甘く好きって言える仲じゃない。
だって、あまりにも距離が近すぎるから。
今日飛び越えるこの一線
「今日帰りに買いに行こうよー!」
「えーでも受け取って貰えるのかな?」
「大丈夫だって!確か今フリーでしょ?」
「うっそーマジで!?じゃあ私奮発しちゃおっと!」
騒がしい。
毎年あの日に近付くにつれて騒がしくなる。
その度にチクチク痛む胸に何だかちょっぴり悲しくなった。
あの日になると必ず思う。
何でアイツと幼馴染みなんだろうって。
何で踏み出せないんだろうって。
そんなことを考えながら、明日を待ち遠しく思い騒ぐ女子の声を聞くと、無性に泣きたくなった。
「今年は・・・どうしようか。」
とうとう明日はアイツの誕生日。
何故か気がついたら毎年あげてるプレゼントを今年はまだ買っていない。
何を買うかで悩んでいるのではなく、買おうか買わないでおこうかで悩んでいたらいつの間にかアイツの誕生日は明日になっていた。
去年は入りたてのテニス部で早く1番になるよう願ってリストバンドとタオルをあげたっけ?
そういえば高かったなーあのリストバンド。
でもアイツのすっごく喜んだ顔見たらそんなのちっとも苦じゃなかった。
しかもなんだかんだ言って今でも使ってくれてるし。
「でもなー、やっぱりもうそろそろ潮時だよね。」
鞄を振り回しながら空を仰ぐ。
どっぷり浸かった夕日の眩しさが何だか腹立たしかった。
ほとんどの子供が色恋目立つ小学校5年生あたりから急にモテ始めた幼馴染みの赤也。
赤也自身もモテるという事態に悪い気はしていないらしく、むしろ調子に乗っていつも私に自信たっぷりな笑みで自慢してきたくらいだ。
去年からテニス部で目立ち始め、さらに人気を増した赤也。
去年の誕生日はたくさんプレゼントを貰っていて(しかも年上からも)すっごく自慢されたうえにその中でも自分が要らないものを私にくれた。
思わず腹腸が煮え繰り返るかと思った。
今年は二年生エースというだけもあってさらに増えること間違いなしだろう。
またそんな赤也を見て私は幼馴染みという枠組みから指をくわえて見ていなくちゃいけないんだろうな。
明日はきっと、告白だってされる。
赤也は何と答えるんだろうとか四六時中ドキドキはらはら不安がらなくちゃいけないかと思うと気が気でなかった。
私も赤也にプレゼントをあげたい。
毎年あげてるし「はい、おめでとう」と言って手渡せば別にこれといって勇気を出さずとも
そのプレゼントに隠された私の気持ちを怪しまれずに受け取ってもらえる。
だけどそれじゃ嫌なんだ。
ちゃんと、気持ちをわかったうえであげたいし受け取ってほしい。
好きだから。
幼馴染みとしてでなく、ひとりの男として。
私のあげるプレゼントは赤也にとって毎年恒例のある一種の儀式みたいなもので、別にこれといって意味があると思ってもいないだろう。
それに比べて年々増える赤也に好意を寄せた女子達の赤也へのプレゼント。
それを見てさらに焦り始めるけれど決して幼馴染みから抜け出せない私の想い。
それは年々歳を積み重ねるにつれて大きくなって、今じゃ不安と嫉妬の醜い感情の嵐が私を取り巻いている。
もう、自己嫌悪もいいところだ。
「あーもうっ!どうすりゃいいのさ!!」
「そんなもん、悩まずともあげたらええじゃろ。」
「!?」
独り言のつもりで叫んだのに普通に返事が返ってきて思わず歩いて来た帰路を振り返ると、
振り回していた私の鞄を片手で掴んで不敵に笑う仁王先輩の姿がそこにあった。
え、ってか何で・・・聞かれてた?
いやいや、それでもやっぱおかしいよ。
何で私の考えてることがわかるんだ?
どの辺りから私の独り言を聞いてたんだろうこの人。
「赤也、ちゃんのプレゼント欲しがっとるぜよ。意地悪せんとあげたりんしゃい。」
「ベ、別に意地悪なんかじゃないですよっ!」
「ほう。そうかそうか。で、何あげる?」
「まだあげるなんて私一言も言ってないじゃないですか!」
「でもあげたいんじゃろ?」
「・・・う。」
「ならあげればよか。」
ボンポンと頭を撫でられて小さい子供をあやすように微笑まれる。
ああ、かっこいいな。
じゃなくて・・・仁王先輩は本当にいいお兄ちゃん的存在だ。
いつも私の背を押してくれてなんだかんだ言って面倒見がいい。
帰り道だって途中まで一緒だからって引退してからは今みたいに偶然会うとしょっちゅう家まで送ってくれた。
面倒臭そうに見えて本当意外だ。
「そうじゃのー今から買えて赤也が喜ぶ物、か。」
「・・・結局私の意見は無視で買わされるんですね。」
はあ、と小さく息を吐いて肩を落とす。
何だかもうどうにでもなれって感じになってきた。
やはり今年もどうやら幼馴染みから抜け出せそうにないな。
しばらくうーんと唸りながら考え込んでいた仁王先輩が突然口元に嫌な笑みを浮かべて立ち止まった。
自然と私も足を止める。
「1番手っ取り早く喜ぶもの、あるんじゃけど・・・どうじゃ?」
この時、何故かすごく嫌な予感がしたんだ。
私に勇気があるのなら、きっとこんなことにはならなかっただろう。
* * * * *
『!俺今年は十六個貰ったぜ!』
『へえ、そうなんだすごいね。はい、十七個目のプレゼント。おめでとう!』
『マジ!?やー毎年悪ぃなサンキュ!』
いつからこんなにも嫉妬深くなったんだろう。
苦しくて。
赤也のその何も知らない無垢な笑顔を見るのが苦しかった。
* * * * *
案の定、朝から黄色い声が耳を刺す。
私の不機嫌ボルテージがマックスに達していた。
原因は決まって廊下で鼻の下を伸ばして頭を掻いてる(ように見える)赤也だ。
ホントお気楽というか何と言うか。
そんな赤也が私の視線に気付いたのか、ご機嫌に鼻唄なんか歌いながら軽い足取りで私の元へとやってきた。
「ウィッス!、眉間に皺寄ってんぞ。」
「おはよう赤也。気のせいだよ。」
「いや、寄ってるって。何だお前機嫌悪いの?」
「べっつにー。むしろいいんじゃない?私今日の学校帰りにデートの約束あるしー。」
「・・・・デート?」
ぴくり。
赤也の眉が跳ねるように動く。
声のトーンがわずかに下がった気がした。
本当にコイツは機嫌がころころと変わるから厄介だ。
「デートって何だよ。今日俺の誕生日じゃん。」
「べ、べつに赤也が誕生日だろうが私には関係ないし!」
「はあ!?何お前!毎年祝ってくれたじゃん!」
むっとしたように貰ったプレゼントを抱えたまま私のことを睨む。
毎年祝ってきたんだから当然今年も祝ってもらえるだろうと思っていた赤也は躊躇いもなく不満を私にぶつけてきた。
私の持ち合わせている良心がチクりと痛む。
でも、これでいいんだよね。
今年の赤也の誕生日、つまり今日が変わるか変わらないかの分岐点なんだから。
そう無理矢理思い込むようにして昨日仁王先輩に言われた作戦のとおり、良心を押し殺して私は口を開いた。
「そろそろ私なんかじゃなくて彼女のひとりでもつくってその子に祝ってもらいなさいよ。」
空気が冷え切った。
声が、震える。
ぎゅっとバレないように俯いて唇を噛み締めた。
そんな私に赤也は
「ふーん、そ。ならそうするわ。」
冷え切った目で私を一瞥して踵を返し、私の元から去って行った。
瞼が熱い。
心が痛かった。
* * * * *
「信じらんねえー。」
部室で一時間目の授業をさぼろうとしたら先客でブン太サンがいた。
だから思わずたまっていたものを愚痴って今俺は無気力に天井を見上げている。
「あんさー、はっきり自分のこと言わない赤也が悪いんじゃね?」
「俺は悪くないっスよ!鈍感なのはあっち!」
ぱちんとガムが割れる音と共に飽きれ混じりのブン太サンの溜息が聞こえる。
何で俺が悪いんだよ。
明らかに鈍感なが悪いんじゃん。
何が彼女作って祝ってもらえだ。
マジでつくってやろうかってんだクソッ。
アイツ、本当に俺のこと幼馴染みとしか思ってねえのか?
ちっくしょー!
「あ、そういやお前誕生日だったっけ?オメデト。」
「何スか急に・・・今思い出した感バリバリじゃないっスか。」
「そんなことねえって。ほいっプレゼントやるよ。」
「ちょっと!入ってるガムくれるならまだしもっ、吐き捨てたガムの包み紙なんていらねえっスよ!!有難迷惑!!」
「有難いのかよ。ただの迷惑だろぃ。」
ブン太サンはケタケタ笑いながら俺に投げつけてきたガムの屑を自分で拾ってゴミ箱へ捨てた。
その一連の動作をボーっと眺めながら顎を置いていた椅子の背もたれから顎を退けた。
おめでとう・・・・・・か。
「・・・・別に、アンタに祝われたって・・・嬉しくねえよ。」
溜め息混じりにそう呟くと、「んだとこの野郎!」と自分の悪口に関しては地獄耳のブン太サンが俺の首を絞めてきた。
何が苦しいって、胸の奥が苦しかった。
『そろそろ私なんかじゃなくて彼女のひとりでもつくってその子に祝ってもらいなさいよ。』
んだよ、祝ってくれたっていいじゃん。
毎年祝ってくれたくせに。
何で今年はこんなにも冷たいんだっつーの。
もう知らね。
アイツのことなんてもう知らねえ。
好きにすればいいじゃん。
俺がより可愛い彼女つくって自慢しに行けば満足なんだろ。
そんなの俺が本気出せば簡単なことなんだって。
わかってないな、アイツ。
鈍感も大概にしろよ。。
* * * * *
お昼休み。
何故か私は今、仁王先輩と向かい合って卵焼きを口に含んでいた。
いつもは美味しいはずのお弁当が何の味もしない。
いくらお茶を飲んでも食べたものはスムーズに喉を通ってはくれなかった。
「よう飲むの。」
「ま、まあ・・・すごく渇くんですよ。」
クツクツ笑う仁王先輩と極力目を合わさないように箸をくわえる。
だけどそんな私の動揺すら相手にはバレバレな気がして、居心地の悪さが今最大の悩みだった。
「で、順調か?」
「・・・今のところは仁王先輩の計画どおりです。」
「そうか。ならよか。」
仁王先輩はカフェオレが入った茶色い紙パックから伸びるストローを口にくわえ、機嫌良さそうに口元をいやに緩めた。
何だか嫌な予感がする。
それはもう昨日の帰り道からずっとそうだったんだけど。
仁王先輩が絡んでろくなことがないことはわかってた。
わかってたのになー・・・。
私の馬鹿。
「くくっ、ホントに赤也に彼女できたらどうする?」
「泣く。」
「まあそん時は俺の胸貸しちゃる。安心しんしゃい。」
安心もくそもあるか!
そう叫んでやりたかったけど口の中にミートボールが入っていたのでやめた。
ミートボールに感謝してくださいよ先輩。
「放課後、楽しみじゃな。」
「悪い顔になってますよ先輩ー。」
喉を鳴らして笑う先輩は本当に悪魔のように憎たらしかった。
人事だからって。
楽しんでるのはアンタだけだ!
とんでもない人の手を借りてしまったと、今更ながらに後悔をした。
* * * * *
「「あ。」」
終礼が終わり、一目散に教室を出てそこから一番近い階段に差し掛かったところで偶然(を装って)赤也と鉢合わせた。
朝のこともあり、相当気まずいけれど、仕方がない。
これも仁王先輩の策略なのだから。
部活大好きな赤也は柳先輩風に言うなら100%の確率で終礼が終わると同時に教室を飛び出して部活へと向かう。
だから今日、私も終礼が終わると同時に急いで教室を出た。
「何、そんなに急いじゃって。これからデートかよ。」
「朝そう言ったじゃん。いちいち突っ掛かってこないでよ。」
「ンだと!?」
ちょっと空気がやばいなとは思ってたけど案の定、赤也は険しい顔付きになって私を睨み付けた。
キレてるってのは言われなくてもわかる。
だから私の胸は今までにない痛みで支配されていた。
本当にこんなので仁王先輩の作戦はうまくいくのだろうか。
実はといえばまだこの結末を教えてもらっていない。
ただ頑なに『絶対うまくいくから任せんしゃい。』とだけ言って教えてくれなかった。
ま、まさかうまくいかなかった時の保険なんじゃ・・・・。
私まさか騙されてる!?
今更ながらに気付いたけどこれってかなりの賭けに近い作戦なんじゃないだろうか。
もしこのまま失敗して赤也とうまくいかなくなって険悪な仲になったら一生恨むわよ仁王先輩!
「。」
「あ、え、仁王・・・先輩?」
私の名前を呼ぶ声がしたと思ったらその方向をいち早く察した赤也が階段を見上げ、驚いた顔をして仁王先輩の名を呼んだ。
ってかいつの間に名前呼び!?
「よう赤也。何しとるんじゃ?はよう部活行きんしゃい。部長じゃろ?」
「い、今から行くところッス!今日ブン太サンが練習来てくれるらしいッスよ。仁王先輩は来てくんねーんスか?」
「俺はこれから約束があるんじゃ。なー?」
「!、じゃ、じゃあのデートの相手って・・・」
「さあ誰じゃろね。」
本当に楽しそうに赤也の反応を見て笑う仁王先輩は鬼だと思う。
先輩は実は逆に私と赤也の仲を引き裂こうとしてるんじゃないだろうか。
そう思えるほど仁王先輩は今のこの状況を楽しんでいたのだ。
やだな。この人敵に回したくない・・・。
「何でっ、いつの間に仁王先輩がにちょっかい出してたんスか!?」
「きのう。」
「昨日ってええ!?昨日!?」
「そんなに驚かんでもええじゃろ。俺の手にかかればチョロイチョロイ。」
「っふざけんなよ!」
仮にも先輩ともあろうお方に向かってそう叫んだ赤也は、私の腕を掴んで庇うように自分へと引き寄せた。
「ちょ、痛い赤也!」
「うるせえ!我慢しろ!」
「はあ!?」
私が顔を歪めて痛さを訴えればさらに力強く引き寄せられる。
肌と肌が密着することに多少ときめきはするものの、やっぱり今の状況でそんな甘い空気は漂ってこなかった。
「痛がっちょるて。放してやりんしゃい。」
「仁王先輩何のつもりっスか!?」
「、言うてもええ?」
赤也が私頭のすぐ上でキャンキャン吠えている。
仁王先輩は私にニヤニヤしながら目配せすると許可を促してきた。
言ってもいいわけがない。
私は赤也がずっと好きで赤也を好きな女に嫉妬してプレゼント買いそびれちゃったなんて
そんなカミングアウト的なことできるはずがないんだ。
ばらされちゃまずいと直感してみるみる顔が真っ青になった私は首を左右に振ってNOを訴えた。
そんな私の反応にまた嬉しそうに笑う仁王先輩。最低だ。
「おいこら仁王!こんなところで何してんだよお前も部活行くぞ!」
「ブン太サン!」
「丸井・・・」
ちょうど階段を下りきった丸井先輩が仁王先輩の肩を掴んでガムをぱちんと音を立てて割った。
不満そうに仁王先輩の眉間に皺が寄る。
だけど丸井先輩はそんな仁王先輩の表情にもお構いなしだ。
早く階段を下りるぞと仁王先輩を引っ張り始めた。
「・・・・ふう、しゃーないの。。」
何か諦めたような口調で頭をガシガシと掻きながら仁王先輩が私の名を呼んだ。
私は弾かれたように顔を上げ、丸井先輩に襟元を掴まれたままの仁王先輩を見た。
「昨日の続き。あれ、お前さんの言葉じゃ。」
「私の言葉?」
「わからんかったらあとは知らん。じゃーな。」
そう言って軽く手を振って階段を下り始める。
そんな仁王先輩の動作をぼんやりと見ながらデート(というより作戦)はどうなったのだろうと考えていると、
階段を五段ほど下りてから仁王先輩が振り返った。
「赤也、俺からのプレゼント。」
「は?」
「部活の方は俺と丸井が適当に纏めといてやる。今日は赤也の誕生日じゃけんのぉ。」
「え、ちょ、ちょっと!仁王先輩!?」
ククッとまたあの嫌な笑いを残して今度こそ踵を返して少し下で待っていた丸井先輩と共に行ってしまった。
わけもわからず私と赤也は口を開けたままいまだ密着して立っていた。
ハッと気付いて赤也が掴んでいた私の腕を放して気まずそうに視線を逸らした。
そして「帰るぜ。」と素っ気なく呟いてさっさと歩き出してしまう始末。
部活はいいのだろうか。
赤也はあれだけテニスが好きなのに。
帰るってことはサボるってことでしょ?
いいのかな。部長のくせに。
「何してんだよトロいな。置いてくぜ!」
ちょっと刺を含んだ赤也の言い草に肩をビクつかせて後を追う。
そんな私を一目見て赤也は再び歩き出してしまった。
それでも私も置いていかれないように必死にやや小走りに後を追った。
そんな中、私の頭の中は先程の仁王先輩の台詞がぐるぐると回っていて、それを解読しようといっぱいいっぱいだった。
「・・・言葉?」
「あ?何?」
「え、や・・・別に。」
首を傾げて思わず声に出していたことにしまったと思うも、赤也に聞こえてしまった以上どうしようもないので適当にはぐらかすと、
赤也から小さく舌打ちが聞こえた気がした。
「・・・んでだよ。」
「え?」
「何で今年は祝ってくんないわけ?」
そう言って振り返った赤也の顔は至極面白くないといった拗ねた顔になっていて、
昔よくこんな顔してたなって何だか懐かしくなった。
いつから赤也は私の前でカッコつけたりモテることを自慢してきたりしだしたんだっけ?
昔はよくお互い泣きながら喧嘩したり拗ねたり何も考えずに遊んだりしてたのに。
そんなことを考えると、ものすごく寂しくなって、胸がちくりと痛みを主張した。
「だって、いつかは祝えなくなるじゃん。それなら今がちょうどいい時期かなって・・・」
「だから何で祝えなくなるんだって!」
赤也はさらにムッとして足を止めた。
何でだ。わからない。そんな思いが赤也からひしひしと伝わってきて、
私の気持ちも知らない赤也の鈍感さに段々と腹が立ってきた。
「だから、お互い大事な人ができたらそっちの方にいっちゃうでしょってことよ!何でわからないのよ赤也の馬鹿!」
最後の方は声を荒げてキッと涙目で赤也を睨み付けるように唇を噛んだ。
赤也は何も言わずに無言のままじっと私と向き合うように立っている。
零れそうな涙が必死に目から零れ落ちないように堪えていた。
「何ソレ。わけわかんねえよ。」
眉間に皺を寄せた赤也が私の腕を掴んで下りきった階段の壁に押し付ける。
背中にひんやりとした冷たさがシャツ越しに伝わってきて気がつけば私は赤也と壁に挟まれるようにして立っていた。
今は下校時間真っ最中。
ものすごく赤也と私の顔の距離が近い。
胸が高鳴るも、この体勢はいくらなんでもまずいと思った。
額に自然と嫌な汗が伝った。
「ふざけんなよ。そんなの関係ねえし。」
「・・・あるよ。ねえ、早く退いて。誤解される。」
「されたっていいじゃん。嫌なわけ?」
「い、嫌とかそういうことじゃなくて・・・・」
私があいている方の手で赤也を押しのけようとすると、赤也のもう一方の手がその手を掴んだ。
当たり前のように力は強くて、敵うわけがない。
相手は現役テニス部エースだ。
それに男。
いくら幼馴染であっても女の私が敵うわけがなかった。
「俺はむしろその方が好都合。」
そう言ってニヤリと笑った赤也は私の両手を壁に押し付けてそのまま倒れるように顔を近付いてきた。
一体これはどういうことなのか。
頭がくらくらして心臓がバクバク煩くて、今の状況についていけていない。
そもそも、赤也はこんなことをする人間だっただろうか。
赤也は、いつからこんなにも男の子になっていたのだろうか。
ちゅっ
音を立てて離れる熱に、
私の胸は張り裂けそうなくらい飛び上がって、
ここが学校の中だということも忘れ、
誰かが見ているということも忘れ、
何を考えるわけでもなく、
油断していた赤也の手を振りほどいて抱きついた。
「・・・・・?」
「・・・ごめん赤也っ・・」
「・・・・・・何?」
さっきは堪えることができた涙も今は抵抗もなしに頬を伝う。
抱きつく私をそっと抱きしめ返した赤也が背中をぎこちなくポンポンと優しく撫でた。
周りの女子のきゃっと言う声がどこか頭の隅に入ってきた気がした。
「本当は祝いたかったの!ものすごく祝いたかったの!」
『お前さんの言葉じゃ。』
「だけど学年が大きくなるにつれて赤也どんどんモテて・・・っ・・私だって他の女の子みたいに好きだって言って渡したいのにっ!」
素直に気持ちを伝えれば、それが私から赤也への最高のプレゼントになる。
「赤也にいつか彼女が出来たらって・・・っだから・・・」
「はいはい。もうわかったって。」
そう言ってあやすように背中を叩いてさらにギュッと抱きしめる赤也。
心臓の音が聞こえてきそうな気がしたけど、私の心臓の音が大きすぎて聞こえてくることはない。
ここが公衆の面前だってことはわかっていたけど、私も恥ずかしいと思うだけで、離れようとはしなかった。
「ったく、だからって仁王先輩んとこ行くなっつーの。マジで焦ったし。」
「・・・・私も途中で人選間違えたって思った。」
はあ、と肩の荷を降ろすように赤也は溜め息を吐いた。
確かに仁王先輩は私にあまりにも危険な綱渡りをさせていた。
でも、結局は仁王先輩のおかげだったわけだし・・・・
一応お礼は言うべきだよね。うん。
「で、何か言うことは?」
赤也が勝ち誇ったような笑みを浮かべて私と向き合うように抱きしめていた私を引き剥がした。
もちろん今日が赤也の誕生日だという時点で何か言わなきゃいけないのは私の方。
こういう時はおめでとうと言うべきなのだろうか、それとも・・――――
「・・・・・・・。」
「あーもう何でそこで黙んだよ!早く言えよ!」
気が長い方ではない赤也(むしろ短気)がイラっとしたように頭を掻く。
そんな赤也を見て、くすりと笑った私は目尻に溜まったままだった涙を手で拭い、笑う。
「誕生日おめでとっ赤也!」
あえて、おめでとうを口にしたのはきっと、
プレゼントとして言うべき言葉を、仁王先輩が与えてくれた二人きりになれる時間に伝えたいと思ったからだろう。
9月25日
それは二人が幼馴染というボーダーを越える日。
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2007.09.25 執筆
赤也誕生日おっめでとぅー!!!永遠の14歳おっめでとぅー!!!
いっやぁこの前の岳人の誕生日祝い忘れてちょっと泣いてました私…^_^;笑
忙しいとキャラの誕生日祝うの難しいよ。しかも9月10月誕生日の人間多いッ!!
それにしてもやっと書けた赤也と主人公幼馴染設定!
私、今達成感で浸ってます。笑
では、みなさんごきげんよう。