僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「・・・・監督が大富豪、やて?」「ま、マジかよ・・・。」
忍足が向日の口端に絆創膏を貼ると、驚きを隠せない表情で向き直った。
向日も目をパチパチさせながら胡座をかいて座っている。
監督は本をぱらぱらめくり、そんな二人を見つめていた。
「この土地を潰して開拓する時に労働員が何人か大怪我をおったり、かなりの犠牲があったそうだ。私がこれに関わるまでは工事もまるで進まなかったらしい。」
「・・・・何で監督は建設に関わったんですか?」
本を閉じ、監督は忍足に視線を向ける。
忍足の貼った絆創膏の位置が気に食わなかったのか、向日は自分で貼り直していた。
忍足はそれを横目で見ながら心の中で舌打ちをした。
「この本は工事の際、地下から発見されたの棺の中に入っていたそうだ。
お前達が見た訳では“大富豪”となっていただろうが実際、この本には私の名前が書いてある。私の名は知れ渡っているからすぐに連絡がきた。」
「っていうか何で監督は遊び半分みたいに俺達をここに呼んだんだよ!?ゲームとか何とか言って何でッ・・・!何でこんなこと・・・・・・・・・・・・・・!!」
「岳人・・・。」
忍足は隣で悔しそうに顔を歪める向日を見つめた。
そんな向日を見た監督は、「そんなつもりはなかった。」とだけ小さく呟くと、椅子の背もたれにもたれかかった。
足を組み直し、二人を交互に見やる。
「実は、このテーマパークはまだ完成していない。できなかったんだ。アクシデントなどによって工事がなかなか進まなかった。
・・・・・・・・・・お前達の強い念がそうさせているのかもしれない。だとしたなら、この物語を終わらせない限り、このテーマパークの完成は無理だ。
だから少しテーマパークの関係者に協力してもらい、今回のようなゲームを作った。・・・・お前達の過去の記憶を刺激するように。」
「!、・・・・じゃあ俺らが覚醒するようにわざと仕向けたんか!?」
「そうだ。記憶を思い出してくれなくては話が進まないからな。私から過去を話しても意味がない。
だから誰か一人が覚醒すればあとは簡単に連鎖反応のようにみんなが思い出していくだろうと踏んで、あらゆるところに仕掛けておいた。
この本は助け船のつもりで本棚に立てかけておいたんだ。いい頃合いに誰かが見つけてくれるようにな。」
監督は向日に視線を向けた。
向日は肩を小さく揺らし、この本を見つけたのが自分だと言うことを今思い出した。
監督から明かされる真実。
苛立ちを隠せない忍足は拳を握り締めた。
今すぐにでも殴りたい。
そんな感情を抑え、唇を噛み締めて震えている。
「そんなん・・・あんまりやん。この遊園地を造りたいがために俺らはこんなにも憎しみ合ってるって言うんか!?」
「お、おい!侑士やめろよ!」
忍足は勢いよく榊の胸倉を掴み上げる。
・・・・・・・・・・・・・・・勇者だ。
向日が止めに入るも、今の忍足をとめることなんてできなかった。
榊はされるがままに動かなかった。
「・・・そうだな。今の世の中にはお前達の過去が邪魔だったのだ。」
忍足が拳に力を込め、腕を振りかざした。
バキッ。
「いってぇえ!!」
「が、岳人!?」
向日が頬を押さえながらその場にしゃがみ込んだ。
相当痛いのか、目に涙を溜めている。
向日は忍足が殴ろうとした相手を庇ったのだ。
「侑士の馬鹿タレ!監督殴ってどうすんだよ!!俺だって腹立つけど我慢してんだかんな!!」
「・・・・そやけど・・・そやけどムカついてしゃーないわ!俺は監督が遊んでるようにしかみえへんねん!」
忍足が監督を睨み下す。
監督は目を伏せ、本を机の上に置いた。
「・・・・・・・・・・・腹が立つなら足掻きなさい。」
「は?」
「足掻いて、何度でも足掻いて・・・新しい道を切り開きなさい。」
「・・・・監督?」
「お前達にならできるはずだ。苦しみを知って、本当の意味で乗り越えなさい。そして、この怨みつらぬかれた物語を・・・終わらせてくれ。」
監督がモニターの電源を切ると、モニターの画面は全て真っ黒になる。
忍足は脱力したのか、握り締めていた手の力を抜いた。
監督の台詞は遠回しだったので向日にはあまり理解できなかったようだ。
しかし忍足には何となくだが、理解できたようで、言い返す言葉もなく黙り込んでしまった。
そんな忍足を見上げ、向日は呟いた。
「・・・・・侑士。」
「?、・・・・何や?」
「お前に殴られたところ・・・長太郎と同じところだった。」
忍足は一瞬、目を見開いてまたすぐいつもの表情に変わった。
監督が黙って二人の会話に耳を澄ます。
「そりゃすまんな。お嫁に行かれへんようになったら俺がもろたるから安心しい。」
「ハハ、冗談じゃねえよ。願いさげだな。」
「・・・・その前に女じゃねえよクソクソって言わなあかんやん。まだまだ修業が足らへんな。」
「何のだよ・・・。」
忍足と向日は見つめ合うと、お互い乾いた笑いを漏らした。