もうすぐクリスマス。

それらしき色合いで綺麗に着飾られているショッピングモールを、

赤髪と銀髪の男二人がいくつかのショッピング袋を持って歩いている。

擦れ違う女性は彼等の私服のセンスの良さと面子の良さに思わず頬を赤らめ振り返っていくこと多々あり。

しかしそれすら全く気にならないほど彼等はマイペースに生きている。

ふと、そこに見慣れた二人組を視界に捕らえた赤髪の男、ブン太がガムを膨らませながら隣を歩く銀髪の男、仁王の肩を叩いた。





「お、仁王あれ見てみろよ。」





仁王は言われたとおりブン太の指差す方向に視線を向ける。

そこには大きなショーウインドーの向こうでコーヒーか何かの入ったカップを啜る、見慣れてはいるが

明らかに可笑しな組み合わせの人物二人が向かい合って座っていた。







欲しいものは何ですか?







「ねえねえ赤也くん今一番何が欲しい?」





前部長である幸村のあとを受け継いで部長になってからは遅くまで居残り、

一番最後に着替えを済ませる赤也を彼女であるは部室にある椅子にいつも大人しく座って待っている。

しかしこの日はあまりにも暇だったため、最近特に訊いてみたかった質問をしてみると

着替えている最中だった赤也の手がぴたりと止まり、振り返ったその目を数回瞬いてキョトンとする。

そしてすぐに





「wii。」

「え?」

「いやだからwiiだってば。」





あっさりと言い切った赤也は無言になってしまったをちらりと横目で見た後、またいそいそと着替え始めてしまった。















「―――…って言うんですどうしましょう!」





目の前でコーヒーが入ったカップを啜る柳を涙目で見上げる

握り締めた手は力が入りすぎているあまり手の平に爪が食い込んでいる。

本来なら終業式を昨日に終えた柳は部活ももう引退しているため、

年明けに待ち受けている受験に備えて家で勉強をしているはずだった。

不運かどうかは別として、昨日の終業式の後にこの世の終わりのような必死の形相をして

自分に飛び付いてくるに捕まってしまったのが全ての始まりだった。

コーヒーを奢るから相談に乗ってくれと言うのだがその日は予備校をすぐ後に控えていたので

仕方なく次の日、つまりは今日話を訊いてやるということで今に至る。





「ならそのwiiという物をあげればいいだろう。」

「無理です高いです私お金すっからかんなんです!」

「だったらwiiどころか何もあげられないな。」

「さ、三千円くらいならありますよ〜。」





うーと唸りながら口を尖らせ机に顎をかけるを見て柳はもう一度コーヒーが入ったカップを啜った。

どうやら恋に悩める一つ年下の後輩はこのクリスマスに自分の彼氏にプレゼントする物を悩んでいるらしい。

相談する相手としては間違ってはいないが空気というものを是非読んでほしいと柳はひっそりと心の中で思った。





「まあ、今赤也が一番欲しい物をwiiと言ったならそれをが買う必要はないと思うぞ。」

「…何故ですか?」

「サンタにでも頼んでいるんだろう。」





パチクリと見開かれた大きな目が平然としている柳の姿を映す。

が驚くことを予め想定していたように柳は空になったカップを受け皿の上に戻し、





「赤也はサンタを信じているらしい。」





あっさりとびっくりな内容を付け加えた。





「ええー嘘でしょあの赤也くんが!?」

「去年は確かPSPを頼んだそうだが実際手に入った物はDSだったそうだ。

赤也の阿呆なところはどうやら親の遺伝だったみたいだな。」





そこまで言うと、さっきまで驚いていたはずのが最後の柳の言葉にキョトンと首を傾げた。





「どうして親の遺伝なんですか?おっちょこちょいなのはサンタさんじゃないですか。」

「……ああ、そうだな。」





目をパチクリさせるを見て、今しがた驚いていたのはただ単にサンタなど赤也が信じそうにないからであって、

自身は信じていたのだということに柳はたった今気付き、自分自身の発言が鼻持ちならなかった。

自分としたことが、危うく後輩の夢を壊してしまうところだった。





「しかし、が質問した内容を訊いた時点で赤也は気付くべきだったんだが…

アイツは阿呆だからな。そこまで気も回らないだろう。」





もうすぐクリスマスが迫っていて何が欲しいと訊かれたら普通は感づいてそんな高い物をリストにあげたりしない。

そのうえが二番目は何だと聞けばwiiのソフトだと言ったがwii自体が今手元にないのでやはりwiiが欲しいのだそうだ。

赤也だから仕方がないとは言ってもこれではあまりにもが可哀相だと思い、ちらりと視線をショーウインドーに向けた柳は

黒いコートを羽織り、その上からマフラーを軽く巻くと伝票を持って立ち上がった。





「お前は自分ばかりが赤也を好きだと思っているだろうが、

赤也は好きでもない奴と三ヶ月も付き合えるほど気の長い奴ではない。」

「……柳せんぱい、」

「何をあげても喜ぶんじゃないのか、からのプレゼントなら尚更な。」





英語のテキストなんかは例外だがな、と口許に小さく笑みを残して柳は帰ると言った。

少しその笑みに見取れてしまったは慌てて財布を持って立ち上がると





「これくらい俺が出す。」





とだけ言って柳はさっさとレジへと向かって行ってしまった。

どうすればいいのだろうと呆然としているに、店を出る間際に一度だけ柳が振り返り、





「またいつかお前の財布が潤っている時にでも奢ってもらおう。」





と言って今度こそ本当に柳は店を出て行ってしまった。

自分も出て行くべきだろうかと思ったが飲みかけだった紅茶とまだ半分残っているケーキを視界に捕らえると、

折角だからと椅子に座り直して残しておいたイチゴをぱくりと口に含んだ。

どうせ奢って貰えたのならビッグパフェでも頼んでおけばよかったなと思いながら。















「その写メ、悪戯に使って後で泣きを見るのはお前達二人だぞ。丸井、仁王。」





ゲッ、と振り返るとそこには先程までショーウインドーの向こうにいた柳が立っていた。

仁王の手に握られている携帯の画面にはバッチリ撮れたハートのフレームに映ると柳の姿。





「なー柳ー俺にもデラックスプリンパフェ奢」

「るわけがないだろう、愚か者。」

「……けーち。」

「服を買う金があるなら俺にたからなくても十分だろう。」





服を買ったから金が無くなったんだよと言いたかったが言ったところで奢ってくれそうにもないので

ブン太は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

そうこうしている間に何やらこのあと幸村と約束があるらしい柳はお前達暇人を相手している暇はないと、

さっさと駅に向かって歩いて行ってしまった。

人込みに紛れて完全に姿が見えなくなると同時にブン太は仁王の方へと振り向くが、





「ちょ、お前何して…」

「らぶらぶメールそーしん、なんつって。」

「洒落んなんねえよ!マジで送ったワケ!?」

「折角綺麗に撮れたんに勿体なかよ。活用せにゃ。」





俺カメラマンにでもなろうかのうなんて暢気に笑う仁王の隣で真っ青なブン太がいることなんて

ショーウインドーの向こうのは何一つ知らずに紅茶を啜っていた。















朝、明日のクリスマスイヴに渡す赤也へのプレゼントを買いに行くべく家の玄関を出た。

ちょっと寒いかなと思ったがはお洒落のためだと寒さを我慢して

カラータイツに黒のブーティーを履いたまま引き返す事なく玄関の門を開ける。





「ぅえー!?赤也くん!?」





すぐそこには腕を組んで仁王立ちしてマフラーに顔を埋めている赤也が立っていた。

上部はフードを重ねた着こなし、下部はデザインを施された緩めのジーンズに、

尻の辺りで交差するちょっとしたポイントがまたセンスを引き立てていての心を時めかせた。

今日は約束していたわけではないがこれほどまでにカッコイイ彼氏とこれからデートとなるとどれほど幸せだろうか。

ただし普段整ったその顔が般若のように歪んでいなければ、の話だ。





「オ、オハヨ…こんな朝早くに…どうしたの?」





幸せな夢を見ていたのだが何やら赤也がただならぬ空気を纏っていることに気付いた

恐る恐るご機嫌を窺うように声をかける。

ギロリと向けられた視線に思わずは全身に寒気を感じて身震いをした。

こんなことならもう少し着込んでくればよかった。





「…そんな恰好して、どこ行くワケ?」





見下されるような視線には蛇に睨まれた蛙だなと肩を竦める。

いつもより格段と低くなっている赤也の声のトーンがの恐怖心を煽っていた。





「か、買い物…?」





嘘はついていない。

本当に買い物なのだ。

無論言えはしないが赤也のプレゼントを買うための、だが。

だけどどこか納得のいっていない赤也の眉がピクリと跳ね上がって





「じゃあ俺も行く。」





と向かう方向も訊いていないのに動揺するを放ってさっさと歩き出した。

何と言うことだろうどうすればいいのだろうと頭の中はほぼ混乱状態。

あれこれと考えているうちに赤也との距離は段々と離れていってしまい、

ついて来ていないことに気がついた赤也がぐるりと振り返った。





「早くしろよ何してんの?」

「…や、あ、その…」

「何だよはっきり言えよ!」





怒りをあらわにし始めたことに若干怯えながらも





「お店はそっちじゃない。」





今更なことをはっきり言った。

途端に赤也の表情が深くなるのが少し離れたこの場所からでもわかる。

ヤバイ。 これは非常にヤバイ。

赤也を怒らせてしまってはヤバイ。

何がヤバイかというと、今日までは赤也の機嫌をなおす術をまだ知らないからだ。

いつもこうなった時はどうしようとあれこれ考えてあたふたしているうちに何かいいことがあったのか、

赤也は普段通りにへらへらしながらいつの間にか戻っている。

だけど今日は23日。 明日は共に過ごすクリスマスイブなのだ。

今機嫌を損ねられたら明日までに元通りに戻るという保証はどこにもない。





「…あ、ごめん、なさい!!」





逃げるが勝ち。

オイこら待て!という赤也の怒鳴り声を背に聞きながらは反対方向へと全力疾走。

走って走って走って。

赤也が追って来ては簡単に捕まるとわかりきっていた

ブーティのヒールをカツカツと忙しなく鳴らしながら入り組んだ道を走って逃げた。

当然ついて来られるはずもなく、赤也を見事撒くことが出来た

満足げに肩で息をしながら街へと繰り出した。















24日、即ちクリスマスイブ。

終業式の日に決めていた赤也と待ち合わせ場所には一人立っていた。

約束の時刻はとうに過ぎている。

このまま彼は来ないのだろうか。

赤也へのプレゼントを選んでいたときに気付いた。

赤也を怒らせたまま逃げてしまってはプレゼントを買えたとしても意味がなかったことに。

手に握られたプレゼントが入った簡素な紙袋。

それを持つ手に力を入れて寒さに耐えながら目の前の時計台を見上げた。





悪いのは自分だ。

いくらなんでも昨日の自分の逃げ方は異常だった。

でももしこのまま赤也が怒ったままここへ来てくれなかったら…

考えるだけでも目尻に涙が溜まるのが判った。

恋人達のイベントとも言えるクリスマスイブのこの日に、自分達の関係は終わってしまうのだろうか。






「馬鹿じゃねーのお前。」





完全におセンチになっていたの耳に待ち望んでいた声が聞こえた。

振り向くと、すぐ隣にと同じようにして、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだ体勢のまま

柱にもたれ掛かって立っている赤也の姿が目に入る。

ちょうど角で死角になっていたのだけれど、いつから、いや、ずっと隣にいたのだろうか。

赤也はマフラーに顔を埋めながら吐き捨てるように言った。





「俺来なかったらどうしてたワケ?昨日俺のことあれだけ蔑ろにしやがって。」

「…ごめんなさい。」





寒いから吐く息が白い。

鼻の先が僅かに赤みを帯びていて何だか可笑しかったけれど今は笑うところじゃないので堪えておいた。





「でもどうして昨日…いきなり家の外に?」





が首を傾げると赤也は無言のまま尻ポケットから携帯を取り出し、軽く弄った。

そして「ん、」と言って画面をの方へ向けると、そこにはハートのフレームに包まれた自分と柳の姿が写っていた。

驚きで思わず目が見開く。





「こ、これはちがっ…ただ相談を…!」

「わかってるっつの。」

「え?」





咄嗟に言い訳をとあたふたし始めるをちらりと垣間見て赤也は目を背けた。





「お前が浮気とかできるほど器用な奴じゃないし。何か理由があるんだろうけど…それはわかってるつもり。」





でも、と赤也は言葉を濁す。





「昨日逃げたあれはムカついた。」





むすっとした顔でと向かい合うようにして立つ。

ポケットから手を取り出すとそのまま冷え切ったの頬をギュウッと掴んで横へと伸ばした。





「いたたたたたたたた!!」

「何で俺がお前に逃げられなきゃなんないんだよっ!普段とろくせぇくせにああいう時だけ逃げ足速ぇし!」

「ご、ごめっいたたたたた…!!」





さっきとは違う意味で目尻に涙が溜まる。

寒さのあまり痛みが麻痺してる部分もあるがやはり痛いものは痛い。

が本当に反省しているのが赤也にちゃんと伝わったのか、舌打ちをかまして赤也は手をひいた。





「ほら、」

「え?」

「これ持っとけ。」





なに、コレ…というの不思議そうな視線に赤也は罰が悪そうに視線を逸らした。

差し出された紙袋を一向に受け取ろうとしないに痺れを切らした赤也は

半ば押し付けるように無理矢理手渡してさっさとをほっぽって歩き出した。





「ちょ、待ってよ赤也くん!!」





慌てて駆け足で後を追う。

赤也はダルそうに振り返り、「さっさとしてくんない?」と言ってまた歩き出した。





「赤也くん、これ持っとけって…どうしたら…」

「あーもう何でわっかんねぇかな!それはの!!」

「わ、私の…!?」

「そうアンタの!昨日あの後柳先輩のところ押し掛けに行ったらお前が俺のためにプレゼント買ってるって

訊いたから仕方無しに俺も買ってやったワケ!わかったら黙って受け取ればいいの!」





鋭い目で睨みつけられて怯むは思い出したように自分の手で握り締めていた

自分が昨日赤也のために買ったプレゼントを渡した。

赤也は黙ってそれを受け取ると、紙袋の中を覗いてからゆっくりとした動作で中身を取り出した。





「…何コレ。」





素っ頓狂な声を出して目を真ん丸くしてマジマジとして見つめるそれは





「あ、あのねコレは…その…」

、」

「は、はいごめんなさい!!」





肩をビクつかせ、まるで叱られている子どものように上目遣いで赤也を見上げる。

赤也の手に握られている数冊の本、いや、テキストがの目に映った。





「お前は何処まで俺をバカにしたら気が済むんだよ!」

「ご、ごめんだって赤也くんゲームばっかりしてたら頭が、」

「余計なお世話だ!!」





ENGLISHと書かれたテキストで の頭をバシンと叩く。

緑や赤や青と色取り取りに輝くイルミネーションを施されたツリーの下で、

今度こそ本当に怒った赤也の怒鳴り声がしばらく響き渡っていた。









*あとがき*

えっと、まずは謝罪です。はいすみません。

何かちっとも甘さを感じない小説になっちゃいました^_^;

クリスマスなのにね…なんだコレは…!!

でもサンタを信じてるらしい赤也超かわええ!!

このネタを絶対何処かに入れようと思ってたので入れることができて私はそれだけで満足です^^

ご飯お変わりできます。

40.5を見たときはええー!と思いましたがまあアリだな、と妙に納得。

赤也はギャグにしてくれという意見が多かったのでとりあえず最初から最後まで恋愛要素より

少しズレた話になってしまいまして…まあドンマイ私!

では、みなさん赤也と共にこの後も引き続き妄想の世界でクリスマスを味わってください!笑

たくさんの企画参加ありがとうございました!!

2007.12.24