僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
警備室の前まで来ると、オジサンが立ち止まった。
「ここに荷物を置いておきなさい。私があとで中へ入れておく。」
みんな肩にかけていた荷物を足元へとおろす。
向日君の鞄がドスッと音をたてて地面に落ちた。
何が入ってるんだろう・・・。
「じゃあ行きますか?お姫様。」
隣には仁王君。
差し出された手を私は取った。
冷え切った私の手と違って、多少温度が下がってはいるものの、温かった。
「俺様を置いていく気か?」
「あ、忘れとった。すまんすまん。じゃあ跡部は左ね。」
空いている左に跡部君がくる。
跡部君はポケットに両手を突っ込み、鞄もウエストポーチを肩からかけていて、手には何も持っていなかった。
おっしゃれ〜。
「まずどこから行くの?」
「・・・どこから行きたい?・・・跡部。」
「俺かよ。・・・まずは監督から貰った紙見せろ。」
「ん、これかの?」
仁王君が跡部君に謎とヒントが書かれた紙を渡した。
「ふん、監督も何のつもりなのか・・・何だこのふざけた内容は。」
「ヒントは“自分を探せ”・・・ヒントになってるのかなってないのか・・・。」
「・・・と、とりあえずどこか行こうよ!そしたら何かわかるかも!」
少し呆れ気味の二人をどうにか宥めようと、私はパンフレットを取り出し、どこに行こうか考える。
「あ、Jがおもしろそう!」
何々・・・“GUNS ZONE”シューティングゲーム感覚の館。
襲ってくるゾンビの額にある赤い円の中を、与えられた銃で撃つ。
一体倒すと100点が与えられ、ゴール地点での合計を競い、2500点を超えるとプレゼントが・・・。
「・・・・・・やっぱやめとこうか。」
「何だ?怖いのかよ。ハッ、ゾンビなんてくだらねぇ。」
パンフレットを覗き込んでいた跡部君が、私の手からパンフレットを奪われる。
私より背が高いから、それはもう、いとも簡単に抜き取られてしまった。
「くだらないって何よ!怖いじゃん!怖くないとか言うのは男の子だけ!」
「そうかの?俺もゾンビ嫌い。気持ち悪い。」
そう言って俯いた仁王君。
仁王君も・・・・・嫌いなのだろうか。
男の子でもゾンビとかダメな人っていたんだ。
ゴメンね、仁王君。
「ほぉう、そうか・・・ならここに行くしかねぇなぁ?いいだろ、立海の詐欺師さんよぉ?」
跡部君がパンフレットを閉じた。
ちょっと・・・・跡部君、私の許可はなしですか?
私も怖いんだってば・・・!っていうか・・・どうして行くのよ!?
嫌って言う人がいたら普通は避けるべきでしょ!?
俯いたままだった仁王君が顔を上げた。
「・・・・・・・構わん。その代わり、俺が動けなくなったら跡部、ちゃんと助けてくれる?」
「気が向いたらな。・・・・・・・・行くぜ。」
私の手を取って、跡部君は歩き出した。
手を引かれるがままに、私も急ぎ足でその後をついて行く。
後ろを向くと、仁王君も歩き出し、後を付いて来ていた。
「あ〜!あとべだあとべ!!」
もうそろそろ、目的の場所に着く頃。
Jと書いた看板が見え始めた。
と同時に大きく元気な声が辺りに響き渡る。
前方にはブンブンと手を大きく振っているジロー君と、疲れ果てている様子の宍戸君と、呆れ顔の切原君がいた。
「跡部たちもここ入るの!?」
「・・・・ああ。」
「マジマジ!?やった〜!嬉C−!!!」
「・・・・・・・・ジロー・・・覚醒か?」
跡部君は呆れたように、飛びついてくるジロー君を引き剥がした。
今のジロー君とさっきまで寝てばっかりだったジロー君とはまったくの別人で、正直少しびっくりした。
宍戸君が疲れているのはジロー君が原因なのだろうか?
ジロー君に懐かれている跡部君の姿を見て、宍戸君は安堵とも言える溜息を吐いた。
「今さっき起きたと思ったら急にこのテンションだぜ?いきなりここまで走り出すし・・・・・疲れたぜ。」
「・・・・・・あ、宍戸サン!ちょうど相手できたし入れるっスよ!」
「相手?」
そう言うと切原君は“GUNS ZONE”の中へと入っていった。
するとすぐに出てきたかと思うと、彼の後ろには一人の男の人が付いて来ていた。
「今回はパンフレットに載ってるルールとは違う特別ルールなんだってよ。」
「ふ〜ん・・・・どんなルール?」
仁王君が聞くと、宍戸君は男の人へと視線を移した。
男の人はサングラスをしていてどこを見ているのかわからない。
ちょっと怖かった。
「本来、一人ひとりの合計点数を競うものなのですが・・・・本日はチームの合計点数を2チームで競ってもらうこととします。
なお、三人で一万点を超えた場合、プレゼントをご用意させていただいてます。」
男の人が拳銃を六丁、棚から取り出した。
本物?・・・・・なわけないか。
しかし、そう思えるほどリアルな出来栄えのものだった。
私たちはそれを一丁ずつ受け取る。
「うっひょぉ〜!!かっちょA〜!!」
「ジロー振り回すな。当たるだろ。」
「すごいッスね・・・本物みたいに重い。」
「ぉ、本物持ったことあるんか?赤也。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(そうだ、この人いたんだ。)」
引き攣った表情の切原君が仁王君をちらりと見た。
「では、用意ができましたので皆さんどうぞ。仲間の三人ずつ、こちらで銃の番号を登録してください。」
中に入ると、スタート地点だろう、画面タッチの付いた機械が四台並んでいた。
そこで私と仁王君、跡部君は、銃のサイドに掘られた番号を機械に入力し、三人の合計点数がちゃんと出るように登録した。
「え〜・・・・っと・・・・・・・・・・・・ちゃん?」
「え、あ、はい!?」
いよいよゾンビか・・・・。
などと思いながら怖がる体を何とか落ち着かせようと“人”と言う字を手のひらに書いていたところ、背後からいきなり声をかけられ、声が裏返った。
「エヘヘ、初めて喋ったね〜俺ら!遅くなったけどヨロシクね!」
「うん、よろしくジロー君!」
「ちゃんもしや・・・・・・怖いの?」
引き攣った笑顔の私を彼は見逃してはくれなかった。
ジロー君はニッコリ笑うと突如、私に真正面から抱きついてきた。
「きゃぁ!!何!!?」
「えへへ、怖いの怖いの飛んでけぇ〜!
これで大丈夫、もし何かあったら俺がやっつけてあげるから安心して?」
「・・・・・・・あ、ありがとう?」
何が大丈夫なのか、それは私には理解できなかった。
でもジロー君の笑顔を見てると、怖いという感じはしなくなってきた。
・・・・・・・・・・・・・・気がした。
でも少なくとも体の震えは止まったみたいだ。
「でも、負けないから!勝利は俺達ッ・・・・ってね☆お互い頑張ろう!」
「そうだね。・・・・・・・・・・うん!ジロー君達なんかに負けないもんね!
勝つのは私達だから!ありがとうジロー君、元気でた!」
私はジロー君から離れると、入口の前で待っていた跡部君と仁王君のところまで走った。
二人は少し不思議な表情をしていた。
「ごめんね!・・・・・・・・どうしたの?」
「・・・・・・・・・いや、何でもない。」
「跡部、部員の指導ちゃんとしちょるんか?アイツは天然と言う名の凶器ぜよ。」
「・・・・悪ぃがジローだけは手に負えない。さ、行くぞ。」
「プリッ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
訳のわからない会話が続き、跡部君が先頭で中へと入って行った。
私達のすぐ後に、ジロー君達も入ってきたのが後ろを振り向かなくてもわかった。
ジロー君の騒ぐ声が真っ暗な道にガンガンと響いていたからだ。
「く、暗すぎない?」
「怖かったら俺にしがみ付いててもよかとよ?」
「やめとけ。何されるかわかったもんじゃねぇぞ?」
「・・・・・何もせん。というかこんな色気の無いところでは何もできん。」
姿、形は何一つ見えない。
しかし、声と感じで誰がどの辺にいるかぐらいはわかる。
跡部君は否定したけれど、このままでは私は怖くて死にそうだったので、仕方なく仁王君の腕を手探りでさがし、しがみ付いた。
「わっ!何だ!?」
「え!?」
いきなり腕を振りほどかれた。
私は驚きのあまり、その場にへたり込んだ。
皆の足音が止まった。
「え、仁王君じゃない!!?」
「・・・・・・・、俺はここ。」
「嘘!・・・・・じゃあアナタ誰!!!?」
暗く、少し狭い道で私の声が響く。
地面はコンクリートだったため、お尻が冷たかった。
「宍戸だ!仁王じゃねぇよ!」
「ご、ごめんなさい!暗いからわかんなかった!」
立ち上がろうと、地面に手を付く。
少し、暗さに目が慣れてきたのだろう、人影が見えるようになってきた。
あ、帽子被ってる。
本当に宍戸君だったんだ・・・・・。
「べ、別に・・・・・それより大丈夫か?悪かったな。」
私の腕を引っ張って起こしてくれる。
立ったと同時に背中に衝撃と重みを感じた。
飛びついたジロー君が原因だというのは、耳元の声ですぐわかった。
「あ〜、宍戸照れてんだ!激ダサ〜!」
「ばっ、見えねぇくせにてきとうなこと言うんじゃねぇよジロー!!」
「宍戸サンおいしいっスね。あ〜あ、サンも何で俺と間違わなかったんスかぁ?」
「・・・・・・・・赤也に間違われるのは俺が嫌じゃ。」
「・・・・・・・・・・・・・・仁王先輩、俺に何か恨みでもあるんスか?」
ああ、今切原君の顔は引き攣っているんだろうな。
何故だか見えないのにわかる気がした。
ジロー君と宍戸君、仁王君と切原君が言い争っていると、前方から唸り声が聞こえてきた。
前を向くと、そこには3Dだろう。
触れられはしないが、数体の映像のゾンビがリアルにこちらに向かってゆっくりと歩いてきていた。