着慣れないエプロンに、危なっかしい手付きで扱う調理道具。

甘いチョコの香りが、キッチンに充満している中で、

額の汗を拭い、ふぅ・・・と一息。



「・・・・・出来た。」



何度か試行錯誤を重ねた努力の結果=最高のガトーショコラに優しく微笑む。

・・・だが、問題はここから。

これからが正念場・・・「コレ」をどうやってアイツに渡すか、だ。

いつも喧嘩ばっかりしているクラスメイトの切原赤也に・・・。






Strongminded Lover






というのも、2月に入って間も無くだったはずだ。

世間で話題になるのは2月の一大乙女イベント「St.バレンタインデー」であって、

恋する乙女達は「ねぇ、誰にチョコ渡す?」なんて可愛い相談を囁き始めた。

恋愛に無縁だった去年までのあたしにとっては、何て面倒なイベントだろう・・・と、

これが同じ女子を構成する染色体を持った人間なのか疑いたくなったのだけども、

 今 年 は 違 う ! !

今年は、チョコを渡したい相手がいるのだから、この1年で大きな進歩があったと思いたい。



で、その相手と言うのがこれまた厄介でね。

好きといえば好きなんだけど、いつも憎まれ口を叩き合うクラスメイトで、

カッチーンと頭に来るデリカシーの無い生意気な発言とかする奴だから、

本当に好きなのかというと、やや疑問が残るというか・・・。

でもさ、アイツって全国でも有名な我がテニス部の期待のエースとかで、

普段教室に居るときは、お気楽なお調子者なのに、

真面目にテニスに打ち込んでいるところとか見ちゃうと・・・迂闊にもカッコイイなって思ってしまって?

・・・どうしてアイツを好きになっちゃったのか、本当悔しい限りですよ、全くもぅ。



まぁ、奴に踊らされているわけだけど、バレンタインを特別意識してたわけでもなくて。

3日前まで、この機会を簡単&完璧にスルーしようと思ってたあたしというのは、

やっぱり恋する乙女代表の準レギュにもなれないと思う・・・。

何があたしを触発させたかと言うと、それがまた、切原だった。

昼休みに友達のバレンタインデーの計画を聞いていたあたしに、奴は問い掛けた。



「なぁ、もチョコ渡したりするわけ?」

「・・・は?」

「いや、オレなりに心配してたりするんだゼ?

 ・・・ガサツなのチョコでオトコ落ちたりするのかなぁ・・・と。

 お前と家庭科の調理実習の班、一緒だからさ〜〜〜なんてゆぅか、味が不安で不安で・・・。」

「余計なお世話だってば!!」

「そもそも、チョコを渡す相手がいねェと作ることもできねェけどなっ。」



ケラケラ笑う切原に腹が立ち、あたしもいい加減流せばいいのに真っ向から勝負するから、

ついつい可愛いくないこと言っちゃうのよね・・・毎回、反省しているつもりなんだけどな。



「残念ながら? 今年は、ばーーーっちり大本命いるんだからっ!!

 まぁ、相手を教えてやるつもりなんて全然無いけど?」



・・・これが、大本命に言う言葉なのか自分でも首を傾げたくなる。

どうして、こぅ・・・もっと・・・・・ねぇ、しおらしく居られないのか、極めて謎。

切原はというと、「っげ、まじっスか?!」と怯むものの、

すぐに口角を上げ、笑った。



「ま・・・・・頑張りたまえ・・・おっ、今の柳生先輩のモノマネ、上手くね、オレ?」



・・・うん、結構似てる。

じゃなくて!! 

この減らず口を黙らせて出鼻を挫くような超デリシャスなバレンタインプレゼント送ってやるから、

覚悟してなさいよっ・・・と、突如バレンタインという名の戦いに身を投じたわけ。










そして、バレンタイン当日の今日。

綺麗にラッピングしたガトーショコラが入った紙袋を片手に、登校するわけだけど。

今、ハっと気が付く・・・。

このチョコを渡すというのは、何?

 あ た し 、 告 白 す る っ て こ と ! ?

・・・・・ついつい、あたしのチョコが食べられないってゆぅのなら、食べてみてから言いなさいよ!

と、無駄に負けず嫌いっぷりを発揮しちゃったんですけどね・・・これ、どうやって渡そう。

あれかな、何気無い顔で、「ガトーショコラ作ったから食べて」とか・・・いや、それは無いな、不自然だ。

じゃ、どうしよう・・・「何も言わずに受け取れ!!」とか・・・乙女じゃない気がするし、むしろ怪しい。

「べ、別に・・・アンタだけの為に作ったんじゃないんだからっ、勘違いしないで!!」とかは?

うっわー・・・・・激、あたしらしい・・・・・ツンデレですか。

もっと、可愛いくさぁ・・・素直に、なれればいいのに・・・。



校門を抜け、昇降口に向かうと恋の花咲く女子生徒達がきゃっきゃと頬染めて、

好きなヒトの下駄箱に手紙を忍ばせていた。

なァ〜るほど、その手紙で相手を呼び出すという作戦ですかっ!!

かしこいなぁ、乙女達は・・・あたしもその手でまずは切原をおびき出しますか(おびきだす?)


そぅ〜っと、ね・・・奴の下駄箱を探し出して、隙間から中身を覘こうと思った。

が、「覘く」という行為が無意味なまでにだよ・・・下駄箱から溢れ出てるんだよっ手紙とかプレゼントが!!

信じられる!? どうして、あの切原にこんなにも贈られてくるの!?

や、そりゃあたしもその内の一人なんだってすぐに気が付いたけど・・・異常でしょ、このモテ度は!!



「・・・あっ、じゃん? おはよ。」

「わァ゛!!」



全身逆毛が立ったかと思ったよ? 

思わず絶叫、驚かさないでよ!!

振り返ると、テニスバックを背負って、両手にプレゼントを抱えたご本人様が立っていた。

何故、何故だ・・・まだ今日という日が始まって少ししかたっていないのに、

どうしたらアンタそんなにプレゼントを貰えるのよ、他の男子に刺されるんじゃ・・・?

切原の後ろには、ああ、テニス部3年レギュラーの仁王先輩が居て、

相変わらずの女子人気っぷりに眩暈がしそうだよ。

そうよ、このヒトがモテモテなのは分かるわよ!! カッコイイし!!

なのに、どうしてだ・・・どうして、切原まで同等にモテるのか・・・テニス部恐るべし・・・!!



「何、驚いてるんだよ・・・はは〜ん、まさかまさか、もアレっスか?

 その紙袋の中身って・・・。」



め、目敏いわねっ、切原赤也っ。

左手にぶら提げた紙袋を指差して、ニヤりと笑ってた。

あたしはというと・・・沢山のプレゼントを抱えた切原を目の前にして、瞬時に落ち込んだ。

ああ、何してるんだろう・・・・・あたしがこの幸せワカメに、

大して美味しいわけでもないバレンタインチョコを渡したところで、

あの沢山のプレゼントの一つとして埋もれていくわけで、ね。

あたしの、切原への(曖昧だけども、好きなんだと思う)想いなんて、

伝わることも無く、北風に吹かれて飛んでいくのだろう・・・・・。

急に、胸が苦しくなった。

自分が自分じゃないような、自分をとても客観視して、切原との距離や関係なんて、

近いわけでもなく、ましてただのクラスメイトだってゆぅことに気付くと、

バレンタインという「慣習」に躍らされただけの自分がとても虚しかった。

だからっっっ・・・・・。



「違っ、これはアンタのじゃないもんっ!!」

「はァ!?」



まだ、何も言ってない、ただ紙袋を指差しただけの彼に、

あたしは、思っても無いことを言ってしまった。

あたしの幼い恋心が、そのプレゼントにハート焦がしてそっぽを向いてしまって・・・素直じゃない。

目を丸くする切原、あたしは震えていた。

暴走した心を止める術を知らず、勢いそのままで後ろに居た仁王先輩に声を掛けてしまった。



「に、仁王先輩に渡そうと思ったんだから・・・さ、仁王先輩っ、バレンタインチョコ受け取ってください!!」

「あ・・・ああ、ありがとのぅ。嬉しいナリよ。」



仁王先輩は、どこのどいつかもわかりませんでしょうが、そんなあたしのバレンタインチョコを押し付けられ、

戸惑いながらも、詐欺師の笑顔を繕って受け取ってくれた。



「ってゆーわけだから、あたしの色恋どうこぅ、アンタに世話になるつもり無いんでっ。」



あたしは、踵を返す。

あたしの名を呼ぶ切原の渇いた声が、背中を追いかけてくるけど、

必死に振りほどいて、駆け出す。



屋上まで駆け上がって、



その途中の階段で、



大粒の涙がポタポタと零れ落ちた。



なにやってるのよ、あたし。





大後悔だ・・・。





どこまで意地を張りたいんだろう。

「切原のことが好きだよ、文句有る?」くらいでいいじゃん・・・どうして、好きとは裏腹な態度しちゃったんだろう。

あたし、一生懸命作ったのに・・・・・な。





心とは正反対に綺麗な青空の下。

過呼吸、苦しい。

心も、苦しい。

遠くで、予鈴が鳴っているのが聞こえたけど、もぅどうでもいいんだ。

いつもは虚勢張ってるくせに、

実はめちゃくちゃ臆病で弱い自分が、もう大嫌いで、

こんな自分を、好きな相手の前に晒すことが、出来る分けなくて・・・。



「あたし、バカだな・・・。」



て、呆れて、地面に寝転んだ。

冷たいコンクリの感触が痛いはずなのに、今はもぅ何も感じない・・・。



泣き疲れて、フっと力が抜けて、



意識が朦朧と・・・夢と現の間を彷徨っていた・・・ときだった。



温かな大きな手が、あたしの頬を包む・・・。

あったかい・・・温もりに凍った時間が、解け始めて。

その手が、誰だかに気付くまで、必死に名前を呼ばれているのに気付くまで、

しばらく掛かったけど、魔法が解けたとき程、驚いたことは無い。



「・・・っぎゃぁぁぁ!! 何、何してんのっ、切原!!」

「お、お前っ・・・ヒトが心配して探しに来てやったつぅのに、その反応はねェだろ!?」

「っはぁ!? ・・・心配って・・・え、心配?」

「お、おぅ。ホームルーム始まっても、教室にの姿がねェし、

 さっきの・・・下駄箱での様子、明らかにおかしかったしな。

 ・・・ったく、何、不貞寝してんだよ・・・こんなに冷てぇところで。」



少し大人な切原が、そこに居て・・・益々自分のした対応に、嫌気がさす中、

切原は、ブレザーを脱いで、冷え切ったあたしの肩に羽織らせた。

・・・悔しいくらいに優しくて、あたしは何て言えばいいのかわからなくて閉口したままだ。





「・・・・・お前な、オレの世話になるつもり無いとか言っといてさ、

 お世話焼かせないでくれる?」





切原が、モジャりとした黒髪を掻きながら、あたしを睨む。



「・・・き、りはらっ!!?」

「はぁ〜〜〜、本当、バカだろ、アンタ?

 ・・・普通さー、好きじゃねェヒトにチョコ押し付けたりしないっつーの。

 まじ、オレ、大変だったんだけど?」



「ほらっ」と奴の後方にある、さっきまであたしが大事にしていた紙袋が置いてあった。



「・・・・・なんで・・・・・なんで、あたしのチョコが・・・。」

「最初から、バレバレだっつーの、お前の気持ちは!!

 逆に問う、どうしてお前にはオレの気持ちが伝わらないわけ?」

「・・・は?」



ごめん、意味がわからない。

切原くん、展開速すぎて、あたしついていけませんっ!!と挙手して発言したい。

あたしの気持ちってのは、何?

何に対しての?

そして、切原の気持ちって・・・ 何 で す か ?



「そのさ・・・ぽかーんとした表情でね、「えー、あたしわかんなーい!」みたいなの、

 まじウゼェからやめろよ? って、本当・・・鈍いし、バカだし・・・って、痛ァ!!」

「どさくさに紛れて、あたしの悪口言わないでくれる?

 ってゆぅか、何よ、一人だけ勝手に話し進めないでよ。」



頬をギュっと抓ってやった、なにそれ、あたしそんなに鈍いの?



「だからさっ・・・・・オレはずっと前から、のこと好きだったつーのに、

 どして分からないのかな、と、甚だ疑問に思うわけ。」

「知らないわよ、アンタがあたしのこと好きだなんて・・・・・っは!? す、好きぃぃぃ!?」

「・・・ほら、すっげぇ鈍いじゃん。」



脳に「のことが好き」という切原の声が届いて、

体内を流れる血がボルテージ上げましたっ・・・グツグツと熱い。

思考回路はショート寸前どころじゃなくて、ショートして放電・・・。

心臓がバグバグ唸って暴れている。



「じゃなきゃ、わざわざ心配して探しに来たり・・・ましてや、

 先輩からチョコ奪還するわけねェだろ?

 ・・・・・で、は?? は、オレのことどぅ思ってる?」



まさかな、「好き」という言葉以外は受け付けねぇぞと言わんばかりの、

自信満々な笑みが、すっごい憎たらしくて、すっごくカッコ良くて・・・。

あたしは、その真っ直ぐな瞳に吸い込まれる。



「・・・悔しいけどあたし切原のことが好き、です。」

「「悔しい」ってのは余計だからね?」

「だって、悔しいんだもん・・・。」

「あのなぁ、お前・・・。」



多分ね、一生掛かっても、切原に対して、素直になれないと思うの。



「だって、信じられないじゃん・・・どうして、好きになっちゃったのか。」

「ばっか、オレは、好きにさせる自信はあったてェの!!」

「だから、その自信過剰なところがすっごいムカつくし、事実、その自信が証明されたから悔しいっ!」

「まった、お前、可愛いくないことを・・・。」

「で、それがどうして他の女子からもモテるのかが、極めて謎だし、何かこぅイライラするよね。」

「あ、それってヤキモチだろ? って、結構嫉妬深い・・・痛ェェ!!」

「ヤキモチじゃないもんっ!!」



今度は爪を立てて、頬を抓って言葉を遮った。

もっと、パステルカラーみたいにふんわりした付き合いができればいいのに、

どうもね、お互いの色を主張した原色のぶつかり合いみたいな関係で。

でも、それが、あたし達らしいというか・・・。

だけどさ、それがあたし達のテンポ、心地良い(はずの)テンポだから、

これからも、このままのあたし達なんだと思うのね。

まぁ、ただひとつ違うと言えば・・・。



「え、で、あたしと切原・・・付き合うの?」

「どうして、そうさぁ・・・空気読めないかなぁ?」

「だって、信じられないし・・・まじで、切原があたしの彼氏?」

「・・・・・じゃあ、付き合うの止めとく?」

「い、いやっ、それは嫌・・・・・かもしれない。」

「かもしれないって、何だ? もっと全力で否定しとこうよ。」



お互いの秘めていた気持ちが通い合ったということで。

それは、友達関係を卒業した、恋愛のパートナーとして、隣に居ることができるということで。


相変わらず、真正面向いて可愛いことなんて言えるわけ無いけど、

でも、切原もあたしも、いい顔して笑い合ってて・・・。


バレンタインってのも、なかなか悪く無いかなァ〜なんて思ったり・・・。



「・・・じゃあ、そのプレゼントは、切原にあげる。

 特 別 だ か ら ね っ ! ! 」

「ったく、他に受け取り手がいなかったからって・・・仕方ねェよな、全く。」

「お返しは、勿論3倍返しで待ってるからっ。」

「お前って奴はっっ・・・・・。」



まだまだ幼い恋の始まりだけども。

少しずつ大人になれるように。

一歩一歩、一緒に前に進んで行けたら。



冬空の下、ガトーショコラの甘い香りがあたし達を包み、

風穏やかに、太陽は優しく照らしている・・・そんなバレンタインデーの恋物語。


                          END
                          08/02/21

***

恋愛ゴッコのユギリ様に捧げます。
バレンタインデーにお贈りしたかったのですが、すみませっ相変わらずの遅筆で、
1週間くらい過ぎてしまいました。
相互記念のいただいたリクが、赤也とタメ設定だったので、
当サイト連載中のRDSのヒロインみたいな、そしてもっと気の強いツンデレタイプの
ヒロインとの中学生っぽいお話を書かせていただきました。
背景描写とかすっ飛ばして、ヒロインの気持ちが全面に爆発した内容で、
ユギリ様からとっても素敵な仁王夢をいただいたのに、お返しがコレでいいのか不安だったり・・・。
少しでもお気に召していただけたら幸いです。
ではでは、長くなってしまいましたが・・・これからもこんな管理人ですが、
どぞどぞお付き合いいただければ幸いです〜。
改めてよろしくお願いしますっ。
ではでは、失礼します。

愛咲アリス@Sweets 拝




わーわーやっばいありがとうございます!!
お気に召したとか言うよりももう私が図々しくも要求した内容そのまんまです!
こんなに素敵な赤也夢をいただいてしまって…(´;:`)…おっと鼻血が…
本当にいいんですか!? 返してと言ったって絶対返しませんよ!?
いや、もうあっしRDS大好きなんでRDS系のヒロイン超大好きです!
大大大大歓迎です! ぎゃぼっ。
赤也を自分で頼んでおきながら途中のちらりと登場した仁王に不覚にも萌えました。笑
でもやっぱタメの赤也設定はいいですね!もう最高でした!
いつもは素直じゃない赤也だけど最終的にはヒロインより素直になる赤也が本当によかったです^^
お望みどおりの夢小説で大感激でした! 私のあれのお返しに相応するのか心配なくらい…。笑
こんな私のためにわざわざ時間を割いて作ってくださってありがとうございました!
これからも末長くよろしくお願いします!



ユギリ@恋愛ゴッコ