僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































居場所を無くしたは、ただ逃げた。

殺されないためにも逃げ続けた。

を殺すことに反対した良心を持った向日家、神尾家、鳳家を転々とし、彼女は辿り着いた。

雪が溶け始め、暖かな陽射しのさす家。

想いを寄せていた彼の住む家。

しかし彼は自分に会ってくれるのだろうか。

自分を殺そうと思っている一人ではないのだろうか。

息を呑んで彼の家を訪ねた。

彼は彼女の疲れ果てた姿を見て驚き、彼女を部屋に匿った。

彼の親もまた、良心を忘れた人達だったからだ。

 

 

 

 

 

「大変やったの。大丈夫か?」

 

 

 

 

 

は頷くと、安心と脱力感で涙を流した。

彼の胸に顔を埋め、泣きじゃくった。

彼は彼女の背中を摩り、泣き止むまで彼女の側にいた。

彼とはそう、仁王家の息子だ。

彼は仁王家の養子で、親には逆らえないと言った立場であるのにも関わらず、しばらくの間、バレないようにを匿うことにした。

彼女の行方は誰もわからず、仁王家の息子と、お世話になった向日家、神尾家、鳳家だけがそれを知っていた。

彼女は絶望の中、幸せだった。

大好きな彼の家で、大好きな彼と過ごす日々。

不安と恐怖は消えないが、彼女は確かに幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ある日のこと。

突如、仁王家に越前家の息子がやって来たのだった。

 

 

 

 

 

「ねえ、さん出してもらえる?」

 

 

 

 

 

仁王家の当主は首を傾げた。

そして越前家の息子が仁王家の当主に全てを話した。

越前家の息子はがこの家にいるという噂をどこからか聞き付けてやって来たのだ、と。

仁王家の当主は、直ちにを殺せと息子に命じた。

息子は首を縦には振らず、代わりに賭けを持ち出した。

越前家の息子は黙って二人の賭けの内容を聞いた。

 

 

 

 

 

を跡部の家まで届ける道程で、どんな手を使ってもええから俺とを殺すことが出来たらアンタらの勝ち。そして俺らの負け。どうや?簡単じゃろ?」

 

 

 

 

 

当主は頷いた。

越前家の息子はこのことを知らせに村を回った。

この話もまた直ぐに村中に伝わった。

そして賭けは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

、もし俺が死んでもは一人で跡部家に向かえ。わかったな?」

 

 

 

 

 

は頷かなかった。

彼女は決意していたのだ。

彼が死んだら自分も死ぬのだと。

彼女は頷かなかったが、仁王家の息子は彼女を抱き抱えて走り出した。

大人達は誰も知らない、十五の子供しか知らない秘密の通路を通り、跡部家に向かう。

跡部家なら彼女を匿ってくれるはずだと確信していたからだ。

この道で、最初に待っていたのは越前家の息子だった。

拳銃を片手に二人を待っていた。

 

 

 

 

 

「行かせないよ。もうどうあがいたって無駄なんだ。だから・・・・・終わらせようよ。もう・・・やめようよ!」

 

 

 

 

 

仁王家の息子は足を止める。

越前家の息子が引き金を引いた。

大きな銃声と共に倒れたのは越前家の息子。

撃ったのは向日家の息子だった。

彼の手は震え、顔も青冷めていた。

初めて人を殺めたという罪の重さ。

手がびりびりと痺れ、涙で顔がひどく濡れていた。

 

 

 

 

 

「行け!行けよ!早く!が殺されちゃうだろ!?早く!!」

 

 

 

 

 

絞り出した声は掠れていて、彼の精一杯が仁王家の息子とに伝わってきた。

頷いて走り出すとまた銃声が聞こえた。

振り返ると、向日家の息子が腹を押さえながらうずくまっていた。

越前家の息子の手に握られた拳銃の銃口から煙が立っている。

銃口が次はこちらに向いた。

それに気付いた仁王家の息子は、間に合わないと思いながらも、背を向けて走ろうとした。

そしてまた銃声が聞こえた。

しかし、次もまた弾が飛んでくることはなかった。

向日家の息子が両手を広げ、体の二カ所に穴を開け、なおも立ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く行けっつってんだろ!?死なせたら・・・許さねえから・・・な!

・・・・・・・・・・・・・・じゃーな・・・・・またいつか皆で逢お・・・うぜ・・・・・・・・・・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして春を見ような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁王家の息子は向日家の息子が倒れる音を背中で聞き、走り続けた。

道程はまだ長い。

息を切らしながらもを抱えて走った。