僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































「さ、寒かったね。俺今ちっとも感覚ないや・・・。」

「俺も、体が凍って動きにくい・・・・。」

 

 

 

 

 

千石と丸井が震えながら外へと出てくる。

寒いはずの外が少し暖かく感じた。

二人とも鼻が赤い。

千石にいたっては唇の色が紫に変わっていた。

 

 

 

 

 

「千石さん気持ち悪いっスね。唇の色。」

「うっるさいな〜。越前君だって色変わってるからね。―――――!、ちょ、鳳君どうしたの!?顔白ッッ!!」

「ハハッ、ちょっとさすがに上着を着ないのはきつかった・・・ですね。」

「はあ?鳳お前、上着けぇへんかったんかいな。アホちゃう?」

 

 

 

 

 

顔から血の気が引いた鳳の背中を摩る。

そんな忍足の手も感覚がないほど冷たかった。

 

 

 

 

 

「鳳さん、すんません、今脱ぐんで・・・。」

「え、あ、いや、気にしなくていいよ越前。まだ着ててくれてかまわないから。急に温度を変えると余計に風邪引いちゃうだろ?ただでさえクシャミしてるんだし・・・・・。」

 

 

 

 

 

脱ごうとする越前の手を止める。

しかし、もはや鳳は越前の風邪の心配をできる立場ではない。

ここにいる誰よりも死にかけた顔色をしているのだ。

それなのに自分よりも年下の越前を優先する、心優しい(?)後輩に、忍足は呆れ気味に溜め息を吐いて自分の上着を脱いだ。

 

 

 

 

 

「ほな鳳は俺の着とき。このままやったらお前が風邪引くっちゅうねん。」

「え、あ、でも・・・・・。」

「ほら、ちゃんと腕通し!先輩命令やで!」

「は、はい!・・・・・・・すみません。じゃあお借りしますね?」

 

 

 

 

 

袖を通したのを見て、忍足は満足したように頷いた。

そして、手に持ったままだった封筒に目を遣る。

これは今、出てくる直前に係員から貰った、今回のゲームの謎を解く鍵と言うやつだった。

鳳のチームの神尾の手にも同じ封筒が握られていた。

中味は同じなのか・・・・・・それともまた別?

確かめたい気は更々なのだが、係員に他のチームには見えないようにと言われた反面、ルールを破るのは気が引けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギ、ぎゃぁぁぁあああああああ!!」

 

 

 

 

 

「向日!?どうした!?」

 

 

 

 

 

一階の方から向日君の叫び声が響く。

二階にいた私と跡部君、仁王君は急いで階段を駆け降りた。

 

 

 

 

 

「向日君どうしたの!?何があったの!?」

!?・・・・い、いやその・・・・その〜・・・・。」

「どうしたの?怪我でもした?」

「いや、そうじゃなくて・・・・・えっと・・・・。」

「はっきり言え向日!どーせ仕掛けか何かに驚いただけなんだろうが!」

 

 

 

 

 

なかなか理由を言わない向日君。

痺れを切らした跡部君がギロリと、気まずそうな向日君を睨んだ。

俯いたまま視線を逸らして小さく頷くと、向日君は口を尖らせて黙り込んだ。

ああ、きっと恥ずかしくて何も言えなかったのか。

何だかちょっぴり可愛い。

この屋敷の仕掛けは高度だから驚くのは無理もない。

私だってさっき、二階の左端の部屋に入った途端、部屋の隅に佇む白いワンピースの女の子に今日一番の叫び声を上げたくらいだ。

結局それは、真っ暗な部屋に映し出した、天井についた機械からの映像だったようだ。

最近の技術は発達したものだ。

感心しちゃうよ。

 

 

 

 

 

「あれ、幸村君と不二君は?」

「アイツら急にどっか行っちゃったんだよ。俺抜いて勝手に話進めるし、俺の知らない間に行動するし、ホントあの二人は身勝手だぜ!」

「まあ、あの二人は似た者同士やからの。ドンマイ向日。」

「!、そんなけかよ!クソクソ!チーム替えしてえよ。」

 

 

 

 

 

本気でげんなりしている向日君。

しかし不二君と幸村君は本当に何処へ行ってしまったのだろうか。

こんなところに向日君ひとりを置き去りにするなんて・・・・。

私なら耐えられない。

置き去りにした二人を呪うかもしれないわ。

 

 

 

 

 

「とりあえず不二君と幸村君を探そうよ。向日君ひとりじゃ可哀相だし・・・・。」

「そうじゃの。ま、こんなところ一人でおれんようじゃまだまだ向日はケツが青いな。」

 

 

 

 

 

ニヤケた仁王君が向日君の頭をよしよしと撫でた。

向日君は心底嫌そうだ。

ちょうどその時、跡部君が何かに気付いたようだ。

一瞬、驚いたあと、またもとの表情に戻った。

 

 

 

 

 

「・・・・幸村。」

「悪かったな。俺を探してただろ?この屋敷、ちょっと興味深くて・・・・・ふふ、一人で見て回りたかったんだ。それより、さっきの叫び声・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・向日チビッた?」

「ち、チビッてなんかねえよ!ちょっと驚いただけだろ!?」

「そう、残念だな。」

「(何が!?)幸村君、不二君は?」

 

 

 

 

 

幸村君は辺りをキョロキョロと見渡し、また私に向き直った。

どうやら一緒ではなさそうだ。

それは幸村君の行動から見てとれた。

 

 

 

 

 

「すまない、知らないな。俺は一人で見て回ってたし・・・・。」

「そっか、不二君と別行動だったんだ。じゃあみんなで探そうか。」

 

 

 

 

 

幸村君が頷く。

しかし、それと同時に今度は仁王君が何かに気付いたようだ。

一瞬、驚いたあと、またもとの表情に戻った。

 

 

 

 

 

「不二も帰ってきよった。探す必要なくなったの。」

「え?あ、本当だ!不二君、今ちょうど探そうとしてたところなんだよ!どこ行ってたのさ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん。」

 

 

 

 

 

俯いていた不二君が顔を上げる。

ニッコリ笑った手には封筒。

ああ、不二君は手に入れたんだね。

みんなが心配してるうちに奴はのうのうとお宝ゲットしてたんだね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最低!!

まあ不二君はそんな人なんだろうけどさ!

何か悔しい!

 

 

 

 

 

「さ、もう見つけちゃったし・・・さっさと出ようよ。僕、次はKに行ってケーキが食べたいな。」

「またお前らの行きたいところ行くのかよ!」

「クスッ、向日はケーキ食べたくないの?」

「た、・・・・・・・・・・・・・・・・・食べたいけどさ。」

「なら決まりだね。ちゃん達も行く?」

 

 

 

 

 

出口に向かって歩き出した不二君が私達の方へ振り返る。

私は隣にいた跡部君を見上げた。

彼は黙ったまま、不二君をじっと見つめている。

 

 

 

 

 

「・・・・・・いや、俺らはEに行こうかの。ケーキは丸井を思い出すから嫌じゃ。」

「丸井のことだ。きっと一番にそこへ行っただろうね。じゃあとりあえず仁王達も一緒に出ようよ。」

 

 

 

 

 

幸村君が先頭をきって歩き出す。

不二君と話しながら階段を上り始めた。

どうやら入口と出口は場所が違うらしい。

行きに入った正面玄関はすぐ後ろにあるのにその上には“入口専用”と書かれてあった。

不二君が指を指しながら幸村君と共にどんどん先へ進んでいく。

どうやら出口の場所を知っているみたいだ。

私達も後をついて行く。

同じ怖がり同士、向日君と仲良く手を繋ぎながら。

私が小さく怖いと呟くと、向日君が手を差し出してくれたからだ。

その手を取ると、「二人なら怖くねえもんな!」って言って少し照れながら笑った。

やっぱり向日君って可愛いなあ。

そんなことを思いながら出口に向かって歩き始めた。