19話 貸した物は返ってくるまで気になるらしい。だったら貸さなきゃいいのに…。
あれ、私・・・誰?
あの子も・・・・誰?
『バイバーイ!また明日!』
また明日なんて容易に約束してもいいの?
それに、明日が来るなんて誰が言ったの?
その約束、果たせないかもしれないんだよ?
『あ、ピィ――― に連絡入れなきゃ・・・っと誰だ!?』
―――――・・♪
携帯の着信音?
これ、私の好きな曲だ。
私のお気に入りの・・・。
『えーっと、携帯携帯携帯電話はっと・・・。』
ダメ。
ダメだって。
そっちに行っちゃダメ!
ちゃんと前を見て!
アンタはそこに行きたいんじゃないでしょ!?
アンタが向かってるのは・・――――!
「・・・・ん。」
〜〜〜〜〜〜〜〜♪
部屋中に鳴り響く着信音。
・・・・電話だ。
ベッドから起き上がり、携帯に手を伸ばす。
うぐ、体いってぇええ!
「はい、もすもす・・・。」
まだ完全に目覚めてないぼーっとした頭。
ディスプレイの名前表示を見ずに通話ボタンを押す。
あー体が怠い。
『今なーん時だ?』
「は?」
『寝ぼけとるんか?今何時かと聞いたんやが・・・。』
「・・・・・・・。」
電話越しの仁王の声。
ああ、誰かの声聞くのなんて久しぶり。
確か私、あの日からずっと飲まず食わずで寝続けてたから・・・三日振りかな?
仁王に言われ、何となく時計を見る。
「えっと・・・九時半。」
『今日は学校休むんか?』
しまった!!
今日から学校だ!
「わ、忘れてたぁぁああああ!!」
慌てて電話を切ってベッドから飛び降りる。
やはり何も飲まず食わずで行くしかないか!
ダッシュで顔を洗って制服に着替える。
寝癖・・・ついてない。
よし!
携帯を鞄に入れて家を飛び出した。
「何て?」
「・・・切られてしもた。」
プープーといった虚しい機械音だけが携帯から漏れる。
仕方なく携帯を閉じてポケットにしまった。
「ま、そのうち来るんでしょ?ならいいじゃない。待ちましょうよ。」
「あーんなけ毎日みんなで大量にメールしたのに一通も返ってこないんだよ?絶対アイツふて寝してたね。」
「あ、それ俺も思ったー!」
龍が嬉しそうに手を挙げる。
その隣でジャッカルも小さく「俺も。」と呟いていた。
何か物足りなかった三日間。
みんなそれぞれの想いを抱いて今日のこの日を待った。
「とりあえず、が来たら作戦R実行だかんな!」
「ラジャー!」 「オッケイ!」 「任せといて。」
龍の一声に周りの奴らは口々に返事を返す。
何だ?
作戦R・・・。
「あれ〜?仁王は乗り気じゃないの?」
「作戦Rが何か知らん。」
「そっか、仁王は遅れて来たからまだ知らないんだ。」
「作戦Rとは作戦を立てた龍の名前をローマ字にした時のRをとって名付けて作戦R。」
「咲ちゃん咲ちゃんそこ説明するとこ違う。」
何の話か全くわからん俺は首を傾げて眉を潜める。
そんな俺を見て龍がニヤリと何か企んだ笑みを浮かべて笑った。
「よーく聞けよ?作戦Rってのはだな・・・。」
「何だこりゃ!うわ〜私泣いちゃいそう!」
走りながら携帯を弄る。
ふて寝こいてた三日間のうちに溜まるに溜まったメールの山。
多い人から順に亀ちゃん37件、龍ちゃん28件、ジャッカル12件、咲7件、仁王1件。
おかげでフォルダは未読メールの山だよ。
送信メールより受信メールの方が断トツに多いな。
嬉しさと驚きと少し迷惑かな・・・という気持ちで涙が溢れてきそうだった。
ってかこんなにメール着てたってことに気付かなかったよ。
マナーじゃなかったはずなんだけどな・・・。
「仁王・・・か。」
1番最初、つまり古い未読メールを開ける。
あの時無視ったやつだ。
『お前さんに今日の朝貸したノート三日後忘れず持ってこいよ。』
うっわー。
それ、酷くない?
明らか私慰める気ないだろ。
あ、ってかノート忘れた。
まあいいや。
青に変わった信号をおもいっきり走る。
あ、ここ前に赤也とぶつかったところだ!
またぶつからないかな〜・・・・なんて、赤也は学校だよね。
はは。
「どぅ〜ゆあ〜ベストッ!!めげるな私!どぅ〜ゆあ〜ベストッ!!ファイトだ私!」
鼻歌を歌いながら校門を潜る。
時間が時間だけあって人気は全くなかった。
停学したうえに遅刻かー。
私ってば不良!
そんな風に育った覚えはないわお母さん!
そんな風に育ててもらった覚えもないわお母さん!
「今授業中だしな〜。ええい!休み時間までサボっちゃえ!」
お母さん。
停学と遅刻にサボりまでプラスしちゃいました。
キーンコーンカーンコーン♪
陽気なチャイムが鳴り、一気に教室はざわめき始める。
そう、俺達のクラス3年5組も。
作戦R実行の時が来たからだ。
「龍隊長!目的人物が階段を登りきりました!」
「教室まではあと何メートルでござるか!?」
「十メートル!?いや、七メートルです!欠伸しながら歩いてます!」
「了解!皆の者!心の準備はよろしいでござるか!?」
「「「おう!」」」 「うぃ。」
龍の意気込みに皆が一致団結する。
仁王だけの返事がはみ出ているのは気になるが・・・。
皆それぞれの席に着席し、龍だけが机の上に前屈みになって腰掛けていた。
「3・2・1・・・来る!」
龍のカウントと同時に前の扉が開く。
が入って来た。
目を真ん丸くしてクラスの異様な空気に驚いている。
やべ、笑いそう・・・。
「な、何この雰囲気は・・・・?」
「何ってわかんねえの?」
龍が鋭い目付きでを睨む。
の顔は本気で引き攣っているように見えた。
あーマジ俺笑いそうだ。
我慢すんのに体震える。
っと、仁王そんな睨むなよ。
わかってるって。
「こんな雰囲気にしたのはお前だろ?おかげでこのクラスの面子丸潰れだ。」
「・・・・ッゴメン。」
「謝って済むと思うなよ?俺らの信頼裏切りやがって。」
「・・・・ごめん・・なさい。」
おいおい。
本気で泣きそうな顔してんじゃん。
龍の奴、名演技だな。
俺がの立場なら間違いなく泣いてるぞ。
ってか俺らやることえげつなくないか?
クラス全員って・・・なあ。
「泣いてもダーメ。許されると思うな。」
「・・・・・・ッ。」
「あれ?黙っちゃった?ま、そんなことしてても今のお前の立場は何も変わらないけどな・・・。」
龍が席を立ち、の前まで歩く。
完全に俯いてしまったを見下しながら龍は鼻で笑った。
そして、空気はかなり緊迫した状態。
次第にの肩が震え始めた。
「だから、一緒に犯人捜そうな!」
の頭をポンポン叩きながら気品もなく笑った。
龍の笑い声を合図に皆が席を立ち、次々にの元へと駆け寄る。
「な、な、な、何!!?どどどどうゆうことー!!!?」
「さん泣かないで〜!」
「ゴメンねさん!ちょっと悪ふざけが過ぎたよね!?」
「これも全部龍君が考えたことなの!」
訳がわからず泣き続けているを囲んで慰める。
教室の緊迫した空気はもうなく、いつもの騒がしいクラスに戻っていた。
龍の作戦Rとはつまりこういうことだ。
戻ってきたを驚かせようとクラス全員で仕組んだドッキリ。
結局言いたかったことはを嵌めた犯人を皆で捜そうならしいけど・・・やり過ぎだよな。
うん。
マジ泣きしてんもん。
「うわぁぁあああああん!びっくりしたよぉぉぉおおお!」
「ゴメンね。楽しかったわ。」
「咲、マジ泣いてるからこれ以上はやめとけ。おーよしよし、ゴメンな〜。」
も・・・・大変なんだな。
俺ほどじゃなさそうだけど。
に憐れみの目を向けていると龍が満足げに帰って来た。
「あーうまくいったー!が泣いたー!」
「お前さん鬼やの。」
「お前が言うな!仁王の方が絶対質悪いよ!」
「・・・どっちもどっちだっつーの。」
俺に言わせりゃ仁王も龍もどっちも最悪な趣味してるぜ本当。
皆に囲まれながら未だ泣き続けるを横目に龍が呟いた。
「・・・・真剣な話、犯人っつってもたぶん、俺らじゃ手に負えねえだろうな。」
「・・・・ああ。」
「それに、根田ちゃんには俺からちゃんと言っておいたけど・・・他の教師はダメだありゃ。」
この三日間、龍は生徒会会長なだけあって教師全員にの無実を訴えていたらしい。
根田ちゃんは初めからわかっていたらしく、理解してくれたみたいだけど他の教師は全くダメでがやったの一点張りならしい。
「学年中、もしくは学校中の女子が容疑者になるんだから・・・厄介だよなー。」
「・・・そげんそれを敵にしてでもまだ学校に着続けるは偉いぜよ。俺なら行かん。」
「には・・・ここがあるからな。」
仁王の呟きに返事を返す。
そうだ。
仲間のピンチは自分のピンチ。
ここはそういうクラスじゃないか。
「しょうがないな。そんじゃ、俺達3年5組がを守ってやりますか!?」
龍がに振り返る。
はまだぐずっていて亀井に頭を撫でられていた。
何だ、このほほえましい情景は・・・。
「、何かあったらすぐ頼れよ?」
「亀ぢゃぁん・・・。」
「暴力を受けた時はちゃんと傷をつけて帰ってくるのよ?あとで証拠になるから。」
「咲・・・何かソレ違う・・・。」
「心配しなくても俺達はお前のキャラわかってっから変な噂とか信じたりしねえよ!な?」
「龍ぢゃん・・・。」
「まあ部活の方は大丈夫だ。俺と仁王を頼れば・・・何とかなる。」
「ジャッカル・・・頼んない〜!」
「。」
「に、仁王君・・・。」
仁王はに歩み寄り、目の前で立ち止まった。
涙が止まっただろうは真っ赤に腫れた潤んだ目で仁王を見上げた。
皆少し内心ドキドキしている。
あの仁王が何を言うのかと・・・。
「ノート。」
は?
教室に妙な空気が流れる。
やめろよ。
やめてくれよ仁王!
今何か一瞬にして空気変わったぞ!?
「ノートは?」
「そ・・・それが・・・。」
「忘れたんか?」
「みたいですね。」
「・・・・メールしたのに?」
「・・・・・・。」
何だよ。
何だよお前ら!
何かイライラする!
何かイライラするって!
顔を引き攣らせたの肩は小刻みに震えていて、何かを堪えているように見えた。
何か、そりゃもう一つしかないだろ。
「テメェは慰めの言葉の一つもないんかーい!!」
のパンチが空を切った。
仁王はその拳を軽々と片手で受け止め、笑った。
コイツも、こんなにふんわりと笑うようになったんだな。
本当に、心の底から出る笑顔。
最近よく見るようになった仁王の笑顔。
これは確実にの効果だな。
「お帰り、。」
お前はもう立派な3年5組のかけがえのない生徒だよ。
あとがき
青春だね…。
2007.03.06