「せんぱーい、お迎えに上がりましたー!」 朝から玄関がやけに騒がしい。 願わくは、幻聴であってほしいなー……ってやっぱダメ? Fortune slip 「あけましておめでとッス!」 恐る恐る玄関のドアを開けると、見慣れた後輩の姿。 ああ、幻聴ではなかったんだ。 念のため着替えて出てきたはいいけれど、これはもしや…もしやであるかもしれない。 「あの、まさか…今から何処か私を連れまわそうとか…」 「何言ってんスか、初詣行きますよ。」 「訊かされてないんですけど!突然来て失礼とか思わないわけ!?」 「だってー俺だってさっき叩き起こされてたところなんスよー。先輩だけ助かろうとかズルイですって。」 「道連れにしないでよ!私は毎年寝正月なの!」 「だから太るんスよ。ささ、柳先輩の気が変わらないうちに行きましょ。俺みたいに正月早々怪我しますよ。」 玄関から出ようとしない私の腕を容赦なく引っ張り出す赤也の力に寝起きの私が敵うはずもなく、 すんなりと家の外へと放り出される。 うー寒いよー。眠いよー。 でも赤也みたいに正月早々頬に大きな絆創膏を貼りたくはないので大人しくしていることにした。 だって、玄関飛び出したところにコートのポケットに手を突っ込んで立ってる柳が物凄く怖かったから。 なしてそんなに苛々してらっしゃるのっ!? 「ねね赤也、どして柳はあんなに機嫌が悪いの?怖いよ!」 「あーたぶん原因は先輩じゃないんで気にしなくていいと思いますよ。」 「…でも怖いじゃん。」 「俺だってとんだとばっちりッスよ。俺が起こしたんじゃないのに…。」 「どういうこと?」 「ほら、あけおめメールっつーんスか?それが幸村部長からメール着たんスよ。ちょうど日付変わる時に。」 「ふんふんそれで?それが原因で柳は怒ってんの?」 「柳先輩、そのメールで起こされてた上に今日この時間に神社前集合って言われて…寝不足なんですって。」 「ああ、そこから一睡もできなかったってやつ?」 なんだ、しょーもな。 つまりは眠たいってわけか。 じゃあ柳は怒ってるって言うよりは疲れてるんだね。 そっとしておいた方がいいね。 触らぬ柳に祟り無しってよく言うし。 あれ、言ったっけか? 「たぶんそのメール、真田副部長にも届いてるみたいなんで…副部長も寝不足になってるかも。」 「えーやだ、全然楽しく初詣できないじゃん!そんな緊迫した雰囲気の中どうやって新年清々しく迎えれるっていうのさ。」 まったくッス!と私の意見に同意してくれた赤也と二人でぶつくさ文句を言いながら待ち合わせの神社へと向かう。 途中ジャッカルの家があったので私の時と同様、突然の訪問でまだ夢の中にいたジャッカルを叩き起こして引っ張り出した。 今度は三人でぶつくさ言いながら、一人無言の柳と四人で段々人が多くなりだした神社への道を歩く。 「お、見えてきた見えてきた。絶対あれブン太だぞ。」 「あの髪目立つからねー。つか機嫌悪っ!!」 「仁王先輩もムスッとした顔してません?絶対あれ真田副部長に叩き起こされたんスよ。」 「あー同類だ同類。仲間だ仲間。」 「そーいや比呂士君とユッキー来てないじゃん。」 「ホントっすね。」 寝起き's三人でそんなことを言いながら見えてきた仲間のもとへと向かう。 狛犬の下でダウンのポケットに手を突っ込んで顔を顰めているブン太と、 寝起きなんだろう、髪の毛が無造作に跳ね、目が何処かまだ虚ろな仁王と、 そんな前者二人を叩き起こしたのであろう、ピンと背中の張った真田が立っていた。 「おーい、幸村はどうした?」 「知らね。まだ何じゃねえの?」 ジャッカルが一番不機嫌そうなブン太に声をかけるも、素っ気無い返事しか返ってこなかった。 こりゃ相当怒ってますねブン太さん。 こちらで一番怒ってた柳は真田と何やら話し出してしまい、私達は私達でユッキー達が来るまで話すことにした。 「つーかさ、今何時だと思ってんだよ。早いんだよ。」 「待ち合わせの6時ってのも早いのに何で俺達はこんなにも早めに集められたんだっつー話だよな。」 「もしもし仁王君、目は覚めてますか?」 「…おー………あけおめコトヨロ。」 「ダメだこりゃ。」 ジャッカルとブン太が愚痴り合う隣で何処か遠くを見ていた仁王に声をかける。 仁王は虚ろな瞳でどこぞの女共が使いそうな略した挨拶で片手を上げた。 日本人なら日本人らしくちゃんとした新年の挨拶をしなさいよ! って思ったけど、今は仁王が立っていることすらやっとな感じだったのであえて突っ込まなかった。 「あー、俺もお年玉欲しー。」 「何?ブン太お年玉もらえないの?」 「んー何か俺ん家毎年貰えないの。俺がお菓子につぎ込むから無駄遣いだっつって。 で、俺って超弟想いだから?俺は憐れな弟達に自腹で年玉やってんの。つまりマイナス。」 「ブン太偉い!!ちゃんとお兄ちゃんやってるんだね見直した!!」 今目頭ツーンってした! 感動した! 思わず私そのマイナス分出してあげたくなっ… 「でも言い換えればそれってブン太の所為やと思うんじゃけど…。」 「おいコラ仁王言うんじゃねえよ!!せっかく同情誘って年玉分けてもらおうとしてたのに!」 「うっわ、サイテっすよ先輩。しかも自分達で必死な俺達が分けるワケないじゃないっスか。」 ……るワケないじゃん。 あーほんと、自分の分もそれほどないのに。 私に親切心なんてこれっぽっちもないわ。 ごめんあそばせブン太君。 「あークソ今年マジどうやって過ごしていけばいいんだよ!ケーキバイキング巡りする予定だったのに!!」 「ブン太の母親だけにはなりたくないや私。家計簿の半分以上が食費で埋まりそうだし。」 「うっせーな。俺だってなんかに母親なってほしくねえっつーの。……でもま、嫁ならいいぜ。」 「どさくさに紛れて何言ってんだお前…。」 ジャッカルが呆れたように、軽蔑の視線をブン太へと向ける。 ホントになんだこの男は。 丸井ブン太、新年早々頭の中がめでたい事だ。 嫁にだって誰が行くものか。 余計に家計簿つけたくないわ。 「私ブン太のお嫁になんて絶対行かなーい。苦労するの目に見えてるもん。」 「はあ?何でだよ。俺ほど素敵な旦那はこの世に二人としていないって。」 「どうしてそこまで自分を美化できるんスかねえ。アンタより優れた旦那はうじゃうじゃいますよ。」 「うっせワカメ黙っとけ。俺たぶん将来大物になると思うんだよね。将来有望?」 「はいはい虚しい妄想はその辺にしときんしゃい。は俺の嫁になるんじゃき。残念やったの。」 「はー?寝言は寝て言えって。お前今の日本は一夫多妻制じゃねえんだぞ?」 わかってる?というブン太の言葉に仁王の眉がピクリと跳ね上がる。 何かこの二人の間に妙な空気流れてませんか? 気のせいですか? というよりユッキーと比呂士君遅くないですか? 言いだしっぺが何時まで待たせる気なんですか? 「ほう、俺はこう見えてもずっと一筋じゃけんの。」 「あー嘘嘘。だってお前俺と一緒に3日前合コン行ってたじゃん。」 「……去年の記憶は全くございません。」 「こンの鳥頭!」 ブン太と仁王のどーでもいい口喧嘩(?)に背を向けながら私は、先ほどから人の流れで溢れかえっている 入り口をやや背伸びしながらじっと眺める。 どうやらユッキーらしきオーラを放った人物はいないようで。 いったい何時まで待たせる気だ。 「!仁王だけは絶対やめとけ!お前の苦労が目に見えてわかる!!」 「残念だけどブン太、その言葉そっくりそのままアンタに返すよ。」 「返してくんな!いいか、仁王だけは絶対俺は認めねえ!赤也以下だ!!」 「ちょっとちょっと!そこで俺をつり合いにかけないでくれます!?」 「そうじゃ、俺に失礼だろ。」 「違いますよ!俺が可哀想なんだっつーの!」 ホント、めでたい奴らめ。 もう私は三人の話を半分に聞いて何処か遠くのほうへと視線を彷徨わせていた。 お願いしますユッキー様。 もう何でもいいんでさっさと来てください、死にそうです。 私の半泣きの願いが届いたのか、流れ行く人込みの中、ユッキーらしき人物と比呂士君らしき人物の頭が見えた。 「すみません遅くなりました。」 「やあ、待たせたねみんな。」 「…待ちまくりました。」 「ハハ、素直でよろしい赤也。ご褒美に後でおみくじを引かせてあげよう。」 「何そのご褒美。何かありそうで怖いんだけど…。」 「ん、丸井。お前も引かせてほしいのか?よしじゃあ丸井と赤也には特別だからな。」 ご褒美だって言ってるのにちっとも嬉しそうな顔をしない赤也とブン太。 むしろその逆で、顔色があまり優れていらっしゃらないご様子。 一体そのおみくじには何が仕掛けられているのか。 というよりも絶対何か企んでるんだろうな。 ご褒美でもなんでもないや。 「ねえ、ユッキー。いきなり何で初詣?」 「あ、も来てくれたんだ。ありがとう。」 「え、私もしかして来なくてもよかった系ですか?やっぱり道連れだったんですか?」 「いや、みんなは強制参加だったけどの場合は無理して誘わなくて良いって言ってあったんだ。」 新年早々爽やかなユッキーの笑顔から柳と赤也に視線を向ける。 二人は断じて私と目を合わそうとはしなかった。 柳なんてもう我関せずで涼しげな表情を浮かべてるし。 「…何、なんでだけ特別扱いなんだ?」 ジャッカルが少し控えめに質問をする。 ユッキーはちらりとジャッカルに視線を向けた後、再び元に戻して笑った。 「に無理は禁物だろ?」 どういう理由かよくわかんないけどとりあえず私はここに来なくてもよかったのに 無理矢理赤也によって連れて来られたってことがはっきりとわかった。 さて、今年から赤也に対してどういった態度を取らせていただこうか。 「とりあえず、さっさと参りませんか?この人の多さだと、かなり時間がかかりますよ。」 「そうッスね、賽銭しましょーよ賽銭!」 「よーしっ今年は奮発して赤也、千円札紙ヒコーキにして飛ばせ!」 「何で俺なんスか!?自分で飛ばせばいいっしょ!?」 「だから俺金ねえっつってんだろい。さっき何聞いてたんだお前は。」 「胸張って何言ってんのよ、私から年玉詐欺ろうとしてたくせに。」 「詐欺ろうとしてたワケじゃねっつの。いいだろい?どうせ将来俺と一緒になるんだし。」 「何の話してんスか…。丸井先輩妄想膨らみすぎッスよ。」 「妄想じゃねえ、将来設計、もしくは家族計画と言え。」 「……立派な妄想だねえ。」 私がやっぱり何処か遠くの方を見つめながら人込みの中、みんなと離れ離れにならないように歩く。 もう少しで本堂に着くってところで急に誰かに腕を引っ張られた。 視界から遠ざかっていく仲間に声を出そうとも、口許を誰かに塞がれて声が出なかった。 「んーんがー」 「暴れなさんな。」 「んおっ!(仁王っ!)」 振り返るとその手の犯人は仁王だったらしい。 完全にブン太達を見失った私は言われたとおり暴れるのをやめ、大人しくする。 するとすんなりと掴んでいた手を離してくれた。 「びっくりしたー!何すんのさいきなり!みんなと離れちゃったじゃん!」 「大丈夫大丈夫。」 「何が大丈夫なの!?いきなりいなくなったらみんなが心配するじゃんか!」 「……ええじゃろ。どうせこの人込みじゃ、気づかんよ。」 そういう問題でもないだろう、という言葉が喉まで出掛かって飲み込む。 跡形もなく消え去ってしまった仲間の姿を少し背伸びしながら捜してみるも、 結構な距離を離れてしまったのだろう、全く見つけることが出来ずに諦めて肩を竦めた。 「何なのよーみんなとお賽銭しようと思ってたのにぃー…何の嫌がらせ?」 「賽銭なら今すればよかよ。アイツらは携帯もある。適当に連絡も取れるんじゃし気にしなさんなって。」 財布から五円玉を取り出して(ほら”御縁”があるようにって…)賽銭箱に放り投げる。 続いて仁王も何円かわからなかったけど小銭を投げて私と同時に手を合わせた。 (どうか今年こそは今年こそは…っ!!!) 目を閉じ、何かをお祈りしながら数秒。 先に目を開けたのは仁王の方だった。 「終わった?」 「もうバッチリ!これで願いは叶ったも同然ね!」 「神頼みもええが、ちゃんと努力はするもんぜよ。」 「何の願いかも知らないくせに偉そうなこと言わないでくださいます?」 「どうかのう、の頼みそうなことくらい全てお見通しじゃけんの。」 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて私を見る仁王にガンを飛ばす。 お見通しされてたまるものですか。 どうやっても私の願いは仁王に届いてもらっては困る。 いや、ある意味届いて欲しいっちゃあ欲しいけど…見透かされるのはどうかと思う。 だって、だって私の願いは…… 「ま、願い事を五円で叶えようとか…失礼極まりない話じゃ。」 「うっさいわね!放っといてよ!」 「俺は高くつくぜよ。」 「はあ?」 「五円で買おうなんざ甘い。」 口をパクパクさせながら本当にバレてたことに思わず唖然。 仁王が私に振り向いてくれますように、って… そんなこっ恥ずかしい願いが、バレてしまった。本人に。 どうして判ったんだろうと、かなり混乱している頭の中がクルクルと回り続けている。 頬が赤く染まっていくのが自分でもはっきりとわかった。 「そいじゃ、行きますか。」 「どどどどど何処に!?」 「俺ん家。」 「何で!?」 「俺人込みあんま好かんし、疲れた。あー肩凝ったしに肩でも揉んでもらおうかの。」 ギュッと私の手を掴んで人並みを掻き分けて歩き出す。 何勝手に一人で話を進めているんだと思いながらも神社の外に出てきてしまった私は、 きっと好きな人に対しては逆らえない、そんな人間なんだろうなって自己分析をしていた。 人の多い通路を避けて仁王の家に向かう途中で携帯がけたたましい音を立てて鳴り響く。 このレクイエムの曲は確か… 「お、幸村からじゃ。」 それ本人にバレたら半殺しじゃすまないよ仁王。 まるで何かに迫ってこられているような気分にさせられる曲を発する携帯をポケットから取り出すと、 仁王は携帯を片手で開いてボタンをカチカチと押した。 「おー、こりゃ酷い。」 「……ユッキー…何て?」 「ん、見てみんしゃい。」 差し出された携帯を見る。 「……最愛のを勝手に連れ出した仁王の分もおみくじ、仕方がないから引いといてあげたよ。カッコ笑。」 それだけの文の下には写メが添付されていて、 興味本位で開く。 「何この…おみくじ…」 「ここの神社はおみくじに凶が出やすいって巷じゃ有名なんじゃて。何て言ってもほぼ凶か大凶ならしい。」 「……ほんと、何よこの大凶の嵐は…ありえない。」 「新年早々これだけ大凶を引けば気分も滅入るじゃろ。 幸村はたぶんこれを引かしたいがために俺らを集めたんじゃろうなー。」 アイツも相当性格悪いのうなんて言いながら笑う仁王。 いや、これはあまりにも出すぎだろう。 いち、に、さん、し、ご、ろく、なな…はち。 全員分大凶じゃん、何の希望もないおみくじだこと。 ユッキーはこれをさっきブン太と赤也に引かせようとしてたのか…。 「ま、幸村の許可も頂いたし、さっさと行きますか。」 「ええいつ!?いつ許可なんてもらった!?」 「アイツが死ぬ気で追いかけて来ない時点で許可が下りたも同然じゃろ。」 どんな解釈してんのこの人! でも否定できないから何も言わないけど! 私の手を引いて歩く仁王に何とも言えない視線を向けながらひたすら歩く。 「そんな顔しなさんな。不細工ぜよ。」 「はっきり言うね。でも余計なお世話よ。」 「のう、。」 肩越しに振り返って口許を緩めて笑う仁王。 名前を呼んだかと思うと、掴んでいた手をグイッと引き寄せた。 「今年からは、俺の彼女でいてくれるんじゃろ?」 耳元でそっと囁かれた言葉に思わず耳まで真っ赤になる私。 そんな私の反応を見てまた口許を緩めて笑う。 はたしてからかわれているのか、いつもの冗談なのか、 仁王のことだからよくわかんない。 私が何も言えないで俯いていると、仁王は 「ま、嫌っつっても無理矢理なってもらうけど。」 ポンポンと撫でられたのか叩かれたのかわからない手付きで私の頭に手を置いて、 仁王は笑って再び歩き出した。 その時今度は私の携帯がバイブとなって震え、それをポケットから取り出す。 「…の分もおみくじ引いてあげたから結果だけ写メって送るね。」 何てことをしてくれたんだこの男は、と思いながら添付ファイルを開く。 ユッキーは私に不幸になってほしいのかな。 新年早々他人におみくじを引かれる上に、それが大凶ときたら結構応える。 「あ、」 開いた携帯を見つめながら目を瞬かせる。 突然立ち止まった私に気づいた仁王も振り返る。 どうした?って声をかけて携帯を持ったまま固まった私を覗き込む。 「う、ううん!なんでもない!!」 見られる前に携帯を閉じて仁王の腕に自分の腕を絡めて歩き出す。 突然の私の行動に仁王は若干首を傾げながらも不思議そうに歩く。 「仁王、好きだよ。大好き!」 私の唐突な告白に、予想もしてなかったんだろう、仁王は目を真ん丸く見開いて私を見た。 「何を急に…」と嬉しそうに口許を緩めて笑った仁王がかっこよくて思わず私の頬も緩む。 ポケットに突っ込んだ手の中に握られた携帯に表示された写メをもう一度強く握り締めて 「私、大吉だったんだ!」 一番 大吉 恋愛:成就、思いは届く。 今年も良い一年になること間違いないでしょう。 * * * あとがき * * * あけましたおめでとうございました。 さて、仁王さんをどうしてもギャグにしてしまうユギリをどうかお許しください。 お正月企画の小説はレギュラーとギャグというアンケが多く、 今回は喜んでこんなものを作ってしまいました。お許しください。 |