いつだったか。

 

もう蝉は鳴いていない。

 

代わりに優しい虫の音が聞こえる。

 

べっとりした風はなく。

 

肌にひんやりとした風が吹いていた。

 

そんな季節。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もういいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、何て?」

 

 

 

 

 

しんとした教室に二人。

男、女。

もちろん私が女で相手が男。

そんな私達は向かい合い、真っ赤な夕日が差す教室に佇んでいた。

 

 

 

 

 

「だから、別れよ。」

 

 

 

 

 

うまく聞き取れなくてもう一度聞き返す。

そして返ってきた言葉に愕然。

聞かなきゃよかった。

そう後悔したってもう遅い。

別れは告げられてしまった。

どうして?

なんて愚問だ。

だって、わかりきったことなんだもん。

それに聞いたところで今のをなかったことに、なんてなるはずがなかったから。

くだらないよね。

 

 

 

 

 

「そ。じゃあバイバイ。」

 

 

 

 

 

表情ひとつ変えずに手を振って先に教室を出る。

笑ってあげればよかったかな。

それとも泣いて引き止めの言葉を言えばよかったかな。

でも言ったところで彼の慰めにもならないし、むしろ惨めなだけ。

もちろん彼がだ。

 

 

 

 

 

もともと私は心ここに在らずといった態度で彼に接してきた。

彼もそれを承知で付き合っていたのだから。

仕方がないといえばそれまでだ。

 

 

 

 

 

教室を出る直前にぼそりと、何か呟く声が聞こえた気がした。

きっとそれも気のせいだと、そう無理に思い込んで気にする素振りすら見せずに

私は振り返ることなく、彼の表情すら一目も見ることなくその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!」

 

 

 

 

 

長年やってきたテニス部ももう引退したばかりの宍戸がフェンスの向こうから私を呼ぶ。

彼はまだ部活に顔を出していたのか。

恰好が制服だというものの、手にはラケットがしっかりと握られている。

彼のすぐ近くには後輩だろうか、銀髪の身長が高い男の子がこちらを向いて立っていた。

 

 

 

 

 

「今から帰んの?」

「うん。宍戸は部活?」

「ちょっとコイツに用があってな。でももう終わり。」

「ふーん。・・・そっち行っていい?」

「おう、いいだろ長太郎?」

「あ、はい!たぶんいいと思います!」

 

 

 

 

 

長太郎君からの許可がおりると、私はここから一番近い入口をさがして中へと入った。

テニスコート内に入るのは初めてで、何だか少し胸が踊った。

そういえば跡部君が部長の時は部外者立ち入り禁止だったよね。

いいのかな。入っても。

 

 

 

 

 

「お前、和樹は?一緒に帰んねえのかよ。」

「・・・・別れた。」

 

 

 

 

 

足元に落ちていたボールをひとつ手に取って投げて遊ぶ。

一瞬にして大きく目が見開かれた宍戸から「悪ぃ・・・」と気まずそうな謝罪が返ってきた。

別に謝まらなくてもいいのに。

そう思ってボールで遊ぶ手を止めたけど宍戸の隣に立っていた長太郎君も微妙な顔をしていたので

やっぱり別れた私に対して同情しちゃうんだなーという何とも言えない感情が私の中を取り巻いた。

 

 

 

 

 

「理由とかは・・・聞かない方がいいよな?」

「さあ。私フラれた身だから。」

「え、アイツからフッたのかよ!?」

 

 

 

 

 

驚くのも無理はない。

告白してきたのは向こうからだ。

それは仲を取り持った宍戸だから知ってること。

断れなかった原因はここだったんだ。

好きでもない。その気もないのに付き合ったのは宍戸への当て付け。

私の気持ちにも気付かなかった宍戸に業を煮やした私は、投げやりになって奴を勧めてきた宍戸に二言返事を返したんだ。

 

 

 

 

 

少しは、気づいてくれたってよかったじゃん。

 

 

 

 

 

「何だったんだよ和樹の奴・・・俺に協力求めてきたくせに。」

「まあそう責めないであげてよ。悪いのたぶん私のほうだし。」

「え?」

 

 

 

 

 

和樹君だって気づいたんだ。

一緒にいて、いっこうに自分に向けられることのない私の視線の先にいるもの。

それはいつだって宍戸だった。

和樹君はいい人だと思う。

だってこんなに自分勝手で人の好意を踏みにじった私を別れを切り出しただけでこれっぽっちも怒らなかったんだから。

彼は、優しすぎた。

 

 

 

 

 

「あ、そうだ宍戸さん!俺宍戸さんに渡さなきゃいけない物あるんだった!ちょっと取りに行ってきますね!」

 

 

 

 

 

そう言うやいなや、そそくさっと部室に向かって走り出した長太郎君の背中を見送ると、

宍戸は何か腑に落ちないような表情で頭の後ろを掻いた。

長太郎君はきっと気を利かせてくれたのだろう。

それか、今この場に居辛くなったから逃げ出したか、だ。

彼の優しそうな雰囲気からすると、たぶん私は前者だと思う。

いい後輩持ってんじゃん宍戸のくせに。

 

 

 

 

 

「あーもうっ!何で・・・!!」

「?」

 

 

 

 

 

ちょっと宍戸の様子がおかしいのでちらりと横目で盗み見る。

何だか困ったような焦ったような、それに怒ったような。

様々な感情が織り交ざって複雑な表情をしてブツブツと何かを呟いていた。

まあ、見るからに普段の彼ではないのは確か。

どうしたのだろうかと声をかけたかったのだけれど、惜しくもタイミングを逃してしまった。

 

 

 

 

 

「なあ。」

「なに?」

「・・・やっぱ何でもねえ。悪ぃ。」

 

 

 

 

 

呼んでおいて何だソレは。と言いたかったけれど先に宍戸に謝られてしまったのでそこまで出てきた言葉を飲み込んだ。

ふいっと逸らされた視線。

宍戸は何か言いたいことがあったら絶対人の目を見ない。

これは三年間、同じクラスだった私が見つけた宍戸の癖。もちろん悪い方の。

唯一三年間同じクラスだった私は気が付けば宍戸を目で追っていて、気が付けば宍戸を好きになっていた。

腐れ縁とも言える私と宍戸の関係。

癖ぐらい、わかってる。

 

 

 

 

 

「はっきり言ってよ。後味悪い。」

「何でもねえって!あーもうクソッ!!」

 

 

 

 

 

再び頭をがしがしと掻き始める宍戸。

変なの、と思いながらも私はどうして今ここにいるんだろうとか、何だか今更なことを思いながら

少し向こうのコートで打ち合っている部員達を行ったりきたりしている黄色いボールを目で追っていた。

 

 

 

 

 

「宍戸さん!お待たせしました!!」

 

 

 

 

 

そう言って少し小走りで返ってきたさっきの後輩、長太郎君が何やら紙袋を持って帰ってきた。

宍戸はソレを見て理解したのか、「ったく、いいって言ったのに・・・」と小さく舌打ちをして溜め息を吐いて腰に手を当てた。

 

 

 

 

 

「はい、誕生日おめでとうございます!」

「ああ、サンキュ。気にすんなって言ったのに・・・」

「いえっ!この前宍戸さんが欲しいと言ってた物なんでたぶん気に入ってもらえると思いますよ!」

「おいおい・・・ホントにあれ買ったのかよ!」

「あ、気にしないでくださいね!今まで宍戸さんに面倒見てもらったお礼も兼ねてですから。」

「マジかよ・・・悪いな長太郎。」

 

 

 

 

 

そう言いながらも宍戸は嬉しそうで、そして長太郎君もどこか嬉しそうだ。

宍戸は紙袋を覗くのをやめ、それを元の形に戻すと、もう一度お礼を言って長太郎君の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「わっ、ちょ、宍戸さん!」と声を上げる長太郎君と宍戸を見ていると、本当にいい後輩と先輩像だな、と思う。

そういえば宍戸って誕生日だったんだ、と気づいたのは宍戸が長太郎君の頭を撫でるのをやめた直後。

私って好きな人の誕生日も忘れてたのかとつくづく自分の宍戸に対する気持ちを疑いたくなった。

 

 

 

 

 

「ねえ長太郎君からのプレゼントって何なの?」

「あ?あー・・・・ヘッドフォン。」

「ヘッドフォン?」

 

 

 

 

 

思わず間抜けな声を出してしまった。

私が目を見開いて紙袋をまじまじと見つめていると、長太郎君が苦笑いを浮かべて笑った。

 

 

 

 

 

「つい最近、買い物に行った時に宍戸さんがこれを欲しいと言ってたんですけど

高いからって諦めたのを見て誕生日はこれにしようって決めてたんです。ほら、そういうものなら実用品だしちょうどいいかなって。」

「へー。宍戸には勿体無いほどのいい後輩だね本当。」

「うっせーよ。」

 

 

 

 

 

取り出して見せてくれたのは何やらデザインの凝った変わったヘッドフォンで、確かに値段の方は高そうだった。

本当に安いのは100円でも買えるし、もうちょっと出せば1000円でだって売ってる。

でもこれは確かに何千円としそうな代物だ。

自分のために買うならまだしも、他人にあげるとなると高い。

宍戸はこの後輩に対するお返しをどうするつもりなのか気になるところだけど、

たぶん日頃の宍戸のお財布の中身を考えると、たぶん三分の一程度くらいしか返すことは出来ないだろうな。

 

 

 

 

 

「ふーん。ま、おめでと、宍戸。」

「おう。サンキュ。」

 

 

 

 

 

そう言って笑った宍戸を見て、

私も何か用意してあげたらよかったなと思う反面。

今別れてきたばかりの女が他の男に誕生日プレゼントを渡すとなるとどうだろうと冷静な判断が頭を過ぎる。

どちらにせよ、私は宍戸にプレゼントなんて買うことすらできなかったんだ。

ま、私もお財布と相談したら買えるものなんてしれてるけど。

中途半端な物を買うくらいなら何か奢ってあげるくらいで手を打ったほうがよっぽどいいかもしれない。

うん。そうしよう。

 

 

 

 

 

「じゃあそんな宍戸には今日の帰りに私が何か奢ってあげる。」

「え、が!?」

「私も金欠なのでね。千円以下なら何でもいいよ。」

「マジかよ!サンキュ!!」

 

 

 

 

 

じゃあ帰ろうぜ!と今まで見たこともないような笑顔で帰ることを促してきた宍戸に私は複雑な気持ちで頷く。

そんなに奢ってもらえることが嬉しかったのか。

今決めたばかりの宍戸へのプレゼントがこれほどまでに喜んでもらえると思ってなかった。

まあ結果オーライというわけでそれはそれでいいのだけれど・・・

同じ気持ちなのか、長太郎君も苦笑いを顔に貼り付けたままその表情を崩さない。

それでもやはり喜んでもらえたという事実は嬉しいもので、私も鞄を肩からかけ直して踵を返した。

 

 

 

 

 

「じゃーな長太郎!これマジさんきゅっ!」

「いえ、喜んでもらえてよかったです。ではお疲れ様です!さんも、気をつけて帰ってくださいね!」

「ありがとう。じゃあね。」

 

 

 

 

 

何とも礼儀正しい爽やかな後輩に見送られ、私と宍戸はテニスコートを出て行った。

だから知らなかった。

私達の背を見送っていた長太郎君が手を振るのをやめ、私達が見えなくなったと同時に呟いた言葉なんて。

 

 

 

 

 

「・・・・なんだ。両想いだったんだ。」

「何がだ?」

「あ、日吉っ!」

 

 

 

 

 

長太郎の後ろに立つキノコ頭の少年、日吉。

氷帝学園テニス部現部長。

長太郎はそんな日吉がいつの間にか自分のうしろに立っていたことに気づかず、驚いたように振り向いた。

 

 

 

 

 

「サボってないで練習しろ。」

「うんゴメン。でも・・・よかった。」

「だから何がだ。」

「宍戸さん、うまくいくといいなあー・・・」

 

 

 

 

 

何やら嬉しそうに笑う長太郎を見て、日吉は眉間に皺を寄せる。

いくら聞いても雲を掴むような台詞しか言わない長太郎に彼は苛立ちを覚えたのだろう。

呆れたように溜め息を吐いて「もういい。」と言ってその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

まあだいたいの想像はつく。

さきほどからずっとコートの隅で話し込んでいた宍戸との姿をこの日吉もちらりとだが見ていたのだから。

それにしても長太郎の嬉しそうな笑顔は彼の神経を刺激するようで、これ以上関わっていられなかったのだろう。

 

 

 

 

 

「よっし、俺も頑張るぞ!」

 

 

 

 

 

拳を握ってようやくラケットを手に取った長太郎を尻目に、日吉は「集合!」とコート内にいる部員に声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきから何も言わない。

会話はない。

二人とも急に黙って足元を見たり空を仰いだり。

とにかく会話といっていいほどの会話は全くなかった。

 

 

 

 

 

どうしたものだろう。

黙り込んでしまった宍戸に違和感を覚える。

ちらりと横顔を窺ってみるものの、難しい顔をしているだけでその奥を読み取ることはできなかった。

 

 

 

 

 

「ねえ、宍戸・・・」

「あのさ。」

 

 

 

 

 

私が呼ぶ声をを遮るかのように宍戸が私の声に被せて話を切り出した。

私は口を噤み、視線を宍戸に向ける。

夕日に伸びた影が二つ、足元に転がっていた。

 

 

 

 

 

「俺がこんなこと言うのもあれなんだけど・・・その・・・」

 

 

 

 

 

言いにくそうに視線をあちらこちらに泳がせる。

えーっと と口ごもってしばらくすると何か意を決したように顔を上げて立ち止まった。

私の足も自然とその場に止まる。

 

 

 

 

 

「和樹とが別れた原因って・・・俺にあるかも知れねえんだ!」

 

 

 

 

 

続けて「ごめんっ!」と謝って頭を下げる宍戸に私はただ何事だと止まっていた頭を必死に動かそうとするだけ。

一体、何が起こっているのだろう。

宍戸が頭を下げているのは何故?

私と和樹君が別れた原因が・・・・宍戸?

確かに事実、宍戸も原因の中に入っている。

それは私が宍戸を好きだからであって、それを彼は知っていながらも今の今まで我慢して付き合っていたからであって、

それが限界に達して今日、別れを切り出されたのだ。

一体、宍戸は何の話をしているのだろうか。

だったら、私の気持ちに気づいてた?

気づいていたから原因が自分だって思ったのだろうか。いや、そんなはずは・・・・ない。

宍戸の鈍感ぶりは私はよく知っている。

私のこの冷静な対応で宍戸への好意に気づく人なんてあの鋭い目を持った跡部君や勘の鋭い忍足君あたりくらいだろう。

咄嗟に、いろいろな推測が頭の中を駆け巡る。

どれも疑問ばかりで、途端に心臓が激しい動悸を奏で始めた。

 

 

 

 

 

だけど、次に宍戸の口から出た言葉は私の想像を超えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が、のこと好きだって・・・アイツ、気づいちまったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬をかすかに染めて、だけどなおも必死に謝罪の言葉を述べる宍戸。

固まる私。

今、何て・・・・・

 

 

 

 

 

「この前ちょっと昔話に花咲かせてたらつい口が滑って・・・・誤魔化したけど問い詰められて・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『正直に言えって。』

『ばっ、違うっつってんだろ!』

『誤魔化すな!いいから言えよ!!』

『だから誤解だって!はお前の彼女だろ!違ぇよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもあまりにも和樹が必死だったから、最後は認めちまった。」

 

 

 

 

 

視線を足元に伸びる長い影に向ける。

嬉しいけれど、喜びたいけれど、今気持ちがうまく整理できていなかった。

 

 

 

 

 

「だから、きっと俺のこと気にかけて・・・・だったらマジごめん!!俺のせいだ!!」

 

 

 

 

 

そう言って再び私に頭を下げた宍戸にハッとした。

違う。

宍戸は自分が悪いとばかり思っているだろうけれど、実際はそうではない。

明らかに非があるのは私だ。

和樹君と付き合う前、私は彼に一言断っておいたことがある。

 

 

 

 

 

それは私が宍戸を好きだという気持ちだ。

 

 

 

 

 

彼は頷くと「それでもいい」と言ってくれた。

私が宍戸と仲良く話しているときは必ず声はかけてこなかったし、

私が宍戸ばかり見ていても何も言わなかった。

それに、今日、彼から別れ話をしてくれたのもきっと・・・・

私を悪者にしないためだと思う。

彼は本当にいい人だった。私には勿体無いくらい。

彼は潔い人だった。本当に、どれだけ謝ってもたりないくらい、私は彼に対して酷い扱いだったと思う。

 

 

 

 

 

「宍戸、顔上げて。」

 

 

 

 

 

私がそう言っても宍戸は謝るだけで顔を上げない。

私は小さく息をついてもう一度名前を呼んだ。

渋々といった感じに顔を上げる宍戸。

 

 

 

 

 

ごめんね。

アンタが悪いわけじゃないのに。

 

 

 

 

 

悪いのは、中途半端なことばかりしていた私なのに。

 

 

 

 

 

「悪いのは、私。だから気に病まないで。」

「っ、今の話聞いてただろ!お前がアイツと別れる原因になったのは俺なんだよ!だから・・・」

「確かに原因自体は宍戸にある。でも悪いのは私。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は和樹君にフラれたんじゃない。フッてもらったの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宍戸が好きって、彼は知ってた。

 

きっと、彼は私に愛想尽きて別れを持ち出したんじゃない。

 

わざわざ今日、フッてくれたんだ。

 

私の勘違いでない限り、彼のさり気ない優しさが偽りじゃない限り、

 

彼は今日、宍戸の誕生日に、私をフッてくれたんだと、今宍戸の話を聞いて確信した。

 

 

 

 

 

『はっぴーばーすでー、宍戸。』

 

 

 

 

 

だからきっと、教室を出た直前にかすかに聞こえた彼の言葉。

 

あれは空耳なんかじゃなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

ごめんね。

 

ごめんなさい。

 

ごめんなさい。

 

優しかった君。

 

他に好きな人がいるとわかっていても側にいてくれた君。

 

どんなに視線が交わることがなくても何も言わなかった君。

 

君が好きだと、そう言ってくれたこと、嬉しかったよ。

 

だけど、ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、それでも宍戸が好きだったの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和樹君は私が宍戸を好きだって知ってて付き合ってくれてたから。」

 

 

 

 

 

そう言うと、宍戸の目は大きく見開かれて、私の顔をマジマジと見つめるように視線を向けた。

私が苦し紛れに苦笑いを浮かべると、宍戸が小さく「え?」と声を上げた。

 

 

 

 

 

「冗談、・・・」

「じゃないよ。ホント。」

「いつから・・・」

「二年の夏。」

「じゃあ俺が和樹を勧めた時・・・・」

「超複雑な気分だった。」

 

 

 

 

 

宍戸はもう一度目を見開いて、そしてすぐさま頭を抱えるようにしてその場にしゃがみ込んでしまった。

なにやら変な唸り声みたいなのが聞こえてくる。

耳は真っ赤で、「あ〜」と言いながら頭をわしゃわしゃと掻き回す。

私は何だがそんな宍戸を見下ろしながら、ふっと口元を綻ばせた。

 

 

 

 

 

「マジ・・・・激ダサ。」

「ごめんね。私最低だよね・・・和樹君に酷いことした。宍戸の大事な友達なのに。」

「・・・・や、気づかなかった俺も悪いし・・・・っていうか・・・マジかよ・・・・。」

 

 

 

 

 

はあ〜 と長い溜め息のあと、宍戸はちらりと顔を上げた。

膝に手を付いて宍戸を見下ろしていた私とばっちり目が合う。

胸が小さく弾んだ。

 

 

 

 

 

「あのさ、」

 

 

 

 

 

小さく彼の口から紡がれた言葉に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

「アイツには明日、ちゃんと言うから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と付き合ってくれねえか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、いいですか?

 

 

 

 

 

隠して偽った気持ち

 

 

 

 

 

今ここで、踏み出してもいいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

2007.09.29 執筆

宍戸誕生日おめでとうっ!!

そして宍戸の友人は実にいい人!笑

自分の彼女をプレゼントとしてくれてやるってなかなかできないですよね。どれほど善人なんだって話ですよね。

ちょっと暗めの話になってしまったけど初めの計画ではレギュラーに賑やかに祝ってもらえる予定だったんだよ。

ごめんね。9月だからもう引退してるなー・・・って考えてたらボツになってしまったんだよ。

それに最近私自身が小説作る暇がなくてこの小説もギリギリなんとか間に合ったって感じで・・・。

ダメだぁ〜><

もっともっと時間が欲しいよ〜!!私も(あえてここは赤也と同じ)永遠の14歳でいたかったよ〜!!

気が付けばどんどん年は経っていって何度目だろう。宍戸の誕生日祝うの^ω^

いつの間に彼らの年を抜かしてしまったのだろう・・・^ω^

このまま若くピッチピチでみんなにチヤホヤされる10代で時が止まればいいのに・・・とつくづく思う最近。

そして気が付けばもう冗談で笑えない歳になってまでまだ宍戸の誕生日とか祝ってたらどうしようか、とか。笑

いつまでカクレで通せるか心配です。最近ばれ気味で少々焦ってます。

苦笑いでいつまで乗り切れるか・・・っ!!・・・っていっても私のキャラなら冗談で済ませてもらえるのでしょうけど。笑

とりあえずはいけるところまで宍戸さんっ!お祝いし続けるよっ!!(いらねえ