僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「・・・・・・何やねん・・ソレ。」
忍足は手に持っていた本を思わず落としそうになった。
全てを読み終わると、向日は紙を元通りの半分に折り直した。
「このことが本当なら俺達・・・生まれ変わりってことですか!?」
「わかんねえけどよ・・・・これなら不二が俺に言ってた意味もわからなくはねえ。」
「これは本当に・・・俺達・・なのか?」
跡部が忍足の持つ本と向日が持つ紙を交互に見遣る。
ベンチに座っていた丸井は黙って目の前の五人を見つめた。
隣のジローはうとうとしながらも、何とか丸井の肩を支えに、頭を置いて、意識を保っていた。
丸井はもう跳ね退けることすらしない。
慣れたのだ。
ジローの膝に座っていたも、今はもうジローの隣に普通に座っている。
「そやから不二や切原は跡部を怨んどるんか?それに、このままやとはこの話の主人公ってことになるやん!」
「この訳に書いてる名前がこっちの本に書いてる名前と一致してる。だから監督は俺達を呼んだんだ。このメンバーをここに呼んだんだ!」
忍足と向日から奪った本と紙を見ながら宍戸が叫んだ。
ジローが虚ろな瞳でじっと、隣に座るを見つめ続ける。
は黙って俯いていた。
震えながら握りしめた手に、力が篭った。
「・・・・私・・・私・・生まれ変わりなんかじゃない!知らないよ!生まれ変わりなんかじゃないよ!!」
「!待てって!」
向日が呼び止める。
それすらも振り切り、ベンチから立ち上がったは元来た道を走って行った。
舌打ちをし、跡部が後を追う。
忍足は一瞬、そんな跡部を止めようとしたけれど、を追って走って行く跡部の背中を見つめると、それはできなかった。
ジローがゆっくり目を閉じる。
ジローからはすぐに寝息が聞こえてきた。
「すまない、遅くなったね。」
「幸村!仁王!神尾!」
振り返ると、遅れて来た三人が複雑な表情をしながら立っていた。
しかし、一人足りない。
越前は神尾に聞こうとしたが、彼は放心状態だったので、代わりに縫いぐるみを片手に頭を掻いている仁王に尋ねた。
「ねえ、千石さんは?」
「・・・・・逃亡した。」
「はあ?」
視線を俯かせながら切なそうに呟く。
そんな仁王に越前は首を傾げた。
「逃亡したって・・・・何でやねん。何かあったんか?」
「・・・・まるで不二のようになったって言ったらわかってもらえるかな?」
忍足の言葉に幸村が答える。
鳳は宍戸が持つ紙を見ながら身震いをした。
自然と体が震えて止まらない。
「や・・・やっぱり・・やっぱりこの話は本当なんだ!」
「落ち着け長太郎!」
「この話?何?それは・・・。」
宍戸が鳳を宥めると、幸村が首を傾げた。
頬を掻きながら宍戸は、今来たばかりの三人以外のみんなを見渡した。
みんな黙って頷く。
「俺達がここに呼ばれた理由だ。いいか?読むぜ?」
「!待ちやがれ!」
「やだ!やだよ!放して!」
「!」
掴まれた手を振りほどこうとしたら、跡部君にぎゅっと抱きしめられた。
私は自然と抵抗を止める。
ただ無性に泣きたくなった。
「いいか?よく聞けよ?あの話は本当だとしても俺達は俺達だ。は。関係ねえ。」
「でも不二君は!?切原君だって・・・ッ!」
続きを言おうとしても口が動かない。
跡部君は今・・・・私に何をしてる?
私と跡部君・・・・キスしてる?
押し付けるようなキス。
私が言おうとしたことを無理矢理、言わせないように塞いだんだ。
唇がそっと離れる。
そうだ。
1番辛いのは私じゃない。
あの話が本当なら・・・・・・・辛いのは一体誰?
だけど過去の悲劇の引き金を引いたのは紛れも無い。
彼だから・・・・。
「・・・・あ・・とべく「見〜つけた♪」
気が違ったような陽気な声。
その声と共に感じたのは痛み。
跡部君の腕の中にいた私は、気がつけば千石君の腕の中にいた。
目の前の跡部君が苦しそうに脇腹を押さえながら咳込んでいる。
千石君が蹴り飛ばしたからみたいだ。
あの時、私を無理矢理連れ去った千石君とはまた違う。
怖い。
彼じゃない。
あの時の彼じゃない。
私は抵抗することさえ、体が震えてできなかった。
「アハハハ、跡部君どうしたの?罰が当たったんじゃない?ちゃんにキスなんてしちゃってさ〜。」
「せ、千石君見て・・・・ッ!?」
「・・・・ッ。」
脇腹を押さえながら千石君を睨み上げる跡部君。
今度は千石君に唇を塞がれた。
後ろから抱きしめられているから動けない。
跡部君に続き、次は千石君!?
一日に二人の男の子(しかも男前)からキスをされるなんてッ!
たぶんもう二度とない経験だろうな・・・。
なんて、頭の中は混乱しながらもつまらないことを考えてしまう。
しかし、千石君の唇は跡部君と違ってなかなか離れてくれない。
息が苦しい。
その時、跡部君が千石君に勢いよく殴り掛かり、二人は地面に倒れ込んだ。
跡部君が千石君に跨がるようにして胸倉を掴み上げた。
「テメェ・・・何のつもりだ!?」
「・・・・跡部君は自分のことは棚に上げちゃうんだね。自分だってキスしてたじゃない?」
「・・・・ッ。」
胸倉を掴まれた千石君は、跡部君を睨み上げながら言った。
跡部君は言葉につまる。
私はどうすればいいのかわからず、ただその場に立ち尽くしていた。
「・・・そういうところ、全く変わらないんだね。・・・・昔と。」
「・・・昔だと?」
「都合の悪いことは思い出せない?アハハハ、君らしいよね!そういうところが殺したいくらい憎らしいよ!」
気が狂ったように笑い出す。
そんな千石を跡部君は黙って見ていた。
震える足で立ちながら、私も千石君を見ていた。
だけど遠退いていく意識。
空腹と寒さと恐怖で視界が揺らぐ。
さっき丸井君と食べたケーキだってもう消化されて胃には残ってないだろう。
「!」
そんな私に気付いた跡部君の私を呼ぶ声で私は意識を手放した。