15話 キミは勇者だ!キミは勇者だ!キミは・・・本当に勇者か!?
「わー、お菓子の袋の山だ!しかも全部空!」
これはブン太の物だね確実に。
私はくしゃくしゃになってロッカーと壁の間に挟まった大量のお菓子の空袋をゴミ袋の中へ突っ込んだ。
あ、これ新発売のやつだ!
おいしかったのかな?
あとで聞いてみよ。
「ちょっとさん。窓拭いてって言ったじゃない。」
「終わったよ?」
「は?」
「だから全部拭いたんだってー。」
モデルちゃんは黙って窓を人差し指で擦った。
昼ドラなんかで姑がしそうな行動だ。
埃がなかったからか、指を眺めながらモデルちゃんは何も言わずにまたロッカーの整理を始めた。
ロッカーの中って勝手に掃除してもいいのかな?
私はずっと窓を拭いたり床を掃いたり・・・私の体は埃だらけだった。
「乾燥して鼻の中痛い・・・。」
「はい。これ使う?」
「え?」
いきなり顔の前に現れたのは真っ白なマスクだった。
びっくりして顔を上げると、そこにはマスクをつけたせっちゃんが立っていた。
せっちゃんの手には埃叩き。
せっちゃんも埃塗れの一人だった。
私はお礼を言ってマスクを手に取り、つける。
せっちゃんはやっぱりマネージャーさんだね。
気が利く優しい子だよ。
またロッカーの後ろのゴミを取ろうと手を伸ばしたその時、何かが壁を這った。
「ぎ・・・・ギャー!ご、ゴキッ・・・!!」
私は思わずのけ反る。
しかし目は黒く輝くそいつを捕らえ、自分に近寄ってこないか見張るのを止めない。
私の叫びにみんなが視線を向けるが、何がいるのか想像できたのか近づいて来てはくれなかった。
薄情者!!
「く、来る!!奴が来る!!」
「ちょ、さん!腰抜かしてないで早く退治してよ!」
「私!?無理!無理だよ!キモいよコイツ!!」
「そんなこと言ったって私達も無理よ!?こういう時は第一発見者のアンタが始末するべきでしょ!?」
「な、そんなルールがあったの!?じゃあ私!?やっぱり私がしなくちゃだめ!?」
嫌だ。触りたくない。近寄りたくない。
だけど誰かがやらなきゃコイツは確実に空を舞うだろう。
そうなれば捕まえることはおろか、この狭い部室中を飛び回り、体のどこかにぴっとりと・・・・・。
嫌だ!!
「ていやー!!」
私は思い切ってお菓子の袋でそいつを潰した。
ああ、私の乙女生活もここでおしまいか。
短かったな。
そのままゴミ袋の中にぶち込み、封を閉めた。
「・・・・やったの?」
「やったよ!やったよ私!」
「すごいわね。アンタ・・・・。」
モデルちゃんに憐れみを含んだ瞳で見つめられ、思わず私は照れてしまった。
自分で自分を褒めてやりたい。
今日は帰りにピザまんだ!!
その前にこの汚れた手を三分ほどウォッシングしなきゃね。
それはまあ、日頃洗わない指の間までしっかりと・・・。
手を洗いに行こうと立ち上がった時、がちゃりと部室のドアが開いた。
「あれ、掃除中っスか?」
きゅん。
私のハートが赤也を察知する。
突如、部室に赤也が登場した。
モデルちゃん達が顔を見合わせて何やら嬉しそうな顔をしている。
も、もしやライバル!!?
この子達も赤也狙い!!?
だとしたら私勝ち目ないから!
だからお願いやめて!!
いーやー!!!!
「今掃除中だから散らかってるの。ゴメンね赤也。」
「いや、謝らないで下さいよ!むしろ俺がお礼言う立場じゃないっスか!」
「赤也君!ロッカー綺麗にしておいたからね!」
「え・・・・・あ、ありがとうございます!」
モデルちゃんがせっちゃんをずずいと押し退けて赤也に話しかける。
おやおや?若干、赤也引いてないかい?
そりゃ見ず知らずの女にロッカー整理されたら引くだろう。
私ならそいつを殴ってるかもしれない。
ごめんね。モデルちゃん。
「あ、先輩。いたんスか?」
がーん。
さも眼中に入ってなかった的なこの口調!
好きだけどその頬を抓り回してやりたい!!
でも先輩だって!
下の名前プラス先輩だって!!
表情には出さないが胸が踊った。
「ってか汚いっスよ!?埃塗れじゃないっスか!!」
「だって床掃いたり窓拭いたり埃取ったりしてたら自分にも埃は寄ってくるわけで・・・。」
「そうかもしれないけど、他の人は先輩みたいにそこまで汚れたりしてませんって!」
「そ、それは・・・・。」
ずっとロッカーの整理してたりするからでしょ?
なんて意地の悪いことは言えないので思わず言葉に詰まった。
はっきり言っちゃうとせっちゃんもさっきまでは資料の整理を座ってしていた。
そこら中走り回っていたのは私だけ。
まあ、掃除嫌いじゃないから、むしろかなり得意だから楽しかったけど・・・・。
だから別にいいんだけど・・・。
一歩、モデルちゃんが赤也に近寄ると、私を見下して笑った。
「さん、さっきゴキブリ潰したからもっと汚いよ?」
「え・・・・。」
赤也が信じられないといった表情で私を見る。
ちょ、何てこと言うのよ!!
赤也に何てこと吹き込むんだこの女は!!
こういうのは女同士の秘・密☆じゃないの!!?
酷い!酷すぎる!!
赤也も赤也でかなり引いているご様子。
ご、ゴキブリを潰す女は嫌ですか?
私が男なら嫌です。
最悪だ。
「・・・ま、マジっスか?」
「本当本当!しかも手洗ってないんだよ〜?」
「げ、洗ってねえのかよ!!?」
「そんなに引くことないじゃん!今から洗いに行くところだったんだよ!」
私がふんっと鼻息を立てて部室を出ようとした時、何故だか赤也も一緒に出てきた。
あれ、おかしくないですか?
だって、アンタ部室に用だったんじゃないんですか?
これはこれで嬉しいけれども・・・。
赤也は私の手首を握ると、私を通り越してさっさと歩き出した。
痛い痛い痛い痛い!!
引っ張られる!
嬉しさと痛さのあまり涙が目に浮かぶって!!
水道場に着くと、手を引っ張られて石鹸をつけられた。
「ほら、ちゃんと石鹸つけて下さいよ!!」
「はい!?」
「先輩ぜったい石鹸つけないで帰ってくるでしょ!?汚いっスよ!!」
「待て待て少年!私そこまで汚くないし!石鹸はちゃんとつけて洗うタイプです!!」
「え〜。ホントっスか〜?」
可愛い。
じゃなくて何コイツ!!
失礼にも程があんだろうが!
って思ったけど赤也だから許せてしまうこの甘さ。
キーンコーンカーンコーン。
「・・・・あ、チャイム鳴っちゃったよ。」
「部室片付いたんスかね。」
「そういや君、何しに部室来たの?」
「それはッ・・・・・べ、別に・・・。」
怪しい。
何だよ。吐いちゃえよ。
気まずそうに目を逸らす赤也。
私はギロリと赤也を見つめ続けた。
睨んでるわけじゃない。
むしろ穴が開くぐらい見つめてる。
何故か私達は再び部室に向かって歩いていた。
「ねえねえ何しに来たの?」
「・・・・さあね。アンタには関係ないっスよ。」
「いや、あるね。何しに来たのってばー!!」
「だぁぁあああうるさい!耳元で叫ばないで下さいよ!!」
かなり迷惑そうに耳を押さえながら怒った。
ああ、怒った顔も・・・じゃなくて、こ、怖い。
赤也は部室のドアノブを握り、開けた。
「あれ、誰もいねえ。」
「みんな授業に行っちゃったんだね。片付いてないけど。」
部室は見事に荒れ放題のままだった。
まあ、時間内にできるわけがないとは思ってたけどね。
っていうか私も授業行かなきゃなのにね。
溜め息を吐くと、赤也はスタスタと中へ入って行き、椅子に座った。
そしてポケットから携帯を取り出し、弄り始める。
「授業出ないの?」
「英語だからサボるんスよ!」
ああ、だからか。
何故部室に来たのかという理由に妙に納得をして、私は部室の扉を閉めた。
もういいや。
私もサボっちゃお。
掃除の続きしちゃお。
さっさと終わらさなきゃね。
私は散らかったテニス雑誌なんかを拾い集めて片付けを始めた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・。」」
部室は沈黙。
赤也の携帯を弄るカチカチという音だけが響いていて、妙に虚しかった。
何か喋らなくては!!
せっかくの赤也との二人きり。
これは夢にまで見たシチュエーションじゃないですか!!
だけど実際二人きりになったって掃除しなきゃだし私埃塗れだし・・・ちっともムードなんて漂ってこない。
畜生。
「・・・・先輩。」
「!、な、何!?」
「・・・掃除終わんの?」
「終わんない。無理。絶対終わらないよ。」
「あ・・・そうっスか。」
急に話し掛けられ心臓はドッキュンドッキュン。
高速振動で私の寿命を激しく縮めてます。
とにかく手を動かしてないと落ち着かないのでひたすら散らかった物をもとあった場所に戻す。
ガタンと、椅子から立ち上がる音がした。
「俺も手伝うっス。本当は掃除嫌いだけど・・・。」
「マジで!?ありがとう!助かる!」
「っつっても俺、埃塗れにはなりたくないんでこういうのとか適当にもとあった場所に戻しときますよ。」
「あ、ありがとう!さすが赤也だね!嬉しくて涙出てきたよー!」
「キモッ。そういうの本当いいんで、さっさとそのゴミ袋をゴミ置場に出しに行って下さいよ。」
「キモッってアンタ・・・わかったよ。じゃああとはシクヨロ☆」
ゴキブリが入ったゴミ袋を抱え、私は部室のドアを閉めた。
うげ、ここからゴミ置き場までかなり遠いじゃん。
っていうか私今授業サボってんだよね?
ゴミ捨てなんてしてる場合ではないのでは?
見つかんないように裏道を通って行くことにした。
遠回りじゃん・・・・。
最悪。
「って仁王君何してらっしゃるのですか?」
「・・・・・・ん、?おはようさん。」
この人はボケているのだろうか。
寝ていたのか寝ていなかったのかは知らないが、木の下で仁王が欠伸しながら座っていた。
授業サボって何やってんだコイツは。
って私もだけど。
仁王は私の手に持たれたゴミ袋を見て、首を鳴らした。
「何じゃそれは?」
「部室のゴミ。」
「部室の掃除しとったんか。大変じゃったの。ご苦労さん。」
「大変も何もないよ!私悲惨だったんだからね!!何でアンタらが使った部室を私が掃除しなきゃなんないんだよぉおお畜生!!おかげで赤也にはドン引きされたっつーの!!!」
もうダメ。
私何のためにここに来たのかわかんない。
早くお家に帰ろう。うん。
今日悪の組織軍団に頼み込みに行って帰らせてもらおう。
あれ、そういえば私・・・・・・・・・・帰れるのかな?
「まあまあ、何があったかは知らんが・・・・落ち着きんしゃい。」
「だってだって、埃が〜ゴキブリが〜!!!」
「・・・・・ゴキブリ?」
「あ、今ちょっと引いたな。この野郎。」
「まさか。」と苦笑いを浮かべて仁王は立ち上がり、三つ抱えて持つ私のゴミ袋を二つ持ってくれた。
全部持ってくれたら紳士なのに・・・。
そこまで気は利かない仁王だけど、今の私にはちょっと嬉しかった。
へへへ、何かいい感じに仲良くなってんじゃない?
輝かしき友情だね。すばらしい。
エクセレントだよ!
他のレギュラー達も早く友情を築いてはくれないだろうか。
私がここにいるうちに早く・・・。
私、いつまでここにいれるのかな?
っていうか帰らせてくれるのかな?
あの人からそういう話は何も聞いてないや・・・。
今日の夜にでも電話してみようかな。
別れ際に名刺を渡されたことを思い出し、私はそれをどこにしまったのかを必死に思い出そうとしていた。
「、ね・・・。」
邪魔。
その一言がお似合いなあの子。
何でも自分の思い通りになると思ってちゃ大間違いだっつーの。
無道雪菜も邪魔だったけど・・・・
本当に邪魔なのはアイツみたい。
調子に乗ってたら痛い目見るってちゃんと教え込まなきゃね。
保健室の窓から仁王君と裏庭を歩いていくを睨みつける。
「犬飼さん。入るわよ?」
「あ、はいどうぞ。」
私が即座にベッドに潜り込むと、仕切りのカーテンが開かれる。
保健室の先生が湯たんぽを持って入ってきた。
「生理痛だったなら部室の掃除なんてしなけりゃよかったのに・・・・貴女って子は。」
「えへへ、だってあのテニス部レギュラーの部室の掃除ですよ?やらなきゃ損ですよ!」
「本当、この学校のテニス部は人気ねえ。先生もびっくりだわ。じゃあゆっくり寝ておきなさい。授業が終わったら起こしてあげるからね。」
「はーい。」
そう言って先生はまたカーテンを閉めて保健室を出て行った。
他のベッドに誰も居ないのを確認して携帯を取り出し、電話をかける。
呼び出し音が鳴ってすぐに相手は電話に出た。
私の顔に笑みが浮かぶ。
「あ、もしもし?そう私。ちょっとお願いがあるんだけどー。」
邪魔な奴が二人。
ああ、面倒だ。
だけどそろそろ動き出さなきゃ。
今がちょうどいい、グッドタイミングだから。
「うん。前から言ってたウザい奴にもう一人邪魔なのが加わっちゃって・・・・・
そう、だからアンタらに頼んで消してもらおうと思って。」
消す。
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邪魔な奴らはみんな消えちゃえ。
「頼んだよ。また今日の放課後にでも電話する。・・・うん。じゃ。」
私が何のためにここにいるのか。
アンタらにはわかるはずがない。
私は選ばれた人間。
この世界で幸せに生きるのは
「私だけなのよ。」
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あとがき
最後のこれ、モデルちゃんだから。
モデルちゃんの苗字、犬飼だから!
近くにミスフルの漫画落ちてたからこの名前つけてん。
このままいくと下の名前は・・・め、冥・・・?
2007.02.24