僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































どんなに時が経っても

 

 

 

 

 

どんなに離れていても

 

 

 

 

 

強い想いがあるかぎり

 

 

 

 

 

僕たちは巡り逢う。

 

 

 

 

 

だけど目を逸らさず

 

 

 

 

 

真実を受け止め

 

 

 

 

 

力いっぱいぶつかり合おうよ。

 

 

 

 

 

そこで見つかる想いもあるから―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳥の囀り。

温かな陽射し。

起き上がったらベッドが軋んだ。

 

 

 

 

 

「ふあ、・・・・・・・眠。」

 

 

 

 

 

見慣れない部屋を見渡し、欠伸を一つ。

自分で言うのも何だけど、今最高に不細工な顔してると思う。

欠伸をしても眠たいのは変わらず、仕方がないのでベッドから降り、小さく伸びをして体を起こした。

 

 

 

 

 

「あ゛〜体痛ぃぃいいいー!!」

 

 

 

 

 

筋肉痛で体中が痛かった。

そこで伸びをやめ、時計を見上げる。

針は昼の一時半を指していた。

今から七時間くらい前にあったことが夢のようだ。

起きた瞬間は夢かな、と思ったけどどうやら現実のようで、ここは私の部屋ではなかった。

そういえばベッドも狭ったな、などと視線をベッドに向ける。

 

 

 

 

 

「・・・・って・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 

 

 

ベッドの掛け布団がうごめいた。

ギシッと鈍い音が耳に障る。

私は恐る恐る掛け布団に手をかけ、それを一気にめくった。

 

 

 

 

 

「ぎ、ぎゃぁぁあああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって〜、だけベッドってズルイじゃん!ムサイ男大勢で川の字とか眠れなかったんだもん!」

「嘘つけ!俺騙されないっスよ!アンタはどんな状況でも熟睡できるでしょ!?」

の部屋に夜ばいなんてやるじゃないか芥川。ふふ。」

「夜ばいじゃないC〜。お部屋訪問だよ。」

「かわいらしく言ってもダメなもんはダメなんだよ!この野蛮人!」

「丸井君ひどッ!丸井君は俺の味方じやなかったの〜!?」

 

 

 

 

 

ジロー君を中心にギャーギャーと不満の声が少し広い部屋に響く。

そう、今私達がいるのはあの遊園地の中にある、本来は職員専用の宿舎のようなところ。

時間が時間だったのため、後から現れた監督にこの宿を案内された。

急だったこともあり、ベッドのある部屋は一つ。

レディーファーストということで私が唯一ベッドがある部屋で寝ることとなった。

他のみんなは適当に二部屋に別れて雑魚寝したらしい。

 

 

 

 

 

「俺、侑士の様子見てくる。先飯食ってて!」

「なら俺も仁王の部屋に邪魔しに行こうかな♪アイツ絶対仮病だぜぃ。」

「あ、それ俺も思ったっス!仁王先輩、絶対俺達と寝るのが嫌だから仮病使って部屋分けてもらったんですよ!」

「あ、そんな手があったんだ。」

 

 

 

 

 

鳳君が自分もすればよかったと言いたげな表情で呟いた。

忍足君は寒い中、薄着でいたため、熱が出たらしい。

仁王君は・・・・仮病かな?

 

 

 

 

 

「飯ってどうなんの?」

「遊園地の中にある飲食店を開けてくれるそうです。」

「へえ、じゃあそこに行けばいいんだね。」

 

 

 

 

 

宍戸君、鳳君、不二君が立ち上がる。

正座させてられていたジロー君も立ち上がるが、足が痺れたようでよろめいていた。

どうやら神尾君と丸井君は仁王君のもとへ、跡部君と向日君が忍足君の部屋へ行くらしい。

 

 

 

 

 

「千石ー、何してんだ?飯行くぜ?」

「メンゴ!俺、行きたいところあるから先行ってて!」

「どこへ行くんですか?」

「ん〜・・・・・内緒☆けど、すぐ戻るよ!」

 

 

 

 

 

そう言い残し、ウインクをすると、キヨは部屋を出て行った。

宍戸君と鳳君が目を合わせて首を傾げた。

 

 

 

 

 

「わ、私も・・・・・・・ちょっと行って来る!」

?」

 

 

 

 

 

私も急いで部屋を出て、ドアを閉めた。

ドアにもたれ、小さく溜め息を吐く。

そしてゆっくりと歩き出した。

外に出ると、昨日とは打って変わって温かな太陽が地面を照らしていた。

雪が積もった跡がない。

少し鉄柱の下なんかに溶けかけの雪が薄く残っているだけだ。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・すっかり冬も終わっちゃうんだね。」

 

 

 

 

 

独り言のように呟くと、再び歩き出す。

一歩一歩、噛み締めるように前へ進む。

そうこうしているうちに、目の前には大きな観覧車が立っていた。

私が鳳君や宍戸君と落ちた観覧車。

普通なら死んでたかもしれないのに・・・・奇跡的にも助かった。

私って強運の持ち主なのかも。

 

 

 

 

 

「あ。」

 

 

 

 

 

ベンチにはキヨが座って空を見上げていた。

ポケットに手を突っ込んで、寒そうに息を吐いている。

何してるんだろう。

行きたいところって、ここだったのかな?

だったら・・・・私と一緒。

 

 

 

 

 

「キヨ、何してんの?」

「わっ!ビックリした〜!!ちゃんか!驚かさないでよ〜。」

 

 

 

 

 

声を掛けると本当にビックリしたように肩を飛び跳ねさせた。

キヨは苦笑いを浮かべる。

そんなにも気を抜いていたのだろうか。

まったくの無防備さだね。

私はキヨの隣に腰かけると、背もたれに背中を預け、空を眺めた。

 

 

 

 

 

「ここ、私の家。」

「うん。知ってる。ここに君の家があったんだよね。」

「過去の話だけど・・・・ここに私の家が確かにあったんだね〜。何か変な感じ。」

「そうだね。たぶん俺ん家はあそこのトイレの位置だったと思う。」

 

 

 

 

 

キヨは売店の隣にひっそり立っているトイレを指差した。

笑ったら失礼なのかな?

私はキヨから顔を逸らして、噴いた。

 

 

 

 

 

「酷いな〜。本当のことだからしょうがないでしょ?」

「そうだね。トイレに家があったんだから仕方ないよね。」

ちゃんの家だってベンチに家があったくせに・・・。」

「べ、別にベンチに家があったわけじゃないもん!この辺りにあっただけだもん!」

「アハハ、俺もそうだって!ところで、ちゃんはここに何しに来たの?ご飯は?」

 

 

 

 

 

キヨが無邪気に笑って首を傾げた。

キヨに言われてハッと気がついた。

ああ、そういえば、私はここに用があってきたんだ。

大事な・・・・大事な用。

 

 

 

 

 

「そういうキヨこそ!こんなところで何してたの?」

「え、俺?俺は・・・・。」

 

 

 

 

 

キヨは黙ってしまった。

気まずそうに視線を逸らすと、目を閉じる。

しばらく二人の間に微妙な空気が流れる。

キヨは首を左右に振ってまた私に向き直った。

まるで何かの決心がついたように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃんの家があった場所に・・・・花をあげてた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言ったキヨの手には赤い花が握られていた。

小さめのかわいらしい花。

 

 

 

 

 

「ごめんなさいと、感謝の気持ちを込めて・・・。」

「感謝の・・・気持ち?」

ちゃんやみんなを・・・見守ってくれてありがとうの気持ちだよ。」

 

 

 

 

 

私との間に花を置く。

微かな風に花びらが揺れていた。

キヨはその花を見つめながら優しく笑った。

 

 

 

 

 

「俺がちゃんを殺せなかったのは・・・・この場所が過去の俺を思い出させてくれたから。だから自分の間違いに気付けた。」

「・・・・・そっか。この場所は・・・私達のこと、見守ってくれてたんだね。」

 

 

 

 

 

花を手に取る。

私はそれを空に向かって投げた。

花は高く空へと上がり、風に流され、視界から消えた。

花にはたくさんの想いを込めた。

“ありがとう”、“ごめんなさい”だけじゃない。

言葉に出来ない想いも全て。

 

 

 

 

 

「さ、ご飯食べに行こうか!みんな待ってるよ!」

「うん!」

 

 

 

 

 

キヨが立ち上がり、数歩歩いて振り返った。

私は頷くと、勢いよく立ち上がった。

ベンチがガタンと音を立てて揺れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今、幸せ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に聞こえた言葉。

振り返るけど誰もいない。

だけどそんな澄んだ声に、聞き覚えがある。

私は目を閉じて、前を向いた。

 

 

 

 

 

「幸せ・・・・・・だよ?」

 

 

 

 

 

もう心配しないで?

貴女も笑って?

幸せになって?

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・ちゃん?」

 

 

 

 

 

頬を伝う涙。

ここで流す最後の涙。

私は幸せ。

もう泣かないよ?

今、ここから私は笑顔で生きる。

そう、約束するよ。

私達は今度こそ春を生きるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、雪はもういらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「跡部跡部!それちょーだい!!」

「うぜえ。自分のを食え。」

「岳人、俺のやるから跡部はそっとしといたり。」

「え〜!だって跡部まだいっぱい残ってるじゃん!腹減ってねえんじゃねえの?」

「ちゃうねんで岳人。跡部はいつもシェフ付きの食事を一人で食べてるからな、

こんな大勢でわいわい食べるのはあんまり慣れてへんねん。」

「へ〜、お坊ちゃま〜。」

「うっせえよ。庶民共。」

 

 

 

 

 

飲食店の扉を開けると、みんなの騒ぐ声がざわめきとなって聞こえてきた。

全体を見渡すと、忍足君も仁王君もいる。

もう元気になったのだろうか?

忍足君の額には熱を冷ますシートが貼られていて、きのうまでの彼と雰囲気が違っていた。

子どもっぽい・・・・・とでも言うべきだろう。

仁王君は普通に黙々とご飯を食べていた。

本当に仮病だったのだろうか?

 

 

 

 

 

「跡部うっぜ。」

「宍戸さん落ち着いてください!別に宍戸さんに言ったわけじゃないですよ!!」

「わかってるっつーの!!長太郎、何だ?お前、俺が庶民だって言いてえのか!?」

「え、いや、そういうわけじゃ・・・・・・!!」

「あ〜宍戸が八つ当たりしてる〜。みっともなーい。」

「ジローはあんな宍戸みたいにみっともない人間になったらあかんで?」

「うんうん。俺宍戸だけにはなりたくないC〜。何か・・・・しんどそう。」

「は!?ジローてめえ!!!!」

 

 

 

 

 

宍戸君は青筋を立て、拳を作って立ち上がる。

鳳君が必死に宥めているが、宍戸君の怒りは治まらないようだ。

私とキヨは空いている席に座る。

静かに食事をすましていた不二君が歓迎してくれた。

 

 

 

 

 

「まったく、煩いよね。アイツら・・・・。」

「こら、越前。本当のこと言っちゃダメでしょ?」

「不二サンって・・・・・・・さらりと言うからキツいっスよね。」

「切原はストレートに物を言うから相手の神経逆撫でするんだよね。」

「あ、それワザとっス!ワザと相手煽って言ってんの!」

「はは、うっぜえ。」

 

 

 

 

 

私の隣に座っていて、頬杖をついた神尾君が乾いた笑いを零して言った。

不二君も笑顔だけど笑ったその顔が怖かった。

ドスッと、背中に衝撃を感じる。

誰かが私に抱きついたのだろう。

もうその犯人は振り向かなくともわかっている。

そんなことをするのはただ一人。

振り返ると、やはりそこにいたのはジロー君だった。

 

 

 

 

 

「ねえ、ちゃん!ご飯食べたら一緒に遊ぼう!?」

「え?あ、うん!そうだね、遊ぼっか!」

「うん!監督がね〜、あと三時間ぐらいは遊んでもいいって!」

「マジで!?じゃあ、俺と二人でどこか行こうぜ!芥川なんかより俺の方がエスコートばっちりだぜぃ!」

「ダメだな丸井。にはもう先約があるんだ。俺とお化け屋敷にもう一回入るっていう・・・・ね?」

「し、してません!絶対してません!!私知らない!!」

「あれ?そうだっけ?おかしいな・・・。でも、行こうね?」

「え!?い、行きたくない!ヤだ!絶対行きたくない!!」

「幸村、やめときんしゃい。が怖がっちょる。」

「ふふ、それが可愛いんじゃないか。、嘘だよ。ごめんね?」

 

 

 

 

 

幸村君が私の頭をよしよしと撫でる。

頷くと、私もそろそろご飯を食べようかと思い、箸を握る。

だけど、ジロー君がしがみ付いてるため思うように動けない。

ジロー君に離れてと言うため、口を開いたその時、

急に体が軽くなった。

 

 

 

 

 

「いった〜!!!」

「ジロー、の食事の邪魔をするな。あっち行って寝てろ。」

「跡部!・・・・ヤだもんね!俺まだ眠くないもーん。」

「何がもーんやねん。可愛く言ったって全然可愛くないで。自覚しぃや。」

、次からジローに何かされたら殴っていいからな。遠慮はいらねえ。」

「え、ええ!?無理だよ!殴るなんて・・・・!!」

「コイツMやねん。殴ってほしいねん。そやから気にせんと殴ったって?」

「え、そうなの!?」

「違うって。俺Mじゃないから・・・・。」

 

 

 

 

 

倒れていたジロー君が起き上がる。

ムッとした表情で頭を掻く。

仁王君が降ろしていた髪を結び、立ち上がった。

 

 

 

 

 

「トイレ。」

「食べてすぐトイレ?消化早いなお前・・・・。」

「トイレと言えば大きい方と解釈すんのやめてくれんかの。」

「食事中に下品っスね。丸井先輩は。」

「な、勘違いしただけだろぃ!!悪かったな!!」

「ねえねえ〜、早く食べてよ〜。そんで早く遊ぼうよ〜。」

「ジロー、ゆっくり食事させたりぃや・・・。まだまだ時間あんねんから・・・。」

「だって・・・・・・・。」

「そうですね。俺達にはまだまだ・・・・時間があるんですね。」

 

 

 

 

 

鳳君が笑う。

そうだ。

私達にはまだ時間がある。

“生きる”ことができるんだ。

当たり前だと思っていたそれが、どれだけ大切かというこがわかった。

笑い合えるということがどれ程大切なのか、私達はそれを教わった。

 

 

 

 

 

「なーに笑ってんだか・・・・。思い出し笑いか?」

「え、私顔に出てた!?」

「バッチリ、にやけてたよ。」

「嘘ッ!!は、恥ずかしい!!」

サン何考えてたんスか〜!?どーせやらしいことでも考えてたんでしょ!?」

「な、ち、ちがッ!!」

「焦ってる時点で超怪Cー。」

「ええ!!?」

「で、本当のところ、何考えてたの?顔に出ちゃうくらいなんだから・・・・よっぽど嬉しいこと?」

 

 

 

 

 

前の席に座っている不二君が頬杖をついて私をじっと見つめる。

私は水を一口飲み込むと、自然と顔に出てくる笑みを作った。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・えへへ。」

「な、何だよ・・・はっきり言えよ!」

「宍戸はほんま焦らされるの好きちゃうな〜。短気はあかんで短気は・・・。」

ー。早く食べてってばー!」

「そうだそうだ。、俺達みんなお前待ちなんだぜ!」

「ちょっと・・・・俺もまだ食べてるんだけど・・・。」

「千石さんは一人で食っとけば?別に用無いし。」

「はは、言われると思った。越前クン、キミほんと俺のこと年上だと思ってないでしょ・・・。」

「別に。何とも思っちゃいないよ。」

ってば〜!早く〜!」

「ジローうるせえ!少しは黙ってろ!!」

「跡部さっきから怒鳴り声うるさいよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつまでも続くといい。

この幸せが。

たとえこの先、少しの困難が訪れても、

乗り越えることができるのだと、知った。

立ち向かって、前に進める強さを身につけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー、天気いいね!」

「すっげ、雪ねえじゃん!昨日の大雪が嘘みてえだな!」

「こんなに・・・・太陽は暖かかったんだね。」

!何乗る!?」

「そうだね、みんなで一緒に乗れるやつがいいな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辛いことがあっても、一人で抱え込まないで。

ぶつかり合って。

当たって砕けてもいい。

耳を閉ざして塞ぎこまないで。

前へ踏み出して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで見える友情があるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、暖かな春が私達を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-END-