僕たちは、信じていた。
この真実から逃げたくなかった。
「あ、そうだ!丸井君丸井君!」「んー?」
丸井君は振り向く。
私は鞄の中を漁り、救急セットを取り出した。
女の子たる者、これは必需品だよね!
その中から一枚の絆創膏を取り出した。
「頬っぺたに傷できてるでしょ?貼ってあげる!」
近くの水でティッシュを濡らし、丸井君の固まった血を溶かして拭いた。
白いティッシュに茶色がかった血が滲む。
少し滲みたのか、痛そうに顔を歪めた。
「ッ、もうちょっと優しくしてくれよな!痛えよ。」
「これが限界だよ。はい、おしまい!」
「サンキュー。」
絆創膏で傷が隠れる。
丸井君が絆創膏の感触を確かめていた。
失礼ね。
ちゃんと貼れてるわよ!
私は救急セットを鞄に仕舞った。
「さて、そろそろみんなのところに戻んねえとな・・・。今何時?」
「今?ちょっと待ってね・・・・あった携帯!」
携帯のディスプレイを見る。
私は言葉を失った。
私の異変に気付いたのか、丸井君も私の携帯を覗き込んだ。
「何だ、まだ昼前じゃん?」
「・・・・違う。違うよ?さっきと時間が変わってない!止まったまんまだよ!?」
「え、冗談だろぃ!?そんなワケ・・・・って俺のも同じ時間だし!!」
丸井君も携帯を見て驚く。
どういうことなんだ?
胸騒ぎがする。
時間が動いていない。
止まったままだ。
それともさっき、私が見間違えたのだろうか?
いや、それはない。
だってしっかりこの目で見たんだから・・・。
私は隣で戸惑っている丸井君を見つめた。
「と、とりあえずみんなと合流しようぜぃ!?そっから考えよう!な!?」
「・・・・うん!そうだね!そうしよう!」
「だよな!そうと決まれば行こうぜ!とりあえず外に出ようか!」
丸井君が立ち上がり、お尻を掃った。
続いて私も立ち上がり、丸井君の後を追った。
外に出ると、太陽で視界が揺らいで見えた。
「切原!目が覚めたのか!?」
「・・・・・ん・・し、宍戸・・サン?」
切原がゆっくりと起き上がる。
目を擦りながら宍戸のことをじっと見つめていた。
宍戸に続いて、ジローも跡部も安堵の溜め息を吐いた。
「じゃあ俺、長太郎と忍足に連絡入れてくる!跡部、ジロー、切原頼んだぜ!」
「ああ、さっき幸村と千石に伝えたように、これからは不二を探すように言っとけよ。」
頷くと、携帯をポケットから取り出し、宍戸は少し離れたところで携帯を開いた。
それまで頭を掻きながら、ぼうっとしていた切原がゆっくりと跡部の方へ向き直る。
虚ろな瞳を鋭い視線に変えた。
「跡部サン・・・もしかしてアンタが俺を助けたわけ?」
「いや、助けたのは宍戸だ。」
切原はベンチから下りる。
ぐんっと背伸びをし、背筋を伸ばした。
「そ。それはよかった。アンタに助けらるくらいなら死んだ方がマシだからね!」
「!、どういう意味だ?」
跡部は切原を睨み付けた。
切原も負けじと睨んでいる。
ジローがそんな二人を黙って見つめていた。
いざとなれば自分が止めに入らなければ、と思いながら。
「物分かりの悪い人だなあ。俺はアンタなんかに助けられなくてよかったっつってんスよ!」
「何だと?テメェ・・・もう一回言ってみろ。」
「何度だって言ってやるよ・・・・。俺はアンタのその澄ました顔が大嫌いなんだ!見てるだけで胸糞悪ぃ!」
「ちょ、切原!」
跡部の胸倉をつかみ掛かろうと飛び出す切原をジローが止めた。
跡部と切原の睨み合いが続く。
「芥川サン・・・・アンタにならわかるだろ?俺の気持ちが!」
切原を止めていたジローの手を掴む。
だけどジローは視線を俯かせたまま。
跡部は黙ってジローと切原を見つめた。
「アンタも憎くて憎くて仕方ないはずだろ!?この男が!!」
ジローを掴む手に力が篭る。
跡部の表情が少し、険しくなった。
「・・・・・・うん。そうだね。」
「!」
目を伏せ、切原の手を振り切った。
何の話かいまいちわからない跡部。
動揺を隠しながら、切原とジローで繰り広げられる会話に耳を傾けた。
「だけど!・・・・だけど・・跡部を責めるのは違う。間違ってる。」
「何でだよ!」
「責める相手を間違ってる。みんな・・・。みんな、自分自身を責めなくちゃ・・・終わらない。それは俺も切原も同じなんだ。」
ジローが切原を見つめる。
その目は真剣で、切原も息を呑んだ。
「・・・・俺は・・・認めねえ!アンタが全部壊したんだ!俺も、先輩達も、みんなも、サンも!」
「切原!!」
切原は走り出した。
ジローが呼び止めるも、ただがむしゃらに走り去っていく。
跡部はそんな切原の背中を切なげに見つめた。