I NEED YOU TWO

 

 

 

 

ちょっと遅くなって夜道を歩く。

彼女を家まで送って自分の家へ向かって一人、ぼーっと歩いていると前から目立つ銀髪を揺らした男が歩いて来ているのが目に入った。

 

 

 

 

 

「あ、仁王じゃん!」

 

 

 

 

 

声をかけると仁王は顔を上げ、目を瞬かせた。

俺だとわかると仁王はこっちへ向かって足を早めてやってくる。

はっきり顔がわかるところまでくると俺はあることに気がついた。

 

 

 

 

 

「お前何してんの?制服のままだし。」

「ちょいと飯食って来たんよ。」

「へーそっか!だから家と反対方向歩いてたわけね。」

 

 

 

 

 

頷く俺に仁王は口元に笑みを浮かべ、俺の目をじっと見据えた。

 

 

 

 

 

「お前さんは彼女と何食ってきたんじゃ?」

「え?えーっとそうだな・・・オムライス。仁王は?」

「俺?俺はいろいろじゃけん。うまかったよ。特に肉じゃがなんか最高やったの。」

 

 

 

 

 

そう言うと仁王は「じゃ、また明日。」と手をひらひら振って暗闇の中へと姿を消した。

何だったんだとしばらく呆気に取られていると、不意に俺の携帯が鳴った。

 

 

 

 

 

「あ、からだ。」

 

 

 

 

 

ディスプレイに表示された名前を見て俺は携帯を開く。

メールだったから受信ボックスを開いてメールを読んだ。

 

 

 

 

 

「ナニナニ?今日の晩飯のおかずが微妙に残ったから明日の朝ご飯用にレンジでチンできるようにしといたので

帰りに家まで取りに来てね。・・・マジで!?やった!」

 

 

 

 

 

俺は素直に喜ぶと、もう目の前まできたん家のインターホンを鳴らす。

しばらくするとのパタパタというスリッパの足音がして玄関のドアが開いた。

そこからは予想通り皿を片手に持ったが姿を現した。

 

 

 

 

 

「早いねブン太。」

「まあな。で、何それ!」

 

 

 

 

 

皿を覗き込むと何やら黄色い物が見えて思わず俺はさっき自分が食べてきたオムライスを連想させてしまった。

基本あまり同じの食べても気にはしないけど・・・やっぱりな。

そんな俺に気付かないは俺に皿を持たせると笑顔を浮かべて言った。

 

 

 

 

 

「オムレツだよオムレツ。」

「なんだ。オムレツか・・・。」

「なんだって何よ!あ、それね!中味が肉じゃがの残りなんだ!」

「・・・・え?」

 

 

 

 

 

肉じゃがはオムレツの中味にもなるんだよ。と嬉しそうに言うに思わず俺は目を見開いた。

だって。

それはさっき会った仁王が言ってたもので。

同じで。

何故か瞬時に頭の中にあの口元に笑みを浮かべた仁王がはっきりと浮かんだ。

俺の異変に気付いたが不思議そうに首を傾げて俺を見上げた。

 

 

 

 

 

「何?どうかした?」

「・・・いや。別に。」

 

 

 

 

 

何だろう。

このもやもや感は。

胸が妙にドキドキしてて。

皿を持つ手が汗で湿っていた。

 

 

 

 

 

(落ち着け・・・俺!)

 

 

 

 

 

別にいいじゃんか。

仁王がと晩飯食ったって。

別に何の問題もないじゃねえか。

俺はの誘いを断って彼女と飯を食って来た。

その間にが一人で晩飯を食ったのか。

それとも仁王と二人で食ったのか。

俺にはわからないけれど何か気に食わなくて。

の口から仁王と同じ「肉じゃが」という台詞を聞いて俺の心臓がびっくりするほど冷たくなったのがわかった。

もしかしたらたまたま仁王との献立が被ってただけかもしんねえし。

気にしないでおこうと思いながらも、仁王がこっちから帰って来ていたことが一番俺の中で引っ掛かっていた。

 

 

 

 

 

「じゃ、俺もう眠いから帰るな。」

「あ、うん。おやすみ!」

「おお。コレ、さんきゅ。」

 

 

 

 

 

の方を一度も見ずに玄関に入って佇む。

脱力感に浸りながら重い足を何とか動かして俺はそのままベッドに倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か今日も部活がなかった。

理由を聞けば真田が幸村君の入院している病院へ行くため、

最近ぶっ続けでやり続けていたこともあり、たまには連休もいいだろう、てなことらしい。

ま、ラッキーだな。

 

 

 

 

 

「ブン太!えっと、今日は・・・」

 

 

 

 

 

またお決まりのように放課後、が俺のもとへと駆けて来た。

俺は途中で会った仁王と校門へ向かっていたところで、俺と仁王は立ち止まり苦笑いを浮かべたに視線を向けた。

 

 

 

 

 

「・・・今日はちゃんとん家で食うぜ。」

「そっか。なら何時くらい?」

「あー・・・そうだな。」

 

 

 

 

 

今日は彼女、美咲ん家に行く予定だった。

昨日の帰り際に誘われて。

今日家に誰もいないらしい。

つまりは、そういうこと。

何時になるだろうと、言ったあとで考えると俺は頬を掻きながら頭で計算していた。

 

 

 

 

 

「七時くらい・・・かな?」

「わかった!じゃあ待ってるね!」

「うん。さんきゅ。」

 

 

 

 

 

俺は校門で待たせてある美咲をの向こうに見つけると、仁王とに別れを告げて美咲の元へと向かった。

美咲が俺を見て笑顔を浮かべた途端。

何故か忘れかけていた昨日のことを思い出してばっと後ろを振り返った。

 

 

 

 

 

すると。

俺の心臓がピタリと音を鳴らすのをやめた。

 

 

 

 

 

息が。

止まった。

 

 

 

 

 

「ブン太?」

 

 

 

 

 

美咲の声が遠くに。

聞こえる。

 

 

 

 

 

仁王とが二人。

仲よさ気に手を繋いで。

俺達と反対の方向へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

俺の顔は。

酷く歪んでいたんだと思う。

ただ繋がれた仁王との手だけを見つめて。

目を反らしたくても反らせなくて。

 

 

 

 

 

突き付けられた現実に。

高鳴る鼓動。

 

 

 

 

 

こんな気持ち。

俺は知らない。

 

 

 

 

 

「・・・ねえ、ブン太?」

 

 

 

 

 

不安そうに見上げる美咲の声にはっとする。

俺は振り返ると無理矢理笑顔を取り繕って「行こっか。」と急いで美咲の手を掴んで歩き始めた。

 

 

 

 

 

早く早く早く。

まるでさっきのが俺の見間違いであるように。

ただ早く。

早く美咲の家へ。

 

 

 

 

 

家に着くまでの時間もずっと考えてたのはのこと。

さっきのアレは何?

お前ら付き合ってんの?

じゃあ何?

昨日のアレもやっぱり・・・・

 

 

 

 

 

「ブン太?ねえブン太!?」

「え?」

 

 

 

 

 

掴まれる腕。

気がつけばベッドの上で。

気がつけば俺は物凄い形相で睨み上げられてて。

・・・・こりゃ重症だ。

全く気付かなかった。

俺、いつの間にコイツん家きてたわけ?

美咲の俺を掴む手は震えていて。

そんな美咲を見る俺の視点は虚ろで、何も映してはいなかった。

 

 

 

 

 

反らされることのない視線が。

痛い。

 

 

 

 

 

「・・・・何、泣いてんの?」

 

 

 

 

 

そう言われて頬に触れられる。

 

何?

俺、泣いてんの?

知らない。

知らない。

それすら俺は無意識で。

今目の前で不信の眼差しを向けてくる美咲のことよりも、何故か頭の中はのことでいっぱいで。

ただ今何をしてるのか気になって。

 

 

 

 

 

「ねえ、何で!?」

「・・・・。」

「私を見てよ!どうして・・・さんはただの幼馴染みでしょ!?」

 

 

 

 

 

ただの幼馴染み。

 

 

 

 

 

そうだ。

ずっとその関係を保ってきた。

の気持ちに気付いてたって知らないふりして。

ずっとその関係を自分で一生懸命壊れないように作り上げて来たんだ。

俺が。

臆病だから。

壊さないために。

そうした。

それよりもどうして美咲は俺が今のことを考えてるってわかったんだろう。と、そんなことばかり考えて。

俺、仁王とを見た時、そんなバレるくらいの態度とってた?

そんなに、傷ついた顔、してたかな。

 

 

 

 

 

「・・・・ッ最、低!」

 

 

 

 

 

そう言って泣き出した美咲は俺の胸に顔を押し当てて泣き始めた。

俺も、ただ壁に持たれて美咲に胸を貸した状態のまま天井を見上げ、目尻を伝う涙を逆らうことなく流し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今何時だろう。

雨の降る音で気付いたらもう六時を過ぎてて。

時計を見上げたまま俺はずっと俺の胸に顔を埋めたままの美咲の髪をそっと撫でた。

肩がビクリと跳びはねる。

 

 

 

 

 

(まだもう少し・・・)

 

 

 

 

 

そう思いながら重い瞼を閉じる。

雨が窓ガラスを叩き付ける音を聞きながら。

そのまま俺は眠りについた。