17話 カラオケで歌う時と普段歌う時とじゃ上手さが何か違う。
「今日はアラ珍C〜せっちゃんがい・な・い〜♪」
「おい、。その意味わかんねえ歌止めろ。」
せっちゃんがいないからか、さっきからピリピリしているブン太がジャージに着替えながら睨んできた。
何よ。一人遅れて来たくせに。
ちょっとだけど・・・。
何やらブン太は居眠りさんの度が超えたので痺れを切らした先生に怒られていたらしい。
目撃者、柳生が言っていた。
私はドリンクに粉を混ぜながら言われた通り歌うのを止める。
「丸井君は私の美声にビビッと感じるものはないのですか?」
「ねえよ。むしろ不快感が与えられた。」
「やっぱりこの歌詞は丸井君にとっては不快でしたか・・・。」
「歌詞もだけどお前のその歌声が不快だっつってんだよ!この音痴が!」
「ひ、酷!私音痴じゃないし!この間友達とカラオケ言ったら上手くなったねって言われたもん!」
私がこの世界に来る前、久しぶりに遊んだ友達とカラオケに行った時、友達は上手くなったねって褒めてくれた。
だから私は舞い上がってその日、思う存分歌って帰った。
あれ、でも上手くなったねって何だろう。
もとは下手だったってことか?
ってことは一からのスタート?
クソッ!アイツ帰ったら絶対シメてやる!
あ、でも一応褒めてくれたわけだし・・・。
「私って〜や〜っぱり音痴なの〜?♪」
「だぁぁあああ!うるせえな!だからそう言ってんだろ!?いちいち歌にすんなよ!音痴!」
本気でウザいといった感じに怒鳴り付けてくる。
ブン太はロッカーを勢いよく閉めた。
さっきから人のこと音痴音痴って・・・!
いくらブン太でも私怒るよ!?
でもここは大人になって我慢だ!
ブン太はお子様なんだ。
仕方ない。
ケーキ大好き☆とか言ってるくらいだもん。
私にポテチ五袋買わせるくらいだもん。(←根に持ってる)
きっと精神だけ成長しきれなかったお子様なんだ。
なんだか可哀相・・・。
憐れみの目をブン太に向けながら、最後のボトルの蓋を閉めようと蓋を手に取ったと同時に部室のドアが開いた。
「あ、ブン太!・・・それにさん。」
「あ、せっちゃん遅かったね!私ちゃんとボトル作っておいたから!私一人で作れるようになったんだよ!」
「・・・ありがとう。あと、ごめんね。すぐ手伝うから。」
「雪菜ーコイツ本当ウザいから俺の前から消して?」
「何!?」
着替え終わったブン太はラケットを脇に挟みながらガムをくわえてせっちゃんの隣を通り過ぎて行った。
うーん。私ってブン太に嫌われ気味だな。
こんなの・・・こんなのトリップじゃない!
トリップに嫌われなんていらないんだよ!!
何のためにトリップしたのかわかんないじゃんかー!
わざわざ嫌われにこんな世界に来る訳無いじゃん!
そんなのマゾだよマゾ!
嫌われるのが快感〜とか・・・うわ、キモッ。
「さん・・・顔強張ってるよ?どうかした?」
「ハッ、ゴメン!何でもないよ!?」
「そう?ならいいけど。・・・ところでさ。」
せっちゃんが部室の隅に鞄を置きながら話すのを止める。
私はボトルを籠に入れながら顔をせっちゃんに向けた。
「せっかく作ってくれて悪いけど・・・そのドリンク、味見してもいい?」
「うん全然いいよ!不味かったらゴメンね!」
「・・・・・うん。」
せっちゃんはボトルを一本手に取ると、それを口に含んだ。
さっき一応味見したけど・・・私からしたら別に飲めないことはなかったと思う。
あくまで私的には、だけどね。
でもやっぱり長い間くマネージャーをしてきたせっちゃんにとってドリンクの味は大切なんだろうな。
ぶっちゃけ、何もわからない私にとってはどれもそんな変わらないとか思ってしまう部分もあるけど・・・。
「!、けほっこほっ!」
「え!?せ、せっちゃん!?」
突如せっちゃんはボトルを口から離し、咳込み出した。
私は慌ててせっちゃんの背中を摩る。
わ、私のドリンクのせいですか?
私のドリンクそんなにいけませんでしたか!?
でも私飲んだけど咳込むほどじゃ・・・え!?
マジで!?私のドリンク!?
「・・・さんこれ何なの?」
「何か・・・ダメだった・・・ですか?」
「ふざけないで!こんなの飲めた物じゃないわ!!」
「!そ、そんなに!?ごめんなさい!」
「よくこんなの部員に配ろうとしてたわね!最低よ!全部流して!!」
ボトルを突き返され、戸惑う私。
びっくりしたうえにちょっと腹が立つ。
何もそこまで言わなくたっていいじゃないか・・・。
それよりもせっちゃんはこんな子だっけか?
こんなに声を荒げて酷い罵声を上げる子だっただろうか?
イライラを抑え、私は仕方なくドリンクを流そうと思い、部室を出ようとドアノブに手をかけた。
その時だった。
「何の騒ぎ?」
ドアノブが勝手に動き、ドアが開いた。
そこには幸村を先頭にレギュラー全員が駆け付けて来ていた。
またしてもやーな予感が・・・。
今日は厄日か?
「!、雪菜先輩!?何泣いてるんスか!?」
赤也の声に私は驚いて振り返る。
そこにはうずくまって泣いているせっちゃんがいた。
何!?何!?え!?何!?
「どういうこと?ちゃん。」
「え!?・・・さ、さあ?」
「さあって何惚けてんだよ!説明くらいできんだろぃ!?」
いや、本当私もわからないんだよブン太君。
頭が真っ白になってきて額に汗が滲んでくるのがわかった。
やだなーこの空気。
どうしたってんだよせっちゃん。
そんなにドリンクが不味かったのですか?
せっちゃんはドリンクに煩い人だったんだろうか。
泣いちゃうほどドリンクに愛を注ぐ人だったんだろうか。
ちょっと変な人だけど・・・。
「無道さん、状況の説明はできますか?」
柳生の問い掛けにゆっくり頷くせっちゃん。
ぜひ私も聞きたくて、真剣にせっちゃんの言葉に耳を傾けた。
外にいたレギュラーが部室の中に入ってくる。
な、何か大事になってきた・・・ハハハ。
助けて誰か!!
「私、・・・さんが・・・作ったドリンクを・・ヒック・・ちょっと薄いかな?・・・って言ったら・・・ヒック。」
は?
「さん・・負けず嫌い・・・だからかな?ヒック・・・急に声荒げて・・怒り出して・・・怖かっ・・・ヒック。」
はい?
「ゴメ・・ンね?・・・そん・・なことくらいで泣いちゃって・・・。練習の邪魔・・だったよね?」
何だって?
わっつどぅーゆーみーん?
貴女は何をおっしゃっているのですか?
「ちゃん、雪菜は長い間マネージャーをしてくれているんだ。雪菜が薄いって言ったのならちゃんと素直に言うことを聞いてくれないかな?」
「ちょ、ちょっと待って!え、薄いの!?」
「確かにいつもより粉の濃度が少し薄いな。僅かだが・・・。」
柳!コイツまたいらないことを・・・!
ってか勝手に飲まないでよ。
捨てるつもりだったのに・・・。
「ま、あんな下手な歌うたいながら作ってたら美味いわけねえよな。だって何かイラッてきたもんイラッて。」
「変なところで負けず嫌い出して雪菜先輩泣かさないでくれます?迷惑なんスけど・・・先輩。」
ガーン。
ブン太はいいとして赤也に言われたのはショックだ。
迷惑・・・そう。
迷惑なんだ・・・。
ああ、お家帰りたい。
私はショックのあまり足が棒状になってその場から動けなくなってしまった。
「、まあドンマイ。」
そこで聞こえてきた声。
仁王か!!!?
絶対コイツ楽しんでる。
楽しんでるでしょ!?
何がドンマイだ?
ドンマイって慰めてるつもりか!?
私がキッと睨み付けると仁王は不敵に笑った。
うーわー。
「、あれだ。お前の自己中キャラは雪菜にはキツいんだ。もっとソフトに接してやれ。な?」
「煩いですよジャッカル君。貴方あれですよ。明日の昼こそ新技かけるから覚悟しとけよ!」
ジャッカルはう゛っと濁った声を出して「明日は久しぶりに屋上で食おう。」なんて呟いていた。
させるものか。
それよりも話がズレた。
私がズラしたんだけど・・・。
せっちゃんは落ち着いてきたのか、肩で息を吸いながら呼吸を整えていた。
その横で心配そうに柳生が背中を摩る。
「とりあえず、は雪菜に謝って俺達は早く部活を再開するぞ。さあ、。雪菜に謝れ。」
「ヤダよ。」
「「はあ?」」
ブン太と赤也の声が見事にハモる。
や、そんなに驚かれても困る。
だって私謝ることしてないし。
ドリンク突き返された時はちゃんと謝ったし。
それにせっちゃんの言ってること何か変だし。
私は堂々とした態度で真田に向き直った。
「何故謝らない?負けず嫌いなうえに頑固ときたのか?」
「違うよ失礼だね。頑固じゃないやい。」
「しかしさん。無道さんを泣かせて謝らないというのは納得できませんよ?」
「ぬぬぬ。」
(・・・ぬぬぬ?)
私の意味のない擬声語に不思議そうな表情を浮かべた紳士に私は眉を寄せる。
どう説明しようか。
確かにドリンクは私が悪かったけど・・・せっちゃんは薄いなんて指摘してくれなかった。
それに叫んだのはせっちゃんの方だ。
これをどう説明しよう。
まだ纏まっていないが言い訳をしようと私が口を開いた時。
せっちゃんが立ち上がって弱々しく微笑んだ。
「もういいよみんな!私がちょっと大袈裟に捉えて泣いちゃったからいけないんだよ!邪魔してごめんね?早く練習戻って?」
「雪菜・・・わかった。みんな、練習の再開だ。行くぞ。」
「でも部長・・・!」 「行くぞ?」
「う、ウィッス!」
ちょ、待っ、は?
何コレ!?私の意見は!?
何勝手に解決しちゃってんの!?
冗談キツいよ皆さん!
驚きすぎて頭が痛い。
そんな私を置いて皆は部室からあっさりと出て行った。
最後に仁王が私の頭をポンポンと叩いて出て行ったけど意味がわからん!
マー君わかんないよ!
マー君の行動理解できないよ!
「さん、ごめんね?じゃ、私ボトル配ってくるから。」
そう言ってせっちゃんは部室から出て行った。
な、何なんだ今日は。
・・・・厄日か?
「ブン太さん。先輩酷くないっスか?」
雪菜に渡されたボトルをくわえながら横目で赤也を見る。
赤也はラケットでボールを転がしながらがいるだろう部室の方を見ていた。
「頑固だよな。」
「謝らないってどうなんスか?最低じゃないっスか。」
赤也は不満げにのことを愚痴る。
ま、泣かせて素直に謝らないのは確かに最低だな。
アイツ“ヤダ”ってはっきり言いやがったし。
雪菜が可哀相だぜ。
「俺、先輩あんまり好きじゃないかも・・・いや、嫌いかな?今日ので嫌いになったっス。」
「そりゃまた突然だな。俺は前から嫌いだぜぃ。何か気に食わねえもんアイツ。」
アイツ見てるとイライラする。
特に何かしたってわけじゃない。
何か、あのやる気満々な感じとかかなりカンに障る。
歌も下手だし。
関係ないけど・・・。
俺はドリンクを一口含み、飲み込んだ。
あーやっぱちょっと薄いや。
ま、飲めないこともないけど。
「ってかアイツのことマネージャーとして認めてるのって仁王とジャッカルだけじゃん?幸村君は・・・微妙だけど。」
「何のために入れたんスかね〜。俺、争い事起こす人ならいらねっスよ。」
「あ、同感。それかなり思う。」
今までのままでよかった。
なんていらなかったんだ。
平和な部活を潰されるくらいなら、なんていらない。
俺らの世界はレギュラーのみんな。
それにマネージャーの雪菜だけで十分だ。
他の奴なんていらない。
誰にも踏み込んでなんてきてほしくないんだ。
あとがき
・・・・・・・・・・・何か歯がゆい。
2007.02.28