僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































「あ、これはやばいんじゃない?」

「何がっスか?」

「ん〜、こっちの話〜。」

 

 

 

 

 

千石はベンチにどかっと座りながら空を眺めた。

質問をさらりと流され、越前はムッとしたようにそんな千石を睨み付けた。

が、千石は気にしていない様子で雲に隠れた太陽を目で追っている。

鳳が越前を宥めるように苦笑いを浮かべて肩をに手を置いた。

 

 

 

 

 

「おい、千石!」

「何かなー向日君?」

「俺、今・・・・・聞こえたんだけど!」

「あらら、向日君も聞こえちゃった?」

「何があららだよ!んな呑気なこと言ってる場合じゃないだろ!?」

「わーかってるって〜!そんなに怒んないで!」

 

 

 

 

 

食ってかかる向日に体を後ろに反らす千石。

二人の会話に、鳳と越前の頭の中はクエスチョンだらけだ。

何が聞こえたのだろうか。

何も聞こえなかった気がするのだけれど・・・。

鳳が首を傾げながら問う。

 

 

 

 

 

「何が聞こえたんですか?」

「何って・・・・銃声だよ銃声!!長太郎は聞こえなかったのか!?」

「じゅ、銃声ですか!?いえ、俺には聞こえませんでした・・・!」

 

 

 

 

 

鳳は銃声と聞いて目を丸くした。

千石の視線が、ここからでは見えないけれど、観覧車の向こうを映した。

 

 

 

 

 

「誰かに何かあったのかも・・・・ま、まさかや侑士が!?」

「その可能性はなくもないね。むしろ大だ。」

「そんなッ・・・!だけどそれよりも前に、銃なんて物どこにあるんですか!?」

 

 

 

 

 

鳳の問いに千石が顎に手をあてて考え込んだ。

しばしの沈黙が続く。

そんな中、何かを思い出したように向日が手を叩いて目を見開いた。

他の三人は驚いて顔を上げる。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・Jのアトラクションだ!」

「Jって・・・ゾンビの?」

「そうそれ!監督が本物の銃を隠してるだの何だのってさっき言ってた!」

「榊先生が・・・?」

 

 

 

 

 

千石は眉をひそめて向日を見上げる。

その視線に気付いた向日が先ほど警備室で監督に会ったことを三人に話した。

宍戸からいなかったと聞かされていた越前は驚きと呆れとが混合して、言葉がでなかった。

 

 

 

 

 

「じゃあやっぱり忍足さんの確率が高いってわけだね。」

「どうすんだよ!銃で撃たれたとかシャレになんないぜ!?」

「死ぬかもしれない・・・・ってことですね。」

 

 

 

 

 

それぞれが顔を見合わせる。

千石が体を反らし、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、殺しても死なない奴らだから大丈夫でしょ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千石から吐かれた台詞は、根拠のないものだったが、彼らは頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宍戸、どうした?」

 

 

 

 

 

突如、起き上がった宍戸に、隣に座っていた丸井が呟く。

宍戸は上半身を起こした体勢で自分の両手を不思議そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・急に体が楽になった。」

「ま、マジで!?」

 

 

 

 

 

丸井は宍戸の額に手を当てる。

確かに熱は引いていた。

綺麗さっぱりに元通りの宍戸だ。

 

 

 

 

 

「な、何がどうなったってんだ?」

「・・・さあ?でも、急に体から熱が消えて・・・。」

「!、まさか・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

丸井は誰もいない廊下を振り返った。

先ほど自分がと戦ったあの場所に、今もがいるような気がして・・・。

あの泣き顔が頭から離れない。

自分も、同じような感情を持っているからかもしれない。

憎い、だけど本当は・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「丸井、何か・・・あったのか?」

「え、いや・・・別に・・・。」

 

 

 

 

 

宍戸が心配そうに顔を覗き込んでくる。

丸井は罰が悪そうに視線を逸らして俯いた。

宍戸はそれ以上は深く追及するのをやめた。

聞いてはいけない。

彼は彼なりに空気の読める人間であったから。

普段は読めないとよく言われるが・・・。

 

 

 

 

 

「二人とも、中に入りなさい。」

「か、監督!!?」

 

 

 

 

 

二人の背後の扉が開く。

先ほどは開かなかった警備室の扉が開いて、監督が姿を現したのだった。

二人は目を真ん丸くして驚きのあまり口が開いたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銃声が・・・・。」

 

 

 

 

 

神尾の声に他の二人がハッとした。

不二が銃声の鳴り響いた方へ視線を向ける。

 

 

 

 

 

「近いね。・・・誰かに何かあったんだ。」

「行かなきゃ・・・行かないと!!だってあっちはッ・・・!!」

 

 

 

 

 

ジローが顔を蒼くして不二と同じ方向に視線を向けた。

神尾もみるみるうちに顔色が悪くなっていく。

みんな考えることが同じだった。

そうだ。

銃声の音がした方は忍足とが歩いていった場所。

この二人に何かがあったと考えるのが普通だった。

 

 

 

 

 

「行こう。嫌な予感がする。」

 

 

 

 

 

不二が歩き出す。

そのあとを神尾とジローが駆け足で追う。

高鳴る鼓動を必死に抑えながら、手に滲む汗を握る。

いつも眠たげなジローの目は不安で揺れていた。

願うのはただ仲間の無事。

だけど、そんな願いは届かない。

神は時に残酷なのだと、改めて実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、赤也。」

 

 

 

 

 

幸村に呼ばれ、先を歩いていた切原が振り返る。

彼らの耳にも届いていた銃声。

しかし、彼らは銃声とは反対の方向へ向かって歩いていた。

それは幸村の指示。

切原は初め、仁王のあとを追おうとしたが、幸村に止められた。

 

 

 

 

 

「もしこの物語、終わらなかったら・・・・・。」

「幸村部長・・・。」

 

 

 

 

 

幸村が立ち止まったのを見て、切原も立ち止まる。

俯いている幸村。

どんな表情をしているのかわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達はまた同じことを繰り返すんだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わかっている事実。

改めて言われることによるその重さを実感する。

切原は目を見開いた。

呼吸が止まった気がした。

 

 

 

 

 

「何を・・・・急に・・・。」

「いや、誰かが死ねば・・・また一からやり直しなんだと思って・・・。」

 

 

 

 

 

顔を上げた幸村の表情は無に近かった。

切原の握り締める拳に力が篭る。

切原の表情が徐々に険しくなっていった。

 

 

 

 

 

「・・・・んな。」

「赤也?」

「ふざけんなよ!!」

 

 

 

 

 

幸村は目を見開く。

自分の横を通り過ぎて行った切原。

少し遅れて振り返った。

切原の背中はすでに小さくなっていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・人の話は最後まで聞けよ。」

 

 

 

 

 

呆れたように溜め息を吐く。

もう後ろに切原の姿はない。

幸村は困ったように微笑んだ。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・成敗、だな。」