僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































「ハハハ、参ったなこりゃ。」

 

 

 

 

 

出てくるのは乾いた笑い。

千石が今立っているのは立入禁止区域の中。

今回のゲームではまだ開園されていないところである。

 

 

 

 

 

「だけど、やっぱこういう手掛かりを見つけちゃうなんて俺ってラッキー。」

 

 

 

 

 

そう言って千石は、奥に向かって歩き出す。

その辺一帯はもう雪が溶け始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、忍足と越前ペア。

宍戸、不二、神尾と共に売店の近くをうろついていた。

 

 

 

 

 

「雪また降ってきよったな。」

「時間止まってても雪は降るのかよ。わけわかんねえな。」

 

 

 

 

 

忍足と宍戸は空を見上げ、目を凝らした。

時計を見ても時間は同じ。

昼前で止まっている。

 

 

 

 

 

「腹減ったっス。」

「越前、さっきからそればっか。もう十二回目だよ。」

 

 

 

 

 

数えてたんだ。

隣で呆れている不二を横目に、越前は思った。

しかし腹は減ってもおかしくない。

時計はずっと昼前でも、体はとっくに昼を通り過ぎているのだから。

たぶんもう胃の中は空っぽだろう。

 

 

 

 

 

「胃液逆流してきそうっスね。」

「シャレならんからやめて。神尾。」

 

 

 

 

 

ボソリと呟く神尾。

我慢していたのだろう、忍足も相当お腹が減っているようだ。

そんな彼は隣で口を動かす宍戸を見逃さなかった。

 

 

 

 

 

「自分何一人だけ食ってんねん!セコいわ!」

「ああ?うっせーな。俺のガムなんだからいいじゃねえか。」

「普通こういう時はみんなで分け合うもんやろ!?」

「悪いな。最後の一個だ。」

「・・・・・ウザ。」

 

 

 

 

 

宍戸は爽やかにミントの香を漂わせながらガムを割った。

忍足の顔が引き攣る。

わかっているのだ。

彼に悪気はないということを。

全て性格、で終わらせてしまえればいい。

いつもはそれでいいのだが、今日ばかりはそんなわけにはいかない。

忍足の額には微かに青筋が立てられていた。

 

 

 

 

 

「まあまあ、忍足落ち着いて。売店の中だったら何かあるんじゃない?」

「それもそうっスね。タダ食いしましょうよ。」

「・・・・何かソレ響き悪ない?」

 

 

 

 

 

不二が売店の中へと入る。

越前も乗り気なようで、不二の後へと続いた。

忍足は呆れながらも、空腹には勝てないようで、二人についていくことにした。

 

 

 

 

 

「コレ、全部持ってってもいいのかな?」

「何や・・・・俺、こそ泥になった気分や。」

「気分じゃなくて実際そうなんスけどね。」

 

 

 

 

 

レジにかかってある一番大きなビニール袋にパンやらオニギリやらを入れていく。

不二の両手には今にも千切れそうな袋が四つ持たれていた。

忍足は新たな袋に飲料水を入れていき、それを神尾に渡した。

 

 

 

 

 

「っつーかこそ泥なんて言葉、死語だろ。激ダサ。」

「やかましい。宍戸、お前絶対食わせへんからな。何も食うなよ。」

「金払ってねえ奴が偉そうにすんじゃねえよ。そういうことは金払ってから言えよな。ぶぁーか。」

 

 

 

 

 

宍戸がミントガムを一つ手に取り、ポケットにしまった。

ガムの補充だろう。

しかし端から見れば万引きをしている悪ガキだ。

越前は冷ややかな目で宍戸を見つめた。

 

 

 

 

 

「・・・・ねえ、あれ・・・・向日じゃない?」

 

 

 

 

 

ガラス越しに外を見つめる不二。

彼の目は見開かれていて、何か、驚いているように見えた。

忍足がガラスに手をあて、目を凝らす。

 

 

 

 

 

「・・・・・が、岳人!」

 

 

 

 

 

慌てて外へ出る。

彼のパートナーである向日は、少し離れたところで仰向けに倒れていたのだ。

 

 

 

 

 

「岳人!岳人!しっかりしい!」

 

 

 

 

 

向日を抱え上げ、意識を確認する。

向日が薄っら目を開けると、忍足は安堵の溜め息を吐いた。

遅れて宍戸達が駆け寄って来る。

 

 

 

 

 

「向日、口端から血が出てるぜ。何があったんだよ?」

「・・・・・ちょ・・たろ・・・。」

「ああ?」

 

 

 

 

 

宍戸の言葉が聞こえていないのか、虚ろな瞳で向日は空を見上げる。

目尻には涙の跡が残っていた。

潤んだ瞳はゆらゆら揺れて、心配そうな忍足と空を映し出した。

 

 

 

 

 

「鳳がどないしたんや?」

「・・・・ちょうたろ・・・が・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

鳳の名前を呼んでいるのだとわかった忍足は優しく向日に問い掛けるも、向日は再び同じ言葉を繰り返すだけだった。

しかし、ここにいる誰もがわかっていたのかもしれない。

向日が言わずとも、鳳に何があったのか。

今までのことを考えると、あながち間違いではなさそうだった。

 

 

 

 

 

「鳳も・・・目覚めたんだね。」

 

 

 

 

 

不二が目を伏せる。

隣の宍戸は拳を強く握った。

悔しそうに歯を食いしばりながら。

 

 

 

 

 

「ア・・イツ・・・・狂ったんだ。・・・優しいから・・・・堪えられなかったんだ!」

 

 

 

 

 

向日が忍足に支えられていた体をゆっくり起こす。

その拍子に、大粒の涙がボロボロと地面に落ちていった。

肩を上下に揺らしながら鳴咽を漏らす。

忍足はそんな向日の小さな背中をそっと撫でてやった。

 

 

 

 

 

「・・・・・長太郎。」

「宍戸さん。探しに行ってあげたら?」

「!、・・・越前?」

「鳳さん探しに行ってあげなよ。アンタの仕事なんでしょ?」

 

 

 

 

 

いつからそんなことになっていたんだ?

疑問に思いながらも、宍戸は黙って俯いた。

得意げに指をさす越前の先には、点々と続く血の跡。

宍戸は眉を寄せ、向日を見遣った。

 

 

 

 

 

「・・・・ちょ・・タロは・・俺を殴ったあと・・・拳から血が出るまで何度も地面を・・・殴って立ち去ってった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『長太郎!あれって千石じゃね!?立入禁止区域に入って行ってるじゃん!』

『・・・・・・。』

『長太郎?―――――――・・ッ!?』

 

 

 

 

 

バキッ

 

 

 

 

 

『!!?、ッいってえ〜・・・・おい、何すんだよ!!』

『・・・・・・。』

『おい長太郎!どうしたんだよ!?』

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・るな。』

 

 

 

 

 

『え?―――――ッ!』

 

 

 

 

 

ドカッ

 

 

 

 

 

『かはっ・・―――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺に触るな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐっ、ちょ・・・たろ?』

『・・・・・・・っ!!お、俺・・・すみません!手が・・・手が勝手に!』

『長太郎!やめろよ!何してんだよ!血が出てるだろ!?』

『向日先輩離れてください!俺・・・・このままだとまた殴ってしまいます!』

『でもお前手が!地面なんて殴ってどうするんだよ!!』

『離れてください!!早く!!クソッ・・』

『ちょ、ちょうたろッ・・・・・・・・・・・・・・・・うわっ!!』

 

 

 

 

 

バキッ

 

 

 

 

 

『ぐ、あ・・・・・・・・・かはっ。』

『む、向日先輩!・・・・・・・・・・・・・・ッすみません!!』

『ちょう・・・・たろ・・待てッ・・・・!長太郎!!長太郎ーーーー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向日が忍足に震えながらしがみつく。

忍足の服を掴む手に力が篭った。

 

 

 

 

 

「・・・・チッ、忍足!向日頼んだぜ!」

「任せとき。そやけど、鳳は・・・・・・お前の思とる鳳とちゃうかもしらんから気いつけや。」

「上等だ!」

 

 

 

 

宍戸は上に着ていた服を腰に巻き、走り出した。

そんな宍戸の背中を、不二は切なそうに見つめていた。

向日も、口端の血を手の甲で拭い、鳳が去って行った方向へ走っていく宍戸を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、お願いだ。

アイツをどうか救ってやって。

アイツを救えるのはもう、お前しかいないんだよ。

 

 

 

 

 

アイツが狂ってしまった原因がお前であったように・・――――――――