君が教えてくれたモノ

 

 

 

 

『私の分までアナタは生きて。』

 

 

 

風に乗って聞こえた、儚い声。

忘れない。

名前も知らなかった彼女と交わした、最初で最後の約束。

 

 

 

「ねえ、アナタは今…一人なの?」

 

 

 

寂しそうで、切なそうで。

あの日、儚げに笑った彼女。

そんな彼女の墓石の前でそっと手を合わせ、目を閉じる。

頬で流れる風を感じながら、

 

 

 

「ちゃんと生きてるよ、私。」

 

 

 

あの日の彼女にそっと報告する。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「そっか、行っちゃったんだ、秋乃。」

 

 

 

ベッドの上で片足を立て、入ってきたばかりの俺達に座るように促す。

滝は読んでいた本をベッドの脇に置いた。

読唇術と精神論。 一体どんな本を読んでるんやコイツは。

 

 

 

「で、君たち二人学校は?」

「ま、一日くらいどうってことないわ。」

「…つまりは休んだわけだ。」

 

 

 

いけないんだ。 そう思ってもないことを言ってクスリと滝が笑う。

跡部が見舞いの品を渡すと、滝は笑ったまま「毎回悪いね。」とお礼を述べてそれをベッドの脇に置いた。

…中身確認せぇへんのかいな。

 

 

 

「部活は大丈夫なの?」

「ここ数日、自主練にして監視は樺地に全て任せてある。 問題ねぇ。」

「はは、便利な部下がいるものだね。」

「フン、アイツは俺様の右腕だからな。」

 

 

 

鼻で笑って跡部は足を組む。

そうも言うけど、俺達もそろそろちゃんと練習しな他の学校と差が出てしまうかもしれへん。

ま、緊急事態にせよ、油断はしてられへんな。

 

 

 

「それにしてもお前の再従兄弟、随分な性格してんじゃねぇのよ。」

「僕の家系だから当然と言えば当然かな。」

「ハッ、違いねぇ!」

 

 

 

高らかに笑う。

確かに滝自身もええ性格してるわけやし、やっぱり血は争われへんねんな。

なんてことを俺はぼんやりと考えた。

 

 

 

「でもま、成功しても失敗したとしても、これを機に何かが変わってくれたら僕はそれでいいよ。」

 

 

 

言葉とは裏腹に、何かとても安心したような柔らかい笑みを浮かべる滝。

俺と跡部は何も言わずに、ただ小さく頷いた。

 

 

 

「そうだ、忍足。 昨日言った話だけど…」

「昨日?」

「昨日跡部以外のみんなで見舞いに来たんやけど、俺とジローは屋上で喋っとってな、みんなが帰った後にここに来たんや。」

「その時にちょっとお願い事を頼んだんだけど、覚えてる?」

「それやったら今日ジローに任せてきた。 心配せんでええ。」

「そう、それならいいんだけど。」

 

 

 

ちょっと不安そうな表情をチラつかせた滝に心配をかけないよう笑顔を貼り付ける。

若干、それが胡散臭さを増してしまったんか、滝は疑うような視線を俺に向けた。

待て待て、信用なさすぎやろ俺。 何でや。

 

 

 

「何で信用してくれないんだって、顔に書いてるよ。」

「…書いてへん。」

「答えは簡単。 普段の行いが災いしてるんだよ。」

「俺は普段からお利口さんや。」

「ははは。」

 

 

 

ワザとらしく笑って滝はそっぽを向いた。

何? 何?

何かそのリアクションめっっっっちゃ腹立つ!!

 

 

 

「僕は二人に頼んだのに、あのジローひとりに行かせるってどうなの?」

「しゃあないやろ。 俺だってちょっと用事があったんや。」

「アーン、用事って何だ?」

「……用事は用事や。」

「ま、別にいいんだけどね。 とりあえず、ジローがしっかりしてくれていることを願うよ。」

「どうだかな。 アイツは信用ならねぇぜ。」

「…ジローどんだけやねん。 アイツもやる時はやるで?」

 

 

 

あまりにも信用されていないジローがちょっとだけ可哀想に思えて、同情心が沸いた。

そういえば、ジローから着てたメールを返すの忘れてることに気づいた俺は、ポケットから薄型の携帯を取り出した。

 

時刻はまだ12時半。 昼過ぎや。

 

携帯のディスプレイに映し出された時刻を確認して、滝と何か話してる跡部の名を呼んだ。

 

 

 

「跡部、この後ちょっとついて来てくれへんか?」

「アーン? どこへだ?」

「それは行ってからのお楽しみや。」

 

 

 

ちらりと滝へ視線を向ける。

案の定、疑念が込められた目でじっと見上げられていて思わず頬が引き攣る。

にっこりと笑って見せたら、滝は呆れたように溜め息を吐いて視線を逸らした。

 

 

 

「そんな顔せんといてや萩之介君。」

「気持ち悪い。 さっさと出て行ってくれない?」

「何やと!?」

「ま、冗談はさておき、さっさと行っておいでよ。 行くところがあるんでしょ?」

 

 

 

ちょっとだけ口元に笑みを浮かべて俺を見上げる。

その表情は早く行けと言っていて、滝は顎でドアの方を指した。

跡部が黙って鞄を背負い、席を立つ。

 

 

 

「じゃあな。 せめてその毒しか吐かない口でも治してもらって帰ってくるんだな。」

「ははは、治せたらノーベル賞ものだよ。」

「だな、重症だもんなお前は。」

「うん跡部もね。」

 

 

 

一瞬だけ跡部の口元がヒクつく。

跡部と滝の間に何か只ならぬ空気が流れたような気がして、俺は手のつけようがなくなる前に二人の間に入ることにした。

 

 

 

「ほなお元気で〜。 行こか景ちゃん。」

「景ちゃん言うな気持ち悪ぃ!」

「じゃあね、忍足、景ちゃん。」

「ッ、滝!!!」

「ほなさいならー!!!」

 

 

 

まだ何か言い足りない跡部の背中を押して病室を飛び出る。

勢いよく閉まったドアの向こうから「またお見舞い品持って来てねー。」なんて暢気な声が聞こえて

俺も跡部も完全に頬の筋肉が引き攣って、もう何も言い返す気もなくなってしまった。

ほんま、君心臓でかいわ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

必死に生きようとすることって、いけないことなのかな。

生きることが当たり前になっている俺達の方が、よっぽどいけないような気がするのに。

 

 

 

 

 

「っしゃー今日も滝んとこ行くぞー。 おい日吉、いつまでやってんだよさっさと着替えっぞ!」

「え、今日もまたこれで自主練終わりなんですか?」

「当たり前だろ。 どうせ跡部も侑士も来てないんだし、俺達が滝のお見舞い行こうが文句言えねぇじゃん。」

「……まあそうですけど、いいんですか? 練習しなくても。 そんなんじゃあっという間に下克上されますよ向日さん。」

 

 

 

言いながらも手を止め、タオルで顔を拭いながらこっちにやってくる日吉に俺は言う。

 

 

 

「練習はいつだってできんだよ。 帰ってからでも、朝早くからでも。 でもな、今しかできねぇことってあんだろ。」

「別に滝さんが死に掛けてるわけでもないのに。」

おっ前そんなにテニスが大事か!? まあ俺だってできたら練習してもっと強くなりてぇけど…違うだろ!」

「……わかってますよ。 声がでかい。」

 

 

 

耳を塞ぎながら鬱陶しそうに俺の横を通り過ぎていく日吉を追って俺も小走りに駆け出す。

何だかんだ言って、悪態ついている割りにはコイツも行く気はあるんだろうな。

わかってるからこれ以上は何も言わずに先にみんなが着替えているだろう部室へと向かった。

 

 

 

「んあ? みんなもう着替え終わってんのかよ。 早すぎだろ!」

「まあな。 お前らも早く着替えろよ。」

「あれ、ジローお前何でんな格好してんだ?」

「それが聞いてくださいよ向日先輩! ジロー先輩が…」

「あーもうさっきから長太郎うるさいCー!」

「だってジロー先輩あんまりッスよ! 俺達に言ってくれたってよかったのに!」

「だーかーらー!」

 

 

 

何か珍しく長太郎とジローが言い争っていて、それを尻目に俺と日吉はとりあえず着替え始める。

そんな二人のやり取りをまた始まったとばかりに面倒くさそうな表情を浮かべた宍戸が突っ込む気はなさそうに眺めている。

それにしても、何でジローの奴私服なんて着てんだ? ただの見舞いだろ?

 

 

 

「ジローこれから何かあんの?」

「うん、ちょっと夜の街に行って来るー。」

「はあ?」

「ど? ちょっと年上に見えなくもない!?」

「……まあ普段よりは大人なんじゃね?」

「マジマジ!? やったー! 俺おっとなー!!」

 

 

 

俺の返事に喜び跳ね上がるジローに残念な視線を向けていると、さっきまで傍観者を務めていた宍戸が「忍足の服なんだと。」と教えてくれた。

何だ、あれ侑士の服か。 どおりで普段のジローっぽくねぇ私服だと思った。 どっちかって言うとちょっとシックな感じだよな。

ていうか、あの服俺見たことあるし。 この前一緒に買い物行った時あの上の服着てたよな、確か。

そんなことを考えながら着々と着替えをすませていくと、まだ少し不貞腐れ気味の長太郎が「向日先輩…」と俺を呼んだ。

 

 

 

「あのなー、んな顔すんなって。 何なんだよ一体、鬱陶しいってその顔。」

「だって先輩…ジロー先輩、今日夜の街に行って先輩のお母さんに会ってくるって…」

「は? のお母さんって…何でまた急に、」

 

 

 

思いがけない長太郎の報告にちょっとビックリしてジロー本人に確認を取ろうと視線を送ると、

ジローは何も言わずに鏡を見ながらワックスで髪にクセをつけていた。 何キメてんだコイツ。

いつもの寝癖のジローとはちょっと雰囲気が違っていて、たぶん長太郎の言うことは本当なんだろうということが何となくだけどわかった。

だけど、何でまたの母さんに会いに行く事になったのか。

興味が湧いた俺は脱いだユニホームを鞄に詰め込んでジローの隣のソファーに腰掛けた。

 

 

 

「一人で行くのか?」

「…うーん、まあ…」

「ていうか、何でそんなことになってんだよ。」

「うん、…昨日みんなが帰った後に忍足と滝の病室に行ったらね、」

 

 

 

使い終わったワックスの蓋を閉め、ジローが俺の方を向いて言う。

日吉も着替え終わって、みんなが部室のソファーに座ってジローの話を聞く形になった。

 

 

 

『二人に頼みがあるんだ。』

 

 

 

困ったように笑いながら、地図がプリントされた紙を手渡す。

 

 

 

のお母さん、この辺りで働いてるらしいんだけど…ちょっと捜して来てくれない?』

『…ちゃんのお母さん?』

『うん、本当は僕が行くつもりで秋乃からバレないようにこっそり聞き出してたんだけど…こんな事になっちゃったからね。 頼むよ。』

 

 

 

とりあえず紙を受け取って地図をよく見てみる。

その地図の場所が瞬時にどこだかわかった俺達は思わず目を見合わした。

 

 

 

『聞けば、ずっと家に帰ってないみたいなんだのお母さん。』

『…会って、どないするつもりなん?』

『ちゃんと生きているのか知りたいし、できれば今回のこともちゃんと話をしておきたい。 のお母さんは秋乃に執着してて、

 今回のことも何だか秋乃に上手い事言われて誤解しているらしいんだ。 入院する前、秋乃本人が笑って言ってたよ。』

『……でも捜すって言ったって俺らちゃんのお母さんの顔も名前も何もわかんないよ?』

 

 

 

俺の質問に、滝は『顔は僕も知らないんだ。』と言って苦笑した。

 

 

 

『でも名前はわかってる。 本名は杏璃さん。』

『本名はって?』

『夜のお仕事みたいだからね。 源氏名があるらしいんだ。』

『なるほどな。 その源氏名もわかってるんか?』

『うん、何とか聞き出すことに成功したよ。』

『マジマジ!? 何て名前!?』

 

 

 

源氏名とかちょっとカッコイイじゃん!とか思ってちょっと興奮気味になる俺を見て、滝は一度、クスリと笑って言った。

 

 

 

、だって。』

 

 

 

 

 

「―――…つーわけで、って名前の人捜さなきゃなんないわけ!」

「ってことは…侑士も行くのか?」

「ううん。 忍足はちょっと用があるから行かない。」

 

 

 

侑士はどうせまた跡部と何かやってんだろうけど、どうやらジローは行く気満々らしい。

 

何だよ、ちょっとくらい俺達に一声かけてくれたっていいのに。

本当にどいつもこいつも黙って自分のやりたいことやりやがって。

 

ちょっと酷いよな、なんて思っているのが顔にモロ出ていたのか、顔を上げると日吉と目がばっちりと合った。

どうやら日吉にじっと見られていたらしい。

日吉はすぐに目を逸らすと、行く準備が整ったジローに向かって口を開いた。

 

 

 

「……そういや芥川さん、昨日急にいなくなりましたもんね。」

「ごめんごめん、忍足のとこ行ってた。」

「ほら見ろ、放って帰って正解だっただろ、鳳。」

「で、でももしかしたら…ってこともあったかもしれないだろ! 何も言わずに放って帰るだなんて、先輩に対して失礼じゃないか。」

「昨日の帰り、若の奴、ジローがいないってみんなが気づいた時即行放って帰るっつって出てったよな。」

「勝手に出て行った人が悪いと思います。」

「ま、そりゃそーだ。」

 

 

 

宍戸が高らかな声を上げて笑う。

それでも少し申し訳なさそうにする長太郎に「別に気にしてないし気にしないで〜。」とジローは暢気に笑って言っていた。

当たり前だ。 俺だって日吉の意見に賛成だからな。

 

 

 

「芥川さん、夜の仕事なんですから行くまでにまだまだ時間はありますよね。」

「んーまぁそだなあ。 その前にちょっと滝のところ行こうかなって思ってたし…それがどうかした?」

「いえ、別に。」

「……えー何なに? 気になるCー。」

 

 

 

日吉は不満気に口を尖らせるジローから視線を逸らし、俺に目を合わせた。

一瞬ビクッとしたけど、日吉が俺に何を言おうとしているのかよくわからなくて、

とりあえず首を傾げてみると日吉からは呆れた視線と溜め息が零れた。

 

…くそっ何かムカつく。

 

 

 

「じゃあ俺達は帰りましょうか。」

「あれ? 滝のお見舞い行くんじゃないの?」

「…その前に俺達も俺達ですることがあるんです。 それじゃあ芥川さん、お先に失礼しますよ。」

「えー一緒に行こうと思ってたのに。」

「一人で行ってください。 向日さん宍戸さん鳳、帰りますよ。」

「ちょっ、日吉何だよ急に!」

 

 

 

拗ねるジローを置いて部室を出る日吉の後を追う。

俺と宍戸と長太郎は何のことかよくわからないけど、とりあえずはこの勝手な後輩の指示通り動く事にした。

正直何なんだよって思う気持ちが勝っていた。

それでも何も言わずに黙々と歩き続ける後輩の背中がついて来いって言っているような気がしたから、何も言わずにただ後を追う。

校門を出て、それぞれの帰路に着く手前で漸く日吉は立ち止まり、困惑する俺達三人に振り返った。

 

 

 

「じゃあ今から三十分以内にそれぞれ一番大人びた服に着替えてきてください。 集合場所は滝さんの病室で。」

「ちょっ、はあ? 何だよ急に、」

「決まってるじゃないですか。 行くんですよ、俺達も。」

「い、行くってどこへ…」

 

 

 

携帯のデジタル時計を見る。

今から三十分後って言ったら六時過ぎだ。

 

 

 

「もちろん夜の街へ、ですけど。」

 

 

 

不敵に微笑む日吉に、俺達三人は驚きのあまりただただ目を瞬いた。

今から三十分後。 精一杯の大人な格好をして滝の病室に集合…か。

 

本当に大した後輩だ、コイツは。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

断片的に残る、記憶。

そこにはいつも疲れた顔をした母がいた。

 

 

 

『ねーえ、おかあさん?』

 

 

 

お気に入りだったウサギの縫いぐるみを片手に、リビングへと入る。

ウサギの縫いぐるみは物心着いた時からこの家にいて、私が生まれた時にお母さんが買ってくれた物らしい。

だから年季が入ったこのウサギの縫いぐるみはもうボロボロで、白かったはずの顔は少し薄ぼぼけていた。

このウサギの縫いぐるみが、私が寂しくなった時によく一緒に寝てくれた。

 

 

 

『おかあさん、おとうさん今日もかえってこないの?』

『そうよ。 世の中にはね、会社のお付き合いってものがあるのよ。』

『きのうも、そのまえの日も“おつきあい”だったよ?』

『……食べていく為に、しかたのないことなの。 わかったらさっさと寝なさい。』

『おかあさ『おやすみ、。』

 

 

 

ねえ、ねえ何で?

 

 

 

ねえ何でそんな泣きそうな顔して私のことを突き放すの?

 

 

 

『……おやすみ…なさい。』

 

 

 

知ってるよ。 

ねえ、知ってるの。

私、知ってるのお母さん。

 

お父さん、いつもお酒臭くなって次の日の朝に帰ってくること。

お母さん、いつもそんなお父さんに叩かれながらお金を渡していること。

 

 

 

お父さんがまた出て行ったあと、泣きながらお金を数えていること。

 

 

 

私ね、全部、知ってたの。

 

 

 

『おばあちゃん、おとうさんがね、おかあさんのこといじめるのどうして?』

『そんなことない、虐めてなんてないんよ。 どうせまた子どもの前で金金言うとるんじゃろあの女。』

『うー、おかあさんお金ないっていつも泣いてる。 お金の話になるとおかあさんがおかあさんじゃなくなるの。』

『本当に金の亡者じゃのうあの女は。 子どもの前で見っとも無い。 はあんな風にはなっちゃいかんよ?』

 

 

 

優しく頭を撫でてくれるおばあちゃんの手のひらが、この時ばかりは重たくて、少し痛かった。

お母さんばかりが何か悪いような気がしてしまう、そんな自分も嫌。

おばあちゃんがお母さんを悪く言うのも、嫌。 だって、本当はそんな人じゃない。 私は知ってる。

おばあちゃんだって、お母さんのこと嫌いじゃないはずなのに、お金の話になるとすぐお母さんを悪く言う。

お父さんがお母さんに暴力振るうから、お金を出せって言うから、お母さんはまたお金お金って言うのに。

 

 

 

『でもね、。 一つ覚えておきんさい。』

『?』

『お前の父さんも、いつも酒ばっかり飲んどるんじゃろ?』

『うん、いつもおサケくさい。』

『じゃろ? でも、。』

『?』

『そんなお父さんはな、のために汗水垂らしながら働いて、そして疲れてお酒を飲んでるんじゃ。』

 

 

 

誰が悪いとか、誰が偉いとか、そんなこと、誰にだって決める権利はない。

 

 

 

『だからどんな母親で、どんな父親であっても、お前を育てようと二人とも毎日必死に働いとるんよ?』

 

 

 

誰も悪くない、誰かが偉いわけじゃない。

誰もが悪くて、誰もが偉い。

 

 

 

『お前は二人のどんな姿も受け入れ、大事な両親として、いつまでも敬って良い子どもでありなさい。 いいね、。』

 

 

 

みんな、毎日をただ必死に生きているだけなのに。

 

 

 

『うん、わかったよおばあちゃん!』

 

 

 

 

 

ねえ、お母さん、お父さん。

私の小さい頃の記憶はね、いつも独りだった記憶しかないんだ。

でもね、不思議とは娘を独りにしてきたアナタ達を少なくとも嫌いになんてなれないの。

 

 

 

 

 

2009.08.11 執筆