7話 八つ当たりはいけないことだとわかっていても、結局やっちゃうんだって。
「なあ、仁王いる?」
顔を真っ赤にして教室内を振り返る女の子。
教室からは夥しいジャッカルの叫び声が聞こえていた。
女の子の目線を辿れば、その先にはジャッカルが見慣れない女の子にプロレス技をかけられていた。
そこに、仁王もいた。
テニス雑誌を読みながら時々、ジャッカルとその女の子に視線を向けている。
何、何で仁王があの輪の中に入っちゃってるわけ?
どうなってんの?
俺らと昼飯食うの断ったのってこれが理由?
何か・・・ムカつくんだけど。
「仁王君ならさん達と一緒にいるけど・・・呼んで来た方がいい?」
俯きかげんで恥ずかしさそうに俺に問う。
「いや、別にいいや。サンキューな。」
「う、ううん!別にいいの!」
女の子は慌てたように俺の横を通り過ぎて行った。
せっかく英語の教科書借りるのを口実に様子見にきたのによ。
何?このモヤモヤ感。
そういえば、って言う女がジャッカルを半端なく絞めているあの女の子のことだろう。
俺は何故か直感でわかった。
あの子が俺に何をしたわけでもないのに、何故か煮えたぎるへの憎悪。
この時はただ、崩れていく俺達の関係を全てのせいだと思い込んでいたんだ。
「俺もここで食ってよか?」
昼休みのチャイムが鳴り、いつも通りにお弁当を広げる。
ただいつもと違ったのは、そこに仁王が現れたことだった。
「・・・・・・も、もちろんいいに決まってんじゃん!どうしたのさ仁王君!一日にして心変わりかい!?」
「まあそんなところ。俺、お前さんに少し興味持ったナリ。」
聞きましたか!?
仁王が私に興味持ったんだって!
何だか今ものすごく嬉しいんだけど!
残金二百円でスクラッチして千円当たった気分だよ!
今日ご飯いっぱい食べれそう。
「ちょっと!卵焼き取らないでちょうだい!」
「卵焼きぐらいでぐたぐた言わないでよ・・・。はい、ブロッコリーあげるからさ。機嫌直して?」
「アンタって子は・・・せめてウインナーとか言えないわけ?」
「ないねー。」
卵焼きのあったところにブロッコリーを入れる。
咲が怒っていた。
仁王を少し盗み見る。
ジャッカルや龍ちゃんと普通に話していた。
よかった。
って何で転校生の私が安心してんのよ。
私の方がこのクラスに馴染めてないはずなのに・・・・・。
「、許してあげるからジャッカルのウインナー取ってきて。」
「は?ジャッカルの?何で?」
「咲はだなー、ウインナーが好物なんだよ。だから。」
「そ、それで私をパシるんですか?」
「卵焼きがブロッコリーに勝てるとでも思ってんの?さっさと取って来てよ。」
「・・・・・・・・・はいはい。今行ってきますよ!」
咲のウインナーを取るべく、私はジャッカルの背後に忍び寄る。
仁王がチラリと私に視線を向けた。
ジャッカルは、まだ気づいていない。
よし、今だ!
「ジャッカル覚悟!!」
「ぬぉっ!!?何だよ!!!?」
私の箸にジャッカルのウインナーが刺さった。
それをすかさず咲のお弁当箱へ放り込む。
咲が満面の笑みを浮かべたのを私は見逃さなかった。
そんなにウインナーが好きなのか?
そんなにウインナーが好きなのか!?
「ありがとう、。大好きよ。」
「あ・・・・・ありがとう、私も好きだよ、咲。」
「・・・・・・・・・・・・おい。別にウインナーくらい「くれ」って言えば普通にやるから。
やるからお願いだ。普通に取ってくれ。」
ジャッカルの机には引っ繰り返ったお弁当。
中味がほとんど入ってなかったのが幸いか、机には一口分のご飯とトマトが転がっていただけだった。
だけど、ちょっと可哀想かな。
ジャッカルは怒っているというよりは呆れているようだ。
「ごめんね。咲の絶対命令だったんだよ。」
「違うわ。ただのお願いよ。」
「どっちでもいいわ。ま、もう食べ終わるところだったし。今回は許してやるよ。」
「ありがとうジャッカル。お詫びに食後のプロレスごっこにでも付き合ってあげるよ。」
「いらねえよ。付き合ってあげるって何だよ。俺頼んでねえよ。」
ジャッカルは呆れたように溜め息を吐いた。
私もちょうど食べ終わったところだし、食後の運動でもしますか!
私はジャッカルの意見を無視して、ジャッカルに飛び掛った。
不意打ちだったのか、ジャッカルはすぐに私に捕まる。
ハハハ、だっせえ。
「お前さん、そんなんじゃレギュラーもすぐ落とされるぜよ?」
「そんなこと言わずに助けてくれよ仁王!コイツ変に力強ぇんだって!」
「しばらく頑張りんしゃい。十分経ってもそのままじゃったら助けてやる。」
「は、薄情者!!」
「ピヨッ。」
仁王は再び雑誌に視線を移した。
私は早速ジャッカルにきのうの夜にテレビで見た新技を試してみる。
ジャッカルから変な叫び声が聞こえた。
それからすぐにして、そこに現れたのはなんと、なんと!!!
立海で二番目にお気に入りのキャラ!
丸井ブン太が立っていたのです。
「仁王、教科書貸して!」
「ん、丸井か。何の?」
「英語の!」
「英語?ああ・・・・・・・・・・・・・パリパリでもよか?」
「は?何で?」
「ヨダレついちょるんよ。でももう乾いてるから大丈夫ナリ。」
「お、お前・・・・・・・・・・ヨダレ垂らしたのか?」
「いや、コイツが。」
「コイツって・・・・・・・・・・・!、お前教科書貸したの!?」
「ああ。一緒に使ったけどそれがどうかしたかの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、別に。」
ブン太は気まずそうに視線を出された教科書に向けた。
彼にとっては意外だったんだろう。
あの仁王がクラスの子と授業中に教科書を一緒に使うということが。
しかも相手が女子ときた。
そりゃ仁王やブン太、他のテニス部員は女にモテることも普通であり、告白だってされる。
てきとうに付き合ったりだってする。女の子に愛想を振り撒く時だってある。
だけど、クラスの女子だけには手を出さない。
これは暗黙の了解のうちの鉄則だったからだ。
クラスの奴ら、特に女子にはあまり愛想を振り撒いたりしない。告白されたって付き合わない。
その理由は簡単だ。近くに居すぎたら面倒なことがいろいろと多い。
だから一番近いクラスメートとはあまり深い関係にはならないようにしていたのだ。
なのに、それなのに仁王は最近、転校生と言われるに興味深々(?)だ。
ブン太は仁王から教科書を受け取ると、一度だけ視線をに向けた。
の心臓が跳ね上がる。
四日目にして初めて仁王とジャッカル以外のレギュラーを見たのだ。
の目には少し感動とも言える涙が滲んでいた。
「。」
「は、はい!!?何でしょう!!?」
「・・・・・・・・・・・・別に。呼んでみただけ。じゃあ俺教室帰るわ仁王。」
「おお、部活の時にでも返してくれたらよか。」
パリパリの教科書を片手にブン太が教室から出て行った。
仁王はそんなブン太の背中を見て苦笑った。
すぐにに視線を変え、「悪いの。」とだけ呟いてまた雑誌を読み始める。
はこの時、何故仁王が自分に謝ったのか、理解ができなかった。
だけど仁王は、これから起こる出来事を予期していたのかもしれない。
あとがき
女に嫉妬ってどうよ・・・・・・・・・。ねえブン太サン。
2006.12.16