僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































幸村家の息子は複雑な表情で彼を見つめた。

仁王家の息子は、側で立ち尽くしている芥川家の息子に気付き、立ち上がった。

芥川家の息子の手にはしっかりと拳銃が握られていたから。

俯いていた芥川家の息子は髪を掻き上げると、ニッコリ笑った。

先ほどまでの複雑な表情はどこにも見当たらない。

彼の中でもまた、決心がついたのだ。

 

 

 

 

 

「終わらない物語を・・・・終わらせようよ。一刻も早く。」

 

 

 

 

 

そう言った芥川家の息子に、幸村家の息子は忍足家の息子の懐に入った拳銃を取り、構えた。

構えただけ。

幸村家の息子は撃つ気はなかった。

撃てなかった。

撃とうとして気付いたのだが、弾が入っていなかったのだ。

忍足家の息子は弾が入っていない拳銃を持ってきてしまったのだ。

これは彼のミスなのか、それとも結局は跡部家の息子を殺したくなかったからなのかは今となってはもうわからない。

とにかく芥川家の息子は銃口をに向けた。

仁王家の息子がを庇い、背に隠す。

 

 

 

 

 

「・・・・俺がコイツをどうにかするからを連れて逃げろ。」

 

 

 

 

 

そう言った幸村家の息子に、仁王家の息子は一瞬、戸惑いを見せた。

彼は幸村家の息子が持つ拳銃に弾が入っていないことに気付いていた。

彼がすぐに撃たないことから、撃てない状態であることに気がつき、弾が入っていないと連想させたのだ。

幸村家の息子が芥川家の息子に勝てるかなんてこの状況を見れば一目瞭然。

だけど、幸村家の息子は仁王家の息子に逃げろと合図を送り続けた。

芥川家の息子はそんな彼に気付いてはいたが、銃口はに向けたまま、二人のやり取りをじっと見ていた。

そして、拳銃を放った。

弾は、前に出た幸村家の息子の体を貫通し、仁王家の息子の足にもえぐり込んだ。

痛さのあまり表情を歪める。

 

 

 

 

 

「終わらせないよ。こんな形でなんて終わらせない!」

 

 

 

 

 

幸村家の息子は叫ぶと、跡部家の息子の拳銃を取り、放った。

仁王家の息子は彼女を抱えたまま走り出す。

芥川家の息子は弾に当たりながらも仁王家の息子に銃口を向け、発砲し続けた。

仁王家の息子は背中に何発も弾を受けながらも走るのを止めなかった。

幸村家の息子は全部の弾を使い切った。

芥川家の息子も同じ。

銃声は止み、芥川家の息子が倒れた。

目には涙が溢れ、俯せになりながら、雪が溶けたところから生える地面の草を握り締めた。

幸村家の息子は撃たれた胸を押さえ、弱々しく立ち上がると、彼の側へと腰を下ろした。

そして言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君のことだから・・・本当は気付いている・・・んでしょ?この物語は・・・終わ・・・らないってこと。

きっと・・・みんなの強い念がこの場所に・・・・残る・・はず。この・・・俺らが生まれ・・育った大好きな場所に・・・・絶対・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

芥川家の息子は微笑みながら涙を流した。

地面に落ちた涙は溶けかけの雪に滲んで溶けた。

そして目を閉じ、息を引き取った。

幸村家の息子はもう動かない彼の頭を撫で、自分も目を閉じ、息を引き取った。

いつか出逢うその時を想いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁王家の息子とが辿り着いた場所。

それは彼ら、十五人の少年少女がよく遊んでいた秘密の隠れ家だった。

仁王家の息子が抱き抱えていた彼女を下ろし、壁にもたれながら息を整えていた。

 

 

 

 

 

「賭けは俺の勝ち。、お前は生きろ。寄り所はないかもしれんが・・・・生きて・・・生き・・て・・・・・それで・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怨め

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁王家の息子はその場に座り込み、空を見上げ、所々にさす陽射しに目を薄めた。

は仁王家の息子の隣に座り、涙でくしゃくしゃになった顔のまま、彼の肩に頭を預けた。

仁王家の息子は彼女の頭を、もうあまり動かない手で撫でてやった。

彼女は目を閉じ、その手の温かさをただただ感じていた。

目を閉じていると、この隠れ家でみんなと遊んだ日々が走馬灯のように駆け巡る。

この隠れ家にはみんなのそれぞれの座る席があって、彼女の席は真ん中だった。

それは彼女がどこに座るかで喧嘩になったからだ。

だからみんな平等になるよう、真ん中になったのだ。

彼女は恥ずかしかったが、この場所が好きだった。

みんなを見渡せて、唯一女である自分も仲間なのだと思えたから。

今いるのは仁王家の息子の特等席だ。

彼の席は隅っこで、みんなより少し離れた場所にあった。

この場所に座ったのは初めてだった。

初めて座って初めて気付いた。

この場所はみんなの背中を眺めることができ、それでいて独りぼっちの孤独な席。

ああ、彼はいつもここでみんなのことを見ていたんだ。

しか見ていなかったみんなを。

彼はそんな彼らの背中をいつも見続けていたのだ。

いつかこうなることを予想しながら・・・。

彼は泣いていた。

いつの間にかの頭を撫でる彼の手は止まっていて、彼の目も閉じられていた。

はもう動かない彼の唇にそっと触れ、誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・帰りたくない。だから・・・・・怨み続ける。この物語は終わらない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何度だって生まれ変わって・・・・この世を怨んでやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はこの場所から動かなかった。

命が尽きるまでこの思い出の場所を離れなかった。

残された村の当主達は、後日、彼らの死体を棺の中に入れ、各家の下に埋めた。

自分達の過ちを責めながら、冷たくなった息子達に永遠の眠りを与えるために。

だけど眠らない。

彼らは何度だって生まれ変わる。

この物語は終わらない。

終わることがない。

また巡り逢い、みんなで春を見るまで・・・・。

いつかくるはずの季節を、俺達十五人は生きるんだ。

今度こそ。

十五人で。

そして俺も自ら命を絶つ。

書き続けたこの物語。

まだ終わらない物語を今度は十五人、生きて終わらせよう。

今度こそ春を見よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう願って本を閉じた。