訊きたくないことは何故か本人の意思とは反対に自然と耳に入ってきて、
今日も私の気分はどこの誰よりも最悪だった。
Fanciful Lover
私の彼氏はとても希薄である。
それを承知で好きになり、付き合ったのだからツベコベ言う気はないが、とにかく希薄である。
何事にも適当で、全くの上の空。
訊いているのか訊いていないのかわからない返事なんてしょっちゅうで、
その場その場で達者な口が嘘を紡いでは見事に面倒事から逃げ出す。
彼、仁王雅治はそんな男だ。
だけど大好きなテニスに関しては結構ちゃんとやってると思う。
人を騙すなんてことは日常茶飯事だけど、彼なりにしっかりと毎日厳しい練習にも参加している。
……たまーにサボってる気もするけど。
私はそんな彼に惚れた女の中の一人で、
学校内でもかなりの人気を誇る彼にほとんどヤケクソで告白したのが始まり。
彼は あー と声を漏らして頭をボリボリ掻きながら面倒臭そうに続けて「ええよ。」と言った。
あまりにも適当だったその返事に少し不安になったけれど、断られたワケではないので素直に喜んだ。
あれから二ヶ月半、私達の関係は付き合う前より仲良くなったとは思う。
思うけどそれは0からのスタートだったからであって、はたから見ればただの友達に見えなくもない。
そりゃ雅治の部活が終わるのを教室で待って一緒に帰ったり、手を繋いだりはするけど……
それでも学校では普通だし、会話も特に変わったところはなく、普通だ。
同じクラスのユッキーこと幸村精市との会話と大差ない。
「ーあの噂知ってる?」
「…知らないけど嫌な予感がするから訊きたくない。」
「そう言わずに訊きなさいよ。 仁王君のことなんだけど…」
キタキタキタキタキタ。
ほら、今日も彼の噂は絶えない。
今度は何だと思いながらうんざりした溜め息を吐く。
お願いだからこれ以上先は言わないでくれと願うけれど耳は勝手に友人の言葉をキャッチする。
耳、塞ぎたい。
「B組の女の子と熱愛発覚ー、だそうですよ。 どうしますか彼女のちゃん?」
「……とりあえず相手は誰ですか?」
「えーっと仁王君と同じB組で…左目の横に黒子ある美人な子。」
「あ、あーわかった気がする。 綺麗だよねあの子。」
さらに気が滅入る。
確かこの学年でトップスリーにはランキンしているだろう美人さんだ。
そんな美人な彼女が雅治と熱愛発覚?
笑える、実に笑えて悲しくなってくる。
私に勝ち目は、ないじゃないか全く。
「ねえそれって何情報?」
「うんと、何かね、最近すごく仲が良くてーメアド交換もしててーこの間二人がデートしてるのを街で見かけたって言う子もいてね。
つまり噂は、仁王雅治はと別れて来栖杏璃と付き合いだした、って内容なのです。」
「………はあ、」
思わず呆れて溜め息が出る。
何が悲しいって、そんな噂が次々に飛び出してくる彼の人間性が。
きっとまた彼は適当にその場その場を生きて、噂を作っていっているんだ。
彼一人の問題ならまだいい。
それの対象となる私の身にもなってくれてもいいものなのに、
雅治はそんなことお構い無しに次々と新たな噂を作ってはまた自由に過ごす。
彼は彼氏でありながらも、本当に未知の世界の人間だと思う。
「私って、どうでもいい彼女なのかなあ。」
「あーそう気を落とさないでよ。 でも否定もできないけど…。」
「そうだよね、雅治のことだから…きっと、告白断るのとかに丁度いいからって付き合ってくれてそうだし。」
「ちょっと、リアルだからそういうこと言わないの。」
口に出せば出すほどどんどん出てくる不安要素。
言ってて悲しかったけど、それでもそのことを否定する術を知らない私は、
きっと誰よりも雅治のことを信用していないのだと思う。
最低なのは、雅治じゃなく、私なのかも。
いつもと同じように教室で雅治を待つ。
部活を頑張る彼の姿を眺めるのにはここが一番のベストポジションだ。
私の席より、一つ前のユッキーの席のが見やすい。
席替えで初めて顔を見合わせたとき窓際なだけあって、ユッキーも私も二人して喜んだっけ。
そして教えてくれたんだ。
ユッキーの席の方がテニスコートの見晴らしがいいことを。
その日から私は雅治の部活が終わるのを待ち始めた。
待っている時間は苦じゃなかったし、何しろ私はテニスをしている雅治が大好きだ。
一人夕日を浴びながら大好きな人を見ていられるほど幸せなことなんてないだろう。
「だけど、それも私の独りよがりなんだよね、きっと。」
後輩の切原君の肩に腕を組んで何やら耳打ちをしている雅治をぼんやりと眺める。
仲良いな、あ、切原君が笑った。
雅治もすごく楽しそうに笑ってる。
私が見たことない、ううん、私の前では見せてもらえない笑顔だ。
急に胸が苦しくなって、だけどいくら想ったって届かない気持ちに、私は唇を噛んだ。
大勢の中の一人ね。
わかってる、わかってるけど…夢を見てしまう。
だって、好きだから。
好きだから、余計に苦しい。
堪えることが私には出来そうにない。
早めに手を打っておかないと。
私はきっと彼から離れられなくなる。
それでも傷つくのは、嫌だ。
「あ、そだ。 今日ね、調理実習があったの。」
二人、帰路を歩きながら私は鞄の中から今日の四限目に作ったクッキーを渡す。
選択科目のフード選択者だけが作れるのだから雅治に渡す女の子も限られてくる。
きっとまだ貰っていなかったんだろう。
ちょっとの間クッキーを見つめてからふーんと頷いて受け取ってくれた。
「ありがとうな。」
「うん、どういたしまして。」
ニッコリ笑えば雅治もフッと口許を緩めて笑って、ラッピングを解き始めた。
「食べるの?」
「腹減っとるんじゃ。 動いたからの。」
「あーそっか。 だったらもうちょっと丸井君から貰っておけばよかったね。」
「…丸井? ああ、アイツもフード選択しとったっけか。」
「そうだよ、私丸井君と同じ班なの。 いつも分け前が丸井君だけ多いから困っちゃうよね。」
本当に困り者だ、丸井君は。
私以外の同じ班の女の子達は、丸井君が欲しいなら…って子が集まっちゃったから文句を言う人は誰ひとりいない。
私だけだよ、雅治にあげようと思って作ってるのは。
他の班にはいるのにな、ユッキーやら切原君にあげようとしてる子。
丸井君が好きな子にとっては同じ班ってだけで嬉しいんだろうけど、私には何の得もなかった。
むしろ損だ。
放っておいたら雅治の分まで取られてしまいそうだからいつもヒヤヒヤしてるってのに。
気を抜くこともできやしない。
私が本当に困ったように笑って今日の四限目の実習を思い出していると、雅治はじっと私の顔を見つめて言った。
「…ま、ええか。」
「?、何が?」
「や、こっちの話。」
小さくかぶりを振って視線を逸らす。
やはり雅治のことがいまいちよくわからない。
不安が徐々に込み上がり、途端に先ほど教室で考えていたことが頭を過ぎる。
「あ、のさ…」
言うな、言っちゃダメ。
でも言わなきゃいつまで経っても引きずっちゃう。
言いたくないけど言わなきゃ終われない。
雅治が ん、と視線を戻す。
絡み合う視線を、今度は私が逸らした。
「キス、して欲しいなあ…なんて、」
「…キス?」
「そ、ダメ?」
強請るように雅治を見上げる私。
雅治は急なお願いに驚いたように少しだけ目を見開いて私のことを見ていた。
「そしたらもう、吹っ切れるから。」
最後に付け足すようにそう呟いた私はゆっくりと俯いた。
言ってしまったからには訂正はきかない。
もう私は絶望と言う名の淵に片足を突っ込んでしまっている状態なのだ。
私の態度が可笑しい事に気が付いたんだろう。
雅治からは先ほどと違って途轍もなく低い声で返事が返って来た。
「どういう、意味?」
「……そのまんま。 吹っ切れる、もうやめにするから。」
「だから、何をやめるんじゃ。 はっきり言わんとわからんぜよ。」
俯いて声を絞り出して言う私に、雅治がイラついた口調で尋ねる。
ぎゅうっと鞄を持つ手に力を入れて私は泣きそうになっている顔を上げた。
雅治の表情が再び強張る。
「別れようと思うの。 もう、ちゃんとケジメをつけようって、ずっと考えてた。」
絡み合う視線をそらすことはできそうにない。
私は虚勢だけを張ってずっと雅治を見つめていた。
今雅治の考えていることなんてわからない。
だって、一度もわかったことなんてないんだから、こんな時にわかるはずなんてないんだ。
キスしてくれたらもうそれでおしまい。
それを最後の思い出として私の心の中にしまっておくから。
だからどうか、早く、私を楽にしてください。
「っ!、…んっ…」
腕を掴まれ引き寄せられた途端に、唇に温かなものを感じる。
でも何だか想像していたのとは違って、ただ押し付けるだけのもの。
最後の思い出くらい、もっと甘い、悲しい、そして脳裏に焼きつくようなものをと思っていたのに。
私の思い描いていたものとは全く違う、ただキスをする、というだけの行為に眩暈がした。
「じゃあな。」
背を向けて片手を振り、帰路を歩く雅治の背中を、
見えなくなる最後まで涙を流してぼんやりと眺めていた。
「おはよう、。 三日ぶりだね。」
「おはよ…ゆっきー朝から朝練お疲れ様。」
次の日、その次の日も学校を休んで久しぶりに学校へ行った。
どうしても頭が重く、体もダルかったから学校へ行く気もしなかった。
ユッキーが私の前の椅子を引いてそこに座るのをぼーっとした目で追っていた。
鞄を机の上に置いたユッキーはそのまま椅子を横に座り、私の顔をじっと見つめてきた。
「なん、ですか…?」
「、目が腫れてるよ。 鏡見てきた?」
「見た、けど…、まだ腫れてた? もう大丈夫と思ったんだけど。」
「うん、ちょっと…まあ大半の人は気づかないと思うから大丈夫だよ。 俺が目敏いだけ。」
「はは、自分で言ったよ…」
笑ってみてもどうも乾いた笑いしかでてこない。
そんな私にたぶんユッキーはとっくに気づいている。
だって自分で目敏いとか言っちゃうくらいなんだもん、気づいているに違いない。
でもそれをあえて訊かない彼はとっても温かな人。 優しいんだ。
「あのね、ユッキー。」
「ん、何?」
「…私、雅治と三日前に別れたんだ。」
突然の私の告白に、ユッキーは目をぱちくりさせて驚いたあと、
「そっか、」と小さく返事を返してくれた。
「初耳だな。 誰も何も言ってなかったし…そんな噂も訊かなかったけどな。」
「そうだね、私も今日学校来たら絶対みんな知ってると思ってた。 雅治のこういう噂は一日で回るはずなのに。
あれかな、私が休んでたから誰も言う人がいなかったとか…そんなのかな。 雅治から言いそうにもないし。」
「……あのさ、何て言って別れたの?」
私が一人で噂について考えていると、ユッキーがそう言って尋ねてきた。
何って…そんなこと言えないよ。
だって、自分でもバカだなって思う別れ方だったんだ。
そのうえ雅治がくれた最後のキスは最悪だった。
酷く、冷たかった気がする。
「うん、別に…普通に…」
「別れようって言って仁王が頷いたのか?」
「…まあ、そんな感じ…」
嘘、ではないと思う。
だってキスしてくれたら別れるって言って雅治は私にキスをした。
つまりは私の提案に了承したってことだ。
だけどどこか後ろめたくなった私は泳がすように目を逸らした。
きっとこんな私の行動にもユッキーは気づいているはずだ。
「ま、仁王は別れた気ないかもしれないけどな。」
それだけ謎な答を残してユッキーは私に背を向け、
鞄の中から一限目の用意を取り出し、授業の準備を始めてしまった。
私の頭は再び混乱状態に陥り、次の時間もそのまた次の時間もずっと、
さっき言われたユッキーの言葉について考え続けていた。
結局、あんな言葉で答が出るはずもなく、放課後に至る。
もう部活動も終わりの時間。
どっぷり沈みかけている夕日を見て私はノートや教科書を鞄に詰め込んだ。
ユッキーから借りていた二日分のノートだけは手に持って、
貸してもらったときに「部室に返しに来て」と言われた通りにテニスコートへ向かうことにした。
きっとこのままでは彼に会ってしまうだろうと考えた私は、最前の注意を払いながらコート沿いを歩く。
もうテニス部は終わったんだろう。部員はちらほらしか見えなかったし、
そこに銀色の髪をした少年の姿は見当たらなかった。
そのことにホッと胸を撫で下ろし、私はさっさとユッキーにノートを返して家へ帰ろうと足を速めた。
「あーサンだサン。」
突然聞こえた声に足を止める。
振り返るとそこにはラケットで肩を叩きながら片手をポケットに手を突っ込んでいる切原君の姿。
私を見て少し目を見開いていた。
それよりも私のことを知っていたことに驚きだ。
しかも下の名前で呼んでるし。
一度も話したこのない、ただ雅治の後輩というだけのこの少年に、私は思わず首を傾げたくなった。
「仁王先輩ならもういませんよ。」
「や、まさは…仁王君に用があったんじゃなくて、ユッキーにノートを返しに来ただけなの。」
「幸村部長? ああ、幸村部長ならまだ倉庫の方にいるっスよ。」
「そうなんだ、ありがと。」
いいこと訊いた、そう思った私はこれで部室まで行かなくて済むと足を倉庫の方へと向ける。
だってほら、もし部室に雅治がいたらばったりってこともありえるからね。
それだけはどうしても避けたい。
だけどそんな私を切原君は不思議そうに呼び止めた。
「つか、幸村部長にノート渡しに来ただけって…じゃあ仁王先輩はいいんスか?」
「え、あ、うん。 いいの、私達…別れたし。」
「ええ!? 嘘デショ!? 何急に、マジっすか!? え、それって今!?」
「…う、ううん。三日前に…」
別れたと本日二度目、口に出して言って胸を痛めた私に切原君はこれでもかってくらい目を見開いて驚いていた。
私は今までの雅治の彼女の話とか訊いていてそんなに驚くことかと思ったけれど、
彼は私の返事を訊いてさらにありえないってくらい驚きの声を上げた。
「なーに言ってんスか!」
「え? 何が…」
「それ冗談っしょ? だって今仁王先輩アンタ迎えに教室行ったのに…」
え、と思わず私の思考回路が止まる。
何を言ったんだ今、この少年は。
雅治が私を迎えに教室に行った?
おかしい、おかしすぎる。
「ま、間違えただけだよ。 いつもそうだったから…間違えて迎えに行っちゃったんじゃ…」
「いや、ここ二日間サンが休みって知らなかったらしくて二日とも教室覗きに行ってたんスよ。
間違えるも何も…そりゃないっショ。 つーか別れたって何?
あんなけべた惚れの彼女を仁王先輩が手放すとも思えないんスけど…」
私が必死にそうだと思い込もうとしている傍らで、次々と新たな疑問を与えてくれるこの切原少年に私は眩暈がする。
何を言っているんだろうかこの子は…。
何を見て、何を考えてそんな戯言を…。
二日間も教室に迎えに来てくれていた?
一体、何しに…。
雅治が私にべた惚れ?
そんな夢のような話があるか。
「いっつもサンのこと練習中見上げてるんスよ先輩。 ここから窓んとこにいるサン見えるから。」
「…え?」
「で、すぐ俺やブン太サンに自慢してくんの。 この前なんか嫌味ったらしくお前も早よう彼女できるとええのなんて言っちゃってさ。」
あー思い出しただけでもムカつく!と言って切原君は頭を掻きながら部室へと向かっていった。
やはり雅治の後輩なだけあって彼もなかなか読めない人だ。
数々の疑問だけを残して嵐のように去ってしまった。
ぽつんと残された私の近くで、また別の足音が止まった。
振り返ると、そこにはジャージに身を包んだユッキーの姿。
「な、言っただろ。 ほら、さっさと教室行かないと。」
「ユッキー…」
「仁王が待ってるだろ、早く行ってやれ。」
ユッキーに背を押され、私は何故か教室に向かって走り出した。
どうして、何で、
走ってる最中はもうそのことばかり。
頭の中は空っぽで、何も思いつかなかったけど、
ただ待たせちゃいけないと階段を駆け上がり、廊下を走った。
「遅かったな、。」
教室に入ると、いつもは私が座っていたユッキーの席で窓の外を眺めていた雅治がいた。
私の気配に気づくとゆっくりと振り返り、そう言った。
「遅かったって…私達、別れた…でしょ?」
もっともな返事を返して私はゆっくりと雅治のもとへと歩みを進める。
雅治は相変わらずな表情で自分の束ねた髪を弄っていた。
「俺は一言も言っとらんぜよ。」
「…そんな! でもっ…キスして…」
「付き合っててキスしたらいかんのか? おかしな話やの。」
くくっと喉を鳴らして笑う雅治。
だけど声色とは裏腹に、表情はあまり笑っていなかった。
髪を弄っていた手を止めて私を見上げる彼の目が、あまりにも冷たくて。
息が止まってしまうかと思った。
「別れるつもりは、ない。」
「……ど、して…」
「好きだから。」
「え、」
「が好きだから。」
ぐいっと手を引っ張られて雅治の胸に押し付けられる私の顔。
いきなりのことで体勢を崩してしまった私は彼の腕の中から逃げられそうにもなかった。
後頭部を掴む彼の手が、随分大きく思われた。
「じゃけん、別れたくなか。」
「でもまさは…っ」
頬を両手で包み込まれて上を向かされる。
真っ直ぐな至近距離で目があった。
揺れ動く瞳は私の泣き出しそうな表情をはっきりと映し出していて、
もう、何も言うことはできなかった。
唇が、熱い。
口内が、熱い。
あの時とはまた違う、私があれほど望んだキスが降って来る。
何度も、何度も、
「別れるとか、もう言わんて約束して。」
「……っ」
「返事は?」
「……は、い。」
そんな切なそうに言うものだから、私はもうただ頷くことしかできなかった。
ずるいよ、ずるい。
雅治は、ずるいよ。
私は雅治が好きなのに、
好きだから別れたかったのに、
こんな雅治を見たら、もう離れられないよ。
「好いとおよ、。」
「―――で、結局仲直りってワケか。」
突き刺さるユッキーの視線。
あと、クラスメートの視線。
「別に喧嘩はしとらん。 ただちと擦れ違っとっただけじゃ、なあ。」
「う、うん…そうだね。」
朝の爽やかな鳥の囀りがどこからともなく聞こえてくる。
教室だけでなく、何故か廊下まで人が見に来ているのは気のせいだろうか。
「それはそうと、仁王。 仲が良くなったのはいいんだけど、そろそろ離してやったらどうだ?」
私の心の叫びを汲み取ってくれたのか、ユッキーが爽やかな笑顔で代弁してくれた。
「嫌。 ところで幸村、何でお前さんがの前の席なんじゃ。 セコイ手使ったじゃろ。」
「変な言いがかりはよくないな仁王。 そんなわけないだろ。 あ、それとあと一分でHR始まるから。」
後ろから私の首に絡みつく雅治にそう告げて、ユッキーは前を向いてしまった。
言われた通り時計を見上げ、雅治は渋々と私から離れる。
「じゃあな、。」
「うん、またね。」
やっと解放される、と正直な心がつい本音をぽろりと出した。
昨日のことがあってか、急に雅治が教室に来たかと思うとこれだ。
態度の急変が激しすぎるあまり、私どころか周りのギャラリーまでもが茫然。
びっくりして動けずにいた。
ゆっくりした足取りで教室を出て行った雅治の後姿を見送って、
私も一限目の用意をしようと机の中に手を入れてゴソゴソしていると、
再びユッキーが私に振り返った。
「で、結局のところ誤解は解けたのか?」
「え、ご…かい?」
「そ。 仁王の噂、その誤解は解けたのか?」
私が首を傾げると、もう一度同じ質問を尋ねるユッキー。
漸く理解した私は「ああ、」と手を叩いて微笑んだ。
「来栖さん、柳生君と最近付き合いだしたんだって。 私知らなかった。」
私の返答に満足したユッキーが「俺もだよ。」と言ってまた前を向いた。
丁度チャイムが鳴って、数学の教科書片手に先生が入ってきたところだった。
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2007.01.30 執筆
この度は相互どうもありがとうございます^^
ご挨拶遅くなってすみませんでした!
そして、スランプ状態のままくだらん小説をお目汚しに失礼いたしました。
仁王の切ないから甘いまで、とまさにそのままで書いてしまい、
捻りも何もありゃしない内容になってしまい、大変恐れ入ります。
こんな私ですがどうぞこれから存分に可愛がってくださいませ!
私は懲りずに毎日遊びに行かせていただきますので!
それではよろしくおねがいします^^
背景素材は NEO HIMEISM です! 恋愛ゴッコ@ユギリ