僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「あ、忍足先輩!それと、丸井さんに千石さんも!」「鳳やん。何?自分らもここ入るん?」
「はい、そのつもりなんですけど・・・・・・・・やっぱ寒いですかね?」
そう言うと、苦笑いながら上を見上げた。
目の前の建物はHの“雪国世界”。
それは−10℃の世界を体感できるという、
夏に入れば涼しむのに最適な場所だが、今の季節に入るのは少し気が引ける場所である。
そもそも、ここに入ろうと言い出したのは、忍足のチームでは千石の気分を和らげるために提案した忍足、
鳳のチームでは急にここへ入りたいと言いだした越前だ。
何故かは謎である。
しかし彼にしてみれば、特に深い意味はないようだ。
いわゆる思い付きというやつだ。
「ってかさー、どうでもいいけど何でアンタそんなに顔色悪いわけ?」
「んぐっ、相変わらず越前君は痛いところをついてくるなあ〜。別にもう大丈夫だから気にしないでよ。ね?」
「ふ〜ん。初めから気にしてないけどね。」
「何だ千石。ケーキ食ったぐらいで吐いたなんて恥ずかしくて言えないってか?だよな〜、ダッセェもんなあ?」
「・・・・・・・・・・丸井君。ケーキ食べ足りなかったこと、もしかしなくとも恨んでるでしょ?」
「当ったり前だろぃ?食い物の恨みは怖いんだぜ。俺まだまだ食えたのによ!」
お持ち帰りしたくせに!!
そう思いながら千石は、丸井の手に持たれた紙パックを恨めしげに見つめた。
その中に何個のケーキが入っているのだろうか。
恐らく四つは確実に入ってそうだった。
だから太るんだよ丸井君・・・・・・・・・・・。
「あれ、みなさんお揃いっスか?」
「神尾君、この人どうにかしてよ〜。超心狭いんだけど・・・・・・・・・・。」
「この人って・・・・・・・丸井さんっスか?ああ、確かに狭そうっスね。」
「おい、そこの二人。全部丸聞こえなんだけど!」
トイレから帰って来た神尾の肩に腕を回し、丸井に聞こえないように耳打ちを始めた千石。
そんな二人を見て、丸井が呆れたように溜め息を吐いた。
「はいはい、そこの三人。しょーもないことしてやんと、さっさと入るで?」
「そうっスね。行きましょうか!」
呆れ顔の忍足が建物の中へと入って行くのを見て、千石から上手いこと逃げることができた神尾が後を追う。
その後を鳳と越前が追うが、入る直前に隣で小さくクシャミを放った越前に、鳳が心配そうに眉をしかめて言った。
「越前、その格好じゃ少し寒いんじゃない?」
「大丈夫っス。ちょっと鼻がくすぐったかっただけなんで。くしゅっ。」
「どこがだよ。またクシャミしてるじゃないか。あ、そうだ。俺のこれ着ていいよ。俺そんなに寒くないし。」
上着を脱いで越前の肩に被せた。
越前は少し戸惑いながらも上着に袖を通す。
いつの間にか千石と丸井も中へと入って行ってしまっていた。
「いいんスか?中は−10℃っスよ?」
「別に越前が風邪を引かなければ俺はそれでいいよ。それに俺、寒いのには結構強いから大丈夫!」
「・・・・・・・・・ありがとうございます。(たぶん無理と思うけど、まあいっか。)」
「いえいえ、このお礼はまたいつかしてもらうから気にしないで?・・・・・・・・・・・・まあ恩は売っておくものだしね。」
「!?、は、はあ・・・・・・そうっスか。」
不気味に笑う鳳と、それに少し引き気味の越前が最後に入って行った。
「こ、これがお化け屋敷!?」
「クスッ、ずいぶんと迫力のあるお化け屋敷だね。これは相当なリアル感がありそうだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちゃん?大丈夫?意識はある?」
目の前の大きな屋敷に、思わず意識を飛ばしそうになる。
だって、これは異常だ。
お化け屋敷なんて可愛らしい物でもない。
本当に出るんじゃないかってくらいリアルで、恐ろしい。
物凄く古びた洋館のような建物が、私達の目の前で聳え立っていた。
これ・・・・・・・・・・作り物?
なんだか本物っぽいんですけど!!!
「うっわぁ〜・・・・・・何か寒気してきた!」
「ふふ、向日。チビらないでよ?」
「!、チビるわけねえだろ!?馬鹿にすんなっつーの!」
向日君の反応に満足したように微笑む幸村君。
ああ、やっぱり彼はSなのかもしれない。
いや、Sなんだ。
私はふと、仁王君をチラリと盗み見してみる。
ゾンビを嫌いと言っていたくせに、ゾンビより怖そうなこの洋館の前では薄っすらと笑っていた。
「ちょ、ちょっと仁王君!アンタ、ゾンビ怖いってのアレ嘘でしょ!?全然平気なんでしょ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・あれ?は信じとったんか?」
「はあ!?」
「、仁王の言うことは大抵のことが嘘だ。あまり信じんな。」
呆れ顔の跡部君が溜め息を吐いた。
仁王君って・・・・・・・・そんな人なの!?
何で人を騙すの!?
ってかやっぱり嘘だったんだ!?
同じ仲間だと信じてた私がちょっと情けない気がしてきたわ・・・・・・・。
結局怖いのは私だけなんじゃん。
「・・・・・・・・・・・・・・・それにしても跡部、気づいとるか?」
「ああ、だが今は何とも言えない。・・・・・・・・・とりあえず入ってみるか。」
「そうじゃな。まずは入らなきゃ何もわからんな。」
仁王君と跡部君が真剣な目つきで屋敷を見上げていた。
私は、二人が話しているのはこのゲームの謎の答えについての話だと思い、
さっきのアトラクションで貰った封筒と、オジサンからもらった紙と写真を取り出した。
オジサンから貰った紙にはこう書いてある。
“ 謎:雪が解けると□になる。
□になると謎はとける。
ヒント:まずは自分を探せ。”
ついていた写真は、何か、訳のわからない茶色い模様のようなものだった。
何かを拡大したのか、画質は悪く、少しぼぼけていた。
そしてさっき貰った封筒。
この中に入っていたのはこの写真と同じもの。
だけど少し、模様が違っていた。
これは一体何なのか。
わからない。
わからないけど・・・・・・・・・・・・。
写真を見たとき、私は身震いをした。
一瞬、体中の毛が逆立ったような、そんな感覚に襲われたんだ。
まだ、私達には理解ができない。
そんな事実がこの謎に隠されていることを、私達はまだ知らない。
それを知るために、私達はまた一歩、また一歩と、新たな試練に足を踏み入れようと、前を進んだ。
振り返れば白い足跡――――――――――――――――――――