僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
の虚ろだった瞳が次第に元の瞳へと戻っていく。視界にははっきりと仁王が映るようになった。
「き・・・きゃぁぁぁあああああ!!」
仁王を突き飛ばし、地面にへたり込む。
どうやら腰が抜けたらしい。
口はパクパクしながら何も言えていない。
仁王は頬を掻きながらそんなを見つめた。
「なななななな何してんの!?いい今き、き、きす!?」
「落ち着きんしゃい。その様子じゃと戻ったんやな。」
に近づき、頭を撫でる。
肩がびくっとなったが、はされるがままに頭を撫でられ続けた。
というよりはくしゃくしゃされている、が正しいかもしれない。
「・・・・・やめてもらえないかな。仁王君。」
「、ちょいとついてきんしゃい。」
「(聞いてないし・・・。)」
仁王はそう言うと、ポケットに手を突っ込み、さっさと歩き始めた。
何がなんだかまだ状況を飲み込めていないは、そんな仁王の背中を、口を開けて見ているしかできなかった。
少し離れたところで仁王が振り返り、はっと息を呑む。
「そこにある豚、にやる。大事に持っとったって。」
「は?」
へたり込んでる自分の隣には確かに豚がいた。
縫いぐるみだが・・・・。
こっちを向いて、つぶらな瞳が見つめてくる。
はまた息を呑んだ。
(い、いらない・・・・・。)
そう思いながらも仕方なく縫いぐるみを手に取る。
何故か変に愛着心が沸いてくるから怖い。
「・・・・ちょっと可愛いかも。」
そう呟いた言葉は仁王に聞こえていたのか、どうなのかはわからない。
しかし仁王はニヒルに笑い、また歩き出した。
「とにかく向日さんを手当てした方がよくないっスか?」
「そうだね。だけど救急セットなんてどこかにあるのかな・・・。」
神尾は考える仕草を見せるように顎に手をあてた。
不二が辺りをキョロキョロ見渡すと、向日が顔を上げた。
もう彼は泣いていない。
「・・・・俺の大きい方の鞄に入ってる。」
「大きい鞄て・・・監督に預けた方か?」
「うん。」
そういえば向日の鞄は異様に大きかったな。
四人は同時に向日の鞄の大きさを思い出した。
入っていてもおかしくはないだろう。
「じゃあ早く警備室行こうよ。」
「越前ちょい待ち。俺ら全員が行ったら千石誰が探すねんな。」
さっさと警備室に向かって歩き出す越前を忍足が止める。
確かにそうだ。
全員が行けば探す人数が少なくなってしまう。
越前は立ち止まって頬を掻いた。
「俺が岳人連れていってくるからあとは三人に頼んでええか?」
「・・・・・まあ、それが妥当だよね。いいよ。行ってらっしゃい。」
「千石は立入禁止区域に入っていったんだ!そこに行けば絶対見つかると思う。」
「了解っス。じゃあ気をつけてくださいね。」
「ほな、また。頼んだで。」
先ほど取って来た食料を地面に置き、越前、不二、神尾の三人は千石が入っていったと言う立入禁止区域へと向かって歩いて行った。
越前は振り返り、食料の入った袋に視線を向けた。
少し名残惜しそうだ。
その背中を見送ると、忍足は向日の腕を自分の肩にかけてやった。
「立てるか?」
「イチチ・・・長太郎の奴、力強えなあ。俺、今度からアイツに喧嘩売るの怖えよ。」
「喧嘩なんか売らんかったらええやんか・・・。俺は前からアイツの腹黒い性格も怖かったけどな。」
「言えてる。」
立ち上がり、二人は顔を見合わせて笑った。
向日は殴られた脇腹を片手で押さえた。
笑うと痛かったらしい。
自分より背の高い忍足に支えられながら、覚束ない足取りで警備室に向かった。
向日の身長に合わせ、忍足も少し屈みながら歩く。
「あ、俺お菓子いっぱい持ってきてんだぜ。」
「ほんまに?じゃあ二人で宴会でもする?」
「バーカ。みんなが空腹で頑張ってんだから食うわけにいかねえだろ?」
「冗談やって。本気に取んなや。」
苦笑う忍足。
向日は警備室までの廊下を歩きながら、そんな忍足を横目で見た。
「・・・・全部終わったらみんなで食おうな。」
「ん。やっぱ宴会はみんなで、やんな。」
二人は警備室の前で立ち止まる。
忍足がドアノブに手をかけ、ドアを開いた。