僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































あれ、今・・・・私はどうなったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ・・・・。」

「入ったことあるんか?」

「え、うん。初めに入ったアトラクションだ。」

 

 

 

 

 

忍足君が立ち止まった前方には“GUNS ZONE”がそびえ立っていた。

この遊園地に来て初めて入ったアトラクション。

あの時は何も考えず、ただ純粋に楽しんでたなあ。

ゾンビが怖いっていう恐怖はあったけど・・・・。

 

 

 

 

 

「この銃、本物が混じってるって知っとった?」

「何の話?」

「せやから、この銃の中に本物の銃が何丁か混ざってんねんて。」

 

 

 

 

 

忍足君は棚から一丁の銃を取り出し、私に見せるように持った。

これが本物の銃なのだろうか。

ってか何のために本物が混じってんの!?

もしその本物が知らずにあたってたらゾンビ撃ち抜くどころじゃすまないじゃない!

流れ弾に誰かあたって死んじゃうかもしれないんだよ!?

何考えてんだここの経営者は!!

 

 

 

 

 

「監督が言うとった。少しでも過去の記憶を蘇らさせるために、銃も用意させたんやと。隠し場所にはここが最適や言うてな。」

「監督って・・・・あ、あのオジサン!?何考えてんのあのオジサンは!!」

「・・・・・ほんま、監督も何考えてんねんって話や。」

 

 

 

 

 

銃を指で回しながら、本来は係員が座るはずの椅子に忍足君が腰掛けた。

ギシッと鉄パイプの音が耳に障る。

忍足君は前屈みの体勢で、銃の引き金に指をかけた。

品定めするように手首を回して銃の至る所をじっと見つめている。

 

 

 

 

 

「それ・・・・本物?」

「おう、これは本物の銃やで。」

「・・・・それ、どうするつもりなの?」

 

 

 

 

 

忍足君の手の動きが止まる。

ちょうどその時、太陽が雲に隠れ、私達の周りは影に包まれた。

薄暗くなった景色に、周りの温度がさらに低くなった気がした。

 

 

 

 

 

「秘密や。」

 

 

 

 

 

顔を上げた忍足君の口元が、ひそかに綻んでいたように思えた。

背後から足音が聞こえる。

忍足君が視線をそちらに向けると、小さく微笑んだ。

まるで待っていましたというように。

 

 

 

 

 

「来ると思ってたで。跡部。」

「・・・・・忍足。」

 

 

 

 

 

忍足君が呟いた名前を聞き、私も後ろを振り返った。

そこには確かに跡部君が立っていた。

顔には痣を作っていて、痛々しかった。

綺麗な顔なのに・・・。

何があったんだろう。

 

 

 

 

 

「えらい顔なっとるやん。天下の跡部様が・・・誰にやられたんや?」

「誰だっていいだろ。それよりも、お前物騒な物持ってんじゃねえか。アーン?」

「かっこええやろ?」

「ハッ、言ってろ。」

 

 

 

 

 

二人の間に挟まれた私はどうすればいいのかわからず、ただ交互に二人を見遣るだけ。

忍足君が重い腰を上げ、立ち上がる。

パイプ椅子がガタンと揺れた。

 

 

 

 

 

「俺はただな、を跡部に届けにきたんや。」

 

 

 

 

 

忍足君は銃を持っていない方の手を腰にあて、跡部君の目を見つめた。

真っ直ぐと、逸らすことなく。

逸らしたのは跡部君の方で、視線を忍足君の足元に移した。

ゆらゆらと、瞳が揺れている。

 

 

 

 

 

「何のためにだ?」

「決まってるやん。俺はいつだって・・・・・お前の味方や言うたやろ?」

 

 

 

 

 

跡部君はハッとしたように視線を忍足君の目に向けた。

眉間に皺が寄る。

忍足君はにこやかに笑っているけれど、どこか引っかかる。

これは鳳君の時に感じた違和感と同じだ。

心から、笑っているわけではない。

そんな笑みなんだ。

 

 

 

 

 

「俺を殺したくせに・・・・・よく言うぜ。何だ?また殺しにでも来たのかよ?その銃で!」

「まあそない怒らんといてや。俺は別に殺しに来たわけとちゃうから・・・。

俺は二度と跡部を殺したりなんかせえへん。これだけは命に代えても誓ったる。」

 

 

 

 

 

笑みが消え、真剣な顔つきに変化する。

レンズ越しの目が揺れることなく真っ直ぐ跡部君を捕らえていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・綺麗事だな。」

 

 

 

 

 

跡部君がふと呟いた台詞。

強く、はっきりと。

だけどどこか切なげで、胸にズキンと突き刺さった。

私は跡部君の方を見たまま、足が棒状になって動けなかった。

 

 

 

 

 

「お前だってそうだ。俺のこと、本当は憎くて憎くて仕方なかったんだろ?なあ?」

「跡部君・・・。」

「殺したいほど憎かったんだよな?だから俺を殺したんだろ?わざわざ仲間のフリなんてしてよ!」

 

 

 

 

 

跡部君の表情がさらに険しくなっていく。

それを忍足君は黙って聞いている。

何も答えようとはしなかった。

 

 

 

 

 

「だったら何で初めから言わなかった?俺の味方だ何だ言わず・・・他の奴らみたいに俺を憎めばよかったんじゃねえか!」

「・・・・・・・・・・。」

「なあ、何とか言えよ。俺のことが初めから憎くて仕方なかったんだろ!?今だって殺したくて仕方ねえんだろ!?」

「跡部君!!」

 

 

 

 

 

跡部君が忍足君に飛び掛ろうとするのを私は体を使って必死に止めた。

非力だけど、今の跡部君の力を抑えれるなんて思わなかったけど、だけど体が勝手に止めに入っていた。

そんな私に気づいた跡部君は、少し踏みとどまり、そのままの体勢で忍足君を睨みつけている。

忍足君が俯いていた顔を上げ、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうや。・・・・・・って言うたらどないする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

跡部君の目が見開き、動きが止まった。

次の瞬間、跡部君は忍足君を殴り飛ばしていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・ッ、ええパンチしよるやん。」

「はあ、はあ・・・・。」

 

 

 

 

 

跡部君の息は荒く、忍足君の上に跨った状態で息を整えている。

忍足君は力なく地面に倒れたまま、そんな跡部君を笑顔で見上げていた。

じっと、跡部君は忍足君を冷めた瞳で見下していた。

走って、力いっぱいの拳を忍足君に振り下ろしたからか、跡部君の額にじんわりと汗が滲んでいた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・そうや、なあ景ちゃん。」

「はあ、はあ・・・・・・。」

「お願いがあんねんけど・・・・。」

 

 

 

 

 

跡部君に返事をする力も無く、荒い息だけが聞こえる。

余程腹が立ったのだろう。

血圧もきっと上がったはずだ。

忍足君は銃を持った手を跡部君の顔の前に差し出し、口端の切れた痛々しい口を薄っらと開いた。

跡部君がじっと差し出された銃を見つめる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで俺の頭打ち抜いて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は耳を疑った。

跡部君と忍足君から少し離れた場所に立っていた私。

足に力が入らなくて動けない。

跡部君が黙ってその銃を手に取った。

だめ。

ダメだって!!

止めようと思っても焦る気持ちと、混乱で声が出ない。

跡部君が忍足君の額に銃口を押し当てた。

 

 

 

 

 

「そうや、それでええねん。そのまま引き金引いてくれや。」

「・・・・・・。」

「それで俺は楽になれんねん。お前への罪悪感も消えて・・・・・苦しみから解放されんねん。」

 

 

 

 

 

忍足君は目を閉じ、弱弱しく呟いた。

それを跡部君は銃口を押し当てたまま黙って聞いている。

 

 

 

 

 

「俺な・・・・・・ずっと跡部に後ろめたい気持ちがあってん。」

「何・・・・?」

「お前と初めて会った時から・・・・ずっと。何でやろうなって思っててんけど・・・・今日までわからんかった。」

「・・・・・・・・・。」

「俺、自分でも知らんうちにお前に罪悪感抱いとってんなって・・・・過去の自分思い出した時に気づいた。」

 

 

 

 

 

銃口が少し、忍足君から離れた。

跡部君の目がゆらゆらと揺れている。

そして、眉間に皺を寄せたまま忍足君を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

「岳人に言われて・・・俺初めて自分がどんなけ自分勝手やったんかってわかった。」

「・・・・・・・。」

「俺、自分を護るためにいつも誰かを犠牲にしてきたんや。自分でも気づかんうちに・・・・。

一人で何でも抱え込んで・・・・それがあかんことやって気づかんかった。」

 

 

 

 

 

跡部君の銃を持つ手がだらんとうな垂れた。

閉じられていた忍足君の目が開く。

跡部君と見つめ合い、切なそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

「早よ殺してや。・・・・・俺、今でもちゃんと思ってんで?はお前にしか任せられへんって。」

 

 

 

 

 

視線が私に向く。

私の体はビクリと跳ね、どうしたらいいかわからず、視線を泳がせた。

その時、黙っていた跡部君の口がゆっくりと開いた。

 

 

 

 

 

「バカ言ってんなよ。」

 

 

 

 

 

忍足君は視線を跡部君に戻す。

跡部君は立ち上がり、忍足君から離れた。

忍足君は体を起こして跡部君の背中を目を見開いて見上げている。

私に向かって跡部君が歩いてくる。

私の体は何故か強張った。

 

 

 

 

 

の相手はが決めることだ。お前が決めることじゃねえんだよ。バーカ。」

「な、何やて・・・・・?」

「俺がお前を殺す?寝言ほざいてんじゃねえよ。何で俺様がお前のために手を汚さなきゃなんねえんだって話だ。」

「・・・・跡部君?」

 

 

 

 

 

私と忍足君は拍子抜けしたように跡部君をまじまじと見つめる。

忍足君なんて、驚きのあまり固まっているじゃないか。

私もあの勢いなら跡部君は忍足君を撃ち殺してしまうと思っていたから、驚きのあまりさっきよりさらに力が抜けて動けなった。

忍足君にもう一度視線を戻すと、背後に人影が目に入った。

跡部君も忍足君も、二人は私と反対の方向を向いているから気づいていない。

その人は、先ほど忍足君が座っていたパイプ椅子の辺りに立って、こちらに銃口を向けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狙いが跡部君だとわかったのは、私が跡部君に覆いかぶさった時。

銃声が鳴り響いたあとだった。