12話 自分の物には名前書いとけよ。ドラァ!!!!

 

 

 

 

 

 

「はあ、美味ですなあ・・・・・・・・。」

「何しとんの?。」

 

 

 

 

 

部室に置いてあったお菓子を頬張っていると、耳元で仁王の声がした。

背筋に寒気を感じながら私はとっさに飛び上がった。

思わず喉につまらせる。

ゲホゲホ言う私の背中を擦りながら仁王は笑った。

 

 

 

 

 

「それ、丸井のん。」

 

 

 

 

 

最後の一枚のポテチが地面に落ちた。

私の手が震える。

 

しまった!!!!!!

 

ブン太のお菓子を食べてしまったじゃないですか!!

てっきりジャッカルのかと思ってたのにッ!!

私としたことが人生最悪の汚点だ!!

 

 

 

 

 

「ど、どうしよう!!丸井君にプリッて言われちゃう!!!」

「言われんよ。それ俺の言葉やし。」

「じゃあたるんどるって殴られるかもッ!!どうしよう!!袋に空気入れてテープで止めておこうかな!!?」

「よけいに怒るじゃろ。やめときんしゃい。」

 

 

 

 

 

仁王は私からお菓子の袋を取り上げ、丸めてゴミ箱に捨てた。

私はとりあえずティッシュで口を拭って証拠を隠滅してみせた。

ちょうどその時、部室のドアが開いて、クタクタになったブン太と赤也が帰って来た。

私の心臓が大きく飛び跳ねる。

 

 

 

 

 

「さ〜って俺のおやつの時間だぜぃ☆」

「いい加減にしとかないと太るっスよブン太サン!で、今日のおやつは何っスか!?」

「あ、お前俺のおやつ狙ってんだろぃ!?やらねえかんな!」

「・・・・・・・・・・・いりませんよ。」

 

 

 

 

 

 

繰り広げられる会話に私の背中は汗びっしょり。

二人に背を向けて部室の隅で壁と一体化してみる。

どうしようどうしようどうしようどうしよう!!

誰か助けてよっ!!!!!

仁王はロッカーの前でさっさと着替え始めていた。

おいおいおいおいおいおいおい。

薄情者めが!!!

 

 

 

 

 

「アレ、ないんだけど。」

 

 

 

 

 

ぎっくう!!!

 

私の体からは、水分が蒸発して干乾びてしまいそうだった。

背中に視線を感じるんですけど!!

かなり見られてる気がするんですけど!!

やめて!私じゃない!

私じゃないから!!

 

 

 

 

 

「この部室ポテト臭いな・・・・・。」

「お、柳。今日は自主練しねえの?」

「しない。ところで誰だ?こんなポテトの臭いを充満させた奴は・・・・。」

 

 

 

 

 

や、柳が犯人探ししてる!!

やめて!それ以上何も言わないで下さい!!

お願いします!お願いします!!

柳はゴミ箱まで歩いて行くと、ポテチの袋を取り出した。

 

 

 

 

 

「これが原因か。丸井・・・・ではないな。」

「あ゛―――――――!!俺のポテチ!!誰だよ食ったの!!?」

「この様子だと・・・・・・の確立89%。当たりだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・し、知りません。」

「目、泳いでるっスよ?」

 

 

 

 

 

赤也が私の目の前まできてしゃがみ込んだ。

ニヤニヤと嬉しそうに笑っている。

きゃーーーードアップドアップ!!!

ってそんなこと考えてる場合じゃなくって・・・・・。

 

 

 

 

 

「私ポテチなんて食べてないもん!!変な言いがかりつけないでよ!!」

「(嘘つけ。)、そこのネクタイとって。」

「・・・・・・はい。」

「有難うさん。ついでにそこの携帯も。」

「・・・・・・はい。」

 

 

 

 

 

ブン太に視線を向けると、フルフルと震えているのがわかる。

 

怖い!!

 

仁王は気にすることなくネクタイを結んでいた。

私は仁王さん、貴方の考えてることがわかりませんよ・・・・・。

助けてはくれないんですか?

 

 

 

 

 

「俺の・・・・・・・・・・食ったのか?

「く、食ってません!食ってませんとも!!!」

食ったのか?

「・・・・・・・・・・・・・・・・食いました。」

 

 

 

 

 

本気で殺されるかと思った。

 

ブン太の目が見開かれた瞬間、私は逃げた。

逃げた。

ただひたすら逃げた。

部室から飛び出して、とにかく逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツまじウゼェぇえええええええええええええええ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室から聞こえてきたブン太の叫び声が私の背中にぶつかる。

もう戻れない。

あの部室には入れない。

私はブン太の堪忍袋の緒を切ってしまったのだから・・・・・。

ああ、私は何て罪深い人間なのでしょう。

どうか神様、できることなら十分前の私に戻してはくれないでしょうか?

この世はトリップと言うものができるのですからできなくはないはずだ。

 

 

 

 

 

「あ、そういえば鞄とか全部部室に置いてきてしまったではないですか・・・。」

 

 

 

 

 

このまま家に帰ってやろうかと思って校門まできたのはいいけれど、鞄も全てが部室に置き去りだった。

私は渋々再び部室に戻る。

絶対ブン太と目を合わせないと心に決めて部室のドアを握り、開ける。

空気が冷たく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホラー映画の中に入った気分だった。

 

ドアを開けてすぐにあるテーブルの上にブン太がドカッと座って待っていた。

この世の顔とは思えないほど彫が深くなった表情で。

そんな顔、ブン太ファンが見たらドン引きなんだろうな・・・・。

私はドン引きだった。

 

 

 

 

 

「もちろん、今新しいのを買ってきてくれたんだよな?」

「そそそそそそう!!だけど財布忘れちゃってさああははははは!!」

「そっか。じゃあ五分で帰ってこなきゃお前、逆さ吊りだからな。」

「は、はいぃぃぃぃぃいいいい!!!」

 

 

 

 

 

私はブン太の隣に置かれてある鞄を取ろうと手を伸ばした。

その手を勢いよく掴まれる。

体中の血の気が一気に引いた。

思うように動かない体を無理矢理動かし、恐る恐る顔をブン太に向ける。

 

 

 

 

 

「五倍だからな。」

「え?」

「五倍で返せっつってんだよ!!さっさと行け!!!」

「は、はい!!すみませんでしたぁぁあああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

私は鞄を抱えて部室を飛び出した。

近くにあるスーパーへとダッシュした。

もう今まで走ったことも無い速さで走っていた。

とりあえず今は命が惜しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、部室で――――――

 

 

 

 

 

「あんま虐めんといたってくれん?丸井。」

「は?アイツが悪いんだろぃ!?人の物勝手に食うとかマジありえねえんだけど!!」

「こちらとしてはお前のカロリーを考えると・・・・・助かったものだけどな。」

「柳先輩の言うとおり、ブン太さん食べすぎだから今日くらいいいんじゃないっスか?」

 

 

 

 

 

と、いう会話が部室では繰り広げられていた。

丸井はかなり不機嫌でジャージのままずっとガムを噛み続けていた。

が五袋のポテチを持って部室に帰ってくるのを待っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっと、お菓子コーナーはどこだ!?」

 

 

 

 

 

ここは少し離れてはいるが、立海からは一番近いスーパーだ。

スーパーのお菓子売りコーナーを探す。

スーパーは今からタイムサービスでもするのか、人だかりができていた。

中に若い子や、小さい子までが、安売りのシールを貼ってくれるであろう一人のオジサンに集っている。

うん。

どこのスーパーもこういう光景は同じなんだなあ。

 

 

 

 

 

「おっと、ごめんなさい!」

「おう、悪いな。」

 

 

 

 

 

なんて余所見をして歩いていたから目の前に人がいるなんて気がつかず、誰かにぶつかってしまった。

あれ?

この声、ちょっと聞き覚えない?

私は高鳴る鼓動を抑え、顔を上げた。

 

 

 

 

 

「し、宍戸さん!!!!」

 

「お、おう!な、何だよ!!?」

 

 

 

 

 

宍戸さんは驚いて(引いて)いて、一歩、後ろに仰け反った。

私は思わず名前を発してしまったことに口を押さえた。

しまった。

初対面の人の名前を何、知り合いみたいに叫んでいるんだ私は!!

思いっきり不審がってるじゃない!

そんな宍戸さんの手には、値引きシールが張られたお肉が一パック持たれていた。

 

何か不自然だ。

 

 

 

 

 

「お肉・・・・・買うんですか?」

「はあ?買っちゃいけねえのかよ。」

「だって・・・・何か・・・・・ねえ。ってか値引きシールまで・・・。」

「べ、別にいいだろ!ってかお前誰だよ!!」

 

 

 

 

 

恥ずかしそうにお肉を後ろに隠した。

顔は険しいけど真っ赤だ。

おうおう、やっぱ宍戸さんは宍戸さんだね。

宍戸さんはこうでなくっちゃ。

ってか何で宍戸さんはこんなところのスーパーに来てんのかな?

テニスバッグを持っていることから・・・・・部活帰りだろう。

 

 

 

 

 

「あ、私です!ヨロシク!!」

「?、お、おう?よ、よろしく・・・・・。(何やってんだ俺。)」

 

 

 

 

 

私の差し出した手を戸惑いながらも宍戸さんは握る。

と、すぐに放した。

照れてるのか、そこで正気に戻ったのかはわからない。

だけどわかるのは彼がバカだということだ。

そこが可愛いんだけど・・・。

今目の前にいるのが跡部様ならとっくに無視して何処かへ行っちゃうんだろうな。

いや、その前に跡部はスーパーになんか来ないね。

来てもおもしろいけど。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・何笑ってんだよ。キモイぞお前。」

「ハッ、あらヤだ、ごめんなさい。顔が勝手に・・・。」

「お前何で俺のこと知ってるわけ?その制服は・・・立海だろ?」

「はい!私今日から立海男子テニス部のマネージャーになりました!!」

「あっそう。で、俺のこと知ってるわけか。」

「ま、まあ・・・そんなところ。(本当は違うけど。)」

 

 

 

 

 

私は目を泳がせながら、自分が何しにここへ来たのかを思い出す。

そうだ。

私は五分以内にポテチを買って帰らなければ殺されるのだった!!

逆さ吊りはごめんだ!!

いきなり眼つきの変わった私を見て、宍戸さんは一歩、後ずさった。

 

 

 

 

 

「じゃ、私もう時間ないから!また会う日まで!!」

「あ、ああ。じゃあまた・・・・・・。」

「アデュー!!」

 

 

 

 

 

私はかっこよくヒロシでキメてお菓子コーナーを目指した。

宍戸が戸惑いながら手を微妙に振ってくれた。

うんうん。いい奴だ。

私はけっきょく、彼が何故このスーパーで買い物をしていたのかわからないまま宍戸さんの元を去った。

これは今日一番の私の気がかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、こういう姿だけは誰にも見られたくなかったのによ・・・。」

 

 

 

 

 

宍戸の呟きは虚しくも、安売りシールを貼るオジサンの声に掻き消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

補足説明:宍戸さん家は金持ちではありません。

       宍戸さんがお金持ちなはずがないんです。

       宍戸さんは一般庶民なんです!!

だけど今回このスーパーに来てたのはこの近くにおばあちゃん家があるからだよ。

 

お前最高だよ!!って人はをクリックだ!!

 

2007.01.22