僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































「仁王君、何処行くの?」

 

 

 

 

 

私達はベンチにいなきゃいけないはずだ。

だけど仁王君はスタスタと歩いていく。

向かう先がどこなのかまったくわからない。

 

 

 

 

 

「ねえ、仁王君?ベンチにいなくてよかったの?」

「ちょいとFの館に用があってな。すぐ終わる。」

 

 

 

 

 

確かに私達はFの館の前に立っていた。

仁王君はさっさとFの館に入ろうと足を踏み出した。

その時だった。

 

 

 

 

 

「あ、鳳君!」

「!」

 

 

 

 

 

向こうから覚束ない足取りでこっちに向かって歩いてくる鳳君がいた。

鳳君は私達に気付いたのか、一瞬、表情を硬くするとすぐに笑顔になった。

仁王君は入口で立ち止まっている。

私と少し距離があった。

 

 

 

 

 

さん、こんなところで何してるんですか?」

「え、うん。ちょっとね。・・・・・あれ?向日君は?一緒じゃないの?」

 

 

 

 

 

確か、鳳君のペアは向日君だったはず。

鳳君が何も言わず、ニッコリと微笑むと、私は何故か違和感を感じた。

違う。

そう全身が私に訴えかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いませんよ。そんな人。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?・・・・・ッきゃあ!」

 

 

 

 

 

鳳君に腕を引っ張られ、腕の中に収まる。

仁王君は何をするわけでもなくただこっちを見ていた。

鳳君と睨み合っているのがわかる。

逃げようとしたって鳳君の腕はびくともしない。

 

 

 

 

 

「俺は貴方が嫌いだ。仁王さん。」

「ほう、そりゃちとショックやの。俺は好いとうよ?」

「ふざけるな!とにかく、彼女の首をへし折られたくなければそこから動かないで下さい。」

 

 

 

 

 

鳳君の腕に力が篭る。

本気だ。

一歩、一歩と鳳君が後ずさった。

 

 

 

 

 

「・・・・・お、鳳君・・・手から血が出てる!」

「これくらい何ともないですよ。跡部さん達の痛みに比べればッ・・・・!」

「そう怒りなさんな。落ち着きんしゃい。お前さんは何をそんなに熱くなっとるんじゃ?」

「貴方にはわからないですよ。貴方にだけはわかりません!わかってほしくないです!」

「長太郎!」

 

 

 

 

 

先ほど鳳君が歩いて来た方向から宍戸君が走って来ていた。

鳳君の肩が揺れる。

鳳君は私を抱き抱えると、宍戸君に背を向けて走り出した。

宍戸君の足音が止まった。

 

 

 

 

 

「おい、長太郎!どこ行くんだよ!長太郎!」

「きゃあ!こ、怖い怖い怖いよ鳳君!落ちるってば!」

 

 

 

 

 

私は鳳君に連れ去られてしまった。

走ってる途中、仁王君と目が合った。

彼は無表情で、ただ腕を組んで私を見つめていただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・追いかけんでよかったんか?」

 

 

 

 

 

肩を上下に揺らしながら息を整え、立ちすくむ宍戸に話し掛ける。

宍戸は前を向いたまま答えた。

 

 

 

 

 

「・・・・無駄だろ。アイツは俺を受け入れなかったんだ。」

 

 

 

 

 

宍戸が来た途端逃げ出した鳳。

鳳は明らかに自分を避けたのだ。

宍戸は少し胸が苦しくなった。

 

 

 

 

 

が連れ去られてしもた。代わりに宍戸が俺に付き合ってくれるんか?」

「はあ?何の話してんだ?」

 

 

 

 

 

宍戸は訳がわからないといったように仁王を見た。

仁王は館内に入ろうと宍戸に背を向けていた。

 

 

 

 

 

「俺は中に入りたい。本当ならと入るつもりやったんが・・・鳳に横取りされてしもたからの。」

「お前っ・・・を追い掛けねえのかよ!?」

「鳳は俺のことが嫌いらしい。嫌いな俺が行ったって逆効果じゃ。」

「んなこと言ったってに何かあったらどうすんだよ!」

 

 

 

 

 

仁王が振り返る。

彼の目は鋭く、宍戸を射ぬいた。

宍戸は思わず息を呑んだ。

 

 

 

 

 

「ならお前が行けばよか。アイツはお前に助けてほしいはずじゃけんの。」

 

 

 

 

 

仁王はそう言い放つと、さっさと館内へと入って行ってしまった。

残された宍戸は俯き、拳を強く握り締めた。

仁王の考えていることがわからない。

しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。

今、自分のしなくてはいけないこととは何か。

そんなことは決まっている。

 

 

 

 

 

「ったく、どいつもこいつも!!勝手なんだよ!!」

 

 

 

 

 

そう叫ぶと、宍戸はもう一度走り出した。