僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「仁王・・・・だね。」「これが先輩の棺っスか。」
幸村と切原はFの館の中、向日が見つけた本があったと言われている部屋の次の部屋にある棺を開けた。
蓋には“仁王雅治”の名が彫られてあった。
「あれ、顔がない。」
幸村の目付きが変わる。
中のミイラには首から上がなかった。
切原は黙って蓋を閉めた。
「・・・・仁王先輩だけ、どうしてこんなことに・・・・。」
「くだらないな。仁王は。」
「・・・・ゆ、幸村部長?」
ぎょっとして幸村に視線を向ける。
幸村は微笑んでいた。
隣から物凄いオーラを感じる。
幸村はそっと腰を曲げ、棺のすぐ横に落ちていた赤いゴムを拾い上げた。
そのゴムの持ち主に覚えがあった切原は、目をぱちぱちさせながら幸村の指にかけられたゴムを見つめた。
「それ、仁王先輩のじゃ・・・・!」
「アイツ、ここに来たみたいだな。おそらくこれを見て、気でも違ったんじゃないか?」
「そ、そんな呑気に!早く探さないと!」
「いや、もう遅い・・・。」
幸村はしゃがみ込み、地面に敷かれた絨毯を指で撫でた。
指に付いた土を親指と人差し指で擦る。
土はボロボロと粉々になって地面へと落ちていった。
「地面の土が乾いてる。ここへは大分前に来たんだ。」
「・・・・仁王先輩、大丈夫っスかね。」
切原は心配そうに棺に目をやった。
「・・・・うわ、鍵掛かってやがる。最悪。」
宍戸はドアノブをガチャガチャと回しながら激しくドアを揺さ振った。
体は冷え切っている。
一刻も早く新しい服に着替えたものだ。
しかし警備室のドアは開いてくれない。
宍戸のこめかみ辺りに青筋が見えていた。
「開けよドラァ!!」
「・・・開かねえんだからもう諦めろよ。仕方ねえだろぃ?」
「もとはといえばテメェのせいだろ!俺は死ぬ程寒いんだよ!」
「俺だってジャケットねえし寒いよ。できれば開いてほしいと思ってるぜ!」
丸井は力尽きたようにドアに寄り掛かり、そのまま地面へとへたり込んだ。
宍戸は冷え切った体を摩りながら、恨めしげに丸井を見下していた。
とにかく寒い。
唇の色が変わっている気がする。
「やべ、手の感触なくなってきたかも・・・。」
宍戸が弱々しく呟いたその時、宍戸の視界が大きく歪んだ。
足に力が入らなくなり、ガクンと体が揺れた。
そのまま地面へと吸い込まれるように落ちていく。
「お、おい!宍戸!!」
宍戸が倒れたことに気付いた丸井が名前を呼ぶ。
しかし、息の荒い宍戸からは返事がない。
丸井は舌打ちをして宍戸の額に自分の手をあてた。
熱い。
頬もほんのりと赤くなっていた。
「マジかよ・・・・冗談キツいぜ。」
「・・・・くっ。」
丸井は顔を引き攣らせると、自分の服を脱ぎ、乱暴に着せた。
宍戸は虚ろな瞳で歪んだ天井を見つめた。
幸い丸井の服は重ね着だったため、宍戸のように裸になることはなかった。
しかし薄着になったのだから寒いのは変わらない。
丸井は自分の体に鳥肌が立つのを感じた。
「ったく、どうすりゃいいんだよ!」
背後にあるドアを力いっぱい殴った。
宍戸の息遣いが荒くなる警備室前の廊下。
丸井はただ誰かに助けてほしかった。
無力な自分ではどうすることもできなかったから。
ドアの向こうで監督が背を向けて立っているなんて知らずに。
「何や、寝とるやん。お姫さんは・・・。」
二人が同時に顔を上げるとそこには不敵に微笑む忍足。
越前は立ち上がり、ベンチで眠るを小さな背に隠した。
「何やねん。青学の一年に用は無いんや。そこどいてくれへん?」
「やだ。」
「どけって。」
「やだ。」
「どけや。」
「やだ。」
越前は淡々とした口調で即答する。
千石が苦笑いを浮かべ、睨み合う二人を見上げた。
忍足は眉をひそめて越前を鋭い目付きで睨んだ。
「どかんねやったら・・・・覚悟は出来てるんやろ?自分。」
「さあね。」
「なめてんか?チビが。」
「・・・・・・・・ふ〜ん。アンタも変わっちゃったってわけね。」
越前が呆れたように溜め息を吐いた。
忍足の表情が変化する。
柔らかに吹いていた風が強くなった気がした。
越前は不敵に笑い、前髪を掻き上げた。
「どいつもこいつも・・・・まだまだだね。」