僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































「あ、雪。」

 

 

 

 

 

丸井が空を見上げ、呟いた。

彼とペアである幸村は黙って目の前の建物の入口に足を進めた。

 

 

 

 

 

「・・・・幸村君。赤也、本当にこん中にいるわけ?」

「いるよ。俺が言うんだ。間違いない。」

「どっから来んだよその自信・・・。でも何で?」

 

 

 

 

 

幸村はスタート地点まで歩き、立ち止まった。

丸井の言うこの中とはそう“GUNS ZONE”だ。

丸井もすかさず後をついていく。

 

 

 

 

 

「実はさっき仁王と一緒に不二を探してる時にこの中に入って行く赤也を見たんだ。」

「はあ!?だったら今もこん中にいるって根拠はどこにもねえじゃん。もうどっか行ってっかもよ?」

 

 

 

 

 

丸井が不満そうに眉を寄せた。

幸村は微笑むと、真っ暗な中へと入って行った。

つくづくマイペースな男だ。

 

 

 

 

 

「大丈夫。赤也はいるよ。」

 

 

 

 

 

だからどこにそんな根拠があるんだっつーの!

そう思いながら丸井は渋々、幸村の後を歩いた。

中は真っ暗。

アトラクションを操る係員がいないので、ゾンビが出てくることはなかった。

二人はどんどん奥へと進んでいく。

そして、しばらく歩いたところで、ぼんやりと人影が見える。

 

 

 

 

 

「ほら、やっぱりいた。」

「!、赤也!」

 

 

 

 

 

真っ暗な道の途中で、切原は頭を抱えるようにしてしゃがみ込んでいた。

幸村は足を止める。

丸井が駆け寄ると、ゆっくり顔を上げた。

ぼんやりだが切原の歪んだ表情が見えた。

 

 

 

 

 

「・・・・ブン太・・・サン。」

「どうしたんだよ!?お前、顔傷だらけじゃん!」

 

 

 

 

 

頭を抱える切原の両手首を握る。

切原の頬は右も左も引っ掻き傷だらけだった。

痛々しい上に真っ赤にミミズ腫れしている。

丸井は顔を歪めた。

 

 

 

 

 

「ハハ、俺・・・・すぐカッとなっちまうから・・・・跡部サンに・・・酷ぇこと言っちまった。」

「・・・・赤也。」

「痛みを感じないと自分を・・・保てないんス・・・。違う感情が俺をッ・・・・。」

 

 

 

 

 

切原は丸井の手を振りほどき、また頭を抱えた。

体が小さく小刻みに震えている。

そんな切原に丸井は言葉をなくし、振りほどかれた手を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤也、大丈夫。お前は強い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は幸村が切原の手を握り、反対の手で背中を優しく叩く。

幸村は膝をついて切原を優しく抱いた。

 

 

 

 

 

「ゆ・・き村・・・ブチョ・・・。」

「お前は強い。俺が保証してやる。」

「・・・・・ッ。」

 

 

 

 

 

幸村は手を止めることなく、ずっと切原の背中を優しく叩き続けた。

まるで子供をあやす親のようだ。

切原の震えは段々となくなり、切原からは寝息が聞こえてくるようになった。

 

 

 

 

 

「おや、寝てしまったな。・・・・ふふ、緊張の糸でも切れちゃったのかな?」

「何か、赤也ってガキみてえ。・・・・ったく、心配させやがって。」

「お前も人のこと言えないよ。俺達はみんな、まだガキだからね。」

 

 

 

 

 

切原を抱え、立ち上がった幸村の表情は何やら清々しかった。

丸井は首を傾げ、頭を掻いた。

お前は見えないけどな。

そう思いながらも口には出さない。

自分が幸村に勝てないのはわかっているからだ。

利口である。

 

 

 

 

 

「さあ、とりあえずベンチに戻ろうか。」

「おう。・・・あ、俺が赤也担ごうか?」

 

 

 

 

 

歩き出した幸村に丸井が言った。

幸村は足を止め、自分の背中で静かに寝息を立てる後輩を見て首を横に振った。

 

 

 

 

 

「いや、いいよ。わざわざありがとう。丸井は優しいな。」

「は?べ、別にっ・・・・そんなことないって!何でそうなるわけ!?」

「ふふ、照れるなよ。丸井は優しいよ。」

「〜〜〜〜〜だから俺、幸村君苦手なんだよ!恥ずいからもう何も言うな!」

「はいはい。照れ屋さんだな。・・・・・じゃあ行こうか。」

 

 

 

 

 

再び足を踏み出す。

まだ何か納得していないように、丸井は口を尖らせながら幸村の隣を歩く。

幸村の肩に顎をかけ、規則的な寝息を立てる切原。

そんな手間のかかる後輩を見つめ、幸村は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度はちゃんと助けたからな。・・・・・赤也。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、助けてやれなかったお前を、俺は少しでも救うことができた。

それが今、俺にとっての大きな力になるんだ。