6話 男なんだから女々しいことは言わないの。見っとも無い。ってよく言われる。
何だよ。何でだよ。
最近、何かがおかしい。
俺の知らないところで『日常』が崩れ出していた。
「は?今何て言ったわけ?」
「すまんの。俺、今日から昼は教室で食うことにした。」
仁王の一言に、俺ら全員が耳を疑った。
柳だけは冷静に仁王を見つめている。
「そんな・・・いきなり何でなんスか!?」
「仁王君、何かあったのですか?」
扉の前で立ったまま無言の仁王。
口の周りに米粒を二つつけた赤也が立ち上がった。
柳生の問いかけにも何も答えない。
まさか仁王がそんなことを言い出すとは思いもしていなかった俺らは、あまりにも急な仁王の台詞に戸惑いを隠せなかった。
「仁王、別に無理にここで食えなんて言わないよ?だけど理由くらい聞かせてくれてもいいんじゃない?」
・・・・・幸村。
笑顔だけど怖えよ。
コイツが隣にいるとパンも喉通らねえよ。
だけど真田は黙って黙々と弁当を食べている。
コイツも何か・・・空気読めない奴だよな。
「別にたいした理由はなか。ただ教室で食いたいと思っただけ。じゃ、俺は教室に戻るんで。」
そう言うと、仁王は屋上を出て行った。
残された俺達はただただ呆然。
最初に口を開いたのは空気の読めない真田だった。
「何をしている?早く食べないと休憩時間が終わるぞ。」
幸村が真田を見た(睨んだ)。
真田が無言で再び箸を進めた。
ホント、真田って空気読めねえんだな!
こんなので飯なんか食えっかよ。
いや、俺はもう食い終わってっけどさ。
「仁王・・・どうして?何でなの?ねえ、何があったのかな!?」
「・・・・・まさか仁王があんなことを言い出すなんて、何か余程のことがあるんだろうね。」
「余程のことって!?」
「落ち着いて下さい無道さん。理由は存じませんし、仁王君はああ言いましたけど・・・・また近いうち戻ってきますよ。」
気が動転している雪菜を柳生が宥める。
柳生の言う通り、俺も仁王はすぐ戻ってくると思ってた。
だって俺達、いつも当たり前のようにここで食ってたんだぜ?
俺達レギュラーは気がついたら屋上で昼休みを過ごすのが日課になっていた。
クラスの奴といるよりコイツらといる方が面白いからだ。
ジャッカルはもともとあまり屋上でも食ってなかったし、教室で食うことも多かった。
別にそれが普通だったからあまりいてもいなくても気にならない。
最近は教室が多い気もするけどな。
「柳先輩!何か知らないんスか!?」
「・・・・・・心当たりはなくもないが・・・・あることはある。」
「何なの!?柳君、教えてよ!」
柳の返答に雪菜が食いつく。
何か、雪菜がいつもと違って見えた。
いつもは優しくて笑顔が可愛くて、しっかりしていて、ふんわりした、
おっとりとした雰囲気を纏った女の子なのに、今日は妙に必死だった。
まあ、仁王があんなこと言ったんだ。
部員思いの雪菜が動揺するのもおかしくねえよな。
柳が箸をケースにしまった。
「が原因の確率がかなり高い。彼女が仁王に何らかの影響を与えているみたいだな。」
「?きのう言ってた転校生?」
「そうだ。」
雪菜の問いに柳は頷いた。
転校生の女。
まだ俺は見たことがねえ。
そいつが仁王に何をしたって言うんだ?
何をされたら仁王は俺達から離れていっちまうんだよ。
俺、納得いかねえ。
「何やら最近、仁王の周りをうろちょろしているらしいね。誰からだったか・・・昨日聞いたよ。
俺、まだ顔を見ていなくてね。早く見たいと思ってるんだけどなかなか会えなくて・・・・
今度呼び出してみようか?ふふ。」
幸村が笑った。
ちょうど弁当を食べ終えた真田が、最後の一口を味わう間もなく飲み込んだ。
そのため、少し噎せていた。
「何なんスかその人!仁王先輩のストーカー!?」
「いや、そう言うつもりではないらしいぞ。だからだ。とりあえず今日のところは諦めて先に飯を食え。
昼飯を食わなければ午後の練習に響いてくるからな。さ、早くしないと時間がないぞ。」
柳の言葉を最後に、みんな昼飯を再開した。
俺はまた、右隣りの雪菜の弁当をつまみ食いする。
いつもおいしい雪菜の弁当が何故か、今日は味気なく感じた。
あとがき
ブン太視点。仁王が急に心変わりですね。
何だかんだ言ってレギュラー陣って仲間意識が女より強い気がする。
いいことなのか悪いことなのか・・・・・・・・。
昼飯くらいどっちで食おうがどっちでもええやん。
2006.12.16