僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
解ける雪。今度は必ず終わらせよう。
自分の気持ちに気がつく前に。
「・・・・・タイミング間違えちゃったかな?」
ニヤニヤと笑いを浮かべる。
からゆっくりと体を放し、冷めた視線を向ける。
はそこでやっと陽気な声の持ち主を見ることが出来た。
「ッ・・・千石君!?」
は千石の手に握られた物を見て、自分の目を疑った。
跡部がを自分の背中に庇うように隠し、千石と向き合う。
千石からは笑みが絶えない。
跡部の裾を握るの手が震えた。
「ちゃんから離れて。」
「何だと?」
「ちゃんから離れろって言ってんの。わかる?跡部君?」
血のついた斧を肩にかけ、にこりと笑う。
この斧はきっとあの館の柱に刺さっていた物だろう。
しかし本物なだけあって笑ってはいられない。
古びてはいるが、錆びた刃が少し光って見えた。
「離さないのなら別にいいよ。二人ともぶった切ればいいだけの話だからね。」
「・・・・・フン、俺はわかるが、何のためにコイツを殺す必要がある?」
千石が笑い出し、斧を持たない片手で前髪を握り締めた。
その手で片目が隠され、鋭い右目が跡部とを映し出す。
千石の笑い声は次第に高くなり、雪の舞う空に響き渡る。
「俺はあの日、君を殺して終わらせたかったんだよ。ちゃん。」
「・・・・・千石君。」
「だけど逆に丸井君に殺された。君を殺す前に・・・・・俺が。」
斧を持つ手を降ろす。
コンクリートに擦れた刃が乾いた音を鳴らす。
の背筋が震えた。
「あの時殺せなかった君を、今ここで殺したいんだよ。」
「そ、そんなッ・・・・!!」
「ちゃん、ごめんね。おとなしく死んでよ!」
「!!!」
がぎゅっと目を瞑って息を止めた。
千石が斧を振りかざし、跡部とに襲い掛かる。
の目にはあの日の光景が蘇った。
真っ赤に染まった家で斧を振りかざす、返り血に塗れた千石が。
「い、いやぁぁぁああああああああああ!!!!」
「ドンマイ宍戸。」
丸井が冷ややかな視線を向ける。
そんな宍戸の体はびしょびしょだ。
何故そうなったかというと、丸井が冗談半分で宍戸を驚かしたことにより、
その拍子に足が縺れ、Eのアトラクションの水路に落ちてしまったのだった。
悪びれも無く丸井はガムを割る。
宍戸は黙って膝を立てたまま、後ろに手をついて俯いている。
多少、肩がふるふると震えているようにも見えた。
「丸井・・・・・・テンメェ・・・・。」
「だから悪いって言ってんだろぃ?怒んなよ。」
「言ってねえだろ一言も!!・・・・・・ったく、もういいけどよ。」
滴る水を振り切り、大きな溜め息を吐いた。
丸井は笑ってガムを一枚口に含んだ。
宍戸が立ち上がって服を絞った。
雪が降っているだけに寒々しい。
「お前・・・・寒ぃよ。脱ぐなって・・・・。」
「誰のせいだ。」
「足腰鍛えた方がいいんじゃねえの?」
「お前ちょっとは反省しろよな!!」
宍戸は上半身裸の状態で水路から立ち上がった。
水がぽたぽたと滴り落ち、冷え切ったコンクリートに跡を残した。
「俺着替えてくる。」
「警備室行くのか?」
「そこに着替え置いてるからな。お前どうする?」
「ついて行くに決まってるじゃん。ごめんな?」
どう見ても悪びれがない。
宍戸は頭を掻いて鳥肌が立ち気味の腕を摩り、歩き出した。
丸井はもう一度ガムを割ると苦笑った。
「・・・・・・・・・ごめんな。宍戸。」
丸井の小さな呟きが風に乗って消えた。
「ちょっと、ジロー先輩起きてくださいよ〜!」
「・・・・・・・・ぐぅ。」
何が悲しくてこの寒空の下、広場の真ん中で大の字になって寝たジローを起こさなくてはならないのか。
ジローは起きようとする気配はない。
鳳は必死に揺さぶるが聞こえるのはいびきだけ。
悲しくなる。
「ジロー先輩!!死んじゃいますよー!!」
「・・・・・・・・・・・・・ぐう。」
「凍死したって知りませんよ!?」
「・・・・・・・・・・・・・ぐう。」
仰向けで寝続けるジロー。
しまいにはヨダレまで垂らす始末。
鳳はジローを揺さぶる力を強くした。
ジローの頭がガクガク激しく揺れる。
「う゛〜・・・・・・・脳みそがスクランブルエッグになっちゃう〜・・・・・・」
「起きてくださいジロー先輩!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ぐぅ。」
「起きたくせに寝ないで下さいよ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ぐぅ。」
一向に起きる気配は無い。
しかし、スクランブルエッグになっては困るので、とりあえず揺さぶるのをやめた。
空を見上げ、大きく息を吸って吐いた。
自分が惨めに思えて涙がちょっぴり出そうになった。
「宍戸さあん・・・・・・どうにかして下さいよ〜・・・・・・。
俺じゃ、ジロー先輩のお守りは無理ッスよ〜・・・・・・・。」
鳳の声もまた、風に乗って消えていった。