I NEED YOU ・ ONE
俺には幼馴染みがいる。
可愛いけど気が強くて、料理はうまいけどドジっ子で。
ブン太ブン太って俺の名前を呼びながらいつも笑顔で駆け寄ってくる。
そんな無邪気で大切な幼馴染みは結構男受けもよく、アイツを狙ってる男も少なくない。
だけどアイツの中はいつも俺が支配していて、俺のことしか見ていない。
俺はそれを長年ずっとわかってて知らないふりをし続けてきた。
アイツの気持ちなんて、全く気付いてないんだってふりを続けてきた。
それはきっと俺が臆病だから。
この関係を、この気を許しあった落ち着いた関係を崩したくなかったから。
俺はずっと。
アイツの気持ちを無視し続けてきたんだ。
「ブン太ー。今日から三日間はちゃんにご飯作ってもらってね。」
朝、おしゃれをして大きな鞄を持った俺の母さんがパンをかじっていた俺に対して唐突に言う。
聞けば今日から三日間、ん家の母ちゃんと旅行へ行くらしい。
何でいきなり言うんだよって抗議すると浮かれ気分の母さんからは「部活帰って来たら寝ちゃったじゃない。」と言い放った。
確かにきのうは後輩の赤也達とラーメン食いに行って帰ってきたら疲れてそのまま寝ちまった。
だけどもっと早くに言うべきだろうと思ったけど当日になった今、そんなことを言ってもしょうがないので渋々引き下がった。
俺とん家はお隣りさんで俺の母さんとん家の母ちゃんは仲良し。
ん家の父さんはその・・・幼い頃に離婚してていない。
俺ん家の父さんは今単身赴任中。
だから実際、俺ん家もん家も母さんしかいなくて。
は一人っ子だけど俺には弟がいる。
そんな弟もいつもならこの時間はテレビ見て寛いでるってのに今日は朝から姿を見せていない。
俺は不思議に思って母さんに尋ねると玄関先から声がした。
「昨日からお婆ちゃん家に預けてるの。だから三日間、この家はアンタだけよ。」
「はあ?飯どうすんだよ飯は!俺作れねえぞぃ!」
「アンタ寝ぼけてんの?だから今言ったでしょ!
三日間、ちゃんに作ってもらえるよう頼んどいたからご飯の時間になったらちゃん家行きなさい。」
そう言うと母さんは鞄を抱えて「いってきます」と言って家を出て行った。
私には幼馴染みがいる。
意地悪だけどかっこよくて、テニスはうまいけど鈍感で。
って私の名前を呼びながらいつも笑顔で接してくれる。
そんな優しくて大切な幼馴染みはかなり女受けもよく、ブン太を狙ってる女も少なくない。
だけどブン太の中に私はいなくて、つい先日彼女ができた。
私の気持ちに気付かないブン太はいつも新しくできた彼女の元へと行ってしまう。
だけど変わりなく私に接してくれるそんなブン太の優しさに私は自分の気持ちを伝えることなんて決してできない。
それはきっと私が臆病だから。
この関係を、この気を許しあった落ち着いた関係を崩したくなかったから。
だから私はずっと。
自分の気持ちを無視し続けてきたんだ。
「ー。今日から三日間はブン太君にご飯作ってあげてね。」
朝、おしゃれをして大きな鞄を持った私のお母さんがご飯を食べていた私に対して唐突に言う。
聞けば今日から三日間、ブン太ん家のお母さんと旅行へ行くらしい。
何でいきなり言うのよって抗議すると浮かれ気分のお母さんからは「当日にならなきゃ止められると思って。」と言い放った。
確かにこのことを事前に知っていたら私は死ぬ気で止めていただろう。
私が三日間もブン太にご飯作るだなんて・・・と思ったけど当日になった今、そんなことを言ってもしょうがないので渋々私は引き下がった。
私とブン太ん家はお隣りさんで私のお母さんとブン太ん家のお母さんは仲良し。
私ん家の父さんはその・・・幼い頃に離婚してていない。
ブン太ん家の父さんは今単身赴任中。
だから実際、私ん家もブン太ん家もお母さんしかいなくて。
私は一人っ子だけどブン太には弟がいる。
弟の分は作らなくてもいいのかと思い、尋ねてみると玄関先から声がした。
「昨日からお婆ちゃん家に預けてるらしいの。だから三日間、この家はアンタだけでブン太くん家もブン太くんだけよ。」
「じゃあ二人で・・・ご飯?」
「アンタ寝ぼけてんの?だからそう言ってるでしょ!
三日間、ブン太くんに作ってあげなさいよ!ブン太くん料理できないんだから!」
そう言うと母さんは鞄を抱えて「いってきます」と言って家を出て行った。
「ブン太!今日何食べたい?」
学校の帰り。
今日一日ずっとそわそわしていた私は部活に行こうとするブン太を引き止める。
ブン太はガムを噛みながら「あー・・・」と何か考え込んで頭をガシガシと掻いた。
「・・・・カレー?」
「カレーがいいの?」
「うん。今日はカレーがいい。」
無邪気に笑うブン太。
食べ物の話になると本当嬉しそうだ。
ブン太は私の顔をじっと見ると何か思い出したように「あ。」と声を上げた。
「ってか今日ずっと気になってたんだけど朝もお前が作ってくれんの?」
「おばさんにはそう言われてるけど・・・何か問題あるの?」
私がそう尋ねるとブン太は困ったようにガムを噛みながら続けた。
「いや、俺朝練で早いじゃん?って朝弱いから悪いかなって思って・・・。」
「あ、そっか。朝練あるんだ・・・。」
「だから朝は俺パン買って食うし、夜だけ頼むわ。昼は母さんから学食で食えって言われてるし。」
「了解!ごめんね朝起きられなくて。」
「いんや。お前朝起きねえの今に始まったことじゃねえしな。」
ニシシと歯を見せて笑うと「じゃ、部活行くわ。」と言ってブン太は部活へと向かってしまった。
私は買い出しがあることを思い出し、さっさと下駄箱まで歩き、上履きから靴に履きかえて帰り道にあるスーパーへと向かった。
踵を返して部室へと向かおうと足を踏み出した。
今日はカレーか。楽しみだな。なんて考えていたらいきなり肩を組まれて聞き慣れた声が耳を逆撫でた。
「何?お前さんと一緒に住むことになったんか?」
「うわっ仁王聞いてたのかよ!」
「バッチリ。」
口元に嫌な笑みを浮かべたコイツは俺の部活仲間でと同じクラスの仁王。
最悪な奴に話を聞かれたなと思い、肩を竦める。
別に隠してるわけじゃなかったけどバレたらバレたで黙っていては
コイツにどんな噂を流されるかわかったもんじゃねえから俺は仕方なく事の経緯を話すことにした。
「・・・ふーん。」
「ふーんってあのなぁ・・・つまんないって顔すんなよ。」
「同棲し始めた思たんじゃけどなー。つまらんの。」
「・・・俺彼女いるんだけど?」
「二股?」
「んなわけねえだろぃ!は幼馴染み!」
頭を小突くと仁王は「冗談冗談。」と喉を鳴らして笑っていた。
でも俺はその笑いに何かが含まれていることくらい気付いていた。
だけどその何かがわからなくてとりあえずもう一発蹴りを見舞いして俺は先に部室へと向かった。
「ただいまー・・・あ、お邪魔します?」
「あ、ブン太お帰り!」
もうそろそろかな。と時計を見上げていると玄関先からブン太の声がした。
靴を脱ぎながら家へと上がる。
そのまま直接こっちへ帰ってきたんだろう。
ブン太は制服のままで、肩からテニスバッグがかけられていた。
それをソファーの隣にどすんと置くと、いつもはお母さんが座っている席にブン太が座った。
「今ご飯入れてあげるから手洗いなさい手を。」
「へーい。あ、俺特盛ね!」
「言われなくてもわかってるよ。おかわりあるからね。」
「マジで!?やっほい!」
「ほら、さっさと手洗いに行って!」
「わかってるって。今行くんだって。」
お腹を鳴らしたブン太は席を立つとリビングを出てすぐにある洗面所まで歩いて行った。
その間に入れてあげたカレーをテーブルの上に置いてやる。
自分の分を向かいの席に置いて私はいつもの定位置に腰掛けた。
するとすぐにブン太が帰って来て鼻をクンクンと動かす。
「うっわーいい匂い!腹減って死にそうだぜ。」
「ブン太腹煩いから早く食べて。いただきまーす。」
「いただきまーす!うん、うっめぇ!!」
がつがつとカレーを次々に口の中へと運ぶブン太を見ながら
若干「うげ。」とよくそんなに食べれるなと思いながら私もカレーを口に含む。
うん、確かに今日もうまく作れた。と自分に感心しているとブン太が「おかわり!」と満足そうに皿を突き出して来た。
私はそれを苦笑いを浮かべて受け取ると、ブン太は自分のコップにお茶を注ぎ足し始めた。
「、腕上げた?」
「うん上がった。」
「おい!そこは常識として否定するところだろぃ!」
「え、そう?じゃあ上がってない。」
「・・・うっわ可愛くねえ。」
「別に可愛くなくて結構です!さ、食べたらさっさとお家帰りな!」
自分のお皿とブン太の皿を重ねて立ち上がる。
ブン太は満足そうにお腹を摩りながら「んー。」と適当に返事を返してテレビに視線を移した。
正直、私は早く帰ってほしかった。
こうやって自然に接するのがやっとで、ちゃんと普通にしていられるかとっても心配で。
ブン太には悪いけど私は三日間もこの状態に堪えれるかわからなくて。
私自身、ずっと不安定な状態だった。
ブン太はちっとも気にしてないだろうけどね。
私がお皿を洗っているとブン太が立ち上がり、「帰るわ。」と笑って言って玄関を出て行った。
妙に、寂しさが増した。
「ブン太!今日何時くらいに家来る?」
放課後、仁王君と歩いていたブン太を見つけると私は走り寄って声をかけた。
仁王君が先に振り返る。
私に気付いたブン太は一瞬目を瞬かせて言いづらそうに唸って頬を掻いた。
「今日部活ないんでしょ?」
「・・・あーうん。だから俺、美咲と飯食いに行くんだわ。」
「・・・彼女と?」
「そ。で、悪いけど飯いらねえや。ごめんな!」
片目を閉じて顔の前で手を合わせる。
それじゃ仕方ないなと私が渋々頷くと、ブン太は彼女を校門で待たせているらしく、私と仁王君を置いてさっさと行ってしまった。
胸が、苦しかった。
「も大変やの。あんな幼馴染み持って。アイツ絶対アンタの気持ち気付いちょるよ?」
「・・・うん。意地悪・・だよね。」
自分が段々惨めに思えてきて思わず俯くと、仁王君は苦笑いを浮かべて頭を撫でてくれた。
「あーあ。せっかく昨日に今日の分の材料買っておいたのに。無駄になっちゃったなー。」
生モノもあるし今日中に食べないといけないんだけど・・・。
一人で全部食べるかな。
いや、多いよねやっぱ。
私が鞄を担ぎなおして歩き始めると仁王君がポケットに手を突っ込みながらあとをついてきた。
「じゃったら俺が食ってもええ?」
「え?」
「丸井の分、俺にちょうだい?ダメ?」
首を傾けながら。
まるでおねだりされてるみたいで思わず胸が高鳴った。
普段こんなことする人、言う人じゃないし。
私は動揺しながらどうしようかと考えたけど
別にいらなくなったブン太の分を仁王君にあげるだけだし問題ないと思い、頷いた。
「うん。いいよ!」
「はい。どうぞ。」
並べられた料理を見て思わず俺は本当に食べてもいいのかと箸を掴もうと伸ばした手を留まらせてしまう。
あまりにもその料理はすごくて、家庭料理なんだけれども家庭料理とはまた違った雰囲気を漂わせていた。
「何してんの?食べてよ。」
「・・・いただきます。」
「はは、何か仁王君と向き合ってご飯食べるとかふっしぎー!」
そう言って笑うを見ながら俺は近くにあったほうれん草のお浸しを口に含んだ。
うん、うまい。
「お口に合いますか?」
「おお、合格じゃ。嫁にきてくれても構わんよ。」
「・・・考えが飛躍しすぎてるよ仁王君。」
冷ややかな視線を向けられた俺は次々といろいろな料理に箸をつけては口へと運んだ。
とくだらない、でもそれが心地いいと言えるそんな会話をしばらく交わしたあと、
俺は出された全ての物をたいらげ、箸を置いた。
「ご馳走様。」
「いえいえ。こっちこそ食べてもらえて助かったよ。ありがとう。」
苦笑いを浮かべて皿を次々と重ねて立ち上がる。
俺も手伝いながら洗い物をキッチンまで運ぶ。
汚れた皿をステンレスの上に置くと、が「ありがとう。」ともう一度お礼を言ってスポンジを手に取った。
「・・・ッ!?に、仁王君!?」
俺は、そんなを後ろからそっと抱きしめた。
「なあ。」
「・・・え?」
振り返る。
蛇口から流れ出る水の音が静かなキッチンを支配していて。
高鳴る俺の心臓の音を掻き消した。
「俺、が好きって・・・知っとった?」
怖くて。
の目を見ずに。
ただ流れる水をじっと見つめた。