僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































「仁王君。」

 

 

 

 

 

振り返るとそこには千石がニコニコと笑顔を浮かべて立っていた。

やけに感に触るその笑顔に、仁王は少し顔を顰めた。

 

 

 

 

 

「何じゃ?」

「俺、君の考えてることがわからないよ。」

 

 

 

 

 

二人の視線が交じり合う。

千石の手に握られているものを見て、仁王は薄ら笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「跡部君。」

「・・・・・・・・か。もう大丈夫なのか?」

 

 

 

 

 

の呼びかけに跡部が振り向く。

今、ここにはと跡部しかいない。

他の者は全て、残りの千石を再び探し始めたのだ。

跡部とペアだったジローは、鳳と組み、宍戸と丸井、幸村と切原で分かれて行った。

何故、跡部がの元に残ったかと言うと、鳳の意見だ。

鳳は跡部にとなるべく一緒にいてほしかったらしい。

その意図はまだ誰にもわからない。

 

 

 

 

 

「うん。大丈夫。跡部君こそ疲れてない?」

「ああ、俺は大丈夫だ。それよりも、ここ・・・・・・・擦り剥いてるじゃねえか。」

「え、嘘。どこ!?」

 

 

 

 

跡部がの頬に触れ、少し擦れて赤くなっている部分を指摘した。

どうやら観覧車から落ちたとき、テントに顔を擦り剥いたようだった。

跡部に触れられ、は痛みのあまり少し顔を顰める。

 

 

 

 

 

「悪いな。痛いか?」

「ううん。擦り傷だし大丈夫だよ。」

「そうでもないだろうが。消毒しないと顔に傷が残るぞ。」

「そうかな・・・・・。でもまあ、今は消毒液なんてないし、別にいいや!」

 

 

 

 

 

ニッコリ笑うを跡部はじっと見つめた。

二人の間に妙な空気が流れる。

そんな空気を破ったのはではなく跡部の方だった。

 

 

 

 

 

「俺はに辛い思いをさせたくねえ。」

「・・・・・・・・・・・・跡部君?」

「だけど、そうも言ってられなくなる。俺もそろそろヤバイ気がするんだ。」

「そ、それってまさか・・・・!」

 

 

 

 

 

跡部は髪をくしゃっと握り、その手を力なく降ろした。

目線はどこか遠くを見つめていての姿は映っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意識が朦朧としてる。もうずっと前から・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は言葉を失った。

今度は跡部までもが・・・・・。

の目はしっかり跡部を捕らえ、自分の手を跡部の手に添えた。

跡部が視線をに戻す。

 

 

 

 

 

「どうした?」

「・・・・・・・・大丈夫。跡部君なら乗り越えられるよ。」

・・・・・。」

 

 

 

 

 

の手の下にある跡部の手に力が篭る。

跡部を見上げるの瞳には涙が零れそうなくらい溜まっていたからだ。

彼女も自分と同じ立場。

彼女だって苦しいはずだ。

少しでも弱音を吐いた自分を責めた。

 

 

 

 

 

、もし俺が自分を見失った時は・・・・・・・・・・「あ、跡部!」

 

 

 

 

 

こっちに向かって歩いてきたのは忍足と向日。

向日が少し前を跳ねるように走っていた。

その後を忍足がポケットに手を入れたまま歩いていた。

 

 

 

 

 

「お前ら・・・・・・・どうしたんだ?向日、その傷は?」

「へへ、ちょっとな!大した事ねえよ!」

「お前ら何いちゃこいてんねん。妬けるわ〜。」

「ハッ、言っとけ。」

 

 

 

 

 

跡部の表情からはさっきの雰囲気が消えていた。

どうしたものか。

跡部は切り替えの早い奴だ。

は少し感心してしまった。

 

 

 

 

 

「あ〜!、頬っぺた怪我してるぜ!消毒してやるから顔貸せ!」

「え、消毒液持ってるの!?」

「岳人の鞄は四次元ポケットやからな。早よ消毒してもらい。」

 

 

 

 

 

は向日に顎を持たれ、無理矢理向きを変えられる。

向日と見つめ合う形になり、消毒液の染み込んだティッシュが頬に当たった。

ヒリッと染みる。

少し乱暴に絆創膏を貼り付けた。

 

 

 

 

 

「痛ッ!」

「はいできた!!」

「おいおい岳人・・・・女の子には優しくしたらなあかんで。痛がっとるやないか・・・・。」

「え、マジで!?痛かった!?」

 

 

 

 

 

向日が焦ったようにに振り返る。

は一瞬体を仰け反った。

 

 

 

 

 

「う、うん少しだけ・・・・・。でも大丈夫!ありがとう!」

「おう!どういたしまして!怪我したら俺にいつでも言えよな!!」

「うん。でもどうして向日君も傷だらけなの?」

「ぐっ・・・・だから何でもねえって!ちょっと飛んでたらバランス崩してこけちまっただけだから!」

 

 

 

 

 

視線を泳がせながら言う向日の言葉に真実味はまったくない。

しかし、これ以上聞かないほうがいいとは悟った。

嘘バレバレな態度で向日は必死に隠そうとしているのだ。

無理に聞くことはできない。

忍足はわかっている以上、何も口出しはしなかった。

 

 

 

 

 

「おい、跡部・・・・・・・お前どないしてん?」

「え?」

 

 

 

 

 

忍足が少し気難しそうな表情で跡部の肩に手を置く。

は跡部に向き直った。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・。」

「顔色悪いで自分。どないしたんや?気分でも悪いんか?」

「!、ちょ、ちょっと待って忍足君!」

 

 

 

 

 

肩を揺さぶる忍足の手を止める。

は焦ったように跡部の顔を覗き込んだ。

彼の視点は定かではなく、虚ろな目で一点だけを見つめていた。

の額に汗が滲む。

高鳴る鼓動が妙に煩かった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・まさか跡部君・・・・嘘でしょ?」

「おい、!跡部の奴どうしたんだよ!?」

「岳人、ちょい静かにしぃ!」

 

 

 

 

 

不安げな表情で跡部の手を握る

忍足が向日に静止をかけると、向日は素直に従い、その場に留まった。

しかし、跡部はビクともせず、視線を俯かすだけ。

忍足も勘付いているのだろう。

黙ってと跡部の行動を見守った。

 

 

 

 

 

「冗談・・・だよね?跡部君!!」

・・・・。」

 

 

 

 

 

ぎゅっと握る手に力を入れる。

忍足がそんな必死なに切なそうな視線を向けた。

向日はやっと気づいたのか、はっとしたように息を呑んだ。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・うるせえな。」

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺様に触るんじゃねえ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲が太陽を隠した。

そんな昼下がり。

 

 

 

 

 

物語は着々と進んでいく。

誰が望んだわけでもなく、ただ勝手に――――――――