8話 マネージャーって実はおいしいポジションではないんだよ。あ、コレ経験談。
途端に教室が騒がしくなる。
どうやらそれも女子だけのようだが、入口付近が黄色い声で煩い。
隣で携帯を弄っていた仁王が溜め息を吐いた。
そして立ち上がった。
「仁王?」
無言のまま入口に向かって歩いて行く。
何だなんだ?
仁王が近寄ると、そこにいたギャラリー達は仁王に道をあけた。
すっげえ。
私もあれやってみたいな・・・・・・。
(あ、まさか・・・・・・!)
そう、私の予想は当たっていたのだ。
入口に立っていたのは紛れも無くあの幸村だった。
うわぁ、幸村だ!生だ!
ブン太に続いて幸村までもが・・・・・!
胸が踊る。
用事は仁王にあるのだけれど。
私は生の有名人を見た気分になった。
いや、ある意味有名人よりすごいかも・・・・・。
だって漫画の人間だし。
「仁王、お前のお気に入りだっていう転校生紹介してよ。会いに来たんだ。」
「・・・・・それはそれは。わざわざ隣のクラスから転校生に挨拶か?ご苦労やな。」
「ただの転校生ならそんな面倒なことはしないよ。ただ仁王のお気に入りだって聞いたから興味が沸いたんだ。」
「それなら尚更会わせられん。帰りんしゃい。」
ドアを閉めようとする仁王に、笑顔でそれを阻止する幸村。
あは、怖っぇえ。
ドアがギチギチと妙な音を立てて震えている。
閉まる閉まらないより先に、ドアの方が逝ってしまいそうだ。
どうしようもなくドアがかわいそうに思えてくる。
「どうして会わせてくれないんだ?心が狭いな。独占欲が強いと嫌われるぞ?」
「幸村が興味本位で近付くと、いつもろくなことにならん。帰れ。」
「大人げないな仁王。ただの挨拶だって言ってるだろ?」
「お前の挨拶は一体どんな挨拶なんか・・・・信用できん。帰れ。」
「仁王、本気で怒るぞ?」
「怖くなか。帰れ。」
笑顔は絶やさないがどす黒オーラを漂わす幸村に、仁王からは帰れコールの嵐。
さっきから帰れしか言ってないじゃん。
そこまで帰ってほしいんだ・・・・・。
と言うより私が話題なんだよね?
私がどうにかしなきゃなんないのかな?
さっきから前のドアだけ人が通れない状況で、教室を行き来したい人はみんな後ろのドアから出たり入ったりしている。
はっきり言ってあの二人は邪魔だ。迷惑だ。
よし、こうなれば・・・・・
「仁王君、さっきから何してんの?ずっとそこに立ってたら他の人に迷惑だよ?」
「あ、君がちゃんだよね?ちょうど君の話をしてたんだ。俺、幸村精市。よろしくね。」
「よろしく!私、!」
差し出された手を取る。
生の笑顔も素敵ですよ幸村さん。
でも若干、握ってる手が痛いんですけど・・・・。
力篭りすぎなんですけど!!
何の恨みがあるんですか!!?
「幸村、早よ教室帰りんしゃい。用は済んだやろ。迷惑じゃ。」
「・・・・・今日のところはもう帰るよ。煩いなあ。だけどちゃん、直々また会いに来るよ。」
「はあ、いつでもどうぞ。24時間オールOKです。」
「ふふ、それは有り難いな。」
さっきよりも更に笑顔の幸村。
もう帰れと言うのに疲れたのか、仁王は黙ったまま幸村を見ていた。
本当はもう来てほしくない。
だって、痛かったし・・・・・。
何か怖いし・・・。
私の幸村像が見事に崩れていってしまっていた。
「ちゃんにはテニス部マネージャーを頼むつもりだから。考えておいて?」
教室の扉が閉まり、幸村は私達の前から姿を消した。
マネージャー。
マネージャー・・・・・・マネージャー!!?
私が!?何で!?
トリップだから!?トリップだからか!?
トリップするとマネージャーになれるというありきたりなパターンですか!!?
仁王君の反応を見てみると、至って普通。
何かリアクションしてよ!
「マネージャーって・・・・・今いないの?」
「一人だけおる。」
「じゃあどうして私なんか・・・・何かあるのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・プリッ。」
「は?」
理解不能な言葉を呟くと、仁王は私の頭をよしよしと撫でた。
それ以外は何も言ってくれなかった。
少し打ち解けた感はあるけれど、仁王の行動はやはり未だ理解ができない。
これは私の頭が悪いからなのか?
それよりも、はたして仁王を理解できる者はいるのだろうか。
柳生ヒロシとか?
いや、案外理解できていないかも。
奴までいけばもういっそのこと感覚で付き合ってそうだ。
私も見習おう。
感覚って大切だよね。うん。
私はマネージャーという最もおいしいポジションにつこうかどうかを真剣に悩んでいる。
昨日、幸村に言われてから、今に至るまでいろいろ考えた。
そもそもマネージャーって何するものなの?
雑用ならごめんだ。
私は人にこき使われるのは好まない。
だってこき使う側の人間だから。
そんなことで悩みながら朝の通学路を歩いていた。
「やっぱせっかくだしなあ・・・・やってみようかなあ・・・・・。」
「危ねえ!!」
「はい?」
大きな衝撃を受け、思わず閉じた目を開くと、青空が視界に広がった。
そのうえ、体に重みを感じる。
もう何がなんだかわからない。
何がどうなったんだ?
体中が痛いんですけど・・・・。
私の上で何かがモゾモゾと動き出した。
「いってぇ・・・・アンタ、大丈夫?」
そう言って起き上がった奴の顔は・・・・・・正真正銘の切原赤也!!
私の求め続けた王子様!
こんなところで出会えるなんてやっぱり私と赤也は運命の赤い糸で繋がっているんだ!
しかも今彼は私の上に跨がってる状態ですよ!?
何このおいしいシチュエーションは!?
ちょっと重いし体痛いけど、それが赤也なら私はどんな痛みにだって耐えてみせるわ!
ジャッカルなら殴り飛ばしてるところだけど。
「もしもーし。意識ある?もしかして頭打っちゃった?」
きゃぁぁああーーーーーーー!!
赤也が私に話し掛けてるよ!
ありえない!これ夢!?
そんなに見つめられたら私鼻血出しちゃうよ!
出したら第一印象丸潰れになるから出さないけど・・・・。
「聞いてる?ってか聞こえてる?おーい、大丈夫って聞いてんだろ?何とか言えよ!!」
あ〜、怒った顔も可愛い!
写メ撮りたい。
撮っていいかな?
あ、でも携帯鞄の中だあ・・・・・。
潰されちゃうかもしれないから我慢しよう。
今度隠し撮りでもしようか。
ああ、この通学路でよかった。
「おい!おい!マジで頭打ったわけ!?おいってば!!」
「は、はいぃぃぃいいいい!!?」
両肩を掴まれて前後に揺さ振られる。
妄想していた脳内がシェイクされて一気に吹っ飛んでいった。
目の前には少しお怒り気味の赤也。
こ、怖い!!!!!
「よし、ちゃんと意識はあるな!よかったー・・・・。俺てっきりやっちゃったかとおもったじゃん。ちゃんと聞こえてんなら返事しろよな!」
「や、やっちゃった?」
「重傷でも負わせたかなと思ったわけ!でも意識あるし大丈夫そうだな。ほんとビビッたし!」
そう言うと赤也は地面にへたり込んだ。
お・・・・怒ってるわけではなさそうだね。
うん。よかった。
「怪我ない?あとはー・・・・痛いところとか?あったら今のうちに言ってよ。あとから言われたって俺知らねえからな!」
「別にないよ!?大丈夫!全然ピンピンしてるから!!」
「そ?それはよかった。じゃ、遅刻したら怒られるからもう行くな!」
「げ、もうこんな時間じゃん!!」
隣のお店の時計を見上げた。
あと三分もすれば遅刻を決定付ける鐘が鳴る。
私も急がなくては!!
赤也に会えた嬉しさのあまり私、危うく遅刻するところだったわ。
無遅刻無欠席目指そうってさっき密かに誓ったのに!
私は、猛スピードで走り去って見えなくなってしまった赤也を追い、走り出した。
あとがき
赤也って主人公が年上だって気づいてないんだね。
誰か何とか言ってやってよ!だからあんな生意気に育っちゃったのよ!
でもそんな赤也が可愛いのよ・・・・・・。(ダメじゃん)
2006.12.23