君が教えてくれたモノ

 

 

 

『どうしたの、ボク。』

 

 

 

 

 

その日は親父に連れられ、行きたくもない親父の知り合いの家へ連れて行かれた帰りだった。

案の定親父の知り合いの家はつまんなくて、テニスがしたいのにできない時間を何時間も

知らないオジサンと親父が話しているのを横に座って聞いているだけだった。

親父が本屋に寄って帰るって言った時、どうせろくな本を買わないんだろうと内心毒づきながら

たいていこういう時はどれを買うか選ぶのに時間がかかると知っていた俺は

近くの公園の入り口まで歩いて行き、ちょうどいいくらいの段差に座り込んで足元を行くアリの行列をぼんやりと眺めていた。

 

 

するとこれだ。

頭の上から女独特の高い声が聞こえてきて、何となく顔を上げれば、そこには目を真ん丸くさせた年上(だろう)の女がいた。

 

 

 

 

 

『…別に。』

『そんなところで蹲って、お腹でも痛いの?』

『痛くない。』

『じゃあお腹空いてるの?』

『…空いてない。』

 

 

 

 

 

何だコイツ。

そう思いながらじっと見上げていると、そいつは『困ったなー』などと言いながら眉を下げた。

 

 

いや、何を困ってるわけ?

何も困ることなんかないじゃない。

つーかアンタ何?

さっさとどっか行けばいいのに。

変な女。

 

 

 

 

 

『迷子?』

『違うし。』

『じゃあ何? お姉さんでよければ何でも言ってごらん? 力になるよ。』

『……喉渇いた。』

『ああ、喉が渇いて動けなかったの!』

 

 

 

 

 

違うんだけどね。

 

 

だけど手を叩いて目をキラキラさせるそいつを前に、何も言えなくなって適当に頷いた。

何となくさっきから喉が渇いてきたし、何となく口にすれば相手は勘違いしたのか、

ポケットを探りながら何かを探し始めた。

 

 

別に何もしてくれなくてもいいんだけどね。

でも何か奢ってくれそうだからまあいいや。

 

 

 

 

 

『あそこの駄菓子屋のじゅ』

『十円や二十円のジュースはヤダ。 何かアレ体に悪そう。』

『こンの贅沢者! でもそれ、わからなくもないけどね。 ちょっと待って、まだお金あるかも…、』

 

 

 

 

 

再びポケットを探り出す。

チャリンチャリンとお金の音がして、そいつがポケットから手を取り出した。

 

 

 

 

 

『あー残念。 一円足りない…。』

『……自販機の下とかよくお金落ちてるよね。』

に探れって言うのね。 マセガキが。』

『別にそこまで言ってないけど。 でも俺どうしてもファンタが飲みたいんだよね。

買ってくれるんだって思ったら余計飲みたくなっちゃったじゃん、どうしてくれるわけ?』

『…なんて理不尽な。 つーか君遠慮ないね。 声かけなきゃ良かった…。』

 

 

 

 

 

口を尖らせながらそいつは溜め息を吐く。

変なところで情に溢れている人間なんだろう。

自分より年下である俺が喉が渇いて蹲って動けない(…こともないけど)と知ると、どうしても助けたくなるらしい。

こちらからしたら有り難いってのもあるけど、何て馬鹿な人間なんだろうとも密かに思ったり。

いつか誰かに騙されたりして痛い目見るんじゃないかって真剣に思う。

 

 

 

 

 

『ねえ、アンタ、馬鹿だね。』

 

 

 

 

 

俺の手を引いて自販機に向かうそいつの背中にそう言ってやった。

そいつは振り返り、目を数回瞬かせる。

 

 

 

 

 

『何で?』

『俺みたいな知らない子どもに何でそこまでするのかなって。 馬鹿じゃん。』

『馬鹿じゃないよ失礼ね。 んじゃ、そうだなー…』

 

 

 

 

 

そいつは俺の額にデコピンを食らわせると、

暫く考える素振りを見せた後、ニッと笑ってこう言った。

 

 

 

 

 

『じゃあいつか私がどうしようもなくなった時、アンタが助けてくれればそれでいいよ。 生意気少年。』

 

 

 

 

 

俺は今でもその約束を忘れたことはない。

アンタは冗談で言ったつもりなのかもしれないけれど。

いつか、絶対その約束を果たしてやると胸に誓った小学生にもなっていない頃の俺。

 

 

喉を潤す炭酸が、口の中を淡く弾けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

 

 

「はい。」

 

 

 

 

 

今部屋には俺とジャッカルしかいない。

部屋のノックが聞こえて、当然のことジャッカルが返事を返してドアを開ける。

そこから姿を現したのは紛れも無くだった。

額の冷えピタはまだ健在だ。

熱、下がんねぇのかな。

 

 

 

 

 

「ちょっと聞きたいことがあってきたの。」

「聞きたいこと?」

 

 

 

 

 

ドア付近でのとジャッカルの会話が聞こえる。

たぶん今が初めてとまともに話したジャッカルの戸惑う視線が俺へと向けられる。

だけど俺はあえて無視。

自分のことは自分でしろぃ。

 

 

 

 

 

「あのね、失礼な事だとはわかってるんだけど、立海の死んだって言うマネージャーさんの写真か何か持ってないかなって。」

「!、朱音の、写真?」

「持ってないかな?」

「………ちょっと待っててくれ。」

 

 

 

 

 

突然の意外な要望に驚きを見せるも、一瞬躊躇ったジャッカルは心当たりがあったのかすぐに部屋の中へと戻って来た。

たぶんアイツが冗談で言いに来たんじゃないってジャッカルにもわかったんだろう。

 

 

 

 

 

「確か、あったんだよな。 一年の最初に撮ったプリクラが…。」

「あーあの真田を無理矢理機械に突っ込んで撮ったやつ?」

「…ああ、電池パックの蓋の裏側に貼ったままだった気がすんだよ。 ほら、やっぱそうだ。」

「…すんげぇ懐かしいな。 おい、こっちこいよ。」

 

 

 

 

 

俺が携帯を片手に手招きすればは何も言わずに俺とジャッカルのもとへとやって来た。

俺の隣にちょこんと座ってプリクラを覗き込む。

その時に流れ落ちた髪がシャンプーの香りを漂わせ鼻を擽った。

 

 

 

 

 

「これが…朱音さん?」

「そうだぜ。 それがどうかしたのか?」

「そう、じゃあやっぱり…」

 

 

 

 

 

ジャッカルが俯いたを心配そうに覗き込む。

の表情はどこか泣き出しそうに酷く歪んでいた。

何を、彼女は今何を思っているのだろうか。

そんなこと、俺にわかるはずもないけどな。

 

 

 

 

 

「ありがとう、もういいよ。 確認は出来たから。」

「確認?」

「……丸井君。」

 

 

 

 

 

は俺の名を呼んで顔を上げた。

目が、自然と合う。

逸らそうかとも思ったけど、どうも出来そうにない。

いや、させてもらえそうになかった。

 

 

逃げるなと、

の目がそう言っていた。

 

 

 

 

 

「私、負けないよ。 彼女の分も、全てを背負う覚悟、決めたんだ。」

 

 

 

 

 

そっと手の平に返された電池パックの蓋を俺は握ることも出来ずにじっと見つめる。

は朱音の顔を確認するだけすると、もう用はないと言って部屋を出て行った。

残された俺とジャッカルが何故か気まずく沈黙を守り続けている。

部屋の壁に掛かった不釣り合いな時計がカチカチと秒刻みで音を奏でていた。

 

 

早く、誰でもいいから帰ってきてくれねえかな。

俺はそのことばかりを考えていて、まるでジャッカルと二人でいることを苦痛のように感じていた。

怖かったのかもしれない。

ジャッカルの目を見ることが。

見て、何か決定的な言葉を言われてしまうことが。

 

 

 

 

 

「強いな、さんは。」

 

 

 

 

 

だけど、違った。

ジャッカルは俺を責めることなく、俺のことを見ずに、むしろ背を向けてそう呟いた。

どこか切なそうで、どこか寂しそうで、どこか悲しそうで。

ジャッカルのそんな声色に、俺の胸はギュウッと締め付けられ、何故か無性に謝りたい気持ちに駆られた。

 

 

 

 

 

「朱音を止められなかったこと、悔やんでんだ。 あの日から、ずっと…。」

「………、知ってる。」

 

 

 

 

 

自嘲気味に笑うジャッカルの言葉に覇気は全くと言っていいほどない。

俺は相槌だけ打ってボソリと呟いた。

ジャッカルは一度かぶりを振り、何かを否定するように言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「馬鹿だよな、アイツも。 自殺なんかすりゃ、自分だけの問題でもなくなってくるだろってこと、どうしてわかんなかったかな。

アイツが死ねば、悲しむ人だって必ず存在する。 自分の所為だと責める人だって出てくる。」

 

 

 

 

 

一度、言葉を止める。

そしてジャッカルは振り向き、俺の目をじっと見つめて

 

 

 

 

 

「なあブン太、お前…本当はずっと、悔やんでるんだろ?」

 

 

 

 

 

俺の一番痛いところをピンポイントで突いて来やがった。

 

 

何を今更。

悔やむって何を?

アイツを助けるつもりもないのに、偽善者ぶってたことか?

それとも何だ。

アイツが死んでも何とも思わなかったこと?

 

 

いや、それすらもう嘘で塗り固められた俺の強がり。

ただの虚勢だったって、認めなかったことか?

 

 

 

 

 

「……何が?」

 

 

 

 

 

声が、震える。

 

 

 

 

 

「お前は、優しさが中途半端だから、な。」

 

 

 

 

 

ジャッカルはあの日と同じ言葉を口にして、苦笑いを浮かべた。

頭に過ぎるのは、あの日朱音の死を嘆き悲しむジャッカルに俺が放った言葉。

勝手に口から零れて、それ以来俺の心を支配したあの言葉だった。

 

 

 

 

 

『自殺なんて馬鹿じゃねぇの、弱い人間のすることだろぃ。 くだらね。』

 

 

 

 

 

一つ、心当たりがある、後悔。

それは、俺は責任逃れをしたということ。

誰よりも、何よりも俺はただ一人、自分だけを守り続けた。

 

 

本当は、アイツを助けるつもりがなかったわけじゃない。

助けてやりたいという気持ちだって俺にもあった。

だけど、自分が面倒事に巻き込まれることを、俺は一番に嫌った。

 

 

本当は、アイツが死んで何とも思わなかったわけじゃない。

悲しかったし、辛かったし、寂しかったし、切なかった。

だけどそんな感情から、アイツから、逃げるために俺はアイツだけの所為にした。

アイツは馬鹿だと。

死ぬなんて、なんて馬鹿なんだと。

そう思うことで、そう口にすることで俺への負担はうんと軽くなって、

途中から本当にどうでもよくなって、感覚が、感情が少しずつ麻痺しだしていた。

 

 

 

 

 

すべてはただ、自分を守る為に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

弱い人間は、俺も一緒。

 

 

 

 

 

「仕方ねえよ。 何が正しくて、何が悪かったなんて、人それぞれだしな。 何も自分を卑下することねぇって。」

「……ジャッカル、お前何が言いたいワケ?」

「お前この合宿中、さんの姿見てずっと気にしてただろ。

もしかしたら朱音のこと思い出して、考えたって出やしない答え求めて思い悩んでんじゃねえかなって思ってな。

だけどもう、大丈夫だ。 思い悩むなって、言ってやろうかと思ったんだけど、どうやら俺より先に言った奴がいるみたいだな。」

 

 

 

 

 

肝試しから帰ってきて、ちょっとスッキリした顔してたってジャッカルが言う。

心当たりが一つだけあって、そういえばと不二が言った言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

― 人、それぞれだよ。

 

 

 

 

 

俺には俺の考えがあって、ジャッカルにはジャッカルの考えがある。

百人いれば百人分の考え方がある。

それを不二が言った時、俺は自分を一瞬、許してしまいそうになった。

 

 

アイツより自分を優先した俺は、決していい人間ではない。

アイツを犠牲に自分を守った俺は、決して強い人間ではない。

 

 

だけど、それをわかっているからこそ、ずっと思い悩んでた。

俺は弱いから、俺は強くなんてないから、最低な人間だと。

わかっているからこそ、胸張ってを守ってやると言ってのけた向日の姿に

俺は嫉妬にも似た感情を抱いたし、羨ましいとも思った。

 

 

 

 

 

「人それぞれ、だったら……俺はアイツに何をしてやれたんかな。」

 

 

 

 

 

俺の独り言にも似た小さな呟きに

ジャッカルが目を少しだけ大きく開くと、すぐにフッと口許を緩めて温かく笑った。

 

 

 

 

 

「お前が先輩達に流されず、ちゃんとアイツと向き合っていたこと、たったそれだけで十分なんじゃねえのか?」

「………だと、いいけどな。」

「俺は、少なくともそう思うぜ。」

 

 

 

 

 

そう言ったジャッカルに、俺は苦笑いを浮かべる。

さっきまで閉まっていたはずの窓が開き、夜の冷たいのか温かいのかよくわかんねぇ風が部屋の中にいた俺へと届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たーきーくん!」

「……何、気持ち悪いよ忍足。」

 

 

 

 

 

ちょっと外の風に当たって正面玄関からロビーへと戻ると、

そこに待ち伏せしていたようにソファーに座ってにこやかな笑顔を浮かべている忍足がいた。

僕が毒づいても全く気にも止めていない様子でソファーから立ち上がる忍足。

 

 

 

 

 

「あんな、俺、滝に聞きたいことあんねん。」

「…もう寝たいから手短に頼むよ。」

「何や、美容でも気にしてんか? 男のくせに。」

「男だってニキビを気にするお年頃なんだよ。 いいから早く言って。」

 

 

 

 

 

忍足は相変わらずの笑みを崩さない。

何だってこんな時間に…。

それなら夕食後とかにしてくたらよかったのにさ。

 

 

 

 

 

「自分、知ってんねやろ。」

「だから、何を? ちゃんとはっきり言ってくれなきゃ僕もう寝るよ。」

「……そないつれんこと言わんと。 これはこの先めっちゃ重要な事やねんで。」

「だったらなお更直球に言ってほしいね。 僕、それほど気が長いワケじゃないから。」

「ド短気さんやなぁ…。」

 

 

 

 

 

いいからマジで早くしろ。

僕はちょっとだけ顔を引き攣らせ、暢気に欠伸なんかを零している忍足を睨む。

 

 

 

 

 

「アイツ、を追い詰めとるっちゅう男のことや。」

「…秋乃が、何?」

「その秋乃が何であないにを追い詰めようとしてんのか、本当の理由、滝は知っとるんやろ?」

 

 

 

 

 

忍足の低い声が僕の耳を掠める。

お互い横一直線に並んでいるから、表情は見えない。

 

 

 

 

 

「知ってたら何? 教えないよ。」

「…ケチ。」

「僕は一応アイツと血が繋がった再従兄弟だからね。 アイツを完全に裏切ることなんて出来ないよ。

だからそこだけは、誰が何と言おうと譲れない。 アイツの秘密だけは言わない。」

「頑固やな、自分。 あー嫌や嫌や。 頭が柔軟そうに見える奴ほどそうやって頑固なんや。 禿げんで。

「どっちかって言うとそういうお節介焼きな忍足の方が禿げそうだけど。」

「……余計なお世話や。」

 

 

 

 

 

声は笑ってる。

だけど表情はたぶん笑ってないんだろうな。

何となく、こういう時の忍足は曲者だし、厄介だ。

きっと僕を見つめるその横目は、鋭く射抜くような瞳に違いない。

 

 

 

 

 

「ほな、言わんでも別にええわ。 を一目置いとる萩君にちょっとばかり小耳に入れといてほしいことがあるんや。」

「………、」

 

 

 

 

 

声のトーンが少し変わり、ここからが本題なのだと空気でわかる。

まったく、だから嫌なんだよ。

こういう時の忍足は言い方が一々ムカつくし。

 

 

 

 

 

「お前の再従兄弟、何や動き出しとるみたいやで。 今朝、立海から出てったらしい。」

 

 

 

 

 

秋乃が、立海を出た?

それつまり、転校したか退学したってこと?

 

 

おかしい、おかしいよ。

いつもなら誰これ構わず僕に連絡が入ってくるはずなのに、今日はそれもない。

秋乃が僕に黙って次の行動を起こすなんておかしい。

いつもは別にどうでもいいのに秋乃は一々次に何をするか僕に報告してきた。

ポケットの携帯を取り出して着歴を確かめてみるも、そこに秋乃の名は一つもない。

やっぱり、おかしい…。

 

 

 

 

 

「やっぱり知らんかったみたいやな。 仁王の最後の電話で言うとったって、さっき教えてくれたわ。」

「仁王には情報が行って、どうして僕には…」

「つまりは、滝には直接知らせたくない理由でもあったんちゃうか? どうしても、知らされへん理由が。」

「……っ、秋乃、」

 

 

 

 

 

秋乃が立海を出て行ったということは、

一時休戦していたはずの戦いが、また始まるってことだ。

あの日から今日まではただ一時的に、秋乃から逃げれていたにすぎない。

秋乃は機会を窺って、本日まで潜伏していただけなんだ。

 

 

それが動き出した。

つまりは、この合宿後の機会をずっと秋乃は待ち続けていたってことだ。

立海のみんなまでも使って、を追い詰め、アイツの存在を十分に知らしめた後。

そしてそこからがアイツが望むに望んだその瞬間が訪れる。

僕がずっと恐れていた、最悪の、ゲームが。

 

 

 

 

 

「守って、あげられるのかな…。」

 

 

 

 

 

ぎゅっと握り締めた拳。

手の平に食い込む爪。

 

 

不安なんだ。

ずっと、不安で仕方がない。

 

 

守ってやりたい大切な彼女と、裏切ることが出来ない再従兄弟の間に立たされた僕は、

 

 

 

 

 

「大丈夫や滝、お前だけやない。 俺らもおる。 それに…」

 

 

 

 

 

最悪のゲームの終わりが来た時、

 

 

 

 

 

「跡部だっておる。」

 

 

 

 

 

彼女とアイツ

一体どちらの手を掴むのだろうかと、

 

 

 

 

 

ずっと、不安で仕方がないんだ。

 

 

 

 

 

そう、彼女には跡部がいる。

アイツと互角の立場で戦える、跡部がいるんだ。

だったら、囚われのお姫様を助けて上げられる本当の王子様は、

僕でないのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ねえ忍足、」

「ん? どないしたん?」

「一つだけ、お願いしてもいい?」

「……ええよ。」

 

 

 

 

 

僕は彼女を助けてあげられるほど、強くない。

王子様なんかじゃない。

あの日、彼女に助けられた僕は、王子様なんかになれない。

だけど、

 

 

 

 

 

「あのね、もし僕が ――――――――――――」

 

 

 

 

 

その恩返しくらいは、したっていいはずだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あとがき 2008.03.29

合宿最終日の夜。

明日みんなで帰りましょう。