僕たちは、信じていた。



この
真実から逃げたくなかった。































「はい、わかりました!不二さんを探せばいいんですね!?はい、じゃあまた連絡します!」

 

 

 

 

 

鳳は電話を切る。

宍戸からの電話だ。

携帯をポケットにしまった。

 

 

 

 

 

「向日先輩、今宍戸さんが・・・・。」

「長太郎!今すぐ誰かに電話しろ!!」

 

 

 

 

 

振り返ると、向日が勢いよく飛び付いて来た。

鳳は少し後ろにのけ反った。

手には薄汚れた本。

嫌そうな表情の鳳は、向日の持っている本に首を傾げた。

 

 

 

 

 

「電話って・・・今切ったばっかじゃないっスかー・・・。ていうかその本何なんですか?」

「何だっていいから早く早く!」

「はあ!?・・・・わかりましたよ。ちょっと待ってて下さいね。」

 

 

 

 

 

しまったばかりの携帯を取り出し、リダイアルボタンを押した。

もちろん相手は宍戸だ。

すぐに電話の向こうからの宍戸の声が聞こえる。

 

 

 

 

 

『どうした長太郎?何かあったのか!?』

「それが、向日先輩が電話をかけろって言うからかけたんですけど・・・・向日先輩!何の用だったんですか?」

 

 

 

 

 

電話を耳から離し、隣で先ほどの本を座りながら真剣に読んでいる向日に問う。

向日は本から目を離さず、そのまま立ち上がった。

 

 

 

 

 

「とりあえずみんなに集合かけて!すぐに!」

「・・・・だそうです。できますか?」

『わかった。じゃあとりあえずコーヒーカップ前のベンチに集合だ。他の奴らには連絡入れとくからすぐ来いよ!じゃあな!』

「はい!すみません!」

 

 

 

 

 

電話が切れる。

ポケットにしまい、未だ隣で本を読み続ける向日の肩を軽く叩いた。

 

 

 

 

 

「もしもし?向日先輩・・・・コーヒーカップ前のベンチに来いって言われたんですけど・・・。」

「俺らが集まんのかよ!?みんながこっち来いよなー!!」

「はあ・・・・・・・・・とりあえず行きましょうよ。宍戸さんが待ってます。」

「しかもコーヒーカップ前って思い出すだけでも気持ち悪い・・・おえっ。」

 

 

 

 

 

幸村と乗ったコーヒーカップでの惨劇を思い出しながら、向日は本を閉じた。

少し白い埃が舞う。

鳳はなるべく近寄らないように、向日が本を持つ方と反対側を歩いた。

彼はかなりの綺麗好きだ。

それと反対に、向日は全く気にしないタイプだ。

鳳は思った。

自分ならそんな薄汚れた本、絶対に触らないと・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、神尾君。」

「!、何スか?」

「・・・・何か、これ見覚えない?」

 

 

 

 

 

千石が見つめているのは一枚の絵。

ここはKの“バーチャルX”だ。

異空間のようなこの建物は、中がたくさんの部屋に分かれていて、一つひとつ違うバーチャル世界を味わいながらゴールを目指すアトラクションだ。

今、千石と神尾ペアがいるのは第六の部屋。

この部屋の中は特に何もなく、壁紙がピンクの部屋で、北の方角の壁には絵が入った額縁が掛けられているだけだった。

額縁の絵はどうやら大きな古い屋敷のようだ。

 

 

 

 

 

「さあ、俺は知らねえっスよ?」

「そう?何か・・・・気になるなあ。」

「この手の建物ってどれも似たようなモンじゃないっスか!気のせいじゃないんスか?」

「・・・・・だといいけど。」

 

 

 

 

 

額縁の前まで来て立ち止まる。

絵はちょうど目線の高さに掛けられていて、首を上げなくてすんだ。

神尾は部屋を見渡し、右手に、次に行くべき通路を確認した。

 

 

 

 

 

「それにしてもピンクすぎて・・・変な感覚に陥りそうっスね。」

「今日のラッキーカラーは確かピンクだったんだよね〜!うん。俺、しばらくこの部屋にいようかな?」

「何言ってんスか。ダメに決まってるでしょ?さっさと次の部屋行きますよ!俺たちは人を探してるんスから!」

 

 

 

 

 

千石の後ろの襟を掴み、歩き出す。

千石は苦笑いながら、神尾にされるがままに引きずられて行った。

 

 

 

 

 

「神尾君〜、もっとソフトに優しくできないの?」

「アンタに優しくしてたらキリがないっスよ!もう重たいんで自分で歩いてください!」

 

 

 

 

 

掴んでいた襟を放す。

千石はバランスを取りながら、斜めった体を真っ直ぐに立ち直らせた。

辺りを見渡せばそこは次の部屋。

壁一面が赤色に染まっていて、所々に黒い亀裂が入っていた。

 

 

 

 

 

「この部屋もまた・・・気持ち悪いっスね。目の錯覚ってやつっスか?」

 

 

 

 

 

亀裂に触ると、それは絵だった。

目には見えているが、触ると凹凸がない。

これぞアートの技術と言うものだろう。

神尾は感心しながら壁を触り続けていた。

端から見たら変人だ。

しかし彼にとっては真剣な芸術鑑賞と言うべきものである。

 

 

 

 

 

「次の部屋行きます?千石さ・・・・千石さん?」

 

 

 

 

 

部屋の真ん中で天井を見上げながら突っ立っている千石に歩み寄る。

千石の視点は虚ろで、じっと天井を睨んでいた。

返事の返ってこない千石に、神尾はどうしたらいいのかわからず、とりあえず体を揺さぶってみた。

 

 

 

 

 

「千石さん?どうしたんスか?立ったまま寝ちゃいました?」

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

やはり返事がない。

それどころか、千石は神尾にされるがままに揺さぶられている。

抵抗もしない。

揺さ振るのを止め、神尾はふと、千石が震えているのに気が付いた。

そして、視線を動かさないまま、千石の口が、ゆっくりと小さく動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・か・・神・・尾く・・・・・逃げ・・・!・・は、早く・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦しそうに天井を見上げながら震えている千石。

神尾は千石から手を放した。

そして一歩、後ずさる。

彼も馬鹿ではない。

この状況で冗談だとは思わなかった。

何も言わず、頷くと、千石を置いて走り去った。

行き先はとにかく外に出ること。

そのためにはあと二部屋通り過ぎなくてはいけない。

次の部屋は、平衡感覚のなくなりそうな、足元が覚束なくなりそうな部屋だった。

そうなるように部屋中の壁紙が右から左に回っているのだ。

 

 

 

 

 

「何コレ!?最悪じゃん!」

 

 

 

 

 

千鳥足になりながらも、次の部屋まで走る。

徐々にスピードを上げた。

 

 

 

 

 

「だけど!スピードのエースをナメんなよ!」

 

 

 

 

 

とりあえずキメ台詞を叫んで、何なりと次の部屋まで辿り着く。

しかし、この部屋もまたおかしな部屋だ。

真っ暗で、何処が出口かわからない。

 

 

 

 

 

「目を慣らせってことか?」

 

 

 

 

 

しばらく暗闇に目を慣らせてみる。

結構面倒臭いが、徐々に目は慣れてくる。

ぼんやりと、出口の扉が見えてきた。

ゆっくりと、前へ進み、ドアノブを手に取って回した。