music by beyond 「回想-紅い空へ-」
ねえ、忘れないで。
また会えるよね?
君たちは素直じゃない私にとって唯一の居場所だったんだ。
さよならじゃない、いつかは元気で。
「ー!写真撮るぞー!」
「は、はーい!!」
岳人先輩の私を呼ぶ声で我に返る。
テニスコートにはもう卒業する三年生が大集合していた。
って言ってもレギュラーだけだけど。
今日は卒業式。
大好きだった先輩達が旅立っていく大切な日。
私はこの日をどれだけ来ないで欲しいと願ったことか・・・。
大会に負け、引退した時からずっと願っていた。
この人たちと別れる日がくるなんて私には想像もできなかった。
だけど今は目の前に胸ポケットに花を挿し、卒業証書を手にした先輩達が笑顔で手を振っている。
ヤダ。
ヤダヨ。
何で?
何で私は二年生なのさ。
「おーい、何そんな浮かない顔してんだよお前は!ほら、笑え!」
「いつもの元気がないやんか。、寂しいんか?」
「さ、寂しくなんてないです!むしろ静かになって清々しますよ!ねー長太ろ・・・。」
いつものように、今までのように、岳人先輩と忍足先輩にからかわれる私。
長太郎に同意を求めようと隣を見ると長太郎は涙で顔がぐちょぐちょになっていた。
目も真っ赤で泣きまくった後って感じだ。
仕方ないか。長太郎は先輩大好きっ子だったもんね。
捻くれたことしかいえない私だけど、本当のところは私だってそうだ。
いつも先輩達に偉そうなことばっかり言って反抗ばっかり言って我が侭ばっかり言ってきたけど・・・・・
それも今日で終わりなんだなと思うと目蓋が熱くなってくる。
やだ、泣きたくない。
長太郎の隣で日吉が呆れたように溜め息を吐いていた。
日吉も私と一緒で素直じゃないから強がってるけど本当は寂しくて仕方ないんだと思う。
何だかんだで日吉も先輩達を尊敬して、敬っていたから。
巣立っていくみんなより、残された人の方が寂しさは倍以上なんだって、みんなは知ってるのかな?
「あー早かったな!三年間!」
「俺かなり楽しかったC−!みんなとテニスやれてと出会えて・・・・もう最高!」
「ま、また高校でも頑張ろうぜ!」
宍戸先輩とジロー先輩が嬉しそうに笑い合っている。
高校でも頑張ろうぜ。
氷帝生は持ち上がりが多い。
だから高校へ行ったってあまり面子は変わらない。
ちょっと外部の人が増えてまた新しい人生がスタートするだけ。
だけど、それとは反対に外部へ受験した人だっていた。
それはこのテニス部の中にだって存在した。
「侑士は・・・・絶対また東京戻って来いよな!」
「おう、またいつかこっち戻ってくるからお前らはお前らで頑張りや!!」
「ま、会いたくなったらいつでも会いに行けるところが俺達だしね〜。」
「それはそれで嬉しいけど・・・よく考えたら逆に有難みないよな。」
忍足先輩は握っていた卒業証書で肩を叩きながら苦笑いを浮かべた。
ああ、もうみんなで一つのものを目指してテニスをする姿を見ることはできないんだね。
負けて悔しがっているジロー先輩。
挫折しても並じゃない根性で這い上がってきた宍戸先輩。
どんな人にも同じように無邪気に接してくれた岳人先輩。
セクハラも多かったけどここぞという時には頼りになった忍足先輩。
そして・・―――――――――――
「、お前式の最中寝てただろ。」
眉間に皺を寄せながらいつものように威圧感たっぷりの睨みを利かせてくる跡部部長。
(み、見られてたんだ・・・・・。)
「跡部遅い!・・・・ってボタン全部ねえじゃん!!」
「女共が欲しいっつって全部盗って行きやがった。それに比べて、お前らはずいぶんと綺麗に残ってるじゃねえか。」
「俺らはそうなると思ってすぐに部室に行ったから捕まれへんかってん。卒業式ぐらいのんびりさせてほしいしな。」
「そうそう!それに俺第二ボタンはにあげるって決めてたんだ〜!」
「え!?」
「はい、今までありがとうね!」
「じ、ジローせんぱぁい・・・・。」
いきなり自分のブレザーの第二ボタンを引きちぎって私に握らすジロー先輩。
や、やだやだ!
そんな嬉しいこと言わないで下さいよ!
泣かないように泣かないようにって強がってたのに・・・・
ここにきて涙腺が一気に緩く・・・。
「あーが泣いた!!」
「ジロー泣かしよった泣かしよったー。」
「え〜マジマジ!!?やった、俺泣かせたー!」
何故か嬉しがるジロー先輩に驚く岳人先輩。
くそ、くそー!
涙止まれよ!
今から写真撮るんだから!!
鼻の天辺赤くなるじゃない!!
「せ、せんぱひらち・・・・卒業なんてしないでくらはいよー!!!!」
「ちょ、ちょう待ち!何言ってるかわかるようでわかれへんで!?」
「俺らがいなくなったくらいで泣くなよな。はいっつも俺らのこと先輩として扱ってくれなかったくせによ。」
「宍戸さんはわかってないですね!それはちゃんの愛情表現なんですから!」
「わ、わかってるっつーの!俺だってそこまで鈍感じゃねえよ・・・。」
私は完全に大泣きを始める。
だってやっぱり寂しいもん!
引退の時はまだ学校で会えるって思ったけど卒業は違うもん!
もうみんなが別々の道を歩んで行ってしまうんだよ!!?
そんなの・・・・私堪えられないよ!
「、お前最後だけやけに素直だよなー。日頃からそうだったら可愛かったのに。」
「う、うるひゃいですー!!!」
「はいはい、そんなには俺の第二ボタンもやろ。レアやでレア。」
「あ、じゃあ俺もやるよ!にはトクベツだぜ!」
岳人先輩と忍足先輩がそれぞれ第二ボタンを千切ってくれる。
ちょ、本当にいいのだろうか?
先輩達はモテる。
そんな先輩達の第二ボタンを三つもゲットしてしまった私。
自慢も自慢の自慢だよ!
一生の宝物だよ!
「チッ、しゃーねーな!俺のもやるよ!失くすなよ!」
「あ、ありがとうございます・・・・・・?」
「な、何だよ・・・。いらねえのか?」
「え、ち、違!!ただ・・・・・宍戸先輩から貰えるとは思わなくて・・・。」
恥ずかしそうに第二ボタンを差し出してくれる宍戸先輩に私は驚いた。
え、だって宍戸先輩だよ?
あの宍戸先輩がだよ?
私の手のひらには四つのボタン。
(どれが誰のかわかんないや・・・。)
だけどいい。
それが嬉しい。
みんなの優しさが心に染み渡ってくるように温かい。
「跡部はあげないのー?」
「芥川さん・・・。さっきの話聞いてなかったんですか?」
「跡部部長は全部盗られたらしいですよ?」
日吉と長太郎が首を傾げるジロー先輩に仕方がないなと言った表情を向けた。
「え、だって跡部のことだからてっきり第二だけはにあげるつもりだと思ってたC・・・・。」
「そーなん?跡部。」
忍足先輩が跡部先輩に振り返る。
跡部部長の表情は至って普段と変わらない表情だった。
部長らしいな。
「別に第二ボタンだなんだって・・・・どうでもいいじゃねえか。」
「ロマンがないねー跡部は。」
「宍戸が言ってもどうもなあ・・・。」
「ああ!!?忍足てめえ何が言いたい!!?」
顔を真っ赤にした宍戸先輩が忍足先輩の胸倉を掴む。
こんな日常が当たり前でこんな日常が毎日続いて・・・・。
急になくなるとなるとどうだろう。
私はこの先ちゃんとやっていけるのだろうか?
「跡部も素直じゃないね。渡せばEのに・・・。」
「何だよ!結局のためにとってんのかよ。なら渡せばいいじゃん!」
「も今日は素直に俺らが卒業すんの寂しい言うてるくらいやし・・・今日くらい跡部も素直になったらどうや?」
「うっせーよ。黙れお前ら。」
呆れ顔の跡部部長。
ポケットをごぞごぞ探りながら私に近付いてくる。
何?本当にくれるのですか?
「ほらよ。」
大きな手から手渡された小さなボタン。
私、この二年間が幸せすぎたんだ。
大好きな先輩達に可愛がられて、楽しい毎日を当たり前のように過ごしてた。
時には喧嘩もして、挫折も味わって・・・・
だけどその度に私達は乗り越えて今日までやってこれた。
これ以上の幸せはないよ。きっと。
「・・・・・・・・みんな卒業しても・・・・絶対遊びに来てくださいよーぅうわ〜ん!!!!」
今日くらいは思いっきり泣いてもいいよね?
今日くらいはみんなに我が侭言って甘えてもいいよね?
きっとみんな笑って許してくれる。
それは今日までに築いてきた友情がここにはあるから・・―――――
「よっしゃ、今日はこのあと跡部ん家で卒業パーティーな!」
「はあ?何勝手なこと抜かしてんだお前は・・・。」
「イエーイ!宴会だー!!」
「ジローも何乗り気になってんだよ。俺様は何も言ってねえだろ?」
私達に“さよなら”なんていらないでしょ?
「何?あかんのか?」
「・・・・・・・駄目だっつっても勝手に来るんだろうが。」
「よーし!今日は朝までオールだー!!!!」
だってまだ終わってない。
「も長太郎も日吉も樺地も強制参加だからな!」
「俺達のこと祝いやがれ!」
「もちろんです!」
「・・・・・はい。」
今日までに築いてきた友情がある限り、また会える。
「あれ〜から返事ないよー?」
「何や何や・・・・・まだ泣いてるんかいなうちのお姫さんは・・・。」
「いつまでも泣いてんじゃねーよ!お前そんなキャラじゃないだろ!!?」
「お前も来なきゃ盛り上がんねーんだからな!早く泣き止め!」
「・・・・・ったく、世話が焼ける・・・。」
跡部部長のセーターの裾で目元を乱暴にもゴシゴシと拭かれる。
痛っ、痛い!
痛いってば!!
跡部部長は涙を拭き取ると、テニスのし過ぎで豆が出来ている大きな手を私の頭の上に置いた。
「お前もいて俺達は氷帝テニス部なんだからな、。行くぞ。」
また、春が来てまた別れがきても大丈夫。
寂しくなんてないよ。
私達は大きな絆で繋がってるじゃないか。
「はい、部長!!!」
共に歩んだこの季節で私達は大きな何かを学んできたね。
忘れないで。
忘れないで。
また会えるよね?
いつも一緒に馬鹿やった岳人先輩。
一緒にお昼寝して部活をサボったジロー先輩。
めげていた私を不器用に励ましてくれた宍戸先輩。
隠れて受けていた嫌がらせに気づいて守ってくれた忍足先輩。
嫌味ったらしいことを言いながらも毎日家まで送ってくれた跡部部長。
私はそんな君達が大好きだったよ。
元気でね。
また会う日まで。
元気でいてください。
それだけが私の最後の我が侭です。
―――――――――――――――――――――――――――――
2007.03.07 氷帝卒業ネタ
今日は卒業式…(;_;)
やっぱ残される側は寂しいね。
またみんなで会えるって信じたい・・・。泣
三年生のみなさーん!!!
こんな私を二年間どうもありがとうございましたー!!!
って小説に込めてみた。笑