マネージャーなんて立場。

嬉しくもないしいいことなんてちっともない。

ただアンタらの傍にいることが当然と許されるだけの微妙なポジションだって。

ずっとそう思っていた。

 

 

 

 

 

第三者と呼ばれる私は

 

 

 

 

 

「ブン太サンまーた彼女変えたってホントっスか?」

 

 

 

 

 

今日は午前練習。

お腹が空いてきたなぁと思いながら部室で片付けをしていたら、練習を終えた赤也とブン太が話しながら帰ってきた。

それに続いて仁王や柳生、柳にジャッカル、真田と続いて部室の扉が閉められる。

赤也はそのまま奥まで歩いて行き、暑いのだろう、さっさと上を脱いで窓を開け、

背を前にして椅子に座り、爽やかに吹く風で涼み始めた。

 

 

 

 

 

「何?またお前さん彼女変わったんか?」

「またとか言うなよお前らなー。いいだろぃ。ほっとけよ。」

「ククッ、長続きせんな・・・お前。」

「口を挟むようで悪いが仁王も三日前からまた違う彼女ができたらしいな・・・人のことは言えるのか?」

「・・・そやね。」

 

 

 

 

 

みんなジャージを脱いで上半身裸のまま会話を続ける。

仁王は少し低めの机の上に、ブン太はロッカーにもたれながら、

みんなそれぞれの場所に座ったり立ったりしながら制服に着替える体勢はとっていない。

練習を終えてほてる体を冷ましているんだろう。

いつものことだ。

ただその中で真田だけが黙々と着替えを進めているのもいつものこと。

 

 

 

 

 

「聞いて下さいよ!先輩!」

「何?赤也。」

「俺きのう彼女と別れたんス!」

「へー今度の原因は何?」

「テニスと女のお決まり選択でテニス取ったから!」

「またソレね・・・。懲りないね、どっちも。」

 

 

 

 

 

こうやってみんなの恋愛事情を聞くのももう今となっては当たり前になっていて。

何故か別れたらすぐみんなは話題にしてそれを私にいちいち報告してくるのだ。

これがいつからか立海テニス部の習慣となっていた。

今日は赤也か。などと考えながら赤也の愚痴やら不満やらを聞いてやる。

最近ではそれすら適当になってきたけど。(適当に相槌打ったりね。)

でも何故か不思議なことに付き合ったりした時、つまり彼女ができたという報告はしてくれないのだ。

そういった彼女ができたという情報が耳に入るのはいつも周りから。

つまり他の部員やクラスの友達とかそういった本人じゃない人から。

私はいつからかそれが少し引っ掛かってはいたものの、特にあまり気にはせず、今日という日を過ごしてきたのだ。

 

 

 

 

 

毎回傷付いてえぐれそうになる気持ちを隠して・・―――――

 

 

 

 

 

「だって普通テニスっしょ。コレ俺の専売特許だし。」

「確かにそうだよね。赤也からテニスとったら何も残んないしね。」

「・・・・失礼っスね。残りますよ。」

「何が残んの?頭も悪いし性格もダメ。・・・何かあったけ?」

「先輩ひっでぇ!俺の一途な愛が残ってるじゃないっスか!」

 

 

 

 

 

ぷうと頬を膨らませ、拗ねる。

こんな顔を見れるのはここにいる部員とマネージャーである私だけ。

赤也は他の友達や女の子の前でこんなに気の許したことはしない。

それは他の奴らも一緒で、ブン太や仁王といったここにいる奴らも気の許した態度というものはあまり外では見せない。

そこがちょこっとマネージャーの特権かな。なんてたまに自惚れてみる。

 

 

 

 

 

「・・・君、一途じゃないでしょ。」

「一途です!」

「彼女コロコロ変える人を一途とは言いません。残念でした。」

「くくっ、、赤也は一途じゃよ。」

「え?」

 

 

 

 

 

振り返る。

団扇で自身を扇ぎながら仁王が笑う。

付け足して、俺もな。と何とも的外れな台詞を吐いた。

 

あ、もしかして私の言う一途とコイツらの言う一途の意味が違うのかな。

一途に他の意味なんてあったっけ?などと考えながら仁王をじっと見てると「何?」と聞かれた。

私は軽く左右に首を振って何もないと返事を返した。

 

 

 

 

 

「丸井も一途だぞ。」

「余計なこと言うなよ柳。」

「っつかさー。俺ずっと気になってたんスけどー。」

 

 

 

 

 

と赤也がにへらと笑顔を浮かべる。

私は首を傾げて赤也に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩は彼氏とかいないんスか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなが一斉に赤也から私に視線を移す。

私は居心地が悪くなってとりあえず目を泳がせると「何で?」と問う。

 

 

 

 

 

「いやーあんまそういう話聞かねえなと思って・・・」

「まあ・・そうだね。」

「で、いんの?いないの?」

「・・・・いない、ね。」

 

 

 

 

 

自分のこととなると恥ずかしい。

視線を俯かせる私に赤也はふーんと興味なさげに返事を返した。

どうせつまんないとか思ったんだろう。

いたらいたらですごくからかわれそうだし。

 

 

 

 

 

「じゃあ好きな奴は?いねえの?」

「へ?」

 

 

 

 

 

ガムをくちゃくちゃ噛みながら未だロッカーにもたれかかって座ったままのブン太が私を見上げる。

しばらく見つめたままの状態を保っているとブン太はぷくーとガムを膨らませて割った。

 

 

 

 

 

「もしもし聞いてる?」

「え、ああ・・・いない・・かな?」

「ええー何ソレ!先輩何しに生きてんの!?」

「はあ?何しにってそりゃ・・・あれ?何しに生きてんだろ。」

「ぷっ。」

 

 

 

 

 

驚き呆れた声を上げる赤也に反論しようとしたらいまいちピンとした台詞が出てこなくて

思わず首を傾げると、仁王から小さな噴き笑いが聞こえて来た。

仁王に視線を向けると奴は右を向いて笑っていた。

 

 

 

 

 

「ってかさ、俺らに何の興味もないわけ?」

「はい?」

「そうっスよ!こんな色男が周りにうじゃうじゃいるってのに先輩ちっとも興味なさげじゃないっスか!重症っスよ!」

「な、何自分で色男とか言って・・・」

って俺らにトキめいたりもしないわけ?な、そこんとこどうなん?」

 

 

 

 

 

ブン太がずずいっと私に近づいて来て腕を引き、隣に無理矢理座らせる。

何だか新しい玩具を見つけた子供のように目をキラキラさせて顔を覗き込んでくる。

っつか近い!顔近い!

 

 

 

 

 

「返事は?」

「トキめく・・・暇なんてない!」

「はあ?」

 

 

 

 

 

予想外な私の返答にブン太は不満そうな声を上げる。

赤也も目を瞬かせて「何それ。」とつぶやいた。

 

 

 

 

 

「何で?」

「他の子と違って私は部活で四六時中一緒にいるの!特に土日とか!

それなのに何かある度いちいちアンタらにトキめいてたら仕事できないでしょうが。」

「それもそうじゃの。一理あるな。」

 

 

 

 

 

仁王がうんうんと同意しながら頷いた。

そして「じゃけど」と言葉を続ける。

私はまだ何かあるのかとうんざりした表情を浮かべたまま仁王の方を向いた。

 

 

 

 

 

「こんなにアピールしてて気付かんもんかねえ・・・。」

「何を?」

「いや、だから俺らを。」

「いや、意味わかんないし。ってかアピールって何?」

「・・・俺らは毎日に自分をアピールしちょるんじゃけど。気付かん?」

 

 

 

 

 

いつしか仁王は扇ぐのをやめて前屈みになって問い掛けてくる。

私はよくわかっていない頭を働かせて何とか理解しようと首を傾げる。

何が?え?なして私にアピール?

そんなことして何の特があるって言うの?

 

 

 

 

 

「ま、気付いてねえみたいだけど・・・そろそろ俺も回りくどいことやめて本気で動くかな。」

「マジっスかブン太サン。だったら俺も黙ってないっスよ?」

「おいおい俺抜きで話進めんじゃなか。まぜて。」

「ちょ、え?何の話してんの?本当に何の話に変わったの?」

 

 

 

 

 

勝手に進んでいく話に私はついていけない。

ブン太は立ち上がると私を見下し、指を差した。

 

 

 

 

 

「覚悟しろぃ、。」

 

 

 

 

 

不敵に微笑むその顔が。

やけに満足げで自信に満ち溢れていて。

 

 

 

 

 

「俺も、本気っスから。いつまでも甘く見ないでくださいね。先輩?」

 

 

 

 

 

いつも、コート上で見せるその強気な眼差しで。

そんな目で私を見るから。

 

 

 

 

 

「さてさて、こんなに愛されちょったらこれから俺も忙しくなるの。・・・・・念のため全部女切っとくか。」

 

 

 

 

 

意味がわかるようで。

わからなくて。

 

 

 

 

 

まだ、何も言えなくて・・―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本気で落とすから。そのつもりで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも第三者の目から君らを見ていた。

 

 

 

 

 

モテて強くてかっこよくて。

近いようで遠くて。

 

 

 

 

 

知ってるようで知らない。

そんな君らを私はどこか、少し離れた場所から見ていた。

 

 

 

 

 

それが時に寂しくて。

どうしようもない疎外感を感じて。

 

 

 

 

 

だけど実際。

そう思っていた私は、ただの独りよがりで。

 

 

 

 

 

こんなにも思われていただなんて。

離れて見ていた私が、

どうしてわかったことだろう・・―――――――

 

 

 

 

 

「好いとぉよ。。」

 

 

 

 

 

私は第三者。

マネージャーという名の第三者。

だけど私は彼らにとってそうでなかったみたいです。

 

 

 

 

 

心惑わす夏は、まだまだこれからだ。