
・・・なんて思いながら私は走った。
もう自分で自分が恥ずかしいし訳わかんないけどとにかく走った。
泣いていた女の子もキョトンとしながらあとをついてくる。
お姉様方は舌打ちをしただけで追い掛けては来なかった。
一体何だったんだろう・・・。
「はあ、大丈・・・夫?」
立ち止まり、手を離す。
日頃走らないくせに無理に走ったから息が上がってうまく話せない。
女の子はこくりと頷いてニッコリ笑った。
「ありがとう、あたし杏璃って言うの!貴女は!?」
急に元気な明るい声で名前を名乗る女の子。
わあ、な、何だ?
私は泣いている女の子を連れて来たはずだったんだけど・・・別の人連れて来ちゃった?
いや、それはないない。
絶対ない。
とりあえず名前を聞かれたのでちゃんと返事を返そう。
「あ、私!立海生です!」
「あたし氷帝!ちゃんって言うんだ!さっきはホントにありがとね!」
そう言って満面の笑顔を向ける。
さっきまで泣いていた子とは思えないほどの元気だ。
思わず私も笑みが零れる。
「どういたしまして。・・・さっきのは何だったの?あのお姉様達は・・・友達?」
「ううん。全然!・・・まあ、よくあることだから大丈夫!気にしないで?」
笑顔を絶やさず首を傾げる杏璃ちゃん。
可愛いなあ。
でも違う。
私はわかってしまった。
杏璃ちゃんの目の奥がとっても切なそうに歪んでいたこと・・・。
きっと、この子は今までずっと笑顔で全てを隠してきたんだ。
誰にも心配かけないように笑顔で嘘をつくことに慣れてしまっている。
笑顔を作ることが唯一の逃げ道なんだ。
何か・・・ちょっと違うけど私と似てる。
私も昔は・・・。
「おっと、もうこんな時間!再放送見なきゃだから・・・ゴメン!またね!今日はありがとう!」
「う、うん。バイバーイ!」
手を振って駆けていく杏璃ちゃんを見て私もハッと気付く。
今日の再放送私も見なきゃ!
何を思って寄り道なんてしたのか・・・。
氷帝レギュラーに会えたらいいな。
なんて甘い期待を抱いたりして・・・バカだ。
今になってかなり後悔が私を責める。
仕方ない。
私がバカなのは今に始まったことじゃないもん。
見失った駅を探すため、私は元来た道を何と無くの感覚で戻ることにした。
ちゃんと帰れるのかな・・・。
不安だ。
「「杏璃()ちゃんか・・・うん。気が合いそう!」」
二人が同時に思い、独り言のように口にした言葉。
この出会いは決して無駄ではない。
この先にとって大切な出会いになるなんて、この時は思いもよらなかった。
『は変わった子だね。』
違う。
本当は私、もっと気楽に生きたいの。
『ちゃんいっつも元気だよね。疲れない?』
本当はもう限界なんだよ。
だけど私が明るく振る舞わなくちゃ・・・みんなが心配しちゃう。
『もうダメなんじゃない?諦めなよ。』
嫌。
諦めたくない。
私は信じてる。
私だけは最後まで諦めずに信じるの。
だって、あの人と約束したんだから。
『だってさー、たまには逃げちゃえば?』
そんなこと言わないで。
逃げたくない。
私は逃げたくない。
大切なあの人と大切な約束が私にはあるんだから・・――――
『友達は一生の宝物だよ。』
そう教えてくれたあの人。
あの人のために私は辛いことも苦しいことも乗り越えて来た。
それはこれからもこの先もずっと一緒。
私の尊敬すべきあの人のためなら私は頑張れる。
だから諦めないで。
諦めちゃダメ。
必ず目を醒まして。
もう一度微笑みかけて。
私はいつまでも信じてる。
あの人の目が醒めたとき、いつもの私で向かえられるようにどんな時もめげず、どんな試練も乗り越えてみせるから。
だからお願い。
誰かあの人を生き返らせて下さい。
あとがき
何だ何だ?
一体何が起こってる!?
2007.03.09